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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
短編 アカツキ荘のおしごと!
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短編 アカツキ荘のおしごと!《第六話》

修羅場をくぐり抜けてきた若手が慢心だらけな敵をブッ飛ばすお話。

 ──なんなんだ、このガキどもは……!


 冒険者ギルドのとある顧客からの依頼によって。

 仲間を引き連れ、レムリアに訪れた悪徳クラン“ワイプアウター”のリーダー、ウェレクは戦慄を抱いていた。

 裏家業じみた荒稼ぎで(つちか)ってきた実力は確かにある。自身だけでなく、連れ立ってきた仲間だって場数を踏んできた。

 今回の依頼も早々に終わらせて報酬を頂き、隠れ家で悠々自適に過ごすつもりだったが……実際はどうだ? 


「ふんぬっ!」

「かはっ……!?」


 クロトに顔面を掴まれ、脱力した仲間の一人が無造作に蹴り飛ばされた。

 多種多様な武術に長け、ニルヴァーナの内外に名を轟かせる“学園最強”とも渡り合ったとされる要注意人物。

 だからとて無手で数に囲まれれば手も足も出まい、と。タカを括って襲撃を敢行。

 しかしあらゆる格闘術を練り込み(じゅう)(ごう)も切り替える、読めない行動の宝庫であるクロトには届かなかった。


「通話してるアタシを狙うのはいいが、動きが粗末すぎるねぇ」

「こ、のっ……クソアマがっ!」

「失礼な奴だなぁ。そういうのは閉じ込めておくに限るよ」

「うお、あっ……」


 粘性の強い、人の頭身よりも大きな水球を魔法で生成。

 傍らに控えさせ、襲い掛かってくる暴漢を次々と水の檻に収容し、無力化していくセリスはため息を吐いた。

 クロトによって少しばかりの格闘術を仕込まれたとはいえ付け焼刃。ユキと混じって前線に出るには力不足。

 なればこそ自分が得意な方法で協力しよう、と。普段から慣れている魔法でワイプアウターの荒くれ者たちを仕留めていた。


 ──こいつらはまだいい。常識的な範囲内として許せる。だが……!


「やっ! せい!」

「「「があああああッ!?」」」


 可愛らしい掛け声とは裏腹に、鈍重な打撃音が空気を揺らす(たび)に、紙吹雪のように人が空を舞う。

 ウェレクは柄の(なか)ばから粉砕されたスレッジハンマーの残りを握り締め、ユキを睨みつけた。


 ──このガキだけは規格外だ! 仲間のほとんどが、こいつに……!


 彼が恐れるのも無理はない。ユキは身の丈に似合わぬ膂力と判断力に長けた生粋のインファイターだ。

 彼女に力や技なんて関係ない。押し退けて、踏み越えて、挙句の果てには“回しの力”で利用し、返されてしまう。

 意図せずとはいえ高危険度魔物(モンスター)に分類されるフェンリルの力を身に宿し、天性の才能を余すことなく発揮するアカツキ荘きってのパワーファイターに敵うはずもなく。

 ものの三分足らずで、ワイプアウターは全滅状態に陥っていた。


「いやぁ、ユキのおかげであっという間だったね」

「残りはもじゃヒゲおじさんだけだよ」


 息切れした様子も、疲れた素振りもなく、ユキとクロトは立ち尽くすウェレクの下へ近づいていく。

 悪化していく状況、いとも容易く目論見が砕けたことに感情を振り乱す余裕などありはせず、ウェレクは情けなく後ずさる。

 その踵に、仲間が落とした両手斧がぶつかった。


「自警団に聴取してもらわないとダメだから、口が利ける程度に痛めつけてやんな」

「「はーい」」

「っ、くそったれがぁあああああ!」


 両手斧を拾い上げ、ウェレクは破れ被れの反撃に出る。振り被る様子を二人は冷静に見据え、それぞれ構えを取った。

 ユキは右腕を、クロトは左腕を。腰だめに振り絞り、限界に達した時。

 両手斧が振り下ろされる寸前の間隙(かんげき)。わずか数コンマにも満たない(またた)きの刹那。


 一歩、踏み出して。解き放たれ、ウェレクの鳩尾(みぞおち)に叩き込まれたカウンターの剛拳──二つの“円芯撃(えんしんげき)”。

 洗練された技は今までと比べ物にならない衝撃をもたらし、ウェレクの肉体内部へダメージを負わせた。

 受け身を取れないまま一〇メートルほど吹き飛んだウェレクは力無く倒れ伏す。


 気絶した全員を縛り上げ、少し経って宿泊エリアの様子を見てきたエリックとカグヤ、ソラが戻ってきた。

 クロトが懸念していた通り、レムリアに来ていたワイプアウターの内、別動隊とも呼ぶべき数人が宿舎の破壊を(くわだ)てていたようだ。

 (もっと)も得意武器である刀のシラサイを持ったカグヤ、生身でも普通に強いエリック、魔法エンチャントによる近接戦の練度を高めているソラによって鎮圧。

 かくして、昼下がりのレムリアを騒がせたワイプアウターは皆、身柄を確保されることとなった。


 ◆◇◆◇◆


「ふーん……私たちがお弁当を取りに行っている間、そんなことが起きてたのね」

「三〇分ほどしか離れていないのに、どうしてこんな問題に巻き込まれているんですか……?」

「俺たちは悪くないです」


 セリスが通報した自警団によって、連行されていくワイプアウターのメンバーを横目に。

 戻ってきたシエラさん、シュメルさんとアカツキ荘の全員で、レジャーシートに座って遅めの昼食を()っていた。


「先に喧嘩吹っかけてきたのは向こうだしねぇ。アタシらはそれに応えてぶっ潰しただけ」

「少なくとも、現段階で建てた設備のほとんどが壊される……なんて事態にならずに済んだ訳だしな」

「容易に相手取れる方々で助かりました。舞踊剣術を使うほどともなると、小さくない被害が出ていた恐れもありましたので」

「あの人たち、キオとヨムルより弱かったね!」

『キュキュ!』

「いつか用心棒を雇用するか、警備として自警団に要請を出すつもりだったけど……坊や達が頼もしくて助かるわ」

「ご歓談中のところ、すみません。クロト、ちょっといいか?」

「んが? ああ、どうもです」


 タマゴサンドを頬張り咀嚼していると、仕事を終えた顔見知りの団員に頭を下げられた。


「南西区画長が所有する私有地レムリアへの無断侵入、及び器物損壊を目論んだ犯人確保への協力、感謝するぜ」

「降りかかってきた火の粉を払っただけですよ。この後、アイツらは?」

「地下房にぶち込んだ後、しかるべき処遇を与えて遠方に送る。全員、余罪はたっぷりあるしな。他のクランメンバーの情報を抜いた後で、肉体労働に励んでもらうさ」


 自警団団長であるエルノールさん直系の団員であり、尚且つ悪名高いワイプアウターの連中を捕縛できる、ということもあって。

 軽く説明を済ませた後は任せていたのだが、しっかりと業務をこなしてくれるようだ。


「しかし、対応した俺たちが手柄を全部もらう形になっちまうが、いいのか?」

「俺は結局、臨時団員として席を置いているに過ぎません。特務団員として暴れ過ぎて解任されたし、自重しなくちゃいけないと思ってたんで……だから貰っちゃってほしいです」

「そんなもんか」

「そんなもんです。それに、近々結婚する予定だって聞きましたよ? 何かと入用になるかもしれませんし、稼げる時に稼いじゃってください」

「お前、どこで聞いたんだよ……!?」

「女性団員の情報網、甘く見ちゃいけませんよぉ?」


 目を細めて忠告するとバツが悪そうに肩を小突かれる。

 踵を返し、捕縛したワイプアウターの連中と持ち込まれた武器の類を回収して、自警団員は立ち去って行った。


「どれ、ようやく落ち着いたし今後の相談でもするか。クロト、今日中にやっておきたいこととかあるかい?」

「悩みどころだねぇ……数を用意しなくちゃいけなくて、敷地が広いエリアは大体終わらせたけど足りない部分もある」

「排水、用水路や温室の施工もまだ終わっちゃいねぇからな。この辺は色んなエリアが関係してくるし、下手に手は出せねぇか?」

「爆薬で誤魔化していても資材不足ですからね……ですが、それなりに詰めておきたいところではあります」

「錬金術の道具と素材はあるから爆薬は量産できるけど、一つ一つにルーン文字を刻んで調整しても限度がある。今日中に出来るのは……農園エリアの水路工事かな?」

「そうね。初日にしてはかなりの進捗だもの、そのくらいにしておいた方がいいわ」

「不幸中の幸い、とでも言いますか。ワイプアウターのメンバー、リーダーを捕らえたことで状況も変わりました。もしかしたら、業者さんの方にも連絡がつくかもしれません」


 満腹になったのか、勝手に召喚陣へ帰ったソラを見やって考える。

 恐らくギルドの何某(なにがし)かに(そそのか)されてウェレク達は行動を起こした。

 しかし当のリーダーは逃げ時を見誤り捕縛。長年辛酸を舐めてきた自警団の尋問を受けて、息を潜めている連中もいずれ捕まるだろう。

 ウェレク達をけしかけてきた奴らは、まだ他にもレムリアを(おとし)める手段を持っているかもしれないが、早々に駒を一つ失ったことになる。足踏みし、熟考するには十分な痛手だ。

 その隙を狙わせてもらおう、と考えるのは至極当然。とはいえ、請け負ってくれる業者はいるだろうか……


「仮に工事を請け負う業者が居てくれたところで、レムリアの危険が去った訳じゃない……警備の方に力を入れたいな」

「一理あるな。作業中にさっきみてぇな事態に遭うことがないとは言えねぇ」

「必ず守れるとも言い切れん。そもそもそんなことが起きないように防ぐ手段は必須って訳かい」

「安全の保障がされていない場所での作業ほど、恐ろしいものは無いわ。けれど自警団はワイプアウターや他の捕り物で多忙だから、人員を()くことが難しいんじゃないかしら?」

「エルノールさんに直談判すれば融通を利かせてくれるかもしれませんが、無理はさせたくありませんし──最終手段、使うか」


 食べ終えた弁当箱を片付けて、ポケットからデバイスを取り出す。


「何かアテがあるんですか? クロトさん」

「うん。皆もよく知ってるんじゃないかな?」


 通話一覧を開き、目的の人物を選ぶ。

 耳に(あて)がい、数コールもしない内に相手が出た。











「あっ、もしもし? 召喚獣保護施設の職員さんですか?」

『…………は?』


 思ってもいない通話相手を呼ぶ声に、誰もが声を揃えた。

だんだん牧場物語みたいな話になってきました。私の好きなゲームです。


次回、ケットシーやフェネス、他の召喚獣が一堂に会した後、レムリア整備を続けるお話。

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