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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【二ノ章】人助けは趣味である
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第二十一話 揺らいだ覚悟

有言実行していくスタイル。

 乾いた足音が反響し、暗闇に溶けていく。

 手元で光る魔法の灯りを頼りに、過去に魔術の実験場として重宝された地下施設。そこへ続く長い階段を下りる。


「……感じる」


 奥から流れる(かす)かな風に含まれた威圧感が、胸を苦しめ、歩みを止めようとする。

 だが、止まるわけにはいかない。

 噛んだ唇から血が流れる。ささやかな痛みが勇気となり、前へと進めてくれた。


 そして。

 高い天井と、壁に描かれた紋様が怪しく光る広場に出た。

 同時に(よど)んだ空気に混じった腐肉と血の匂いに目を向ける。

 広場の中心に積み重なる様々な動物の死体と、手傷を負わされ生け捕りにされた魔物の前に(たたず)む、外套を羽織(はお)った人物が立っていた。


「――おお、待っていましたよ。王女様」

「……私は王女などではありませんよ、ガルド教諭――いえ、儀式魔術(カタリスト)使いのパラエル」

「おや? 名前まで覚えてらっしゃるとは。いやはや、時間の流れで風化してしまったと思ったのですが、存外、貴女(あなた)の記憶に残っていたようですね」


 こちらに向ける金の瞳を細め、笑みを浮かべた顔を見据える。

 皮膚が剥がれ、表情筋が露出している醜悪(しゅうあく)な見た目は魔術の酷使した際の症状と一致していた。

 ……ガルド教諭だけでも救えるかと思ったが、もう、手遅れだ。

 おそらく肉体の変容がすでに始まっている。自らを高次元の肉体に変化させるなど、人の身で許容できる負荷を超えている。


 あそこまで変容してしまったら、肉体は二度と元には戻らない。

 変化を恐れない彼の蛮勇に敬意を表する気は無いが、それでも……。

 そこまで思考して、首を振る。


「しかし、よく私がここにいるというのが分かりましたね? 痕跡を残さぬよう、心掛けていたのですが」

「先日に出会った時、ガルド教諭の魔力とは違う、懐かしい魔力を感じました。一瞬でも認識してしまえば探知することは可能です。それに……ここはお互いに思い入れのある場所でしたから」

「なるほど。しかし、懐かしいですなぁ……。あのような日々が毎日続けばよいと心の底から願っていたのですがねぇ。まさか、こうして貴女と言葉を交わす機会が再び来るとは思ってもいませんでしたよ」

「私もですよ。……どうやって封印を解いたのですか? ガルド教諭の身体を乗っ取ってまで、どうしてこのような真似(まね)を?」


 私の問い掛けに、パラエルは笑みを浮かべたまま右手で指をさした。


「分かりきっているでしょう? 私は儀式魔術の使い手。降霊術に神降ろしの秘儀の研究にも精を出していたのですよ? 災厄と呼ばれたあの魔術は儀式を行う為の前準備。民を喰らい、この地を血と肉で埋め尽くしたのはこの身に神を憑依させるための生け贄だったのです」

「……だとすれば」

「ええ、貴女の想像通り。封印する直前、私はこの身に神を――邪神を降ろす事に成功しました。ですが同時に行われた魔術置換のせいで魔術を扱う魔力の行使が出来ず、この銀仮面に閉じ込められたままでした。それから星が巡るたびに、封印を解く為に邪神の力で世界に干渉する力を手に入れるよう行動したのです」

「……創世神話の悪神、シュブ・ニグラト。全ての生物が持つ命の暗がりに潜む狂気を表面に持ち出し、信仰させることで現世に顕現するだけの力を得た、ということですね」


 予想はしていた。

 アカツキさんが襲われたバケモノ。その存在と、彼が信仰する邪神の落とし子、王国を滅ぼしたバケモノの外見と一致していたからだ。

 ならば肉体の変容が早まっているのも納得できる。

 人という限られた器に神を取り込めば、その身は神の力に合わせて次第に増大していく。

 制御できる強靭な精神でなければ即座に肉体の所有権を奪われ、自分の意志とは関係なく動かされる操り人形と化す。

 なのに、彼は未だにこうして会話を交わせる程度に自我を残している。


「時に男へ憑りつき、宣教師となりて数多の眷属を生み出し取り込んだ。時に女へ憑りつき、肢体と魔性の色で(たぶら)かし、死を迎えるその時まで信仰させ続けました。小規模ながら確実に復活するまで、こうして生き永らえてきたのです――すべては、貴女と出会う為に」

「まだ、根に持っているのですか。父の耳に入ることのなかった、妄言とされたその想い。王国を滅ぼし、数千年の時を経ても……理解されようと、していたのですか?」

「――当たり前です。なぜ胸に抱いた情熱をしまったままにしなくてはならないのか。貴女の瞳に、翡翠の髪に、エルフで最も美しいとさえ言われたその姿に、この(たかぶ)った感情を抑えるなど不可能なのです。……ああ、だからといって王国崩壊のきっかけになったと気負わずともいいでしょう。むしろ、必然の帰結でしたからね」


 どういうことか、口を開こうとして。


「個の繁栄のみを求めるなど、進化を恐れた愚か者の思想。民、貴族、王族の思考にまとわりついた古臭い考えで築かれた安寧など、この世に必要ありません。歴史の汚点でしかないのですから――」


 一瞬で煮えた思考で並べたルーンを放つ。

 パラエルの真横を通り過ぎる深紅の軌跡は、壁面にぶつかると爆発し、空気を揺らした。


「――()(ごと)はそこまでにしてください。これ以上、亡くなった者たちを冒涜するのは許しません」


 呆けて後ずさるパラエルを睨み、帽子を外す。

 怒りで熱を帯びた思考が身体の魔力を高め、周囲の魔素(マナ)をざわつかせる。

 そうだ、ここまで来て何を日和(ひよ)っている?

 迷う必要はない。躊躇(ためら)いもいらない。


「パラエル。確かに私は研究者であり、教え子である貴方(あなた)の想いに応えることができなかった。敬意も、恋慕も、情熱も……身分の違いに悩まされ、届ける事の出来なかった愛に応えられなかった」


 でも。


「国を滅ぼし、民を、家族を殺した罪は、どれだけの時間が流れようと赦せるものではありません。あまつさえ、この世に生きる関係のない人間を巻き込んで、もう一度あの災厄を再現するなど――ここにいる私が、王族の矜持(きょうじ)を持って止めてみせます!」

「……ハハッ、あなたまで私を否定するのですか……」


 俯いたパラエルの魔力が高まっていく。それは壁画の紋様へと伝わり、奇妙に(うごめ)いたそれは死体の山と魔物へ這いずりながら向かうと、より一層輝きを増した。

 そして、見覚えのある光景が視界を埋め尽くした。

 紋様から伸びる木目の触手。それらによって生じる肉の潰れる音、噴き出した血、苦痛に叫ぶ声。

 煌々(こうこう)と光る儀式魔術の術式と、残響によって耳朶に残る悲鳴。

 精神を蝕む不協和音に吐き気を覚えるが、私は構うことなく高濃度の魔力を込めた七色の球体を周囲に生み出す。

 眼前で形成されていく人のようで人でない形をしたバケモノ――シュブ・ニグラト。

 そのシュブ・ニグラトの中心――人で例えれば心臓部に、パラエルは取り込まれるような形で一体化していた。


『ならば、語り合いは不要という訳ですね。このような場所で対面した以上、こうなる運命だったのですから――我が積年の恨みと情欲で、怒りに震える貴女を受け止めます。そして、貴女と一つになる!』


 紅く輝く瞳で見下ろすシュブ・ニグラトは、その巨体を()らして、剛腕を振るった。

 巨人の鉄槌。そんな一説が思い浮かぶ。まるで神話の再現だ。

 だが、()()ではない。強引に死体の肉と強靭な魔物を繋ぎとめたところで、所詮、アレはただの木偶(でく)人形でしかない。


「術式解析……対魔術構築完了」


 持ち上げた右手で球体を動かす。

 赤と緑。二色の球体を操り、迫る鉄槌の表面に魔法陣(サークル)を描く。

 同時に視界と、思考に混じるルーン文字の羅列を瞬時に展開し、


「――《アルジズ・ウル=ハガル》」


 ――(こと)に乗せて放つ。

 圧縮した風に乗せられ、破壊を伴った灼熱が鉄槌を包む。爆発じみた衝撃と熱量により、過程を消し飛ばして剛腕を炭化させた。

 事前に全身に張った衝撃を緩和する風の防壁と、魔力で強化した脚でその場から離れる。


『ハハハハッ! 以前も感嘆するほどの腕前を披露していましたが、年月を経てさらに腕を上げましたか! 様子見をする(いとま)さえ与えないとは、昔の慈悲深い貴女は何処へ行ってしまわれたのか!』

「慈悲など、当の昔に失くしてしまいましたよ。今の私に残っているのは貴方と貴方を縛る邪神を滅するという使命だけ。それ以外は必要ありません」


 自分の言葉に鈍い痛みが(ともな)う。俯きかけた視界の端に、巨体がもう一方の腕を振り上げていた。

 振り払うように左手を構え、投げられた瓦礫を魔力障壁で防ぐ。

 ガラスの砕けるような音と共に崩れた障壁の一部を利用して、魔力の煙幕を張る。立ち込める煙の奥に光る紅い瞳を視認し、術式を展開。

 再び生み出した赤と青を混じり合わせ、無数の矢として生み出す。補助として風と雷の術式を纏わせた。

 風の軌跡を帯びて紫電を散らし、静かに螺旋を巻き起こす魔術の矢――引き(しぼ)り、放つ。

 空間を湾曲させ、空気を穿って突き進む圧倒的な質量の暴力が、シュブ・ニグラトに炸裂した。


『ぬううううううううっ……!』


 巨腕で防いではいるものの、容赦なく(えぐ)(つらぬ)く魔術の矢に呻くパラエルの声と、矢の炸裂音が響く。

 だが、彼の動きが止まった。



 ――今だ!



 残りの球体でシュブ・ニグラトの足下に大型の魔法陣を描く。


「“大地よ 闇よ 光よ 輪廻を巡りて回帰せよ 今こそ始点の座へと()す時”」


 密かに研究を重ね、より高度なものへと昇華させた消滅の魔術。

 当時の研究者ですら手を出せなかった、神をも(あざむ)く理外の業。


「“其は全てを捨て 大いなる(いしずえ)となりて 世の根幹へと(いざな)おう”」


 術者の命を代償に放つ、全てを終わらせるための最期の魔術。


「“我が思い 我が理想 我が夢の体現 満たされた生を銀瞳(ぎんどう)に 満たされぬ死と共にこの身を迎えたまえ”」


 そして、最後の一節を。


「“命の輝きの果てに (いにしえ)の円環へと……”」


 口にできない。あともう少しだというのに、震える身体が言葉を詰まらせた。





『先生にだって心の底に隠れている大切な記憶があるはずなんです。自分の現在()を作ってくれた、後悔に溺れてしまった輝かしい過去(記憶)を。それに気づいた時、先生はきっと――本当の意味で前を向いて歩くことができる』





 たった数分のやりとり。物語のような逢瀬(おうせ)でもない、長き生の記憶に(まぎ)れるはずの語らい。

 掘り起こされる記憶が身体を(いまし)める。

 脈打つ心臓の音が遠い。揺らいだ身体が膝をつく。

 巨体の下に描いた魔法陣は制御を失い、魔力の霧散によって術式が解けた。

 魔術の矢も止み、身体の自由を取り戻したシュブ・ニグラトは不気味なほどに甲高い咆哮をあげる。

 空気を振動させた叫びは地面を砕き、魔力を高めた。


 そして、失ったはずの腕と抉れた肉体の欠損を驚異的な速度で再生させていく。

 立ち向かった勇気を嘲笑(あざわら)うかのように、瞬く間に変化する状況に思考が止まりかけた。

 頬を熱い何かが伝う。涙ではなく、魔術の負荷で血管が破れ、そこから血が流れた。

 頭だけではない。身体のあらゆる箇所から血が(にじ)み始めた。


「…………私は、こんな所で止まるわけにはいかない。なのに……」


 歩みを止めてしまった。過去に覚えた死の恐怖が、彼の気遣いが覚悟を侵食していく。

 もはや身体に力が入らない。立ち上がることすらできない。

 覚えていたはずの輝かしい記憶なんて、どこにもない。


『ふぅ……一時はどうなるのかと思いましたが、どうやら魔術の発動に失敗したようですねぇ――この、くそアマがァ!!』


 抵抗もなく聴覚を貫く声。

 頭上から降りかかり、突然人が変わったように粗暴になった声を見上げようとして、横から襲う衝撃に吹き飛ばされた。

 寸での所で障壁を張れたのは、日頃の癖のおかげか。だが完全に威力を減衰させることはできず、背中から壁面に激突したせいでしたたかに身体を打ちつけた。

 飛びかけた意識を繋ぎ、身体を折り曲げ、空気を求めて(あえ)ぐ。


『ようやく、ようやく見つけたぜ……オレをコケにしやがったクソ女ァ!! てめぇのせいでオレの神性は薄れちまった。(みじ)めに生き続けた数千年の悪意と呪い、怨念……このツギハギの肉体も、何もかもてめぇのせいで!!』


 パラエル――いや、シュブ・ニグラト本体の意志が、巨大な手で私の身体を(つか)み、力を込める。

 軋みを上げる骨が内臓を圧迫し、(やわ)い感触が激痛へと変わった。

 痛みに叫べない代わりに、血が噴き出す。食いしばった口端が裂けて、濃い血の味が広がる。


『すぐには殺さねぇ……ゆっくりと切って、裂いて、割って、()じって……くだらねぇ誇りと純潔すら奪って、てめぇの全てを陵辱してから殺してやる……!』


 ガルド教諭の肉体が、シュブ・ニグラトの腕を伝って向かってくる。

 中にいるのは本体か、パラエルか、ガルド教諭か、これまで復活の糧にされてしまった生け贄の残留思念か。

 どちらにせよ、操り人形であることに変わりはない。


 ……このまま意識を失ってしまえば、舌を噛み切り自ら命を絶てば、楽になるのだろうか。


 力無く前を見る瞳は色を失い、灰色の世界を(うつ)す。

 目を背け、使命を捨て、自らを偽れば、救われるのだろうか。

 顔に添えられた異形の手が首へと伸ばされる。緩んだ巨大な手から解放され、持ち上げられた。


 ……未練もある。悔いもある。でも、心が折れてしまった。


 不敵な笑みを浮かべ、何かを口走っている声が聞こえない。

 持ち上げた手の反対に、奇妙に明滅を繰り返す筋肉の繊維で構成されたような剣が握られている。


 ……そういえば、彼らは大丈夫だろうか


 二年七組。私が教鞭を振るった、最後のクラス。

 生徒の全員が個性的で、いつまでも飽きることのない賑やかな空気が特徴だった。

 彼らに直接別れを告げずに手紙で済ませてしまったが、読んでくれただろうか。

 私がいなくなった後も、彼らは笑顔で過ごしてくれるだろうか。


 ……アカツキさんは、どうだろう?


 日頃から言いたいことが多すぎて、手紙も彼については一番長く書いてしまった。

 怒っているかもしれない。結局は私の勝手な感想なのだから。

 でも、笑って許してくれるかもしれない。彼の心の広さに甘えてしまうことになるが、唯一自然体で接することができた男性だったのだから。

 彼に()れられて感じた温もりは、決して虚構などではない。


 ……ああ、もしも。


 眼下に剣が構えられた。

 切っ先は心臓へ。貫かれれば間違いなく死ぬだろう。そうでなくても、致命傷は避けられない。


 ……たった一言でも。


 自らの死を自覚した途端、閉じた瞳から涙が零れ落ちた。

 枯れることのなかった感情が止めどなく溢れてくる。

 そして。





 ――「助けて」と素直に言えたなら、こんなことにはならなかったのでしょうか……。





 風を切る音が、世界を埋め尽くした。

















 ――いつまで経っても死を感じない。命が溢れ落ちることもなく、まだ身体の中に残っている。

 一瞬の浮遊感と背に触れた熱が、私の意識を保たせた。


「――なんだ、ちゃんと言えたじゃないですか」


 閉じていた(まぶた)を開く。そこにいるはずのない、安心感を与えてくれる笑顔を浮かべた彼――アカツキさんが、私を横抱きにしていた。

 肩を支える手が、冷え切っていた心を溶かす。

 まとまらない思考で呆然と伸ばした右手が彼の胸に触れる。

 どくん、どくん、と。鼓動を繰り返す確かな命があった。徐々に、灰色の世界に色が戻る。


「……どうして、ここに……?」

「フレンに手を貸してもらって、こいつのおかげでここまで来れたんです」


 ランプを持った老人のカード。それは確かに、フレンの魔法によって生み出された物だ。

 カードをしまうと、アカツキさんは片手で私を抱えて立ち上がる。


「まさか認識阻害の結界を張っていたなんて思わなかったけど、城の廃墟の中を走り回ってどうにか地下への入り口を見つけて、階段を駆け下りたら……血塗れの先生がガルドに掴まれてるのが見えた。ちょうどその時、先生の声が聞こえた」

「私の、声……?」

「――助けて、って言っただろ? 前に約束したからさ。どんなことがあっても先生が助けを求めたら、必ず助けるって」


 言葉を失った。

 彼は覚えていたのだ。保健室で交わした、あの会話を。

 ……ああ。本当にあなたは、優しい人ですね。


「でも……」

「おおっと、自分のことで危険な目に合わせて申し訳ないとか、あんな手紙で立ち止まるような奴だと思ったならそれは見当違いですよ?」


 …………心、読んでませんか?


「俺はただ単純に、純粋に助けたかったからここに来たんだ。まあ、あまりにも人間離れした恰好のヤツが襲ってたから斬っちゃったけど……人を斬る感触には、慣れたくないな」

『この、ガキッ……オレの腕を、よくもやってくれたなぁ!!』


 鼓膜を突く、憎悪に染まった怒号。

 その主は両腕の肘から先を失い、身体の至る所から血飛沫を()き散らしていた。

 喉奥が締まる。あの惨状をアカツキさんが作り出したとは思えなかった。

 しかし欠損した断面や身体の傷から断続的に肉の潰れる音が鳴り、ずるりと気色の悪い色素の骨が、肉が、肌が再生する。

 ……本体と同様の再生能力を!?


「どんなびっくり人間だよ、それ。しかも言動もガルドっぽくないし、誰かに操られてるのか? ……一応、お前への逮捕状は出てるんだけど、応じる気はあるか?」

『人間如きがオレを御せると思ったら大間違いだ! 生意気そうな(つら)しやがって、そんな死にてぇなら望み通りてめぇから殺してやるよォ!!』

「話は分かるのに凶暴過ぎるだろ。悪いが死ぬのも殺されるのも、俺たちは望んでないよ」


 より一層、私を強く抱きしめて、アカツキさんは血の滴る剣先を向ける。

 (かな)うような相手ではないのに、立ち向かうつもりなのか。私という荷物を抱えたまま、その剣を振るうのですか。

 神話の武具でも魔法の剣でもない、ただの鉄の延べ棒。大いなる伝承と神性を持つ強大な相手に立ち向かうには心細い。

 なのに、目に見えない秘められた力をどこかに感じる。

 深い水の底に沈んだままの力。

 銀の瞳が捉える温かな可能性の光。

 起きるにはまだ早く、眠ったままだ。だけど、せめて今だけは……力を貸してあげてください。

 何もできない私の代わりに、彼を助けてあげて――。


「――《アルジズ=ギフ・ティール》」


 内に残る魔力を消費し、構えた剣にルーンを刻む。

 勝利の加護。眠った者の目覚め。魔術の支援としては対象者や物の潜在能力を引き出し、負荷を与える代償を無視し、さらに引き出した能力を高める等価交換を省略した術式。

 刻む過程で大量の魔力が奪われるのが欠点だが、その効果は絶大だ。

 術式の帯が剣を覆い、仄かな光を与える。驚いたアカツキさんが振るうたび、空間に剣の軌跡が舞う。


「お、おおっ? なんか光ってる!? かっこいい!」

「それが、私にできる精一杯です。本当なら私も戦うべきですが……」

「いやいや、無理は厳禁ですよ。治癒魔法で治しても、身体に蓄積した疲労は消えないです。……あと、これはあえて言いますけど。今の先生は、身体よりも心の傷のほうが深刻なように見えます」

「うっ……」


 図星なので反論できない。


「そんな顔しなくてもいいですって。確かに素直に言ってくれなかったことは怒ってますけど、そこはほら、自分の意志で判断するところだから強くは言いません!」


 フレンがどうするかは分からないけど、と困ったようにそっぽを向く。

 不意に見せる子供らしい一面に頬が緩む。

 英雄のような猛々しい姿でもなく、傷付けることも(いと)わない冷酷な意思で動いている訳でもない。

 彼は彼のまま、太陽のような温かさを持った人なのだ。

 それが羨ましくもあり、少し、嫉妬を覚えてしまう。


「でもまあ……俺も先生に伝えないといけないことが、謝らなきゃいけないことが山ほどある。先生だって、あんな手紙でさよならはしたくないでしょ? ああいうのはちゃんと言葉で伝えないと」


 だから、と。アカツキさんは真剣な表情で前を向く。


「ちょっとだけ、我慢しててください――必ず助けるから」


 …………そういうところ、ズルいです。





『ア、アア、アアアアアアアアアァ!!』


 潤んだ瞳を伏せる先生を尻目に、わなわなと肩を震わせる物体Xことガルドが叫んだ。


『クソ、クソッ! 寄生するしか能がねぇ連中は黙ってろォ! この肉体はオレのモンだ……ようやく手に入れた、オレだけの身体だァ! てめぇらの好きになんかさせるかッ!』

「どれだけ畜生みたいな性格のヤツの肉体だろうとガルドの物なんだから、寄生してるのはお前の方だろ」

『うるせぇ! 調子乗ってんじゃねぇぞ、クソ虫がァ!!』


 向かってくるガルド……で判断していいのか分からないほど肉体も中身も変質したモノ。

 その手には新たに生み出した有機的な外見の大剣が握られている。

 率直に言おう。キモイ。

 あんな物を使うくらいなら、まだ(なまくら)の自分の武器を使った方がマシだ。

 昔、ああいう感じの大剣を振り回す主人公のゲームがあったような気がするが……いや、思い出すのはやめよう。

 現実に戻った視界が上段から振り下ろされる大剣を見る。

 体勢を横へずらして避けて、引いた方の足で前傾姿勢になった顔面を蹴り抜く。


『ガッ!?』


 仰け反る身体。間髪入れず踏み込んで、魔術の支援を受けた長剣を振るう。

 右腕を捉えた一閃が、気味の悪い感触を伝わらせる。

 次いで、血を噴き出しながら落ちていくそれを視界に納めた。

 ……さっきは助走をつけて強引に斬り込んでようやく、といった感触だったのだが、支援を受けただけですんなり断ち切れるとは。

 驚愕を抱いたまま、返す刃を袈裟掛けに振るう。


『なめるなァ!』


 しかし寸前で防がれた。最初のダンジョンで戦ったバケモノのように、身体を這う樹木の鎧が斬撃を(はば)む。

 直後ににやけた顔で笑ったのが気に入らなかったので、鎧に食い込んだ長剣から手を放して、空いた手で胸倉を掴んで頭突きをお見舞いする。

 さすがに肉弾戦を仕掛けてくるのは予想外だったらしく、焦点が合っていない呆然とした横っ面、顎を狙って右フック。

 生き物ならどんなヤツでも顎は弱い……はず。

 効いているのか不安になったので、とりあえず脚を払って体勢を崩し、側頭部にダメ押しの水平踵蹴(かかとげ)り。

 剣の転がる音と乾いた破砕音が響き、見開かれた金の瞳が倒れ伏した。

 ……あれ? なんか弱くね?


『クソがァ……! この身体、強いんじゃねぇのかよ! 虫けら相手にするくらいなら楽勝なんだろ!? なんでてめぇなんかにボコられなきゃならねぇんだ!』

「もしかしてだけど……お前、その身体を奪ってからご飯とかちゃんと食ったか?」

『ああ? なんでクソ虫のクソマズいメシ喰わなきゃなんねぇんだよ!』


 その一言だけで察した。こいつ、まともに栄養を摂ってないからガルドの身体が弱くなってることに気づいていない。

 筋肉は衰えていて、骨も脆い。そうなれば当然、力なんて出せるわけがない。

 決闘の時より弱体化してるのも無理はないな、と納得して、全世界の料理人を敵に回すようなセリフをほざいた口を右ストレートで振り抜く。

 立ち上がりかけていたのにまたもんどり打って転がるガルドを横目に剣を拾う。

 ……刃が欠けたりはしてないな。でも、後で手入れはしっかりしておこう。


『……ふざけんな、ふざけんなよ』


 再生しかけの拳で何度も地面を叩き、血の涙を流しながら睨みつけてくるガルド。


『なんでてめぇなんかがオレを見下ろしてんだ。なんで惨めな思いをしなくちゃならねぇんだ。おかしいだろ、なあ?』

「毎日三食ちゃんと食べなかったお前が悪い。俺でさえ野草ぐらいは食べてるのに」

「そ、そういう問題ではないかと……」


 先生が苦笑を浮かべて呟く。

 うん、さっきよりも顔色が良くなってる。余裕も出てきたみたいだ。


『クソッタレ……てめぇさえ居なければ、居なければァアアアアアアアアッ!』


 まともに会話をする気も無いのか、狂ったように剣を振り回しながら突撃してくる――その足元に、無造作に仕掛けておいた臨界点寸前の爆薬トラップがカチリッ。

 なお、設置した爆薬はパイルハンマーに使用した物と同じだ。だが、内臓量が圧倒的に違う。

 肌を撫でる空気がざわつく。魔力強化で脚力を高め、一気に距離を取る。

 地面に着地した直後、視界を埋め尽くすほどの閃光が辺りを照らした。

 腹の底まで揺らす爆音と衝撃に耐え、爆煙を払って視界を確保する。

 哀れにもトラップを仕掛けた巨人の腕は崩れ落ち、焼け焦げた匂いが鼻を突いた。


『グッ、アァ……!』


 (うめ)き声が煙に混じっては消えていく。

 あれを受けてまだ生きているのか。

 しかも音の間隔を聞くに、徐々に再生速度が上がっている。おそらく爆薬の傷もすぐに再生してしまう。

 再生速度を超える速度の攻撃を与え続けるか、一撃で粉砕するほどの魔法を当てるか、はたまた再生する原因を止めない限り、アイツが致命傷を負うことはない。

 だが、少しだけ。


「先生。ガルドの身体ってどうなってるんですか? あと――あの状態から元に戻すことは、治すことはできますか?」

「……あれは邪神、シュブ・ニグラトを人の身体に降ろした末の成れの果てです。もはや人という範疇(はんちゅう)に収まらない力を手に入れた、異形の存在。あそこまで変容してしまっては、手の施しようがありません。例え魔術で治療したところで、寿命は縮み、消えることのない痛みが残りの人生を苦しめるだけ……もう、手遅れです」

「…………そうですか」


 悲痛な表情で語る答えは、舌に苦みを広がらせた。

 予想はしていた。人の限界を超えた力なんて、破滅しか生まない劇薬なのだから。

 緩んだ覚悟を引き締めろ。今から俺は、一人の命を奪うのだから。

 やがて巨人の心臓部へ辿り着いたガルド。取り込まれるように身を沈めると、巨人は慟哭のような叫びを上げる。

 叫びに呼応して、焼け落ちた腕が再生していく。

 ……厄介だな。


『手加減なんざしねぇ……! オレの手で直接(ひね)(つぶ)してやる!』


 金の瞳が怪しく光る。魔素(マナ)の収束が地面から岩石の棘を生み出した。

 巨人も棒立ちでいる訳ではない。その巨躯(きょく)()かして追い込むように暴れ回る。

 さすがに串刺しになるのも潰れたトマトになるのも勘弁願いたい。


「《コンセントレート》」


 本来なら魔法の威力を上昇させる強化スキルを魔力で強化した四肢に付与し、白い輪の光を浮かばせる。

 話は変わるが、魔法というものは魔力の消費量や、イメージした通りに魔法を発動できるか、詠唱で生成した円――魔法陣の数で威力が変化する。

 下級魔法から上級魔法まで。難易度が上がるほど詠唱時間が長くなるのも、過程を飛ばした結果をより良く得る為に事前準備が必要だからだ。

 時々、イメージするだけでとんでもない威力の魔法を放つ天才肌な人もいるが、参考にもならないので割愛するとして。

 そういった人以外のメイジやウィザードは詠唱に手間を掛けたくないので、初級魔法の威力を上昇させるためにこのスキルを多用する。

 ズバリ大雑把に何が言いたいのかと言うと、()()()()()()()()であれば問題なく効果が発揮されるのだ。

 魔力強化も例外ではない。

 そして何よりも素晴らしい利点として、アクセラレートよりも肉体的負荷が掛からない。

 連続使用してもさほど疲れないし、身体が(きし)むことはない。

 俺にとって武器を作ることと傷を癒すこと以外、無用の長物である血液魔法の魔力だけを消費するのでコストが低い。



 ……最高では?



 ぐっと力を入れる。四肢に溜まった魔力の輪が弾け――視界が揺らいだ。

 飛び出た棘を足場に迫りくる巨人の指の間を駆け抜ける。

 死と生の瀬戸際を行き来する恐怖は拭えない。

 それでも身体が動くなら、覚悟を抱いたなら、どこまでも進んでいける。


「っ……」


 動く度に先生の小さな悲鳴が聞こえるが、適当な場所に放置すると狙われかねないので我慢して貰いたい。

 出来ないとは言わないが、自分を的にし続けるというのは思った以上に集中力がいるのだ。

 激しさを増す破壊の嵐に息が上がり、頬に汗が垂れる。

 そして次の足場に視線を移した――その瞬間、足場が爆ぜた。

 飛び散る破片と共に身体が投げ出される。目の前に、剛腕が迫っていた。

 回避を……ダメだ、間に合わないっ!


「ッ!!」


 光輪が弾ける。衝突に合わせて力任せに剣を叩きつけ、強引に打点を逸らした。

 掠めた脇腹に熱を生じた痛みが広がる。じわりと水気を感じさせる不快感を抑え、支えを失った身体は背中から地面に落下した。

 先生を庇った激痛に呼吸が止まり、治りかけていた傷が開き、悲鳴を上げた。

 のたうち回るほどの気力も無くなってきたのか、意識が遠ざかっていく。

 …………ここで倒れるか? いや、ダメだろ。


「……げほっ、ごっ」


 込み上げる血を、弱音の代わりに吐き出す。胸を殴り、ショックを与えて肺の機能を取り戻す。

 無茶をしているのは百も承知だ。でも、ここで倒れるわけにはいかない。

 頭は回る、腕は動く、脚は支えてくれる。

 根付く痛みがなんだ。そんなものは気合いで耐えろ。

 痺れた感覚がなんだ。叩いてでも刺してでも呼び起せ。

 守らなきゃいけない人がいるんだ。意地を張ってでも立ち上がれ!


『――なんでだ。なんでそんなクソ女ごときの為に立ち上がれる? てめぇには関係のねぇ話だろ。なんだって身を砕いてまで首を突っ込んできた? そのままでいりゃあ凡百の無知な人間でいられたってのに』


 血反吐で濡れながらも立ち上がる俺に、シュブ・ニグラトはそんな問いを投げかけてくる。

 興味を持った、というのとは違う。

 人という矮小で脆い存在に対し、その問いかけには恐怖が混じっている。


『誰からも認められず、知られず、下手をすれば命を失う。強くもなければ弱くもない中途半端の凡人が、てめぇが渦巻く混沌に転がり込んできた。損も得もありはしねぇってのに、何のためだ? どうして……傷付いていながらも立ち上がれる?』

「……言うのは恥ずかしいから、黙秘……ああ、やっぱり言おう。言ってすっきりした方がいい」


 一息入れて、声を絞り出す。


「俺がこうして生きているのも、先生の為に身体を張るのも、今までそうやって助けられてきたからだ」

『──たった、それだけだと?』

「単純で拍子抜けしただろ? でも確かなんだ。ボロボロだし、弱音だって吐きたくなるし、逃げ出したくなる時もある。でも、誰かが手を差し伸べてくれるだけで、自分との苦しみを分かち合おうとする人がいるだけで、つらいのなんて一瞬の出来事に変わる。……俺はたくさんの人から、先生に助けられたから、ここにいる。どれだけ頭を下げても感謝しきれない恩があるんだ」


 懐かしいな。昔は自分の意見ばかり押し通して、周りの反感に押しつぶされそうだった。

 そのせいで小学校も中学校も高校も、時には死ぬんじゃないかっていうくらい酷い目に遭った。

 裏切られたことなんて山ほどある。子供の時の積み重ねが原因だから仕方が無いなんて思ってたけど、そいつらと同じだって言われるのは腹が立つ。

 だから変わりたかった。平凡で何も残せない、傍観者(ぼうかんしゃ)として見ているだけの人間にはなりたくなかった。


「特別な存在で終われるように時代遅れの剣術道場に通った。期待されてもいないのに、自分にしかできない何かがあると信じて、いろんな問題に首を突っ込んできた。事件に巻き込まれたことだってある。でもその度に周囲に迷惑を掛けて、誰かに助けられてた。……情けないよな。自信過剰なバカが粋がって、わざわざ死にかけてるんだから」

「アカツキさん……まさか、記憶が……」


 驚いた様子の先生を手で制し、先を進める。


「肉を切られて、骨を折られて、積み重ねた努力を拒絶されて、自分を大きく見せようと限界を超えようとして……何度も(くじ)けたし、後悔なんていくらでも残ってて、振り返ることは今でもあるけど――」


 絶対に。


「間違いだったとは思わない。俺の選んだ道を、築いてきた関係を、俺自身が否定する訳にはいかない。自分を嘘で塗り固めることもしたくないから、くだらない意地だと言われても立ち上がれる。それが、俺の答えだ」

『――ありえねぇ。そんな綺麗事みてぇなふざけた道理があってたまるか。そんな重荷を背負って生きるなんて、人間如きに出来るはずがねぇ!!』

「お前には理解出来ないだろうな。同時に、死を何とも思わず、人の道から外れ、外道に身を落としたお前を、俺は理解できそうにない」


 かろうじて動けるほどには回復した身体で先生に振り返る。

 ……なんで泣きそうなの? 俺、当たり前のことを言っただけだよね?

 少し驚いたが、膝をついて手を握る。


「でも、先生のことは理解できる。肉親を失い、居場所を奪われ、全てがまっさらな白紙に戻された。それでも絶望から目を逸らさず、(あらが)う道を選んだ。でも……その道の先に希望は無く、理想も無かった」


 定められた……いや、そうでなくてはならないと、数ある選択肢の中から選ばされたせいで、先生は苦しむことになった。

 自分の命と引き換えに全てを終わらせよう、と。

 きっと凡人には到底及ばないような場所に、彼女はいる。自分の感情を押し殺してまで、そこに至った。

 だけど。


「自分の覚悟に涙を流すのは、生きたいと思ってる証拠だ。エルフだろうと人間だろうと、死ぬのが怖いなんて当たり前なんだよ。自分を救うのは自分でしかできないけど――死が救いだなんて、悲しいだろ?」


 だからこそ。


「どうしたい? 助けることは俺にも出来るけど、それ以上を望むなら……怖がらないで、心の底にある本当の気持ちを聞かせてくれ」


 時が止まったような錯覚を覚える、長い沈黙。

 数秒か、数分か。葛藤に歪む瞳を見つめる。

 握りしめた手を離さないように、ぎゅっと。

 勇気が持てるように、優しく。





 そして。





「…………私は」





 ぽつり、と。静かに。





「……私は歩みを止めてしまった、思い出してしまった! 貴方との語らいが私の中に残って、捨てようとした命を繋ぎとめた。覚悟はすでに決まっていたのに、自分の身体が大事で仕方がなかった! ……最低な女なんです。結局、誰かの命より、自分の命のほうが大切だと思ってしまったのですから」





 溢れんばかりに涙を流し始め、心にあった本音を零れ落としていく。





「ただの女でありたかった。使命も背負わず、義務に縛られず、人並みの幸せを掴んで穏やかに過ごしていたかった! なのに許されるはずもなかったのです。平穏を守るためには、命を捨てなくてはいけなかった。魔術が世界にばら撒かれないように、私の存在ごと消し去らねばならなかった!」





 その姿は、教師でもなければ、使命や義務で作られた仮初(かりそ)めの仮面を付けた彼女でもなく。





「でも、わずかでも、死にたくないと思ってしまった。許されない罪を背負っても、生きていたい。だって、私はまだ一度も――自分の意志で歩んでなどいないのだから!」





 抑圧されてきた、ミィナ・シルフィリア個人の願い(わがまま)だった。

 孤独のままで流されてきた彼女の切実な思いに、ポケットにしまっていたカードが暖かくなった。

 まるで意思を持ったかのように明滅を繰り返すⅠと書かれたタロットカードは、俺と先生の間に浮かぶと、眩いばかりの光で辺りを照らし出した――。





信じられないだろ?

実はもうクライマックスなシーンなのに、これでまだ前編なんだぜ?

まだ中編と後編が残ってるんだぜ?

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