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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【五ノ章】納涼祭
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第一〇九話 キミが希望を見せたから《前編》

五ノ章の締め括りということもあって、終盤のまとめに近い内容です。

 ルーザーが引き起こした暴動事件から半日以上が経過。

 自警団と協同で対策を重ねていた錬金術師(アルケミスト)たちによる即座の対応が功を奏したのか、違法薬物による脅威は去った。

 そして短時間での収束となったおかげで負傷者こそ多数ではあったが、死者はゼロという驚異的な数字を叩き出していた。

 いくら《魔科の国(グリモワール)》や《日輪の国(アマテラス)》のような大国家より小さな国とはいえ、納涼祭で旅行客が増加していたにも関わらず最善の結果となったのだ。


 並行で行っていた建物の復興も多くの協力者が(つの)り、ひとまずは応急処置程度のものとはいえ着実に進行。

 東西南北の四方に伸びる大通り(メインストリート)はもちろん、近辺にある冒険者ギルドなどの重要施設や居住区も修繕は終えた為、人の往来が制限されるようなことにはならなかった。


 ──唯一の問題は再開発区画、及び周辺施設への被害が甚大だった事くらいだ。

 真犯人が潜んでいたなど知る(よし)もない自警団やその他の住民にとって、再開発区画で起きていた出来事は不安要素でしかなかった。


 警備していた自警団が離れた事で魔力障壁を破壊せんと殺到する魔物どもが上げた雄叫び。

 どこからともなく響き渡るドレッドノートの咆哮(ハウル)と引き起こされた地盤変動。

 トドメの一撃として放たれたシフトドライブが、夕暮れのニルヴァーナを照らし尽くした。


 この世の終わりか……などと考える者も現れてくる始末。一歩間違えればドレッドノートが蹂躙していたと思えば、あながち間違いとは言えない。

 だが、そうはならなかった。クロト達の尽力によって壊滅の未来は(まぬが)れ、知らず知らずの内に事件の大部分は解決。

 事後報告になったとはいえ詳細を聞いたエルノールが眉間を押さえ、天を仰いだ姿はとても(いたわ)しかった。


 だが、思考と行動を止める訳にはいかなかった。

 気絶したクロト以外の面々にエルノールが直々に事情聴取を行い、再編成した自警団の人員を再開発区画の調査へ。

 聴取の内容を一通りまとめた後、彼も調査に向かったが──クロト達が暴れ過ぎたせいで迷宮は潰れ、魔物は殲滅され、跡形も無く崩れ去った廃虚の残骸だらけの区画にロクな証拠は無かった。


 寝ずに夜通し調べ尽くして欠片も掴めず、エリック達の証言と持ち込んできたドレッドノートの素材だけが自警団に残された証拠材料。

 これで犯人が潜伏していた事実と暴動事件を発生させ、子ども達を誘拐し、ドレッドノートを呼び覚まし、ニルヴァーナにけしかけようとして自滅した旨を確定させなくてはならない。


 それもクロトへの復讐が動機である事をそれとなくぼかして、である。

 誘拐された子ども達が言うには犯人がペラペラと自供した為、完全に私怨での犯行に及んだのは間違いない。

 どこで反感を買ったのか分からんがクロト(アイツ)ならやりかねない……いやしかし、立証クソムズいな……とエルノールは再び天を仰いだ。


 そうして様々な徹夜作業を乗り越えて、迎えた納涼祭三日目。

 商魂たくましい商会なんかは臨時で露店を開き、物と恩と名を売る為に薄利多売を覚悟に商売を。

 診療所や病院、冒険者の錬金術師(アルケミスト)の尽力もあって負傷者の回復は順調に。

 土建屋も祝祭日を返上して建物の復興に本腰を入れるなど、それぞれの手筈を整えればひとまず落ち着ける──そんな頃合いで。


『アカツキ・クロトは悪! 奴が諸悪の根源だ!』


 根も葉も無い、というには語弊があるとしても空気が読めない気狂いの馬鹿が出始めた。

 緊急とはいえ医療施設と化した学園の敷地内で、特定の個人を(けな)す問題行動。働き詰めで寝不足の頭に響く罵詈雑言を聞き流す訳にはいかなかった。

 そもそも犯罪行為という事で騒ぎ立てる連中の一人を捕らえて拷も──尋問してみれば、今回の事件に不満を持った一部の層が暴走しているらしい。


 物事に対する“納得”は全てにおいて優先される。

 事件に関する説明も無く、ただただ被害を(こうむ)ったという連中は行き場の無い怒りを(くすぶ)らせていたのだ。誰もが楽しみにしていた納涼祭の真っただ中である事も原因の一つだろう。

 気持ちは分かる、分かるが……何も今になって爆発する事もないだろうに……と、エルノールは天を仰いだ。三度目である。


 眠気と疲労に身を任せたいところではあったが、このまま放置していては第二、第三の暴動が発生するかもしれない。

 重い腰を上げ、緊急招集をかけた自警団に説明会の場所を作るように指示を出して。

 既に復興支援で働いていたアカツキ荘の面々にも重要参考人として協力を要請。事の次第を伝えてため息を吐いた彼らに申し訳なさを感じながらも。

 ニルヴァーナ全体に響く専用の放送機器で呼び掛けた結果、想定以上に集まった公衆の面前で事件の経緯を説明しだして数十分が経過。











『俺は見たぞ! アイツは街がめちゃくちゃになってるのに、誰も助けず逃げ回って状況を悪化させてたんだ!』

『魔物との戦闘で血だらけのまま運ばれたとか、大怪我したなんて嘘っぱちなんだろ!』

『街中を混乱に陥れたのはあのクズだ! 責任を取らせろっ!』


「はー、メンドくせー。バカみてぇな発言しか出来ないカスが多過ぎるぞ」

「声を抑えてくれよ……! 仮にも自警団の長なんだから、そんなこと言うなって!」


 エルノールは一向に好転しない事態に、心の底からの悪態を吐いていた。

 その隣にいたエリックが拡声器を下げて、声を拾わせないようにしたおかげで聞かせる事は無かったが。


「くそったれぇ……何が諸悪の根源だ。お前らが居なけりゃこの程度じゃ済んでなかったってのによぉ。国が国なら勲章モノの働きだぞ」

「それはまあ、そうっすけど……」

「見ろよエリック、お前の隣を。クロトを馬鹿にされた女子どもの殺意に満ちた目を。なんとかしろよ、お前の仲間だろ」

「いやぁ、機嫌を損ねて死にたくねぇ……」


 エルノールが指を差す方へ振り向けば目の据わったカグヤ、ゴミを見るように睨みつけるセリスとルシアが、投げつけられる良識の無い言葉の数々に殺気で応えていた。

 人前に出たがらないユキでさえクロトの為なら、と証言台に上がってくれたのに。身勝手な言い分に怒りを滲ませ、魔力が漏れているせいで周囲に季節外れの冷気を漂わせている。

 尋常ではない雰囲気に、最前列で話を聞いている者たちは肩を震わせ、視線を合わせないように顔を伏せていた。


「何をどう曲解したらクロトが犯人なんてふざけた道理が(まか)り通ると思ってんだよ。敵視され過ぎだろ、アイツ」

「本人は眼中にすら入れてないっすけど、恨みや妬みはそれなりに買ってるみたいなんで。……でも、犯人を捕まえられなかったのが一番痛いっすね」

「仕方ねぇよ。分かりやすい(まと)が無けりゃこんなもんだ、気にするこたぁない。むしろ自警団の力不足を押し付けたようなもんだからな、文句を言える立場じゃねぇ。……これでお前らが帰って来てなけりゃ、それこそ大問題だしな」


 こそこそと内緒話を繰り広げながらも、エルノールは思考を巡らせる。

 このふざけた状況を打開するには強烈な一手が必要だ。土台から、全てをひっくり返すような物であれば(なお)良い。

 クロトを犯人ではなく、事件解決の功労者である事を証明するモノ。


 ──実の所、説得力がある逆転の要素は残されている。

 ただ、タイミングが合わない。人手が足りない。自警団団長であるエルノールの発言だけでは弱い。

 既に連絡は送っている。もうそろそろ増援が来てもいい頃合いだと思うのだが……それまで聞くに堪えない不満を耳にするのは心が(すさ)む。

 いっそのこと自警団の権力を行使して黙らせるか? いや、あんなのでも民間人だし強行手段を取るのは早計だ、と。


「おはようございまーす。今日も暑いですねぇ」


 間近で滲み出る殺意の波動を受け流しつつ、幾度となく放たれる名誉棄損の嵐をどうやって止めるか。

 思考の海に沈んでいたエルノールの意識を、聞き覚えのある脱力し切った声が引き上げた。

 …………ちょっと待て。他のアカツキ荘の奴らと比べて重症過ぎて、しばらく目を覚まさないはずだろ……?


「おっ、みんな勢揃いだ。やっほー」


 クロトの掛かりつけ医に告げられた診断内容を思い出したエルノールは、どよめく人波を割いて現れたクロトの姿を見て。

 安心感と共に得も言われぬ面倒事の気配を読み取り、天を仰いだ。数時間ぶり四度目であった。

誰もが復活の早さにドン引きする主人公がいるらしい。

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