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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
短編 アカツキ荘のおしごと!
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短編 アカツキ荘のおしごと!《第二話》

この短編で何をするべきかを話し合うお話。

「再開発区画の整備が間に合わない?」

「ええ」


 アカツキ荘に招いたシュメルさん、シエラさんへ用意した紅茶を出しながら。

 世間話のように切り出された話題に問い掛ける。


「君に区画の調整をしてもらった後、フレンに計画書を申請するといったでしょう? 土地の用途や権利関係を含めて承認してもらった所までは良かったのだけれど」

「提携状態であるアカツキ荘と“麗しの花園”としての立ち位置を明瞭に、そして目に見える形で示してほしい、とギルド上層部にせっつかれまして」

「あー……? あれか、空いてる土地をいつまで遊ばせてるんだ、何もしないなら手放せ、みたいな意図を含んで言われたのかな……?」


 何かときな臭いギルド上層部が口にしそうな考えを言うと、二人は無言で首を縦に振った。


「なんか理由付けが適当過ぎねぇか? 難癖すぎるっつーか、その為に計画書を提示したのに納得できねぇの?」

「つーか覚え違いでなけりゃ、あそこってシュメルさんの持ち場みたいなモンだろ? ギルド側が口出ししたってなんも意味ないだろ?」

「それがそうでもないのよねぇ」


 チンピラ口調の姉弟(きょうだい)が眉根を寄せる中、ユキとあやとりで遊んでいた学園長が顔を上げる


「今でこそなんともないけど、元はいくつもの迷宮(ダンジョン)がひしめきあっていた魔境よ? 専用の魔力障壁が無ければ、解き放たれた魔物達の侵攻によってニルヴァーナは半壊していた、推測されるくらいには」

「ですが裏を返せば、迷宮資源の宝庫でもあるのです。迷宮化の危険性こそあれど、冒険者ギルドが封印処理を施せば、新たな保管施設として機能することになります」

「なるほど。表向きは危険性の排除、裏では様々な迷宮資源を独自に確保するため、再開発区画を手に入れたい。けれどアカツキ荘と“麗しの花園”が邪魔だから、いかなる理由を付けてでも失脚、あるいは撤退させたいんですね」


 引き継いだシルフィ先生の考えと、まとめ上げるカグヤの言葉に唸る。


『クロトの個人情報漏洩もそうだが、最近、ギルド側の横柄な態度や怠慢が目立つようになったと感じるのは気のせいか?』

『元々、ギルドの職員はグランディアから出向してきた人たちで構成されてるからね。数は少ないけど中には貴族籍を持つ人だっているし、ちょっと気になる事があれば騒ぎ立てたくもな…………』

『どうした?』

『いや、まさかだとは思うんだけど……』


 脳内で相談相手であるレオとの会話を切り上げて、挙手。

 周囲の視線を集めてから口を開く。


「あの、仮定の話としてシエラさんに聞いておきたいんですが……」

「はい、なんでしょう?」

「もしかして再開発区画の権利を手放して、そのままギルドに渡したら──迷宮資源の横流しとかされます? 各方面に」

『!?』


 ニルヴァーナだからこその利益をもたらす資産的価値。

 それらを組織ぐるみで手中に入れて、各自のコネを駆使して商会を通すことで、小国家などに販売することができるとしたら。

 貿易国家としての側面が強いニルヴァーナの規則を無視した、高値での売買が繰り広げらたとしたら。

 莫大な金銭と恩恵を誰にも阻められることなく利益を懐に納める……なんてことになるのではないか?


「うん、やっぱり坊やは賢いわね」

「シュメルさんがそう言うってことは、やっぱり?」

「これは口外しないでもらいたいのだけれど、ギルドの上役が花園のお得意様になってるの。支部長ほどの地位でないにしろ、かなりの権力を持っている末端のお貴族様でみたいでね。加えて私が記憶してる中で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のおかげで小さな規模でありながら潤っている、と。嬢の一人が耳にしたそうよ」

「ダミー会社やんけ」


 真っ黒な内情の吐露に思わずツッコむ。

 話を聞いていく内に青ざめていくシエラさんが口元に手を当てる。


「愛想が尽いた今なら分かりますが、不審な言動の人もいたような……グランディアほど権謀術数が渦巻いてるのに、気づけなかったなんて……!」

「早めに勤務場所が変わってよかったわね。学園ではのびのびと働いてちょうだい。そして私の仕事を減らして」

「切実な学園長の要望はどうでもいいとして、そんなにやべぇのかい? 横流しって」

「これまでニルヴァーナが築いてきた信用がガタ落ちする、って言えば分かるか? 適正価格だと思っていた品が安くて、今までの取引は不当なものだったんじゃねぇか、なんて言われて。最悪、反旗を翻して訴えられたら(たま)ったもんじゃねぇ」

「結果として市場価値の暴落を始めに、売れずにありあまる資源が生じる……そこも狙い目なのかもしれません」

「安値で仕入れて他国で高額販売。差額が税として徴収されることなく資金になるのですから……クロトさんがよく口にする“ボロい商売”というものになりますね」

「人手が必要になっても貴族ともなれば、家来やお抱えの商会とか身内の人間だけで事足りる。考えれば考えるほどロクでもないなぁ……」


 次々とアカツキ荘の面々から出てくる予想の嵐。

 どこにも間違いはなく、現状ですら小さくも横領の二文字が見え隠れしているのだ。シエラさんでなくとも頭が痛くなる問題だ。


「幸い、坊やのおかげで迷宮化に関してはもう解決してるから、手を出されることはないわ。横流しの件だって告発しても証拠がなければ無意味で、気に掛けてあげるほど私たちは暇じゃない。優しく丁寧に懸念事項を伝えてくれた方々の為に、安心できる場所づくりに励まなくてはいけないのだから」

「その期限を設けられた上に、クランとしてのアカツキ荘は実績が無い状態です。なのでギルド側から無駄な集まり、格下として見られないように。初仕事として再開発区画──新たな区画名を“レムリア”と呼称し、これの整備を遂行していただきたいのです」

「なるほど……ん? ちょっと待ってくれ」


 何か気になる事でもあったのか、エリックは首を傾げる。


「そもそも整備ってなんだ? 言葉通り受け取るんなら何か設備を建てたりするんだろうが、素直に業者へ頼んだ方がいいんじゃねぇのか?」

「無理難題を吹っかけて初仕事を失敗させようとしているんです。その方が責を問いやすく、権利を奪うのに楽だから、と」

「それだけじゃなくて、建設依頼を請け負ってくれそうな業者には根回し済みのようでね。誰も受けてくれそうにないのよ……色々と要求し過ぎちゃったせいなのも、ありえるかもしれないかしら?」


 シュメルさんからお願いされても断る人なんているんだ。心がつえぇ奴なのか?


「厳しい状況ですね。……そういえば、先程からおっしゃっている計画書の写しは拝見できますか? 内容次第になりますが、私たちに出来ることなら……」

「もちろん。貴方たちの力を借りたいのは当然なのだけど、もっと言うと坊やの協力があれば十分に可能だと思っているわ」

「俺の? あっ、計画書ありがとうございま、す……」


 カグヤの(もっと)もな疑問に頷いて、シュメルさんが差し出してきたレムリアの計画書を受け取り、視線を落とす。

 そこに書かれていたのは達筆な公用語で書かれた文字の羅列。万能石鹸の商談でも筆記をする彼女を目にしたことはあるが、ここまで達筆だっただろうか。


 よくミミズ文字だとか字が汚いなんて言われる俺のとは違い、ちゃんと意味として理解できる。だが、シュメルさんが書き記したという事実が普段のギャップと混じってシュールに感じた。

 込み上げる笑いを抑えていて中々読めずにいると、席を立ち、後ろから覗いてくるエリック達の中から。

 ユキと遊び終えた学園長が手を伸ばして、計画書を奪い取り読み始めた。


「麗しの花園傘下とも言えるファタル商会が商品を生成する作業場、夜間業務用の宿舎。業務に使用する薬草類や迷宮野菜を生育させる農園、温室などの施設。収穫物及び生成物を保管、保存しておく倉庫が数件。生活、作業用水の確保として貯水池や排水路の施工。侵入者対策に防犯塀、魔力障壁の設置と人員募集。色々と物入りになる小物、道具、設備……」

「要求し過ぎですねぇ! なぁにそれぇ!?」

『聞き手に回っていたが、凄まじい量のタスクだな』


 頭の中でレオが驚くように、エリック達も滔々(とうとう)と語られた計画書の内容に目を見開いた。


「許可を出した私が言うのもなんだけど、随分と手広くやろうとしてるじゃない?」

「あら、新しい事業を起こすようなものなのだから必要なことよ。それに坊やが前に言っていた、地下工房に死蔵されている試作物を活用すれば造作も無いことでしょう?」

「……ああ、そっか。なら、出来るかも」

「マジで言ってんの? いや、普段からやべーもん作ってるのは聞いてたが……」


 思い当たる節があるセリスへ振り返りながら。


「人員募集以外のことなら、全部出来るんじゃないかな? シュメルさんが言った通り、皆の力を借りればあっという間だと思う。ちょっと待って、必要そうなモノを書き留めておこう……ユキ、そこのメモ用紙と鉛筆取って」

「はーい!」

「ありがとう。えーと……」


 元気の良い返事と共に差し出されたメモ用紙へ。

 地下工房に保管してある、使えそうな品を書いていく。


「まあ、クロトがそこまで言うってんなら俺達は協力するしかねぇよ。クランとしての初仕事だしな」

「頼りきりになるのは心苦しいですからね……せめて人の手が必要な部分くらいは。でも、クロトさんの作成物は気を付けないと危ないモノばかりですし、覚悟を決めないといけませんよ」

「ただの区画整備だってのに命の危機が付いて回るのはおかしいと思うんだが……ところで、レムリア整備の期限っていつまでだい? ギルド上層部が意地悪だからと言って、さすがに一朝一夕でやれとは言わんだろ。一ヶ月くらいか?」

「本日から一週間です」

「無理だろ」


 シエラさんの無慈悲な宣告にセリスが真顔になった。


「だから言ったでしょう? ギルドは私たちに幅を利かせたくないのよ」

「ただでさえ納涼祭の一件で不祥事がバラ撒かれて、火消しに精を出しているところに、ヒロイックな話題の人物が頭角を現した。見る人が見れば、目の上のたんこぶみたいなものですから」

「難しい問題ですね……クロトさんは普通に過ごしてるだけだというのに」

「霊峰の一画を斬り崩した挙句に、伝承の召喚獣と契約する個人を普通とは言わないわよ、シルフィ」


 好き勝手に言ってくれる大人組をスルーして、メモをもう一度流し読んで……うん、イイ感じ。


「じゃあギルド上層部の鼻を明かしてやる為にもレムリアの整備、頑張ろうか。ここに書いてある道具を持って行こう」

「おう。んじゃ、汚れてもいい服に着替えるか」

「学園のジャージでいいかね?」

「それでいいと思います」

「待ってください。報酬に関しては聞かないんですか……?」


 ぞろぞろとリビングを出ていこうとして、シエラさんの言葉に足が止まった。


「えっ、出るんですか? 報酬」

「もちろんですよ!? 無償で仕事をお願いするつもりなんて最初からありませんって!」

「坊やって偶にそういうところ抜けてるわよね。私から説明させてもらうと、いま貴方たちが返済に当たっている子ども達の入学金。その負債を解決できる程度の金額を、整備が完了した際に支払うわ」

「負債を払い切れる額ともなれば、五百万メルくらいか? かなりの金額だぜ」

「えーと、それを七人で割るからぁ……」

「およそ一人当たり七〇万ほどといったところでしょうか」


 指折り数えるセリスに代わってカグヤが答えを口に出す。

 不定期な収入源であった万能石鹸と比べたら額は下がるが、整備が終わり、レムリアが本格的に稼働し始めれば総合的な利益は右肩上がりになっていく。

 これは気合いが入るぞぉ! 思わずガッツポーズを取っていると、学園長が声を上げた。


「……待って、()()? 人数、間違えてない?」

「えぇ? だってアタシ、カグヤ、ユキ、エリック、クロト、先生、学園長……ほら、七人だろ。あいや、シエラさんも入れたら八人になんのか?」

「わ、私たちもアカツキ荘の枠組みに入れて考えてるんですか!?」

「あくまで私はクランを結成させて、学生のみのグループじゃ不安だからシルフィを補佐みたいに当ててるだけだから、振り分けの勘定に入れなくたっていいわよ。専属仲介人のシエラには別途で割り当てられるお金があるし、そこまでがめつくないし……」

「ほんとに? じゃあ前から料理で学園長のお酒、風味付けで勝手に使ってるのも許してくれる?」

「関係ないでしょ、ってかお気に入りが一本無くなってると思ったら何やってんのよ!? せめてちゃんと許可を取りなさい!」

「子どものお小遣いでも買える、安価で手に入る安酒がお気に入りなの?」


 ケチなのかおおらかなのか分からない──今回は伝え忘れていた俺が悪かった──学園長がため息を吐いた。


「とにかく、二人を入れなくていいんなら報酬金も上がる。借金も払える……良いことづくめじゃあないかい」

「へっ、やる気がどんどん湧いてきたな。こうしちゃいられねぇ、早速準備しようぜ!」

「それじゃ、荷物をまとめておくから着替えてきなよ。カグヤ、悪いけどバックパックに詰めるの手伝ってくれる?」

「もちろんです。工房に行きましょう」

「やったるぞー!」


 話がまとまったことで、それぞれが行動を起こす。

 誰もがアカツキ荘にもたらされた、重要な仕事に向けて。

 実績づくりと地盤固めの一歩目だ。踏み出していくぞ!

ギルド上層部に睨まれているアカツキ荘と麗しの花園で舐めてる連中を見返そう、というストーリーになります。


次回、夏休みが始まるまでにアルパディアを開拓するお話です。

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