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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【六ノ章】取り戻した日常
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第一三四話 虹の軌跡、結びの縁《後編》

お待たせしました。

ようやく護衛依頼の内容が判明する回になります。

「まず《ウィッチクラフト》に関してですが、別名“魔女の気まぐれ”とも呼ばれるスキルです。鍛冶や錬金術などで作成した品が、クセのある強力な性能を持つ物へ変貌しやすい効果がありますね」

「クセのある……」

「強力な性能……」

「お二人も心当たりがあるように、クロトさんが偶に披露するトンチキ武装が原因なのでしょうか?」

「可能性としては十二分にありえます。スキルが発現する前から常軌を逸した武具の数々を生み出していましたので、《ウィッチクラフト》の素養は元々備わっていたのでしょう」

「俺の創作物をしれっとトンチキ扱いしてる事実が判明して悲しいのですが……」


 危機的状況を覆す最強の武器として設計し、作り出しているのに。

 実際にしっかりと効果を発揮していてもそんな風に思われてしまうなんて……それで自傷し過ぎだからって? そんなこと言われたら反論できないから黙ります。


「爆薬やポーション、装身具についても同様の効果をもたらすそうですよ。現に、クロトさんからポーションを貰ったと嬉しそうにしていた学園長は業務中、異様なほどにずっと元気なままでした」

「ああ、そういえば“命の前借り”を飲ませたんだった」

「なんだそのヤバそうな名前のモノ」

「ただの栄養剤だよ。一時間ぶっ続けで走っても息切れを起こさない優れモノだけど、元から元気が有り余ってる人に飲ませたことがない。だからそんなに効果が持続するとは思わなかったが……《ウィッチクラフト》の影響かぁ」

「強引に飲まされたアタシがなんともないのは、昨日から徹夜で勉強してた分の疲れに適用したからかね? 確かに疲労感は無くなったしな」

「実感してる方もいるように、作成物の性能を向上させるので有用ではありますよ。ただ、確実ではなく偶に発動するという、自分の意思で制御可能なスキルではないので……作り手の間では嫌われているのです」


 申し訳なさそうに言うシルフィ先生だが、納得できる部分もある。

 自分が思い描いていた物を目指して作っていたのに、いざ完成してみたら全然効果が違う物だったら?

 そうとは知らず誰かの手に渡り、予期せず多くの人を傷つける結果となったら? ……きっと、己の未熟を恨むか《ウィッチクラフト》を敬遠し、作り手としての人生に幕を下ろすだろう。


「でも、何を使うにしてもまず自分で性能を試すし、確認するからなぁ。ギャンブル性が高いところで気に掛けるほどでもないか」

「対策しようがねぇなら、悪い効果ばかりに目ぇ付けてもどうしようもねぇしな」

「そうですね、クロトさんなら問題なく使えるスキルだと思います。後は……《ジャイアントキリング》は《大物殺し》の上位派生ですし、その他のスキルも普遍的な肉体補助の一部ですから問題ないですね」

「《無窮練武》とか大仰な名前だが? これが一般的なのかい?」

「戦闘系上位クラスに至った冒険者に発生するものだったかと。身体の各部位を補強し、武を追求する思想の具現化とも称されます。下位クラスでありながら体得しているのは、一重(ひとえ)にクロトさんの(つちか)ってきた技術と努力が故に、ということでしょうね」

「しかし、最も気になるものと言えば……このユニークスキルでしょう」


 先生を交えて賑やかな時間が流れる中、彼女はふと目を細めてから。

 文字化けの酷いメモ用紙を掲げ、指を一本立てる。


「以前拝見した時から思案していて、あくまで私の仮説になりますが……《万■ノ結者(これ)》は恐らくクロトさんだけでなく私達にも関係しているスキルだと思われます」

「なんとなくそうっぽいとは感じてましたけど、マジですか?」

「はい。理由はいろいろとありますが、決定的なのは私のデバイスにも同じ文字化けのスキルが並んでいたことです」

『えっ』


 エリック達や先生の特徴に似てる文言だったから推測は立てていたが、同じスキルが発現していた……?

 その場に居る全員の視線を集め、意にも介さず。先生はおもむろに自身のデバイスを取り出し、誰の目にも見えるようにテーブルへ置いた。

 俺と同じくらい多彩で、名称から魔法関連のスキルが連なる中で異彩を放つ──《七魔(しちま)ノ■》。

 一字も違わず、確かに同じスキルがデバイスに載っていた。


護焔(ごえん)聖癒(せいい)舞姫(まいひめ)。端的に、ではありますが皆さんの特徴と一致している以上、デバイスに変化が現れているはずです。確認してみましたか?」

「えぇ? そりゃ頻繁(ひんぱん)に見てる訳じゃねぇけど、そんなスキルあったっけ……あっ、あるわ」

「俺もだ。タンク役としてほぼ完成してるスキル構成だし、成長確認なんて全然してなかったぜ……」

「私にもありました。ですが、クロトさんのユニークスキルがどうして適用されているのでしょう……?」


 謎だらけのスキルに新たなる謎が生えてきた。そりゃ皆も困惑するわ。


「冒険者ギルドの文献を参照して類似したスキルを調べてみましたが、近い物で言えば《コマンダー》というクラスに“指揮下に置いた人員の能力を強化する”スキルがありました。ですがクロトさんのは不特定多数でなく、決まった人物の特徴が記されています」

「仮に同じ効果だったとしても、強化されてる感覚とかあった? ちなみに俺はないよ」

「いえ、実感はありませんね」

「となると一方的だったり、相互的な強化系のスキルじゃあないってことか…………待てよ?」


 エリックが何かに気づいたのか、背筋を伸ばし目を見開く。


「よくよく考えたら文字化けスキル自体は魔科の国(グリモワール)の頃から発現してたよな。あの時から何かしらの効果を発揮していたとして、今の俺達との相違点と言えば……《イグニート・ディバイン》やカグヤの新技……スキル関連か」

「《(あざみ)》と混成接続ですか? 確かに国外遠征以降に習得したスキルと技術ですが……そういえば、あれらはクロトさんの指導を元に編み出したものですね」

「ははーん、読めたぞ? 本来スキルってのは容易に取得できるもんじゃねぇと教えてもらったぜ。にもかかわらず、こうして新しい力を得た奴らがいる。要はアタシらみたいなのに新しいスキルを覚えやすくする──成長を促進させるタイプのやべー力と見たね!」

「クラス的な特性とクロトさんの素質を(かんが)みれば妥当なところではありますが、それだけではありませんね」

「ひょ?」


 そんな馬鹿な、と頭ごなしに否定したい気持ちよりも先に。

 先生が指を二本立てて、セリスの自信たっぷりな言葉に続く。


「ドレッドノートと戦った時のことを思い出してください。いくら完全同調(フルシンクロ)状態で魔剣による魔力供給があるとはいえ、間接的に魔力を他者に送っても完全に譲渡できる訳ではないのです」

「……ええと、つまり?」

「霧吹きを想像してみてください。液体を噴霧状に散布しても、全ては付着せず損失が生まれますね? それと同じなんですよ、魔力の譲渡という行為は」

「なるほど。スキルという形で私たちとクロトさんの間に、目に見えない経路が繋がっている……故に魔力の完全譲渡が可能となっていた、と」

「…………要約すると?」

「お前、自分のことなんだからもうちょっと頑張れよ」


 呆れ気味なエリックに肩を叩かれ、ずっと握っていたメモ用紙と鉛筆をひったくられる。

 そのままスラスラと公用語の文字列を書かれて、目の前に突き出された。


「めちゃくちゃ簡単にまとめると、どう作用するかは定かじゃねぇが《万■ノ結者(こいつ)》は同じ名称のスキルを持つ双方に、何らかの良い影響を与えるって訳だ」

「そしてこれらを公表されたら、クロトさんはもれなく身柄を狙われる立場の存在になります」

「同じスキルを会得する手段や方法は分かりませんが、《指導者(メンター)》よりも直接的に他者の成長を補助するものですから……秘密にしておくのが得策ですね」

「ありがたい恩恵ではあるが、面倒事も引き寄せちまうかもしれねぇもんな」

「魔法だけでも厄介なネタなのにスキルですら問題視されるの……?」


 エリックからメモ用紙を受け取り、見下ろす。

 《異想顕現(アナザーグレイス)》から始まり、厄ネタが続々と集まってきて本当に頭が痛くなってきた。ぐぬぬっ……


「まあ、アカツキ荘のメンバー以外にスキルを見せるつもりないから深く考えなくてもいいか」

「冒険者ギルドに申請でもしない限り広まることは無いと思いますが、気を付けてくださいね? クロトさんに限った話ではありませんが、先刻の事件で少々有名になりましたから」

「強さの秘訣を知りたいとか言って擦り寄ってくる連中はいそうだしなぁ」

「良い武器を持って魔剣を憑依させて死ぬ気で身体強化して全速力でぶん殴るんだ」

「それが出来んのはおめーだけだよ」

「スキルに影響されない戦い方ですから参考になりませんね……」


 生命魔法だけでなくスキルも口外はしない、と。

 本日二度目となる共通の認識を持ち、時間も時間なので夕食の準備を始めることに。

 俺とセリスはバックパックをリビングの隅に置き、テーブルを掃除して。

 先生とカグヤは今日の調理当番なため台所で料理を始め、エリックは皿とカトラリーを用意する。


「そういえば七組分のテストを採点し終えましたが……赤点保持者はゼロでしたよ。好成績保持者のカグヤさん達はもちろんとして、お二人も中間試験より点数が上がってましたね」

「おおっ! 何気に一番気にしてたから、胸のつっかえが取れた気分だぜ!」

「頑張りが報われて良かったじゃん。これで心置きなく実技試験に集中できるね」

「むしろ実技試験と進級も絡んでるし、護衛依頼を成功させないとマズいからな」

御旗(みはた)槍斧(そうふ)やシラサイ、必要とあらば生命魔法を駆使していくことになりそうですね」

「学生として、冒険者としての成長に大事な要素ですから、胸を張って…………待ってください。生命魔法とは……?」


 先生は心底困惑した様子で、穏やかな表情から真顔になった。

 隣にいるカグヤから詳細な説明を受けつつ、顔色を百面相の如く赤く青く白く変え始める。それでも手を止めることなく、手際よく食材を切り進めていた。


「虹の力が万能細胞を由来としていて、それが生命魔法として昇華されたのはまだ納得できますが、第二位階(イデア)に進化しておいて血液魔法と切り替えて行使できる……? 何を言っているのか分からない……はぇ……?」


 随分と混乱しているようだ。術式魔法(イグジスト)を持つ先生から見ても俺の魔法っておかしいんだね。

 お労しい姿を眺めていると、玄関口から騒がしい音が聞こえてきた。先生以外の全員がリビングの扉へ視線を向ければ、勢いよく開け放たれる。


「うっひょお! 朗報を持ってきた学園長のお通りよぉ! (あが)めなさぁい!」

「うわっ、(やかま)しいのが帰ってきた……」


 恍惚とした表情に諸手を挙げて入ってきた学園長に向けて、誰もが脳裏によぎった言葉をセリスが代弁した。


「完全に“命の前借り”の効果がばっちり効いちゃってるなぁ、これ。飲み始めはそうでもなかったのに」

「酔っぱらいみてぇになってるが、どうすんだ?」

「業務上で支障が出てた訳でもなく、今さら元に戻しても意味は薄いから……放置でいいんじゃない? いずれ効能が抜けて正気に戻るよ」

「えぇ? なに、放置プレイ?」

「言ってねぇわ、そんなこと」

「もうすぐ晩御飯だから目覚ましも兼ねて手と顔を洗ってきなさい」


 絡み酒に酷似した状態の学園長に冷めた目でツッコむ。

 うっとおしい陽キャみたいな言動しやがって……


「んもー、私をそんな邪険に扱っていいのかしらぁ? ちゃーんと護衛依頼を持ってきたわ・た・し・に。シゴデキな自分が怖いわぁ~!」

「おお? ありがたいねぇ。ってか、マジでちゃんと仕事はしてたんだな」

「サボりもしなかったので普段と比べて三割増しぐらいの効率でしたよ。いつもそうであるなら、非常に助かるのですが……」


 感心するように頷くセリスの隣で、混乱から立ち直った先生がサラダボウルをテーブルに置く。

 その奥、台所からはカグヤが作る薄切りオーク肉の生姜(しょうが)焼きが香ってきた。いいねぇ……確か朝に炊いた白米の残りを魔道冷蔵庫に入れてたから、それで食べよう。


「ふふんっ、とくとご覧なさい! クロト君たちを新しいステージへ押し上げる為の最適な依頼をね!」


 空腹の刺激を(さえぎ)るように。

 無駄に決めたポーズで差し出してきた依頼書を受け取る。


「身に覚えがあるんじゃない? 最近になってミスリル鉱石関連の市場価格が適正よりも下がっている事に。どうやら迷宮素材の取り扱いを専門としている商会が幅を利かせているようでね。その商会が若手に経験を積ませて育成したいからって、わざわざ連絡を寄越してきたのよ!」

「へぇ、破格の値段でミスリルが売られてたのはその影響だったのか」

「確か癒し水の御旗の原材料だったか? ……もしかして滅茶苦茶高いのか、あれって」

「比率で言ったら八割以上ミスリルだし、性能を加味したら三〇〇万メルぐらいだね」

「さんびゃ……!?」


 絶句するセリスを横目に、学園長の言葉を待ちながら依頼書を眺める。


「最近話題になってる君達に護衛をお願いすれば、商会としても名が売れると考えているのでしょうね! 隊商を組んで仕入れ先に向かってもらうから、安全を考慮して道中で一泊、着いた先で一泊、折り返しも含めて三泊四日の依頼になるわ。何事もなければ昇格申請日には十分間に合うはずよ!」

「顔見せというか依頼自体はいつから……明日?」

「急過ぎるって訳でもねぇな。元々必要な手順をすっ飛ばして、実績だけを得られるならそれだけでいいしな」

「そういうこと! 君達は依頼の成功を念頭に置いて働けばいいのよ!」

「ところで、仕入れ先とはどちらでしょうか? 隊商とはいえ郊外で片道一日ほどかかるとなれば、それなりに距離があると思いますが……」

「よくぞ聞いてくれました!」


 出来立てホヤホヤの山盛り生姜焼きを片手に、台所からやってきたカグヤが問い掛ける。

 更に空腹を刺激する香りに惑わされないように、改めて依頼書へ視線を落とす。


「行き先は長年居座っていた歴戦の()()()()()という脅威が無くなり、再調査によって豊富な植物・鉱物資源が大量に発見された、地表露出型大迷宮──“霊峰”の麓に位置する山村よ!」

「うぼぁ」


 聞き覚えがあり過ぎる地名に記憶を揺さぶられて、吐き出すように悲鳴が漏れた。











 《万■ノ結者》

 =《■血ノ■》《七魔(しちま)ノ■》《護焔(ごえん)ノ■》《聖癒(せいい)ノ■》《舞姫(まいひめ)ノ■》

 《銀狼(ぎんろう)ノ■》《暗艶(くらつや)ノ■》







 ジジ……ジジジッ……







 《万縁ノ結者》

 =《■血ノ縁》《七魔(しちま)ノ縁》《護焔(ごえん)ノ縁》《聖癒(せいい)ノ縁》《舞姫(まいひめ)ノ縁》

 《銀狼(ぎんろう)ノ縁》《暗艶(くらつや)ノ縁》

ということで、ちょくちょく名前が出ていた霊峰に向かう護衛依頼となります。

霊峰ってなんぞや? という方は過去に投稿した短編、ちびっ子カルテットを読んでみてください。面白いです。

ちなみに音沙汰が無いユキはキオ達と遊んでいるので帰りが遅くなってしまいました。怒られはしなかったけど反省中です。


次回、護衛依頼編スタート!

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