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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【六ノ章】取り戻した日常
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第一二二話 平和的な使い方

次話の展開に繋げるため、ちょっとあっさり気味です。

『──本当に、異能で迷宮化を抑えられるの?』

『はい。誘導の異能を駆使すれば迷宮にならず、魔物も生まれず。安心安全に薬草も野菜もいっぱい採れる夢のワンダーランドが作れます。ハハッ!』

『もしかして修学旅行で遊園地に行った俺の記憶、読んだ?』

『ごめんなさい、二人に薦められてつい……でも、面白かったです。まさか旅先で子どもの誘拐事件に巻き込まれて、しかも解決するなんて』


 がっつり黒歴史を知られちゃってる……中学校時代で第三位くらいに位置する知られたくない黒歴史が。もう二度と遊園地なんていかない、と決意した記憶が。

 そりゃあ鍵の付いてない家とか金庫レベルのガバガバな脳内セキュリティだけど、もうちょい自重してよ。

 ……レオとゴートの反応が無い。二人とも怒られたくないから出てこないようにしてるな……後で説教してやる。


『しかし異能を使うかぁ、確かにリブラスの異能なら出来るか。……でもなぁ、非常時か反則級の敵が相手の時にしか使わないって約束してるから』

『でも、あくまで二人と交わした約束ですよね? 自分は関係ないですし正しく使って問題を解決できるなら、全力で取り組みますよ!』

(みなぎ)るやる気を感じる。……えっと、本当にいいの?』

『はい! というか、ドレッドノートに使われてた自分のせいでもあるので、罪滅ぼしと言いますか……』

『ああ、そういえばそうか』


 疑似的にではあるが、あの時のドレッドノートは俺と同じ完全同調(フルシンクロ)状態だった。

 供給される魔力を肉体の治癒と強化に回していた俺と違って、無差別に魔力をバラ撒いていたんだ。

 だからこそ、現状の再開発区画が生まれてしまった訳で。

 意図して起きた事ではないが、戦いを好まないリブラスが罪悪感を抱くのも無理はない。


『よし、何事も挑戦だ。リブラスの意志を尊重してやってみよう……の前に、説明しないといけないな。特にシュメルさん』

『記憶を見ましたけど、魔剣関連についてお話したこと無いんでしたっけ?』

『教えてどうにかなる問題でもないし、巻き込みたくなかったからね。でも、今後も交流を深めていく相手を仲間外れにするのは気が引ける。……現にエルノールさんを巻き込んでるし、伝えるべきかも』

「坊や、急に黙り出してどうしたの?」

「考え事ですか?」


 リブラスとの会話に集中していて、不審がる二人が顔を覗き込んできた。


「その、もしかしたら迷宮化を解決できるかもしれなくて。その手段について、シュメルさんに教えたいんですけど……」

「あら、私に?」


 カグヤは違うのか、と言いたげな視線を向けてくる彼女に頷き、少し距離を離して。

 腕を振るい、リブラスの本体たる紫の魔剣を顕現させる。


「クロトさん!?」

「どの道、アカツキ荘と関わっていくなら知らないといけないことだし、隠し続けるのは無理だ。無関係でもないから、シュメルさんにも知ってもらいたかったんだよ」

「……それは」


 焦る素振りを見せるカグヤを(さと)して。

 突如として召喚した刀剣に対し、警戒心を露わにするシュメルさんへ明滅する刀身を見せつける。


「俺達が納涼祭の騒動で必死になって行動していた理由の一つであり、現状を打破する唯一の手段──魔剣です」


 ◆◇◆◇◆


 遠くで遊んでいるエリック達を尻目に、魔剣関連の話を簡潔にまとめてシュメルさんに打ち明けた。

 魔科の国(グリモワール)でレオと出会ったこと。

 その流れで因縁が出来てしまい、納涼祭での事件が起きたこと。

 魔剣が持つ特異性や適合者の存在、異能のこと。

 カグヤが補助してくれたおかげで呑み込みやすくなったのか。険しい目つきのまま聴き手に徹していた彼女は、顎に手を当て何度も頷く。


「……魔剣に異能、ね。信じがたい話ではあるけど、実物を見せられたら納得しかないわ。元々、納涼祭における一連の流れで抱いていた違和感はあったのよ。あまりに暴動が起きるのが早かったり、普段は静かな再開発区画が騒がしかったり……色々と解消されてよかったわ」

「すみません、説明するのが遅れてしまって。……再開発区画や歓楽街がこんな目に遭った原因でもあるので、あまり良い気分にはならないと思います」


 顕現させた紫の魔剣を握り締め、シュメルさんから目を逸らす。

 虫の良い話だ。遠因的にニルヴァーナを滅茶苦茶にした元凶の一部でありながら、全てが終わった後に、許しを請うような口ぶりで事情を明かしたのだから。

 不誠実なマネだとは思うが、このままずっと言わないでいるよりはマシだ。

 でも、俺がシュメルさんの立場だったら……正直、怒ってタコ殴りにされても文句は言えない。だから、暴力や罵倒は甘んじて受ける……!

 一歩、踏み込んできた彼女に殴られる覚悟で歯を噛み締めていると。


「──坊や。そう怖がらなくていいわ」


 頬に手を添えられ、視線が合った。

 至極穏やかに、愛おしそうに目を細めて、シュメルさんは微笑む。


「どれだけの因果と責任を背負っても、街や人を守る為に戦っていた事実に変わりはないわ。大事なのは過去に囚われず、次を見定めて進み続けること。結果に固執せず、己の矜持を持ち、過程を選び続けていく……真面目で義理堅い、坊やらしい判断だと思うわ。好きよ、そういうところ」

「好きっ……!?」


 何故か戦慄したようにカグヤが呟く。


「だから迷わないで、怯えないで。坊やのやりたい事を、ありのままに教えて?」

「……ありがとうございます」


 不安を見透かしたようなシュメルさんの言葉が染みる。

 事情を知る、頼りになる味方が一人増えたことで胸のつっかえが取れたように思えた。


「では、これから異能を使って再開発区画に何をするかを具体的に説明します……が、カグヤ、大丈夫? 顔、真っ赤だけど」

「へぁ!? ももも、問題ありませんよ!?」

「そう? でも気温上がってきたし熱中症になると怖いから、水分補給しておきなよ」


 先程から挙動不審なカグヤに、水筒のコップを手渡し水を(そそ)ぐ。


「お、お気遣いありがとうございます。いただきます……」

「……ふふっ、初々しいこと。遅咲きの花のようで(もてあそ)びたくなるわね」

「あんまりカグヤをイジらないであげてくださいね。ただでさえ、シュメルさんは刺激が強いんですから」

「…………普段は恐ろしいほど察しがいいのに、こういうものに関しては鈍いのね。分かってはいたけど、罪づくりな子」

「なんですか、それ?」

「独り言よ、気にしないで。それより話を進めましょう?」


 溜め息を吐きながら、場の空気を入れ替えるように。

 手をパタパタと振るシュメルさんの言葉に頷いて、紫の魔剣をかざす。


「改めて“再開発区画を異能の力で調節しよう!”作戦の概要を伝えます! まあ、さっき軽く話しちゃいましたけどね!」

「要は納涼祭で猛威を振るっていた誘導の異能を使って迷宮化や魔物の発生を抑制する、のよね?」

「正確には迷宮化の原因である魔素や魔力の方向性を、植物の成長や土壌環境の保持に変更します。異能の力をもってしても根強く残った汚染の完全除去には時間が掛かるので、いっそのこと利用してやろう! という作戦です」

「本来であれば迷宮化してもおかしくない自然環境を容易く作り変える……凄まじい力だわ」

「でも、魔力を循環させて作物の栽培に役立てる手法自体は確立されてますから。農家さん達が(つちか)ってきた知恵と技術を異能で再現するってだけで……ちょっとズルい感じもしますが、背に腹は変えられません」


 紫の魔剣を指揮棒のように持ち直し、区画全体を見渡す。


「土地に根付いた魔力、魔素を土の中へ浸透させて、絶えることのない効率よい循環を施す。…………うん、イメージは出来た──やろう、リブラス」

『承知しました! 目に見えて分かりやすいように、異能と魔素の流れを視覚化させますね!』

「聞き慣れない女の子の声……本当に、人のような意思が宿っているのね」

「紫の魔剣の声は私も初めて聞きました。というより、拝見したのも初めてです」


 復活したカグヤの呟きを聞いて思い出す。

 そういえば今後の方針を話したのはレオ達にだけで、アカツキ荘の面々には話してなかったな、と。

 しかも紫の魔剣を入手した報告をし忘れていた、と。

 朝からシュメルさんの襲撃があったせいですっかり抜けていた。これは怒られても文句が言えないぞ……?


『よし、準備出来ました! 気力も万全です!』

「ああうん、ありがとう……まあ、なるようになれと祈るしかないか。今は目の前のことに集中しよう」


 俯瞰的に捉えた区画内。リブラスの補助によって視界に魔素の流れが映し出される。

 七つの属性とは違う、迷宮特有の不気味で仄暗い魔素だ。区画全域に色濃く、大気を漂う魔素も迷宮と同等か、それ以上の密度で広がっている。


「想像よりも酷い……時間を置いてたら小迷宮が乱立していたかもな。でも、そうはならない」

『もちろんです!』


 元気の良い返事に応えるように、発光する紫の魔剣を振るう。優雅に、楽団を指揮するように。

 再開発区画の外へ魔素が漏出するのを防ぐ為に、区画内でのみ循環を完結させる。地を巡り、渦を巻き、螺旋を描く。まるで巨大な地上絵だ。

 異能が干渉したことによって二人にも魔素の動きが見えたのだろう。遠くの方でも、エリック達が騒ぎ始めた。

 “なんだなんだ!?” “どうせクロトの仕業だろ”と、理解がある仲間の叫びが聞こえてくる。忠告する間もなく異能を使ってるから、まあ……仕方ないね。


『魔力、魔素が引き起こす事象を、余すことも絶えることもない豊穣へ誘い、導く。自然の摂理を真っ向から殴り飛ばしていますが、自分達の損にしかならないなら遠慮する必要はありません! 普通に危険ですし、逐一(ちくいち)異能を使って調整するまでもなく環境を作り変えましょう!』


 リブラスも異能を操り、手伝ってくれているおかげで。

 無秩序に散乱していた魔素は統制を取り、色を変え、穏やかな温かみのある輝きを放つ。幻想的でありながら、迷宮で経験したことのある息の詰まるような違和感が薄れていく。

 次第に輝きは収まり、潜在的な脅威が消え去ったのだと実感する。


『よーしっ、これで迷宮化も魔物の発生もしない安全な地帯になりました! 一定範囲を指定して植物の成長を抑制することも出来ますので、必要な時は呼んでください』

「ありがとう。助かったよ」

『とんでもないです! でも、ちょっとおかしいですね』

「おかしい、とは?」


 リブラスの発言にカグヤが聞き返すと。

 手元から離れ、ふよふよと頭上を旋回しながら。


『区画に広がる魔力の中に、一部だけ自分の制御権から外れて動いてる物があるように思えて……気のせい、だったのかな?』

「動いてる……リブラス、異能で操作したのはあくまで魔素や魔力だけだよね? 俺達のような()()()が内包する魔力を除いて」

『そうですよ』

「待ってください、クロトさん。それって……」

「──魔物かしら? 魔力を持っていて感知できても、私達は視認していない……地中に潜んでいる?」


 シュメルさんの結論が呼び水にでもなったのか。

 足下に微細な振動を感じたかと思えば、ちょうどエリック達がいる位置の地面が隆起する。

 一瞬だった。土煙に混じって打ち上げられた三人の下に、無数の根っこを伴った統率者が飛び出す。


 植物系の魔物、トレントの類似種であるラウンドプランツ。肉腫のようなコアを守るように木の根を這わせた上で捕らえた対象の養分を吸いだし、身体を肥大化させていく魔物だ。

 どうやら異能を使うより前に生まれて息を潜めていたらしいが、大げさな登場の割にサイズが小さい。まだ養分を得る前の幼体という訳か。


「あの子達、跳ね飛ばされたわね」

「っ! 行きましょう、クロトさん!」

「分かってる」


 短く返答し、浮遊していたリブラスを握り締めて。

 自由落下に入る直前の三人の下へカグヤと駆け出す。


「カグヤ、異能で三人の落下位置をこっちに誘導するから回収して」

「分かりました! ですが、どうやって倒しますか!? 武器なんて魔剣ぐらいしか……」

「どうにかする」

『えっ。自分では力不足だと思いますが……レオさん呼びます?』

「間に合わない。リブラスは異能の制御を引き継いで。ラウンドプランツは血液魔法でなんとかする」


 口を動かしつつ、異能でエリック達を引き寄せ、手の平を紫の魔剣で斬る。

 手を振り払う動作に合わせて宙を舞う血が、鋭利に()った刀身へ。

 血の刀を構え、全身の魔力回路を励起。血管のように赤い光芒が肌を(はし)る。強化された脚力で踏み込めば、視界の景色が後ろに延びていく。

 カグヤを置き去りに、リブラスが制御した異能によって落下軌道を変えたエリック達とすれ違う。


「ごめん、リブラス。放すよ」

『ええっ!?』


 異能はもう大丈夫。紫の魔剣を手放し、更に加速。

 獲物を奪われたことに腹を立てたラウンドプランツは、全身の根っこを鞭のようにしならせて攻撃してくる。

 しかし、あまりにも遅い。かわして、くぐり抜け、切り払って。

 肉薄したラウンドプランツの胴体とも言うべき箇所。(わず)かに見えたコアを狙って。

 腰を捻って、一閃。赤い軌跡を残す斬撃でラウンドプランツを両断。

 心臓部を失い、灰となり散っていく様子を確認してから血の刀を体内に戻す。


「……なんだか、前と比べて魔力の巡りが良くなった?」


 光芒が薄れていく手の平の魔力回路を見下ろし、首を傾げる。

 今までの身体強化とはまるで違う手応えだった。思い返せば、こんなにはっきりと魔力回路が浮き出たのも初めてだ。……というか、ずっと光り続けていた。

 これは、後で先生に相談した方がいいかも……? 湧き出た疑問を抱えつつも。

 カグヤに助けられ、俺と同じように疑問だらけであろうエリック達と合流するべく、紫の魔剣を回収してから皆の元へ歩き出した。

おまけ

『まさかリブラスに魔剣どころか異能すら先に使われるとは思わなんだ』

『適材適所というものだ。機会を待て』

『私自身、使い時の難しい異能だとは思うが……これでは知的な参謀ポジションという立場の存在でしかない』

『今朝も似たようなセリフを言っていたが、よほど自負の念が強いな?』

『ただいま戻りました! ……あれ、なんかお話し中でした?』


次回、話をしようとアカツキ荘に行ったら、待ちぼうけを受けた学園最強との情報共有です。

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