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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【二ノ章】人助けは趣味である
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第二十話 消せない罪、追憶に隠れた願い

やっっっとここまできたぁ……。

後は突っ走るだけだぁああああ!

 大昔の話。

 溢れんばかりの豊かな緑が煌びやかに輝く森の中に、ハイエルフの城はありました。

 外界との接触を可能な限り避ける為の巨大結界を張り、エルフとハイエルフは身分を分けて。

 里に住むエルフは少ない領地で家畜や穀物を育て、城に住むハイエルフは城内にて魔術の研究を行い、慎ましくも穏やかな生活を送っていました。


 ――接触を避けていた、というのは?


 ご存知の通りだとは思いますが、エルフという種族は独自の知識と技術を保有していた為、そこを付け狙う他領地の刺客などから身を隠す必要がありました。

 男性、女性共に美しい容姿を持っている事からも外界の王族、貴族は奴隷として所持しようと、外界へ狩りへ出ていった者達を捕らえようと策を企てる者も居たのです。


 そこで私達は当時の技術で展開可能な結界を張り、その中に国を作り民が外界へ出ないよう手を尽くしました。

 ですが、この二つの理由は重要ではありません。

 根本の最も大きな理由は――魔術の情報、知識、技術を隠匿し、その流出を阻止する為です。


 ――魔術については図書館で調べて、ある程度は理解しています。ルーン文字を意図的に並び替え、七属性の概念を超えた未知の叡智へ至る物だと。


 よくご存じですね。そう、当時判明していた属性の魔素を扱うだけに(とど)まらない魔術は、興味深い研究対象として様々な研究者の間で調べ尽くされていきました。

 そして多彩な知恵を持つ研究者の間でも、魔術は危険な技術であるという議題が浮上し始めたのです。

 かく言う私も、膨大な魔力と属性を操る素質に長けていたことから日頃の魔術研究に参加しておりましたので、研究者たちの意見を過剰な妄想だと片付けられなかった。


 研究を続けることに危機感を抱き始めた彼らの意見を持って、王である父にこれ以上の魔術研究は控えるべきと進言したこともありました。

 それでも、当時は貴族間での派閥争いも多く、下手な意見を言い出せばそれを逆手に取られ王位を剥奪(はくだつ)される恐れがあったことから、父は私の話に耳を傾けなかったのです。

 それは王である立場も関係していたのでしょう。王とは時に冷酷で厳しく、時に安寧と秩序を民にもたらす存在。

 すでに生活の基盤として多用されていく技術の研究の停止。つまりそれは種の繁栄、その地の文明の発展を妨げる行為になりかねない。

 当時の父の対応に、その時は仕方のないことだと納得していました。ですが、ある日――平穏は崩れ落ちたのです。





 その日は私の誕生日を祝う宴が開かれていました。

 民も貴族も王族も、互いがこれまでの繁栄を称賛し、これからの未来を担う王女の健やかな成長に期待を願う、温かで、幸せな催しでした。

 普段は王として威厳を保つ父も相貌を崩し、共に家族の時間を過ごして。

 これからもこのような日々を送っていけたらいいと、心の底からそう思っていました――空を覆い尽くす黒雲が現れるまでは。


 始まりは魔力が高まる違和感から。そして黒雲は瞬く間に城と城下を呑み込み、まるで生きているかのように渦を巻きながら襲い掛かってきたのです。

 腐敗した血肉と樹木のような木目を持ったバケモノによって、開墾した地は(えぐ)られ、貯水していた池は飲まれ、逃げ遅れた民は(むさぼ)られ、迎撃に当たった兵や魔術師、保身に走った貴族は無残に喰われた。

 突如として破壊と殺戮(さつりく)を伴った蹂躙(じゅうりん)()(すべ)もなく、両親に手を引かれて逃げて、逃げて、逃げて。

 最後に逃げ込んだ玉座で、私は――。





「――災厄を引き起こした元凶と対峙し、術者ごと、その魔術を仮面に封印しました。そして同じような過ちを繰り返さないように、この眼に()()()()()()()()()()()()()()()()を詰め込み、隠蔽(いんぺい)しました。以来、自分の過ちと後悔に苛まれながら数百年の時を生きて、今に至るのです」

「元凶って、もしかして先生と一緒に研究していた人……ですか?」

「鋭いですね。ええ、彼は私の下で研究を行っていた方で、人望にも才能にも恵まれた人物でした。しかしその反面、心のどこかに危うさを宿していたのでしょう。彼の魔術に対する執着は相当なもので、日ごとに根を詰め過ぎてはいけないと忠告しました。ですが気丈にも、彼は笑みを浮かべて心配はいらないと言い張り……最後に言葉を交わした際は笑みすら浮かべず、血走った目を虚空に向けたままでした」

「……王様と王妃様は?」

「置換の術式を組む最中に私を庇い、最初に母が、完成する直前で父が喰われました。――おかしい話ですよね。最期に触れた温もりはあっさりと冷めてしまったのに、記憶はあの光景を覚えているなんて……」


 震える身体を抱き、込み上げる胸の痛みに歯を噛み締める。

 降りだした雨が四阿(あずまや)に響く。暗がりを淡く照らす結晶灯が、光を生み出しては闇に溶けていく。

 すっかり暗くなった公園のベンチに、私とアカツキさんは肩を並べて座っていた。お互いに落ち着いて話す場所が欲しかったのだ。

 先ほど、同様にガルド教諭を追っていた彼の言葉に私は少なからず危機感を抱いた。

 おそらく彼がフレンに頼まれたというのは、連続して発生している猟奇事件についてだ。

 自警団ですら手を焼いている事件の解決を一人の、しかも記憶喪失の若者に任せるなど、どういう意図があったのか理解できない。

 彼女とは長い付き合いで時折そういった言動を取るのも知っている。その時に限って“私の勘がこうするべきだ、って星が(ささや)いているのよ!”と自信満々に答えるのだけれど……うん、フレンの魔法なら十分にありえる話だ。

 しかし今回の件については気軽に他者の介入を容認する訳にはいかない。

 もしあの災厄が復活して彼が巻き込まれてしまったら、また私のせいで誰かが死んでしまったらと思うと……恐怖で身体が(すく)んでしまう。


「お父さんが亡くなられた光景を思い出してしまうから、男性に触れられるのが苦手……というより、トラウマになっているんですね」

「恥ずかしながら、不意に身体が当たっただけでも力が抜けてしまうのです。吐き気や頭痛までも襲ってきて……どれだけ時間が経っても、これだけはどうにもならなくて」


 ダメだ。無二の親友であるフレンにも、こうして私の昔話に耳を傾けてくれるアカツキさんも、誰にも頼れない。

 怯えて(うずくま)って、立ち上がることすらできなかった私に手を差し伸べてくれた彼女は。

 つい一か月前に出会ったというのに、触れても身体が拒絶することもされることも無かった彼は。

 いつしか私の中で、家族の記憶と共に大きな心の支えとなっていたのだから。



 ――決して失うわけにはいかない。

 あれほど惨めで残酷で、つらい現実を二度と引き起こしてたまるものか。

 民も家族も、自らの居場所さえ失ってしまった私が出来る最大限を持って、全てを終わらせる。




「…………先生」


 不意に固く握りしめた手が温かくなった。それがアカツキさんの手による熱だと知ったのは、心配そうに覗き見てくる彼の目と視線が合ったから。


「俺は先生みたいに長く生きたわけじゃないから、どれだけ苦労したのか、悲しみや苦しみを、出会いと別れを積み重ねてきたのかなんてわかりません」

「それは当然でしょう、アカツキさんと私では種族的な寿命に差がありますから。時が巡るたびに共に過ごしてきた友は老いていき、死に行く様を何度看取(みと)ったことか」

「けど、覚えてるんですよね、そういうの。思い出っていうのは、どんなに楽しい物でも嫌な物でも必ず記憶に残ります。でも無数にある記憶の引き出しから特定の思い出を取り出すのに時間が掛かって、モヤモヤした気分になるってこと、ありませんか?」


 確かに。この眼で見てきた鮮烈な光景は今でも記憶に焼き付いているはずなのに、忘れてはいけない()()を思い出せないことがある。


「無言は肯定と受け取ります。その上で、思い出せない記憶の中に自分を誇れるよう大切な何か、もしくは違和感を持ったことがありませんでしたか?」

「自分を、誇れる……」

「滅茶苦茶なことを言ってる自覚はあるんですけど、どうしても聞いておきたいんです。答えられますか?」


 彼の問い掛けが頭の中で反芻する。言葉に刺激され軽い頭痛が走り、一瞬だけぼやけた何かが見えた。

 ただ、それがいつの記憶なのかを判断するまでには至れない。

 大切なはずなのに、届かない。

 濁った銀瞳には、何も映らない。


「……ごめんなさい、少しだけしか」

「なら、思い出せるようにしてください。俺も辛い時とかいくつもあったんですけど、そうなるといつも決まって思い出すものがあるんです」

「アカツキさんにも、ですか?」


 教師と生徒の関係なのに、いつもと立場が逆転しているような気がする。

 けれど、この一ヶ月。特待生として多忙な毎日を送っていた彼が何を思うのか、興味が沸いた。


「単純でありきたりですけど、俺が思い出してるのは――今まで出会ってきた皆の笑顔です」


 しかめっ面で厳しいけど時々優しい人。

 本が大好きだけどいつも眠そうな人。

 みんなそれぞれが浮かべる笑顔の形があって、その人の個性になっている。


「真っ白な記憶に色を塗る、大切な物。自分の居場所になってくれる存在が、この場所にはたくさんあります」

「笑顔……自分の、居場所……」

「言葉にするのは恥ずかしいんですけどね。でも、俺には帰る故郷が無い。けれど先生に助けられて、ニルヴァーナに来て、これまでいろいろな人と出会って……学園が、あの家が、皆との時間が俺にとっての故郷になってる──それって凄く、幸せなことなんだ」


 だから。


「先生にだって心の底に隠れている大切な記憶があるはずなんです。自分の現在()を作ってくれた、後悔に溺れてしまった輝かしい過去(記憶)を。それに気づいた時、先生はきっと――本当の意味で前を向いて歩くことができる」


 不思議な人。口にする言葉には力があり、まるですべてを見抜いているような、そんな錯覚さえ得てしまう。

 彼に自覚が有ろうと無かろうと、それでも彼の気遣う優しさには素直に好感が持てる。

 ……前を向いて歩く。決して難しいことではない。

 だが、私はあの日から一度でも前を向いて歩いたことがあっただろうか。

 この瞳に映った終わりの光景に囚われて、後悔に振り返って、立ち止まって、押しつぶされて、(くじ)けて。

 復讐なんて真っ当な思いは無く、ただただ今の私を終わらせたいだけ。

 罪から目を背けようとした弱者に、果たしてその資格があるのか。

 あるわけがない。私は、私が許せないのだから。

 身体の内に流れる莫大な魔力は魔術を封印した際に背負った負の代償。

 魔術が起こす多くの可能性を内包した瞳の存在は、世界のバランスを軽々と変えてしまう劇薬。

 これがある限り、私はいつまでも私のままだ。

 そう、理解している。納得もしている。自分が()すべきことへの覚悟も決まっていた。

 だけど。


「――って、すみません。なんか勝手なことばかり言って」

「いえ、気にしないでください。ガルド教諭について私も心のどこかで焦っていたようです。あなたのおかげで、少し頭が冷えました。ありがとうございます」


 こんなにも、胸が締め付けられるような気持ちになるのはなぜだろう――。





「こんな時間まで長話に付き合わせてしまいましたね」

「す、すみません。俺も余計なこと言いまくったせいで、先生の時間を取っちゃって申し訳ないです」

「余計なことだなんて言わないでください、私も気持ちの整理がしたかったところでしたから」

「そ、そうですか? ならよかったです。……あっ、俺、こっちの方に家があるんで」

「私は向こうの通りなので、ここでお別れですね。ではまた明日、学園で会いましょう」

「はい! また明日からよろしくお願いします!」


 学園から伸びる大通りの分かれ道でミィナ先生と別れる。

 激しく降っていた雨は上がり、鼠色に濡れた道を走って家に向かう。

 だが次第に足が重くなっていき、ついにはその場で膝をつく。

 溜まっていた疲労を無視したツケが今頃になって回ってきたわけではない。肉体的な話ではなく、精神的な話だ。


「……想像以上に重かったぁ……」


 単純にしんどい。聞いていて自分の顔が死んでいくのがよく分かった。抱えている闇が深すぎる。

 目の前で肉親を殺されるなんてとんでもない苦痛を感じてるのに、尚も前を向こうとしてるのは先生の心の強さがあってこそだろう。

 ただ、前を向いた先に自分を入れていないのは受け入れられない。会話の最中も虚空を仰いでいたあの目は、死のうとしてる人の目だった。

 自分の()した偉業を見ずに死ぬのは世界の偉人達だけで充分だ。もしそうでなくても、先生が物言わぬ紙面となり薄れゆく過去の存在になるのは、許せない。


「――何ができる」


 もはやフレンの依頼だから仕方なく、なんて楽観的な思考は無い。

 胸に(くすぶ)る謎の使命感も、そうしなければならない義務感も。誰かの為に身を粉にする正義感もない……というか、そんなもの知ったことか。

 目の前で深い悲しみに暮れる人がいた。そんな顔よりも似合うものがある。助ける理由なんて、それだけでいい。

 俺はこの身体(からだ)を、俺自身の為に使うだけだ。

 考えろ。それとなく説得はしたが、先生の意思は変えられなかった。さすがに今から黒雲の原因である犯人の元へ向かうことはないはずだが、すぐに行動を起こす可能性は捨てられない。だからといって、強引に引き止めることも出来ない。

 そして何より、この話で重要となる人物は間違いなくガルドだろう。あれだけ異質な存在感を醸し出しておいて無関係なわけがない。

 ここ最近の事件やダンジョンに現れたバケモノの外見が先生の話に出てきた黒雲のバケモノと類似していて、ガルドの状態も研究者と似ているように思えたからだ。

 ……これまでの事態を全て偶然の一言で済ませるのは難しい。


「ひとまず、フレンに報告したほうがいいか……」


 呟いた独り言が静まる住宅街に響く。

 とにかく、本格的に動き出すのは明日からだ。今日は休んで、何があってもいいように体力を温存させておかないと。

 医者にも安静にするように言われたし。あっ、栄養もしっかり取るようにって言ってたっけ?


「……家に食料残ってたかな」


 とりあえず野草でも煮て食べようか。











 そして、翌日。

 妙な胸騒ぎと共に目が覚めて、窓から見える空を覆う曇天にため息がこぼれた。

 登校するにはまだ早いが、すっかり目が覚めてしまったので人気の無い通学路を通り、無人の教室で静かに二度寝しようとして。


「……?」


 自分の机に向かう途中、教卓に置かれた封筒が目に入った。

 俺以外は来ていないはずなのに、どうしてこんな物が置いてあるのか。……まさかラブレターとか?

 だったら下駄箱とかに置けばいいのに、なんて思いながら手に取り、誰に宛てられた物か確認する。

 しかし個人の名前はどこにもなかった。代わりに、俺の所属しているクラスである『二年七組へ』と書かれている。

 疑問が浮かぶ前に、背筋を伝う冷たい感触が身体を震わせた。急いで封を切り、中身を取り出す。

 ――中に入っていたのは、少しだけしわくちゃになっていて、所々が点々と黒く(にじ)んでいる一枚の紙だった。


「手紙……」


 目を通すと、そこには七組の各生徒に向けた改善点や良い点が記されていた。



 エリックはモンスターに関しては勤勉だが、そのせいでマニュアル通りの動きしかできていないので柔軟に動けるようにとか。



 カグヤは真面目で誰に対しても思いやりがあるが、自分のことを後回しにしておろそかになりやすいとか。



 俺の部分は誰よりも長く、どちらかというと改善点の方が多かった。

 廊下を寝ながら歩かないように。

 リーク先生と一緒に他の先生を(いじ)らないように。

 校庭に穴を開けるようなことをしないように。

 勝手に学園の備品を持ち出さないように。

 長々と、真面目な先生らしいと思いながら、一枚にまとめるには窮屈すぎるのではないかというほど敷き詰められた、その最後に。









『記憶喪失というつらい状態なのに、常に周りの人を助けていましたね。職員の間でも、貴方の話題が尽きることはありませんでした』



『困っている人がいたら見捨てておけない。そんな優しい貴方を、私は素晴らしいと思います』



『生徒だけでなく、教師の悩みだって解決してみせる貴方の心強さは私の心に風を吹かせてくれました』



『もしも、ただ一言、この言葉が素直に言えたら、貴方は――いえ、なんでもありません』



『このように書面でしか感謝を語れない私を許してください』



『私のことを心配して、話を聞いてくれて、ありがとうございました――さようなら』









 ――瞬間。俺は手紙を破った。

 彼女の純真さを(もてあそ)び嘘を貫いてしまった罪悪感と、周囲に奇異の目線で見られることを恐れ、真実を告げられなかった情けない自分への怒りが沸々と湧き上がる。

 爪が食い込み、握りしめた右手から血が流れる。心臓が二つに増えたと錯覚するほどに、熱い脈動を感じる。


「……二度寝なんて、してる場合じゃないな」


 破った手紙をポケットに突っ込み、教室を出る。


「待ちなさい」


 直後に背後から声を掛けられる。振り返ると、そこには壁に背を預けたフレンがいた。


「行く気なの?」

「ああ。……もう何もかも知ってるんだろ、フレンも」

「もちろん。執務机の上にシルフィからの手紙が置いてあったわ。中身を確認したら最近の事件の詳細と関係する資料のまとめ、それに退職届まで入ってたわよ」


 呆れたような声音で首を振り、一言。


「――私を甘く見過ぎね。さすがに一発、ガツンと言ってやらなきゃ気が済まないわ」

「分かってる。俺も言わなきゃいけないことが山ほどあるんだ。取り戻してくるよ」

「……はあ。本当は止めるべきなんだけど、そんなまっすぐ言われたら止めるわけにはいかないわね」


 観念したように俯き、ぐっと顔を上げると用紙と赤い腕章を差し出してきた。


「ようやく自警団も重い腰を上げて直接的な捜査に乗り出してきてね? これ、ガルドの逮捕令状。それと、こっちは自警団としての資格を持たない人でも、臨時的に特務団員としての権限を与える腕章よ。本当なら二つとも自警団長以外が所有してはいけないのだけど、あなたに必要かと思って無理を言って借りてきたの」

「大丈夫なのか? 何か後でツケが回ってきたりとか……」

「安心しなさい、せいぜい私の残業時間が長引くぐらいよ。親友の命と比べたら軽いわ。でも、これであなたは自由に動くことができる」


 フレンは令状を仕舞うと、腕章を俺の右腕に巻き付ける。


「そういえば、シルフィがどこに行ったか分かってるの?」

「……あっ」


 そうか、こんな風に息巻いてるけど先生がどこに向かったのか分からない。

 無闇に歩き回って時間を無駄に浪費しては、手遅れになる。

 調査していた過程から推測して、おおよその見当はついているが範囲が広い。


「そんな事だろうと思ったわ。――手を貸してあげる。私はニルヴァーナを離れられないけど、支援するくらいなら造作もないわ」


 どうしようかと悩んでいると、フレンは得意げに笑みを浮かべ、右手を振るった。

 するとそこに、光の粒子と共に二枚のタロットカードが現れる。

 一枚はローブを纏った男が空の光に向けて杖を掲げており、頂点の枠組みにⅠと書かれたもの。

 もう一枚は山の上から辺りをランプで照らし、杖を支えにして(たたず)む老人が描かれたもので、頂点にⅨの数字が書かれている。


「どんな困難なものであろうと、貴方の思いに応える魔法よ。これでシルフィまでの道を案内してあげる。だから……」


 タロットカードを手に持たされて、向き合った緋色の瞳に。





「――自分を信じて、進みなさい」





 その言葉に背中を押されて、俺は頷いて答える。

 握りしめたカードから放たれる光に導かれ、走り出した。

 黒雲を見上げ、不安がる通行人の間を(くぐ)り抜けて。

 通学路を歩く同級生に不審な目で見られながら。

 ニルヴァーナと外界を隔てる巨大な扉を開く。









 目指すは過去にエルフの王国が築かれていた座標。



 先生と初めて出会った、聖樹の森に存在する城跡地だ――。






無理矢理な感じが否めない……日々精進、精進せねば。

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