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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【六ノ章】取り戻した日常
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第一三八話 アカツキ荘が誇る問題児ども

色々行事が重なって投稿頻度が落ちてしまいました。

加えて今回は軽めの内容です。

 晴天の下、照らされた霊峰は木々よりも少しの緑や岩肌が目立つ。

 夏場だというのに冷気を感じる風とルーン文字の付与があるおかげで、気温に悩まされることはない。

 そして以前に来訪した時は肌を刺すような威圧感があったのに、今は無く、やはり迷宮主は未だ生まれていないようだ。

 周囲に異変が無いか目を光らせながら、頂上へと続く緩やかな砂利の山道を踏み締めて。

 俺とセリスは目的地に向けて歩いていた。


「今のところ、目立って強い魔物はいないねぇ」

「問題なく対応できるレベルの魔物だが、群れていたり岩陰に潜んでいたりするから警戒はしておいて」

「はいよ」


 御旗(みはた)槍斧(そうふ)を振りかざし、僅かに感じていた魔物の気配に向けて魔法を投射。

 微かな悲鳴と風に流された灰を見て絶命を確認し、再び歩き出す。かれこれ一時間は経ったか。

 入山する前にしっかりと空気環境に合わせて体内の血液循環を調整したので、気分が悪くなることはないだろうが……早めに休憩しておこうか。


「セリス。この先に休憩地点があるから、そこでお昼にしよう。調査に時間を掛けたいし」

「おっ、了解だぜ。少しでも腹に物を入れとかねぇと力もやる気も出ないもんな」


 村長から預かった霊峰の地図を畳み、足取りを軽くして突き進む。

 ああ、子ども四人を引率していた日が懐かしい……あの時よりも成長していると実感できる。


 ◆◇◆◇◆


「まあ、お昼ご飯といっても携帯食料と即席麺の適当煮込みだけど。道すがら倒した魔物の肉が食べれたらよかったのに」

「水魔法で押し流しちまって跡形も無かったからな……」


 麓村の全景を見ることが出来る休憩地点に辿り着いた俺達は。

 火属性の魔力結晶(マナ・クリスタ)を活用した携帯魔道コンロで鍋を沸かし、作った煮込みを木の器に盛りつけていた。


「唯一残ってた物も毒腺持ってる魔物肉で食えたもんじゃなかったしなぁ」

「中間試験から頑張り続けて、ようやく鑑定スキルを習得したって泣いて喜んでたのにね」

「これで毒物に悩まされることはないと思ったんだ……なのに、よりにもよって初めて鑑定したのが神経麻痺の毒。迂闊に触ったせいで、アタシは……!」

「んぶふっ」


 休憩地点を目前に鑑定スキルを試したいと言って魔物素材に触れた結果。

 即効性の毒かつ皮膚浸透によって、直立不動のまま倒れ伏すことになったセリスの後悔に顔を伏せる。

 不謹慎という考えがよぎっても、傍目から見ていて爆笑しかけたが……今でも思い出して笑いそうになるのをこらえている。

 不審に思われないよう平静を装いながら、適当煮込みをすする。


「うーん、マズくなければいいとはいえちょっとしょっぱいかな」

「冒険してると汗をかくし、水分も塩分も重要だが……乾パンで誤魔化してみるか?」

『ふやかせば良いアクセントになるのではないか?』

「なら、そうする…………んぁ?」


 バックパックの中から乾パンを取り出し、器に投入するセリスの手が第三者の声で止まった。


「あれ、ゴートじゃん。いつこっちに出てきたの?」

『昼食の準備を始めた頃に。数日ぶりだが、そちらの状況は逐一確認していた。今、何をしているのかも把握済みだ』

「ほーん。ってか、リブラスの記憶を整理してるんじゃなかったか? 終わったのかい?」

『そちらはレオに任せてきた。というのも、どうにもリブラスが不安を抱いていてな。整理に集中し過ぎて適合者をおざなりにしていたら、愛想を尽かされるのではないか、と』

「別に気にしないけどな」

『君がそう考えていても、リブラスにとっては重要な部分だ。ただでさえ、交流を交わした直後に数日間も空けてしまっているのだからな。記憶の整理には変わらずレオが付き合うことになり、私が君の下へ派遣される流れとなった。……して、現在は霊峰に発生した異変について調査中だったな。進展は?』

「まだないねぇ」

「現場がここから少し離れてるからねぇ」


 しれっと会話に混ざってきたゴートを含めた昼食は進み──乾パンを入れる判断は正解だった。美味しい──食べ終えて、手早く片付けて。

 再び目的地を目指して歩き出すと、徐々に人の痕跡が見受けられるようになってきた。

 砂地の地面についた靴跡は、恐らく採掘作業員たちのものだろう。荷車を引いて作られた(わだち)も確認できた。


「村長の言う通りなら、今日は採掘作業を中止してたんだっけな?」

「作業員どころか冒険者の立ち入りも禁止しているから、俺達以外に人はいないよ。人的被害に関しては考えなくていいわけだ」

「元々採掘関係で荒れてる訳だし、どれだけ暴れても問題ない……気楽で助かるねぇ」

『今後の活動に支障を来たすため致し方ないとはいえ、アカツキ荘の中でも悪知恵の働く二人が野放しになったか……どうなるか分からんな』


 何やら失礼なことを(のたま)うゴートにツッコミを入れる間もなく、件の採掘現場に到着。

 なだらかで、すり鉢状の地形だ。緑は無く、傾斜に沿ったスロープと露天掘りされた横穴がいくつも存在していた。

 露出した岩肌にも金属光沢の鈍い輝きが秘められており、まだ手の付けられていない鉱床には、白金にも似た高純度のミスリル鉱石が顔を覗かせている。


 霊峰が誇る迷宮資源の一部、鉱物関係を網羅しているのではと錯覚するほど潤沢だ。鍛冶師としての心に火を灯す環境に、浮足立つ気持ちを抑えて現場に入る。

 夏の日照りはそのままに、頬を撫でる風は相変わらず冷えていた。だというのに足を踏み入れた途端、周囲の空気が変わったように思える。

 視線は感じない。だが、確実に何かが潜んでいる。


「いるっちゃいるのは分かる、が……姿を見せないね。警戒してんのかい?」

「人がいないのを良いことに鉱物を漁りまくって満足した可能性もある。だが、いくら鉱物を喰っているとしても、あくまで別腹みたいなものだからな。魔物の捕食衝動は抑えられるものじゃない」

『どこぞに魔物の亡骸でも残っていれば、その付近を調査すれば位置は特定できるだろうが……』

「山の風は強いって本で読んだが霊峰も例に(たが)わず強いからな、灰は残ってないだろ。こんだけ岩が転がってると、素材が落ちてても探すのは一苦労だぜ」


 セリスは御旗(みはた)槍斧(そうふ)を構えながら、周囲を目敏(めざと)く観察する。

 作業員の安全を考慮してある程度は道を整備しているようだが、環境が激しく変動する迷宮では焼け石に水だ。動線は確保されていても荒れていることに変わりはない。


「手当たり次第に水魔法バラ撒いてみるか? 何かしらの反応はあるだろ」

「うーん……鉱物に手を出してみるのが安定策だとは思うけど、状況再現した方が確実に位置を特定できるかな」

『状況再現? 君達二人だけで大人数の作業員を再現するつもりか?』

「いや? せっかくゴートがいるんだから、協力してもらおうかなって」

『協力……ああ、そういうことか。なるほど、確かに私の得意分野だ』

「なんだいなんだい? 二人だけで納得してないで教えとくれよ」


 思考の共有が出来る俺達にのけ者にされたと感じたのか。

 セリスが口を尖らせて詰め寄ってきたのを両手で止める。


「ここ最近、レオやリブラスにばかり活躍してもらっていたからね。ちょうど周りに誰もいない今だからこそ、使い時ってやつなのさ。ゴートが持つ、幻惑の異能をね」


 緑色に淡く明滅する短剣を手元に召喚して、これから行う作業について説明するのだった。

アカツキ荘のストッパーがいないクロト達がどう行動するか、というお話でした。


次回、新参者であるリブラスに出番を取られたゴートの名誉挽回。

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