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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
短編 アカツキ荘のおしごと!
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短編 アカツキ荘のおしごと!《第四話》

前回の終わり際、結局怒られたクロトが次に開拓していくエリアのお話。

「前が見えねぇ……」

「自業自得だこの野郎。ビビらせんじゃねぇ」


 身体の汚れをタオルで拭き取るエリックに怨嗟を込めて吐き捨てられた。

 説明不足なのは悪いと思っていたが、問答無用で追いかけ回されてぶん殴られるとは……一発で済ませてくれただけ温情なのかもしれない。


「擁護のしようがねぇとはいえ、とんでもねぇ顔になってんぞ。大丈夫か?」

「まるで梅干しみたいになってますね」

「にぃに、平気?」

「時間が経てば戻るよ……そんなことより、次の工程に移ろう」

「ふっ……中々シュールな光景だけど続けるのね?」

「時間もありませんからね」


 何か言いたげなシュメルさんが笑いを(こら)えるように(うつむ)く。


『しかし、マジの全力パンチだったからほんとにいてぇ。なんだかんだ暇な時に教えてた練武術の(すい)を込めてやがった』

『恐ろしく迷いの無いストレートだったな。身体の芯に響く、良い一撃だったぞ』

『こんな所で成長を感じたくなかったわい』


 痛覚を共有しているレオの感心した声にツッコむ。


「まあ、ついさっきみたいに爆薬や魔法を利用してエリアを作っていきます。道づくりの時に分かったと思うけど“草を刈った”という部分を対象として、設備を建てていくから鎌は各々持っておいて」

「なるほどねぇ、そういう仕組みだった訳かい。そんじゃ、一つのエリアに絞って開拓してった方が効率はいいよな?」

「ところがそういう訳でもない。バックパックの中に、ラベルが張ってある爆薬があるはずだ」

「えぇと、こちらですか? 何か家のような絵が描いてありますね」


 カグヤが近場に置いていた荷物の中から爆薬を取り出し、見えるように掲げた。

 ラベルの貼られていない部分からは、瓶底に沈殿している大小の顆粒が顔を覗かせている。


「それね、基礎固定家屋建設用爆薬だから」

「なんつった?」


 汚れを吹き終えたエリックが眉をしかめる。


「草を刈って出来た土地を変性させて、とりあえず家っぽい四角い建造物を生成する爆薬だよ。前に“豊穣”で家を建てられないか試して失敗してから、試行錯誤を重ねて完成した物を、レムリアで使えるように細工したんだ」

「爆薬で家を建てるっていう発想がクロトさんらしいですね……普通の錬金術師はそんなこと考えませんよ」


 業務上、知り得る冒険者の中に俺のような考えの人間はいなかったのだろう。

 シエラさんはカグヤが持つ爆薬を眺めてため息を吐く。


「一定範囲内なら誰が投げてもちゃんと発動するから安心して」

「ユキが試したよ! 面白かった!」

「既に実証済みかよ。でもまあユキが問題無いってんなら、さっきみてぇな危ない目に遭う訳じゃなさそうだしいいか。……ちなみに、どんくらいの建物が作れるんだ?」

「色んな植物の種を媒介にして樹木っぽくした物……大きさは限度があるけど、アカツキ荘の廉価版みたいな一部屋の一軒家が出来上がるよ。宿泊エリアはそれを使って倉庫エリアでは別の爆薬を使うから、ラベルの間違いと巻き込まれには気を付けてね。家と一体化するオブジェになるから」

「さらっと言うな、こえぇよ。って、クロトはどうすんだい?」


 むっ、顔が戻り始めてきた。

 きゅぼんっ、と音を立てて元の形に直った顔を揉みほぐしてから、セリスの方を向く。


「俺はユキと一緒に農園エリアを整地するよ。素材調達で重要になる部分だし、俺じゃないと土地の調整に手を加えられないからね」

「分かりました。では私たち三人とシエラさんで、図面を見ながら宿泊エリアを作っていきますね」

「なら、私は坊や達と行動するわ。監督する必要があるかは疑問だけど」

「暴走して危険行為をしないようにだけ見張っててほしいっす」

「現に被害があった奴が言うと説得力あるねぇ」

「何とも無さそうに言ってるが全員、俺のこと盾にしてくれやがったよな? 忘れてねぇぞ?」

「「「さて、仕事仕事……」」」


 宿泊エリアを任された三人はエリックにジトッとした目で睨まれ、荷物を持ってそそくさと立ち去っていく。

 その後に続いて、肩を落としながらエリックも続いていった。


「よーしっ。気を取り直して農園エリアに手をつけていこう。やろうか、ユキ」

「うん! やっちゃうよ!」

「頼もしいわね。今度はどんな手を使うのか、楽しみになってきちゃった」


 ◆◇◆◇◆


「ひでぇ目には遭わされたが、それぞれの家屋に繋がる石畳の道があるおかげで大体の目安は分かるな」

「とにかくまずは一軒、建ててみましょうか。草刈り鎌で既定の範囲を指定して、ばっさりといきます。せいっ!」

「うーん、何度見ても不思議な性能の道具ですね」

「便利には便利なんすけど、クロトの口振りからしてまだ序の口っぽいんで。これからもっと驚かされると思いますよ」

「心強いとも怖いとも感じる絶妙なバランスがなんとも……筆舌に尽くしがたいわなぁ」


「そして刈り取った土地の中心に点火した爆薬を置いて、逃げますっ」

「一瞬で離れやがった!? 行動がはえーよ、伏せろ伏せろ!」

「は、はいっ…………って、あれ? 起爆しませんね」

「不発したのかい? いや、ちゃんと瓶が割れて、地面が揺れて──ツタみてぇな木が()えてきた!?」

「どんどん形が変わっていきますよ。(うごめ)いて、丸くなって、尖って……」

「……止まったな。こじんまりとしちゃいるが、れっきとした家になったぞ。四角いっつった割に屋根もある」


「扉が一つに窓が二つ。床と壁もしっかりしていて、内装こそ空っぽですが、そこは後ほど備品を持ち込めば問題ありませんね」

「出来上がる過程こそおっかねぇが、結果だけ見れば身体を休めるには十分な宿舎が完成したな。こりゃあ大工泣かせな技術だねぇ」

「他にも活用できそうだし、アカツキ荘の外に持ち出せば睨まれそうだ。こんなん、おいそれと使えねぇぞ」

「身内で扱う分には便利な物ですし、ありがたいですけどね」


「……この辺りのトンデモ開発品に関しても、仲介人として対策を立てておきましょうか」

「シエラさん? 何か言いました?」

「いえ、お気になさらず。何はともあれ使い方は分かりましたし、最新の注意を払って作業を始めましょう!」

「「「おーっ!」」」


 ◆◇◆◇◆


「遠くで続々と宿舎が乱立してますね。調子が良さそうで何より」

「楽しそうだね、にぃに!

「自分の開発した爆薬が平和的に使われて大満足だよ。こっちも負けていられないな」

「傍目から見てると幻覚を疑いたくなる光景なのだけれどね。とはいえ、どうするの? 農園エリアも爆薬で開拓するのかしら?」


「まずは無秩序に分散した、迷宮化の原因である魔素(マナ)の比率を農園エリアに集中させます。予想以上に雑草なんかの生育を促進してるみたいですからね。その間に、ユキには改造した草刈り鎌で場所を整地してもらいます」

「……改造って?」

「著しく耐久性が下がる代わりに効果範囲を広げるルーン文字を付与するんです。効率が段違いですよ!」

「もっとなぎ倒していいの!?」

「ああ。既に“刻筆”で付与は済んだ、全力でやっちゃって!」

「やったーっ! うおおおおおっ!」

「……まあ、実害が出ないなら、とやかく言わなくてもいいわね」


「あとは俺の方で……リブラス、いま空いてる? 誘導の異能を使いたいんだけど、補助を頼めない?」

『呼ばれて飛び出て自分参上! 何をなさっていたかはこちらで確認済みなので問題ないです。ちょうど暇になりましたから、頑張りますよ!』

「ありがとう。それじゃ、魔剣を召喚して──他エリアが渇いた大地にならない程度に抑えて、レムリア全体の魔素比率を農園エリアに集中させよう」

『了解です! 異能は可視化しなくてもいいんですよね?』

「ああ。それに、魔素比率を変えた後もリブラスに手伝ってもらいたいから、制御に専念してほしい」

『分かりました!』


「このあとは草を刈り終わった地点から異能で揺すって、何度か掘り起こしてふかふかの土にしていきます。雑草も巻き込んじゃって構成を誘導し、分解を促して養分に。小石はともかく、大きめの石なんかは邪魔にならない位置に寄せておきましょう」

「魔剣様々、といったところかしら? 何十人も雇わなくちゃいけない作業を容易くこなせちゃうなんてね」

「そうですね。突拍子の無い開発品を見せたおかげで、こんなことしててもシエラさんが遠目から見たって“ああ、クロトさんの仕業か”って納得するだろうし」

「印象操作も込みでレムリアを整備していたの? 坊やってば本当に策士ね」

「打算半分、その場のノリ半分って感じですよ。……あっ、ユキの草刈り作業が終わったみたいです」

「……農園エリアの面積はレムリアの約半分。かなり広範囲のはずだけれど、早いわね」


「にぃにー、終わったよー!」

「ああ、しっかり見てたよ。ありがとうね」

「えへへっ、どういたしまして! 次はどうするの?」

「水場、というか貯水池を掘りたいところだけど……シュメルさんにも手伝ってもらっていいですか?」

「私も? 何をしたらいいかしら」

「バックパックの中に木の杭とハンマーが入っているので、それで貯水池を作りたい場所を囲うように設置してください。こっちの作業が終わったら合流して、続きを進めますから」

「分かったわ。ユキ、行きましょう」

「はーい!」


 ◆◇◆◇◆


 正午の鐘の音が鳴る直前。

 宿舎が乱立し、広範囲の畑作が行われていたレムリアから再びの轟音が響く。

 その正体はシュメルとユキが設置していた木杭(きぐい)。加えて言うと、クロトが道づくりに似た方法の細工を施した魔道具によるものだ。

 木杭で定めた範囲の地面を半球状に沈下させ、タイルのように押し固める代物。迷宮で見かけるトラップを参考とした魔道具は、一瞬にして貯水池の元となる地形を完成させた。


 今回は皆を集め、事前説明をしてから行動を起こした為、クロトは無事で済んだ。

 だが、問題はその後だった。


 慣れない作業を終えた気の緩みか。

 それとも夏の暑さで頭が茹っていたのか。

 魔法で生成した水は生活用水として適さないので、自然現象に(もと)づいた水を湧き出させる“水泉(すいせん)要石(かなめいし)”。

 ルーン文字の付与術によって生まれ変わった漬けもの石を投げ込もうとして──クロトが足を滑らせた。


 ものの見事に無様な格好で水底へ転がっていくにつれて、抱え込んだ要石が光を放つ。

 大気中の元素を元に雨雲が生み出され、局地的な豪雨として降り注いで。雨露(うろ)を満たすがごとく、要石から濁流のように水が溢れ出す。

 飛沫を上げて空高くまで立ち昇る滝のように……根元にいるクロトを押さえつけるように。

 レムリアの外縁から見ても珍事態だというのに、カナヅチであるクロトが貯水池で沈むという衝撃的な様相を目の当たりにして。

 エリックが慌てて飛び込み、救助活動を行う羽目になったのだ。











「……ふん。派手にやってるみたいだな」


 レムリアの整備に奮闘する、そんな彼らは気づけなかった。

 (こころよ)く思わない(やから)が息を潜めていることに──

今更ですが、この短編は息抜きも兼ねているので意図的に描写を少なくしてます。

テイルズのスキットみたいな、なんでもないようなやりとりが好きなのもありますが。


次回、クロト達に嫌がらせを敢行する敵が登場するお話。

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