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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
短編 アカツキ荘のおしごと!
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短編 アカツキ荘のおしごと!《第十話》

奇行に走るアカツキ荘を目撃して正気度チェックを行う者たちのお話。

とても今更ですが、区分として短編というか6.5章って感じなので普通に長いです。

 突如として連絡を寄越したクロトとのやり取り。

 そして早朝の集会で周知されたレムリアでの事態を組み合わせ、詳細に把握したウィコレ商会の商人、ロベルト。

 幾度の経験を積んで成長した彼は金の匂いを嗅ぎつけ、迅速に行動を開始。


 南西区画長でもあるシュメル、現場作業に準じる職人たちの頭領、いかなる妨害をも恐れぬ鋼の商魂を持つウィコレ商会の会長を交えて。

 迷宮資材の全面的な支援を確立し、レムリアの整備が完遂する時まで良心的価格で提供するなど。

 数時間で双方が望む最大の利益と莫大な金。歓楽街の女王とコネを構築したという業績を称賛され、ロベルトは商会長にレムリアの諸々な担当を任された。


「数日ぶりとはいえ、また彼らと会えるのは楽しみだな」


 からりと晴れた炎天の下。

 商会の人員を総動員して資材を積んだ馬車群を率いて、ロベルトはレムリアへと進んでいた。

 道中、遠方から目的地に向かうまで光が溢れ、地面が揺れ、また光が溢れ、また地面が揺れ……と。


 実際はクロトではなくコムギのスキルによるものだが、数々の怪現象を目の当たりにし、彼が何かしたのだろうと仮定することで彼は正気を保っていた。

 毒されているロベルトと比べて、ついてきた商会の人員は肩を震わせ、(おのの)いている。是非も無し。


 そうして辿り着いたレムリアで、哨戒に当たっていた大きな黄色いヒヨコ状態のフェネスに迎え入れられて。

 整えられた石畳の道を進めば、見覚えのある人影が徐々に見えてきて。


「おーい、クロト君! 資材を持ってき──」











「うおおおおおおおおっ! 伐採(ばっさい)ぃいいああああああッ!」

「ちくしょう! ただ整備するっつー話のはずなのになんでアタシは木ぃ切ってんだ!?」

「ぼやいてねぇでやれ! 俺らが頑張んねぇと終わらねぇぞ!」

「私とユキで切り倒した木は枝を取って運搬していきます、どうかお気をつけて!」

「頑張って運ぶぞー!」

「うーん、調子さ乗ってバカみてぇに増やしすぎちまった。まぁ、有る分には良いんかね」

「そうねぇ、余分になったら買い取りも視野に入るけれど……まずは私たちでしっかり監督しましょう? 木こりのような専門家がいないのだから、せめて、ね?」

「クロトさんとセリスさんがいるとはいえ、皆さんが尽力してくださっているのに怪我をされたら大変ですからね……」


 斧を構えたクロトを筆頭に数名が伐採作業に励み、明らかに自身より背丈の小さい女子が二人、難なく大木を担いで運んでいく。その様子を離れた位置で、異常や問題が起きないか大人三人が見守っている。

 そんな非常識かつふざけた光景を前にして。

 かろうじて保っていたロベルトの正気が、夏場の氷菓が如く削れていった。


 ◆◇◆◇◆


 午前から始まった農地の実証実験。

 コムギ先生の協力を経て栄養満点な通常の野菜、迷宮野菜。しっかりと効能を発揮する薬草類の持続的な収穫が可能であると判明し、喜んでいたのも束の間。

 資材不足を懸念したシュメルさんの一言を耳にし、ついつい頑張ってしまったコムギ先生の力で、農地の一部を埋め尽くすトレントの林が生まれた。


 一瞬にして大地が緑に包まれた挙句、樹木が乱立するという光景を宿舎エリアにいた職人たちは見ずに済んだため、騒ぎにはならなかったが。

 しかし同時に、宿舎エリアで熱心に設備を整えている彼らの手を借りられない訳で。

 念の為にアカツキ荘から持ち込んできた道具の中から斧を構えて、エリック、セリスと伐採に挑み、事態を知ったカグヤ、ユキに荷運びを手伝ってもらうことに。

 数度、迷宮での資材収集を目的とした依頼をこなした経験があってよかった。大人組が監督員を(つと)めてくれるおかげで集中して取り掛かれる。


 魔力操作で肉体を強化し、ポーションをがぶ飲みして。

 正午の鐘が鳴っても作業を続け、そこから一時間ほど経過。

 持つモノ全て活用し、全身汗だくになりながらも木こりに従事することで、ようやく最後の一本を切り倒した。


 何やら途中で声を掛けられたような気がしたけど反応できず、改めて振り返れば。

 資材を持ってきてくれたであろうロベルトさんが、シュメルさん達の後ろで直立不動のまま立ち尽くしていた。

 どことなく理解を放棄した顔つきでいるのは何故だろうか……


 ◆◇◆◇◆


「「「腕が棒のようだ……」」」


 数時間もの間、斧を振り続けていた結果の反動を噛み締めて。

 エリック、セリスと敷かれたレジャーシートに座り込み、ぼやいた。


「三人とも、お疲れさまです。どうかゆっくり休んでください」

「ユキとカグヤねぇねは運んでただけだもん。まだまだ元気いっぱいだよ!」

「数十本も切り倒したトレントを運搬しておいてそれもどうかと思うぜ、アタシは」

「そもそも専門家がいなけりゃ危ねぇっつーのに急ぎ過ぎたんだよ。時間に追われてんのは確かだが、もうちょい落ち着けばよかったぜ」

「でも二人がいなかったら、ここまで順調に片付かなかったし……ってか、喉渇いた。ポーションじゃ水分補給にならないや……」

「にぃに達、これどうぞ!」

「ありがとう、ユキ……っぷはぁ、生き返るぅ!」


 ユキに差し出された水筒を三人で勢いよく(あお)り飲み干して、全身の疲労感が若干和らいだと感じていたら足音が近づいてきた。

 目線を向ければ、シュメルさんと資材の受領手続きをしていたはずのロベルトさんが手を振り、レジャーシートの空いた部分に腰を下ろす。


「休憩中にすまないな。少し話をしてもいいか?」

「大丈夫ですよ。何かありました?」

「いやなに、金と新しいコネを繋ぐ商談が交わせたことを感謝したかったんだ。伝えるのが遅れてしまったが、ありがとうな」

「いえいえ、そんな……こちらこそ、いきなり連絡したのに資材の発注に応えてもらって助かりました」


 ロベルトさんはどうやら先刻の商談が上手くいって機嫌が良さそうだ。

 流れでアカツキ荘の皆を紹介していると、不意に彼は思い詰めた表情を浮かべ始めた。


「不躾なのは承知の上で聞きたいのだが、君達はいつもあんな感じで過ごしているのか……? 別に非難したい訳ではないが、あまりにも突拍子の無い光景に意識が飛びそうになってな。現に商会の連中はまだ混乱から立ち直れていない」

「アタシらはクロトに文句言いつつも慣れちまったからそうでもねぇがなぁ。部外者から見たらやっぱ奇妙なんだな」

「知り合いとその仲間が話題の土地で唐突に木ぃ切って運搬してんだもんな。そりゃ正気を疑うぜ」

「今回は色々と事情が重なった上での妥協案でもあり、強硬策でもありましたが……一事が万事、似たような調子であると言わざるを得ませんね」

「毎日が楽しいよっ!」

「言外に俺をトラブルの根幹に位置するやべー奴みたいに言わないで欲しいんだけど?」


 やはりアカツキ荘内で俺への印象調査をおこなう必要があるのでは?


「そ、そうか……私もクロト君の突飛な行動に巻き込まれた身でもあるし、今後の関係を見越して慣れるべきか……?」

「毎回付き合ってたら身体がバラバラになるっすよ。比喩表現とかじゃなくガチで」

「何かあるごとに毎度ボロボロになってんのはクロトの方だけどな」

「フェネスに治療されたとはいえ、霊峰でとんでもない大怪我を負っていたからな。そういう運命にあるといっても過言ではないか」

「俺だって怪我したくて怪我してんじゃないんですよ。無傷で済むなら越したことないんですよ」


 変に納得しかけているロベルトさんに猛抗議する。そうして歓談していると、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。

 匂いがする方を見れば、作った覚えのない石積みの(かまど)がいつ間にか出来あがっていて。

 網を敷いた上に大きな鍋を設置。よく燃えるトレントの枝木で火を起こし、鼻歌混じりに採れたてフレッシュな野菜を、刻んで投入していくコムギ先生の姿があった。


「ああ、言い忘れていた。どうやら疲労困憊な君達を(ねぎら)う為に、彼女が昼食を作ってくれるらしい。他エリアで働いている職人たちは自前で弁当を持ち込んでいるから、気にせずともよいと区画長のお達しもあったぞ」

「おお、そりゃ助かるぜ! ……ってか、近くに(かご)が置いてあるが、道具や調味料もそれに入れてきたんだよな?」

「明らかに籠よりでけぇ鍋が入っていたとは思えねぇんだが……」

「収納技術の賜物(たまもの)ではないですか? 今日はクロトさんも私も起きるのが遅れて、おむすびしか作れなかったのでありがたいですね」

「美味しいご飯! いっぱい食べよ!」

「疑問視する部分が本当にそこで合っているかは置いといて、ご相伴(しょうばん)に預かるとしようか」

「では、私は倉庫エリアの方に出向いてくる。改めて、今回の場を設けてくれてありがとう、クロト君」

「困った時は助け合いってやつですよ、ロベルトさん」


 そう言うと彼は立ち上がり、微笑みを返してから立ち去っていった。

 何はともあれ、レムリアの整備にまた一歩近づけたか。この調子で作業エリアに使う木材も乾燥させないと……それは昼食後でいいか。


「じゃあ、料理が出来るまでの間、後ろでお椀持ちながら待機しとこうか」

「おかしな圧力をコムギ先生に掛けるのはやめてやれ。あの人がいなかったら、ここまで上手くいかなかったんだからな?」

「では荷物からおむすびを……具材を入れていないので塩の味付けしかされていませんが」

「充分だろぉ。汗かいて塩分欲しかったところだし……弁当箱ん中に入ってんだよな?」

「ユキが持ってくよ。にぃに達、なんか腕プルプルしてるし」

「へへっ、明日の筋肉痛が怖いね……」

「《ヒーラー》のスキルで治せばなーんも問題ねぇだろ」

「魔法とかスキルで痛みを無くすと筋肉つかねぇぞ」

「マジでっ!?」


 驚愕の真実かつ周知の事実に声を上げるセリスを引き連れて。

 俺達はコムギ先生の下へ向かい、遅めの昼食を摂るのだった。


 ◆◇◆◇◆


「そういや今更なんだが、トレントの伐採ってルーン文字でどうにかズルできなかったのかい?」

「その辺、ちょっと難しいんだよね。大雑把に例えると、生きてる物と死んでる物に分けて付与するとして……ルーン文字って生きてる物に対して効果が薄いんだ」

「効果が薄い? なんで?」

「生きてる物っつーか、有機物は魔力伝導率と抵抗率が常に最高値と最低値の間で変動するから、弾かれたり別の作用が出たりするらしいぜ」

「あー、魔力操作とかで変わるんだ?」

「ですね。故にルーン文字を刻むのは大抵、衣服や武器、装身具に限ります。肌に直接刻む方法もあるそうですが、想像を絶する程の激痛が生じると聞きます」


「おっかねぇ……となると、今回やらなかったのは……」

「トレントというか植物は全般、土から生えてる時は有機物に分類されて、なんでか知らんけど採取したり倒木してる物だと無機物扱いになるんだ。だからルーン文字で乾燥だったり加工したり、手を加えるなら切り倒した後にしよう、っていう話。そうでなくても、レムリアの土地に意図しない影響が出る可能性もあったから……」


「重労働は必須だったってことかい。便利だと思ったんだが、世の中上手くいかねぇもんだ……あれ? じゃあ運搬はルーン文字を付与した方が楽だったんじゃないのかい?」

「刻むまで手間だし力持ちなカグヤとユキがいれば必要ない」

「まあ、そうですね」

「なんのお話ー?」

「わざわざ手ぇ出さなくても問題ねぇってことか」

「そもそも女子二人で大木運んでんのもおかしい話なんだからな? そこ忘れんなよ?」

「みんなー! メシ出来たどー!」


 ◆◇◆◇◆


「坊や。少し、いいかしら?」


 コムギ先生お手製の野菜スープに舌鼓(したづつみ)を打ち、満腹になってから。

 運搬してもらったトレントの乾燥を始めようかと、動き出す前にシュメルさんがやってきた。


「どうかしました?」

「作業エリアと倉庫エリアの両方に関係するのだけど、建築はともかく扉や窓とか金具関係の取り付けに人手が足りなくなりそうなの。宿舎エリアの設備施工もまだ終わりが見えなくて手が回せないから、手伝ってもらえないかしら?」

「マジですか、今から木材の乾燥作業に入ろうと思ってたんですが。じゃあ、まず倉庫エリアにエリック達……は、ちょっと厳しいかぁ?」

「素人の俺らがウロチョロしたり手ぇ出しても良い目で見られるとは思えねぇしな」

「エリックはともかく、アタシらは邪魔になりそうだねぇ」

「かといって手持ち無沙汰な現状、手を貸さないというのは()(たま)れない……難しいですね」

「んだらば野菜の収穫、手伝っでけねが?」


 シュメルさんから打ち明けられた悩みに項垂れる中、昼食の片付けを終えたコムギ先生が提案を口にした。


「ほれ、あだす調子こいていっぱい生やしちまったべ? 熟れそうなもんが多いし、今日中に採れるもんは回収しねぇどダメになっちまうよ」

「なるほど。じゃあ、エリック達には野菜の収穫してもらって、俺は……どうしよう?」

「生木のままじゃ資材として使えねぇんだし、トレントの乾燥はしないとマズいだろ?」

「うーん、そうなんだけどぉ……終わった後に参加するとしても時間がぁ……しょうがない、助っ人を呼ぶか」


 ありとあらゆる要素で工程が(とどこお)る恐れがあるなら、人を頼るしかない。

 ポケットからデバイスを取り出して通話先一覧を開き、人物名を選択。


「何かアテがあるの? 坊や」

「皆も良く知ってる相手ですよ。……もしもし親方、クロトです。今お暇です?」

『なんじゃ、いきなり通話を掛けてきて藪から棒に。儂は食後の散歩をしとるところじゃ』

「ふむふむ……なら、少しお時間もらってもいいですか? 相談したいことがありまして」

『お主から切り出す話題は大体厄介で面倒じゃと相場が決まっとるんだが……』


 鋭い察知能力を発揮する頼みの綱である親方へ、どう言いくるめてこの場に来てもらうか。

 コムギ先生の手伝いに向かっていくエリック達を見送りながら、レムリアの概要を述べていき、ぐるぐると思考を回して──興味を惹かれる一手を口にする。











「実はレムリアの整備でシラサイを振り回してたら、どんな物体でも斬れるようになってしまったんで調子を見てほしいんですよ」

『なんじゃって?』


 嘘と真実を織り交ぜた限りなく事実に近い事柄を耳にして。

 親方は素っ頓狂な声で聞き返した。

人脈オールスターって感じで親方にも登場してもらいます。


次回、本当に調子がおかしいシラサイと整備を手伝う羽目になった親方のお話。

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