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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
短編 アカツキ荘のおしごと!
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短編 アカツキ荘のおしごと!《第八話》

人脈の広さで状況を打開していくクロトのお話。

【調査報告書】

 学園長、そして冒険者ギルドへ再開発区画改めレムリアの整備、進展状況の報告になります。


 レムリア整備一日目。

 作業エリア……手付かずのまま放置。

 宿舎エリア……建物すべての建設、及び井戸、排水路の施工完了。

 倉庫エリア……手付かずのまま放置。

 農園エリア……農地、貯水池並びに用水路の施工完了。


 クラン名“アカツキ荘”の尽力もあり、大幅に作業工程を省略。細かな備品の用意、設備の工事は業者や大工へ要請済み。

 なお作業中、冒険者ギルドのブラックリストに記載されている悪徳クラン“ワイプアウター”に無断侵入されましたが、無事に捕縛し、身柄を自警団に預けました。

 また、早急に警備が必要と判断した為、召喚獣保護施設の職員、そして所属している召喚獣による見回りを実行。請求された諸費はレムリア整備完遂後、まとめてご報告する手筈となりました。

 依頼の期限まで残り六日。専属仲介人として全力で勤めさせていただきます。

 シエラより。


「…………頭、痛くなってきた」

「お酒の飲み過ぎでしょう? だから少しは控えるようにと言ったではないですか」

「違う、そうじゃない」


 自身の仕事場である学園長室の執務机で。

 書類仕事を手伝ってくれているシルフィに見当違いの心配を向けられながら。

 シエラより持ち込まれた報告書を机に放って、フレンは窓から覗く夕闇に染まりかけた空を睨んだ。


 ◆◇◆◇◆


 先日、アカツキ荘の全員で石運びをおこなうという賽の河原の苦行じみた作業を越えて。

 疲労困憊のまま、しっかりと各種水路の施工を完了し、家に帰ってよく休み──翌日、時刻は午前九時過ぎ。


「レムリア整備、二日目ぇ! アカツキ荘、点呼ぉーっ!」

「セリス、いるぞー」

「ユキもいるよ!」

「カグヤ、準備万全です」

「エリックだ。……これ、必要か?」

「業務前の人員確認は事故防止に必須じゃい!」


 レムリアの中心でメンバーを並べて声を張り上げる。

 各々が反応を見せる中、その背後では既に召喚獣たちを引き連れた職員と、合流したフェネスが警備に当たっていて。

 作業服と工具を身に着けた職人風な人物が、整備された道を(せわ)しなく行き交っている。シエラさんとシュメルさんが要請し、要望を伝えた人たちだろう。


「随分と人が増えたな。まあ、あんだけいないと残り六日(むいか)なんてふざけた納期で完遂できねぇか」

「作業と倉庫エリアの規模を考えれば、もう少しくらい人手があってもいいと思うけど」

「そもそもあの人ら、宿舎エリアで働いてるみてぇだしな。宿舎の工事が終わったら、その二つのエリアに手をつけ始めるんだろうが……」


 そう言って、セリスは腰に手を当て、辺りを見渡す。


「その割には建設資材、ってぇのかい? 木材やら石材やらが見当たんねぇな」

「今日は宿舎エリアに焦点を置いて作業に当たっているのでは? クロトさんのように様々な技術を組み合わせ、施設を建てるような芸当は誰にでも出来るものではありませんし」

「にしたって資材が少ねぇというか無いっつぅか。こいつぁどういう……」

「それについては私たちが説明するわ」


 全員で頭を悩ませていると、職人たちに指示を出していたシュメルさんとシエラさんがやってきた。

 シエラさんは眉根を寄せ、脇に挟んでいたバインダーを手に取り視線を落とす。


昨日(さくじつ)、ワイプアウターをリーダーであるウェレクごと捕縛したのは覚えてますね?」

「あの弱いもじゃヒゲおじさんがどうしたの?」

「も、もじゃヒゲ……とにかく! レムリア整備を妨害する団体の一部が無くなった訳ですが、妨害行為を画策していた大本は更なる対策を施したようで」

「対策ってぇと?」

「設備屋さんや大工さん、ようは人材ね。そっちは過不足なく集められたのだけど、今度は資材を販売する方に圧力を掛けたみたい。そのことを坊やたちに相談しに来たわけね」

()りない奴らだなぁ、どれだけ邪魔したいんだよ」


 まあ、妨害としては最もいやらしい手段かもしれない。どれだけ人がいようと腕が良かろうと物が無ければ製作は出来ないんだ。

 持ち込みの資材があっても限度はあるからな。兵糧から攻めてく戦術に近しいものを感じる。


「参りましたね……私たちも伝手(つて)がある訳ではありませんし、いかにクロトさんといえど資材を容易く調達できる手段なんて」

「あるにはある。けど時間が掛かったり場所を取ったりと手間が掛かるね」

「そこで無いって言い切らねぇのすげえと思うわ」

「クロトだしなぁ。んで、どうすんだ?」

「んー……候補は二つあるが、どっちにも協力してもらえないか連絡しようか」


 デバイスを取り出し、通話先を選んで耳に当てる。昨日も同じようなことをしていた気がするな……あっ、出た。


「どうも数日ぶりです、ロベルトさん。今、時間()いてますか?」

『おおっ、君か! この間の護衛依頼では大変世話になったな。時間なら問題ないぞ』


 通話相手はCランク冒険者へ昇格する為の実績づくりで知り合った、ウィコレ商会の商人ロベルトさん。

 彼とは旅路を共にし、遊覧飛行を楽しんだ仲であり、別れ際に困ったことがあれば手を貸すと約束してくれた人だ。


『私に連絡をくれたということは、ウィコレ商会の力が必要なのか?』

「まさしくその通りです。再開発区画の詳細はご存じですか?」

『ある程度は把握している。なんでもレムリアと名を変え、新しい事業を行う場として整備を進めているそうだな。君と、アカツキ荘も協力しているんだろう?』

「はい。そこで設備業者や大工を招集して作業してもらってるんですが、資材の搬出が制限されているみたいで」

『なるほど、今朝の集会で商会中に周知された内容の意味がようやく理解できたよ。君たちへの嫌がらせが目的だったんだな』

「あれ、じゃあもしかしてウィコレ商会も圧力が掛かって……?」

『いや? 稼ぎ時だってのにそんな馬鹿らしい理由で商売しないなんて選択肢、ウィコレ商会にはないよ。商会長いわく“くだらない自己保身で胡坐(あぐら)をかくアホに、誰が従うものか”だとさ。だから無視する……そうだな、ひとしきり何が必要になるか打ち合わせしたい。責任者と話せるか?』

「分かりました。ちょうどすぐそこにいるんで、いま代わってもいいですか?」

『ああ』


 一通り説明し終えて、(あて)がっていたデバイスをシュメルさんに渡す。


「という訳で、新進気鋭な迷宮素材専門の商会と渡りを付けました。後はお願いしてもいいですか? もう一方の伝手(つて)にも連絡しないといけないので」

「坊やの人脈の広さには驚かされてばかりね……分かった。任せてちょうだい」


 俺のデバイスを耳に当てて、シュメルさんは踵を返し宿舎エリアへ向かっていく。

 恐らく作業中である職人さんの責任者も交えて相談する気なのだろう。


「はー、考えたもんだなぁ、クロト。確かにロベルトさんなら頼りになるわ」

「でしょ? 迷宮で採れる木材や石材なら耐久性はばっちりだし、ウィコレ商会なら用意できるはずだよ」

「迷惑は掛けたくねぇが、背に腹も代えらんねぇしな。多少の無茶を通してでも、レムリアの整備を急がなくちゃならねぇんだ」

「期限まで余裕があるとは言えませんし、一分一秒も無駄にしたくありませんからね」

「ところで、今日は何するの? ユキたち、なんも聞いてないよ?」


 各々がやる気を見せる中、ユキがごもっともな疑問を投げつけてきた。


「現場仕事の人たちを邪魔しちゃ悪いから、昨日耕した農地の一区域で実際に作物が育つかの実験、実証も兼ねて色々な種を持ってきたんだ。で、その成長を急促進させる力を持ってる人がいてさ」

「……もしかして、その人が頼ろうとしていた伝手(つて)の一人、ですか?」

「お察しの通りですよ、シエラさん。実を言うと、勝手ながら昨夜の時点で何らかの形として妨害されると思って既に連絡してたんだ」

「よーいしゅーとーだね、にぃに!」

「ありがとう、ユキ。少し準備してから向かうって言ってたから、そろそろ……」

「──ぃ」


 そんな時、レムリアの出入り口から影が近づいてきた。


「──おーい!」


 どんどん大きなっていく影と声量は次第に実態を明らかにしていく。

 使い古されたオーバーオールに土仕事で汚れたであろう半袖シャツ、軍手。そして特徴的なまでにつばの広い麦わら帽子。

 朗らかな声音と柔和な雰囲気に反して、半袖から覗く二の腕は太く、手を振るごとに夏の照り返しでキラリと光る。背中に背負っている大きな(かご)には、鋭く砥がれた農具が所狭しと詰まっていた。


「おまだせしますたぁ!」


 近づいてくるにつれて石畳の道は揺れ、腹の底に衝撃をもたらす。やがて俺たちの前まで走り寄り、両足を揃えて立ち止まる。

 見上げるほど威圧感の塊である彼女は麦わら帽子を取り、深々と頭を下げてから。


「あだす、学園の生産系授業ば担当しとるコムギいいます! 今日はよろしぐおねげぇしますだ!」


 最後の伝手(つて)として連絡した相手。

 シルフィ先生、リーク先生と親交が深く、俺も特待生依頼を通して面識のある人物。

 コムギ先生は日輪の国(アマテラス)特有の(なま)りを前面に押し出した自己紹介を告げた。

ということで、二ノ章ぶり……のはずであるコムギ先生の登場です。

彼女も特殊な境遇の持ち主な為、描写が楽しみです。


次回、ニルヴァーナの食糧生産を担う、心優しくも凄まじき力を持つ者のお話。

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