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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【六ノ章】取り戻した日常
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第一三九話 地を揺らす灰銀の巨人

ついに登場する六ノ章ラスボスの描写になります。

「状況再現……幻惑の異能って、そんなことまで出来んの? ただ単に相手へ幻覚を見せるだけじゃないのかい?」

「対象や範囲、何を見せるか、とか。レオやリブラスと違って直感的に使える異能じゃないから、戦闘ではタイミングを計らないといけないけどね」

『私の異能は理解を深めればそれなりに重宝する物でな。こと探索や調査という面においては、破格の性能だと自負している』


 召喚した緑の魔剣、ゴートは手元を離れて視線と同じ位置で浮遊する。

 心なしか明滅する速度が早く、興奮しているように見えた。


『君の所有物となってからは体の良い脳内相談相手でしかなく、歯痒い思いをしていた。レオはともかくリブラスにすら後れを取った身ではあるが、ようやく君達に貢献できる機会が回ってきたのだ。存分に力を振るうとしよう!』

「やっぱりそこら辺の順番みたいなの気にしてたんだ」

「ドレッドノート戦とか再開発区画の調整でも出番なかったもんな」


 一応、ズルいっちゃズルいよ? 他人に悟られず、脳内で状況を共有し合える相談役が三人もいるのは。実質、思考加速みたいなものだしね。

 今回は反則級の相手や非常時という訳ではないが、魔剣の中で唯一異能を使っていないからな。慣れておきたいし、そこまで影響が出ないであろう霊峰でなら力を発揮できる。


「んで、どうするんだい?」

『この場に置いて最も人の多かった時間帯、いわば過去の光景を読み取り、虚像として採掘現場全体に投射する。リブラスの異能が目に見えぬ迷宮の魔素に干渉したようにな。数年単位で期間が空いているならともかく数日程度なら、私もまた、この地が覚えている残滓に干渉できるのだよ』


 当初の想定では潜んでいる魔物が大勢に対し臆病で、少人数で来れば何かしらの反応があると考えていた。

 しかし実際には魔物側からのアクションが皆無な以上、相手の想定を上回る必要が出てきたのだ。

 ならば、自身が餌場としている場所に突如として実体を持たない人間達が姿を現したら、どうなるだろうか。

 嗅覚と触覚はともかく聴覚と視覚に明らかな異常が発生するのだ。

 幻影を察知した魔物の動揺を誘い、居場所を暴くという算段を、幻惑の異能を(もっ)てして実現させる。

 これがゴートと思考を共有した作戦だった。


「…………なるほど?」

「大丈夫? ちゃんと自分の中で理解できてる?」

「もちろん」


 呆然と口を開くセリスに不安を感じつつ、ゴートを右手で握り締める。

 異能の発動には適合者との接触が必要不可欠。加えて、今から実行する幻惑の異能は知識として知ってはいても初めて行使する。制御には、ゴートの協力が必須だ。


『霊峰中腹、採掘現場、座標固定、空間把握……過去の時間軸を検索。この地に、虚ろなるまやかしの劇場を開くとしよう』

「ノリノリだねぇ」


 異能の発動に伴い、掲げた短剣の明滅が一際強くなり、空間にノイズが走る。

 それは次第に波紋のように採掘現場へと伝播していき、過去のざわめきと人波が幻として再現されていく。

 怒号にも似た伝達の声、鉱床を砕くツルハシの金属音、撤去されたのであろう送風機材の駆動音、砂利を踏み鳴らす靴音。身体を通り抜けていく半透明な作業員にセリスは驚きの声を上げた。


 爆薬や霊薬の中に相手へ幻覚作用をもたらす物は存在するが、幻惑の異能は別格だ。特定の空間と時間を参照し、指定して現在に映し出しているのだから。

 生物に(もと)づく心理的恐怖を無差別に見せるのではなく、人が感知していながら未だ触れることの出来ない未知の概念に踏み込んでいた。

 やろうと思えば、相手のトラウマを把握し一番嫌なタイミングで視界に映すことだって可能だろう。もし自分でやられたらキレる自信がある。


 異能を使うほど、見るほどに魔剣の脅威を実感させられるな。

 そして、目の前に広がる異常事態をどこかで見ていた魔物も、俺とは違う不安を抱いたのだろう。

 無人の採掘現場に現れた、ありえないはずの過去の幻影。

 貼り付けられた空間の一画がわずかに揺れ、幻を透過する。それを見逃さなかった。


「セリス、魔法を!」

「っ、了解。“穿ち抜け”《アクア・バレット》!」


 魔剣の切っ先を向けて指示を出す。狙いは鉱床に擬態した地帯だ。

 御旗の槍斧を杖とした水の弾丸は硬化の術式が加わり、螺旋を伴い、次々と撃ち放たれる。弾道上の幻影を打ち消し、着弾した岩石を砕き、土ぼこりが巻き上がった。


「倒した、か?」

「いや、傷は浅いと思う」

『その心は?』


 異能を展開する必要が無くなり、次々と幻影が揺らめいては消えていく。

 見やりながら、背負っていたバックパックから複合弓と矢筒、トマホークを取り出し放り投げる。


「ミスリルを食用していたのは恐らく確定だとして、似通った食性を持つ魔物と同じなら……肉体は鉱物と同等の能力を保持しているはずだ」

「というと?」

『ミスリルの特徴と言えば高い魔力伝導率による魔力分散、つまりは魔法の効果が薄くなる。硬度は鋼よりも硬く、適合者の朱鉄(あかがね)の魔導剣と同等だろう』

「他にも乱雑に鉱物を喰ってんなら、相応に厄介な性質を持ってるって訳かい」


 俺と同様に戦闘で使う物だけを手に取って、セリスがバックパックを巻き込まれない位置に投げる。

 複合弓を背負い、矢筒を腰に装着して──脳裏に熱が生じた。

 咄嗟に視線を土ぼこりの方へ向ければ、黒い影が映っていた。大きい……目算で全長五メートルはある影だ。

 見間違いでなければ、()()。ゆらりと立ち上がろうとしていたそれは、途端に俊敏な動きを見せる。


「何か来る! 散開ッ!」

「マジかよ……!?」


 長年の勘が告げる危険信号に従い、セリスと分かれて左右に跳ぶ。

 直後、風を切って二メートルほどの岩石が着弾。爆散した衝撃と破片を制服で防ぎ、土ぼこりが晴れた地点を睨めば、ソイツはいた。


 陽光に煌めく灰色混じりの銀色は、間違いなく製錬されたミスリルの金属光沢。

 太い四肢や胴体の筋肉に沿って鎧の如く、動作を阻害しないように組まれている。体内で分解された鉱石が表皮に馴染んだのだろう。

 背中には周囲の環境に擬態しやすくする為の岩を背負っていたらしく、立ち上がった拍子に音を立てて転がり落ちていく。


 だが、何よりも目を惹くのは()()()()()()()()()()。作業員たちが感じた怖気の正体だ。

 鉱石を口内から覗かせたまま、歯茎を見せるほど不気味な笑みを浮かべ、忙しなく単眼を動かすソイツの名は……サイクロプス。

 巨人系統に分類される中でも最小レベルで小柄だが、サイクロプスの中であれほど大きな個体はユニークモンスター扱いとなる。

 しかし、一番の問題点はそこじゃない。


「おかしいな……鉱物を喰うサイクロプスなんて聞いたことないぞ」

「は? 鉱石が主食なんじゃないのかい?」

「違う。アイツらは普通に肉食で燃費が悪い上に食い意地も悪い。鉱物で食欲を満足させるような奴じゃない」


 本来とは異なる成長……進化を果たしたサイクロプス。

 ミスリルを筆頭に鉱物で肉体を強化し、昇華し、新たな存在へと適応。

 魔物が持つ飢餓や捕食衝動を自ら律した上で、自身を更なる高みへと至らしめた灰銀の巨人。


「……ユニークモンスターでありながらの変異種! “キュクロプス”か!」


 冒険者ギルドの規定に(のっと)れば、迷宮主を凌駕することもあるユニークの変異種ともなれば、推奨討伐ランクは()()()()()()()()()()

 そんな奴が目の前にいて、敵意を持ってこちらを視界に捉えた。

 口端から垂れた唾液を見るに、変異を遂げた最初のご馳走として俺達をマークしたらしい。


「野放しに出来るヤツじゃあなさそうだな! やるぞ、クロト!」

『私も情報支援として力を貸そう。並大抵の相手ではないからな』

「助かる! 二人とも、全力で行くぞ!」


 霊峰中腹に響き渡る巨人の咆哮を狼煙に、予期せぬ死闘が幕を上げた。

ただでさえ強いユニークモンスターの、しかも変異種であるキュクロプスです。

後の展開のためとはいえ、あらゆる要素を詰め込んだ難敵なので、また文字数が増えます。長くなりそうな予感がしたら分割します。


次回、硬すぎてキレるクロトとセリス、せせら笑うキュクロプスのお話です。

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