短編 夜鳴き鳥の憂鬱《序章》
次章を始めるまでの繋ぎ、というより作者が書きたかった個別エピソードの始まりです。
まだまだ終わらない宴会の最中。
ノエルのメンタルケアを終えて一息ついていると。
「そういや純粋に気になってんだけど、どうやって歓楽街のトップと知り合いになったのか聞いてもいいか?」
「ぶふぉ」
エリックが思いもしない話題の爆弾をぶち込んできた。口に含んだ果実水が気管に入って咽る。
大人組は恐らくシュメルさんが全部バラした為、話す必要は無いと思う。
しかし、この場に居る生徒組は俺が歓楽街に入り浸っていた事とシュメルさんの関係性をわずかながら知っている状態だ。
上辺だけで詳細を把握していない以上、興味が勝る気持ちは分かる。
いずれ経緯を説明しようとは考えてたけど、今ここで言わなきゃいけないかなぁ! 結構センシティブな内容だよ!?
一斉に向けられる視線で針の筵に立たされている。あまり待たせているとやましい心があるのか疑われてしまう。
「う、うーん……秘密にしたい訳じゃあないから、教えてもいいんだけど」
ちらり、と。カグヤ達の方へ目線を送るがお互いに顔を見合わせ、お構いなく、とジェスチャーを返された。
意気投合し過ぎだろ、年頃の女子と子どもに打ち明けていい内容か迷ってるのに。くそぉ、逃げ場が無くなった!
ある意味、発端は事故というか些細な依頼から始まったことで、仕方なかったの一言で片付くが……これもこれで言い訳がましいか。
「シュメルさん、ってあの人か……すんごい綺麗だったよねぇ。いいなぁ……」
後、なんだノエル、俺のことめちゃくちゃ睨んでるけど。悔しさと羨ましさが同居したような険しい顔をしてるぞ。
メイド喫茶で初めて顔を合わせた時からもそうだったけど、シュメルさんに憧れてるの? まあ、女性から見ても羨望の眼差しで見るのは無理もない容姿だし、惹かれるのは理解できる。
圧が凄まじいし、ノエルの為にも教えてやるか。
「わかった、わかった。ちゃんと話すから落ち着いて? まずは──」
横目でシュメルさんの方を見ると、話題に上がっていることを盗み聞きしていたのか。
軽快にウィンクして微笑み、手を振ってきた。妖艶さと気安さの混じった動作に顔が熱を持つ。
ありとあらゆる要素であの人には敵わない気がする。
そんな感情を抱きつつも、シュメルさんと出会った“あの事件”を語る事にした。
◆◇◆◇◆
魔科の国。日輪の国。グランディア。
三大国家の延長線上で混じり合い、点となる位置に存在するニルヴァーナ。
冒険者の育成を目的とした学園が注目される街には東西南北へ延びる大通りがある。
道に沿って大小問わず多くの店舗が展開し、集約されており、ニルヴァーナの要である交易の影響を強く受けていた。
多種多様な種族、交易を通して多国籍の文化と流通品が集まり、数多の商会によって産業が成り立つこの街で。
南西に位置する区画──風俗関係の施設が集まる歓楽街で蠢いていた異変。
遍く甘美な欲望が行き着く果て。
淫蕩の香りが漂う裏側の世界で何が起こっていたのか。
これは意図せず巻き込まれたクロトが自警団を介さず、解決に奔走する羽目になった事件のお話だ。
というわけで、シュメルさんとの絡みを描く短編になります。
ちょくちょく出してた設定と合わせて描写するので、それなりの長さになると思います。
楽しみに待っていてください。