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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【五ノ章】納涼祭
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第一〇六話 激動の二時間

 突如として再開発区画から発生した視界を奪う光と聴覚を乱す轟音。

 クロトが放ったシフトドライブは、ドレッドノートが持つ最大火力の咆哮(ハウル)と同等……いや、それ以上の威力を秘めていた

 その余波は区画内を飛び回り、激闘を繰り広げていたシオンとノエルの下にまで及んでいた。


「やれやれ、なんとかなったみてェだな」


 腹の底まで揺らす衝撃に足を止めていたシオンは、光が収束する中心地へ目を向ける。

 何度も感じた地盤の揺れや咆哮は彼らの戦況にも影響を与えており、それがクロト達と何かの戦闘によるものだと予想はしていた。


 しばらく続く戦闘音に気が散りかけ、助けに行くべきか迷ったが、彼らと馴染んでいるルシアがどうにかするだろうとタカを(くく)り、放置。

 そもそもシルフィに疑われている上で参戦するのはリスクが高く、大前提としてノエルが見逃してくれる訳がなかった。


 彼女も救援に向かうか思案する素振りを見せていたが、シオンを放ってはおけないと判断。

 故にお互い、速攻で潰して戦闘を終わらせるという発想に至った。

 しかし手の内(異能)を早々に(さら)迂闊(うかつ)な真似はせず。野生の如き感性と天性の才能がぶつかり合う、一度(ひとたび)打ち負ければ斬り伏せられるような攻防を続けていた。


 割って入ろうとした魔物(モンスター)、障害となる建造物のことごとくが剣閃によって切り開かれる。

 苛烈を極めた適合者同士の争いは、不意に放たれたクロトのシフトドライブによって終幕を迎えた。


 完全な、意識外からの攻撃。

 広範囲かつ無差別に撒き散らされた閃光と爆音、身体が浮き飛ぶほどの暴風。

 咄嗟に魔剣の片割れを地面に突き刺し、顔を伏せて耐えたシオンと違い、不運にも剣戟(けんげき)の最中で宙に浮いていたノエルは直撃を受けた。

 つい数秒前まで浮かべていた気迫の表情を困惑に変えながら、凄まじい速度で区画内の端まで飛んでいった彼女を見る事なく。

 シオンは十数分にも渡った戦闘の終わりを実感し、疲れを吐き出した。


「つーか、アイツらどころか先行組の奴らも無事じゃあ済まねェだろ? コレ」


 幾度となく響き渡ったドレッドノートの咆哮(ハウル)による地盤変動。

 統合された迷宮(ダンジョン)より氾濫した魔物(モンスター)の大群。

 極めつけに最後のシフトドライブ……について知らないシオンは、何らかの魔物が自滅したのだと結論づけて。

 これらの要素が蹂躙し尽くした結果、更地となった再開発区画を見渡しながら。


「…………念の為、クロトの無事を確認してから探してやるかァ」


 先行組が生きているか、それとも死んでいるかはともかくとして区画への侵入以降、何もかも情報不足な彼には予測しか立てられない。

 特に共犯者として協力を(つの)った相手が現在、どうなっているかを把握しなくてはならなかった。

 気を取り直して、という雰囲気は無く、ただただ面倒くさいと態度に表しながら。

 シオンは光が収束した中心地へ魔剣を放り投げ、転移の異能によって掻き消えるようにその場を後にした。


 ◆◇◆◇◆


 辛うじて残ったドレッドノートの亡骸(なきがら)が灰となり、風に流されていく。

 徐々に縮んでいく灰の山から、紫紺の硬皮と二対の捻じれ角が姿を現した。


「──君が気を失ってから起こった事はこれくらい、かな」

「……そっか」


 ドロップ品を回収しながら今後について相談しているエリック達の姿を眺めつつ、俺はルシアと情報の擦り合わせを行っていた。

 区画内でエリック達と鉢合わせた事。

 子ども達の捜索を手伝うという名目で行動を共にした事。

 直後にドレッドノートが引き起こした地盤沈下に巻き込まれ、やむを得ず戦闘になった事。

 それからは知っての通り、とルシアは肩を(すく)めてため息を吐いた。魔力結晶(マナ・クリスタ)に照らされた顔は、少しやつれている。


「やっぱりルーザーは死んだのか……生かして捕らえるのが目的だったんだけどな」

「君の仲間が問答無用で殴り飛ばしてたから厳しいよ。あと前に話した通り、基本的に殺しは無しってだけ。ルーザーは元から最終手段として、ドレッドノートをけしかけるつもりで動いてたみたいだし、自滅しに行った奴を止めるほど私は優しくない」

「辛辣だねぇ……まあ、気持ちは理解できるよ」


 ルシアの言葉に同意を示す。自分の仕出かした事を棚に上げて、真人間ぶった狂人の相手をするのが一番疲れるのだ。

 正直な所、ルーザーの言い分だけは的確に嫌な部分を突いていて、精神的に参っていたのは事実。


 だが、芽生えた苛立ちや怒りを摘み取るよりも早く、とにかくユキ達をどうにかしなければ、と。その一点だけに意識が向いていて、ルーザーの事などどうでもよくなっていた。

 ……しかし自業自得で死んだとはいえ、まさかドレッドノートなんて隠し玉を備えていたとはね。ニルヴァーナ側ですら調査不足で足を踏み入れなかった区画を、短期間の内にそこまで調べ尽くしていたのか。


「もしやフィールドワーカーとしてはかなり優秀だったのか……」

「え、なんの話? っていうか、君……大丈夫なの? あえて言わないでおいたけど、ずっと倒れたままで」

「実は大丈夫じゃない。無茶し過ぎた反動で身体(からだ)に力が全く入らない」


 かわいそうな物でも見るかのような、生暖かい視線を向けてくるルシアに答える。

 そう、俺はドレッドノートを倒してからずっと、討伐現場から少し離れた場所で仰向けのまま転がされていた。


 今日一日で積もりに積もった疲労。

 加えて、無茶を通した様々な負傷と治療の連続による失血。

 最後に、完全同調(フルシンクロ)で酷使した魔力回路は熱暴走を起こしたように発熱しており、体温が下がらず高温を維持していた。つまり、体温調節や他の身体機能が麻痺している。


 そこまで酷使された身体(からだ)は、当たり前だが限界を迎えており指先すら一ミリも動かない。

 そもそも会話するのもキツい。些細な振動で身体中、切り刻まれてるような痛みが這い回る上に息が整わないし頭もフラフラする……マズいなぁ、これは。


「ルシア。俺の意識がいつ落ちるか分からないから、ルーザーが所持していた魔剣の処理について話したい」

「……ああ、そういえば先行組の対処しか相談してなかったか。でも、ドレッドノートの灰に魔剣は無かったよ?」


 ルシアの懸念は(もっと)もだ。

 魔物は食欲旺盛で、胃袋に物を収めたそばから消化が始まる。その消化速度は大型であるほど早く、有機物であればすぐに、無機物であってもゆっくりと溶かしていく。

 もちろん例外もいるが大抵の魔物には備わっている機能であり、魔物の亡骸から以前に挑み、敗れた冒険者の鉄剣や盾、鎧などの消化しきれなかった遺品が出てくる事例は多い。

 だからこそ破壊不可であるルーザーごと喰われた魔剣が現れない事に、ルシアは首を(かし)げている。


「問題ないよ。実はトドメを差した直後に《スティール》で盗んでた。今、俺の制服で隠してる」

「君、手癖が悪いってよく言われない?」


 おかしいな? 求められた答えをちゃんと返したはずなのにルシアの声が冷たい。しかも了承を取られる前に制服を漁られてるんだけど。

 (はた)から見たら動けない男を襲ってるような光景だよ? 大丈夫? 破廉恥(はれんち)じゃない?


「あった、これが持ち出された魔剣の一本か。あともう一本は、残りの先行組が持っているのかな」

「…………あっ、そうか。まだ一人、行方の分からない幹部がいるのか」


 あっぶねぇ。ルシアにはゴートの事を伝えてないから、まだ先行組が魔剣を保有していると思ってるんだった。俺がゴートを持っている事は悟られないようにしないと。

 カラミティを象徴する黒衣。それを懐から取り出して魔剣を包んだルシアにバレないよう、そっと顔を背けると──眼前に、剣が突き刺さる。


 魔剣だ。ひゅっ、と喉奥が締まった。心臓が痛いくらい跳ねる。

 おもむろに視線を上げれば、エリック達に見つからない位置で身を隠したシオンが、冷酷な眼差しでこちらを見下ろしていた。


「気楽なモンだなァ? こちとら必死こいて働いてるっつーのに、呑気に寝転がって女に世話させてんのか? あまりふざけたマネすんならその首、()ねるぞ」

「落ち着きなよ、シオン。クロトは私たちが思ってる以上に深刻なダメージを負っていて動けないだけ。こっちも大変だったんだから変な勘繰りはやめて」


 転移の異能で接近してきたのであろうシオンから向けられた殺意。

 それを軽くあしらうルシアのおかげで若干和らいだが……なに? なんでコイツそんなに怒ってんの?


「ほォ~? そこまで言うんならオレを納得させてみろよ。何したんだオマエ?」

「えっ……午前中に学園最強と十本勝負の試合して、午後は先行組の一人に殺されかけて、復活した後に迷宮主を討伐したくらい……?」


 訳の分からない状況だが、正直に答えないと殺されそうだった。現に蒼の魔剣は引かず、刃先を俺の方に立てて微動だにしていない。下手を打って刺激するのも危険だ。

 今日の内に起きた出来事を簡潔にまとめて話した途端、シオンだけでなくルシアまで顔を二度見してきた。


「アイツとも戦ってんのかよ。……なあルシア、なんでコイツ生きてんだ?」

「まあ、クロトだし……《デミウル》の時から妙に頑丈だとは思ってたから」

「なんなんださっきから好き勝手に言っちゃってさ。もうさっさと武器を仕舞えよ、危ないんだよ!」


 睨みつけたシオンが嫌そうに、魔剣を鞘に納めた事を確認してほっと一息。

 ついでに密着した体勢のルシアも距離を取り、互いに落ち着いた頃合いで手短に情報を共有。


「先生が一人で来たのかと思ったけどノエルと一緒だったんだ……ってか、よく無事で済んだね?」

「弱っちいテメェと一緒にすんな、負ける訳ねェだろ。んで、どうする? ルーザーが死んで魔剣の回収も済んでるなら、オレはこのまま残りの先行組を探すつもりだ。ルシアは……離脱できんのか?」

「無理だね。しばらくクロト達に付き合ってタイミングを見計らうしかない」

「となるとまァた一人で捜索しなきゃなんねェのか……かったりィな」


 シオンは首を(さす)りながら暗く沈んだ空を見上げ、ため息を吐き、ひらひらと手を振り去っていった。

 内輪の面子が引き起こした事態に巻き込まれた挙句、尻拭いに駆り出された彼の心情を察するのは難しくない。


「やたらと皮肉っぽかったり嫌味ったらしい事は言うけど仕事はちゃんとやるんだよな……」

「言動はチンピラそのものだけどね、割と真面目だよ」

「ビジネスチンピラは周知の事実なんだ」


 ルシアも似たような思いを抱いていたらしく、うっすらと笑みを浮かべた。

 さて、ひとまず子ども達の救出も完了したんだし、さっさと再開発区画を出たいところ「おーい!」……ん? キオの声?

 そういえば戻ってくるとかカッコつけてたけど放置してたし、痺れを切らしてこっちに来ちゃったのかな。

 申し訳なさと気恥ずかしさから目を逸らしたくなったが、ぐっと我慢して声のした方を見ると、キオとヨムルが大きく手を振ってこちらに駆け出していた。

 満面の笑みを浮かべて近づいてくる二人にエリック達も気づいて、走り寄ってくる。


 そこからの行動は早かった。

 シルフィ先生が自警団に連絡を出して再開発区画の封鎖を依頼。

 さすがに向こうでも区画の異変は察知していたらしく、違法薬物による暴動の鎮圧を終えた自警団はそれを承諾し、人員を回すことに。


 エリック達は、ドレッドノートの素材が暴動の裏で起こっていた出来事の信憑性を高めてくれる、と言って丁寧に包んだ素材を担いでいた

 そう言われてようやく気づいた。確かに誘拐された子ども達を救出する為に再開発区画へ乗り込んだが、知らない人からして見ると俺達は怪し過ぎる。


 一連の事件を引き起こした犯人のルーザーが死亡していて、身柄を捕らえる事が出来なかった以上、諸々(もろもろ)の証言が取れない。

 壊滅状態、というか更地同然の区画に物的証拠が残っているとも考えにくい……探せばあるかもしれないが数ヶ月は掛かるだろう。


 ニルヴァーナ全体はもちろん、街の一区画と言えど被害が出過ぎた。最悪の場合、暴動の原因も、子ども達の誘拐も、ドレッドノートの事も。

 下手すれば全部、俺達に疑いの目が掛けられる可能性がある。アイツ死んでからも面倒事を増やしやがるな。

 子ども達の証言で情状酌量じょうじょうしゃくりょうの余地は生まれるかもしれないが、念には念を入れておくのは悪くない判断のはずだ。


「決して、理由も無く重傷者を放置して収集に(いそ)しんでいた訳ではないのね?」

「当たり前だろうが。バカにすんな」


 黒ずんでいく視界に映る、見下ろしてきたエリックの言葉のナイフに押し黙る。

 とりあえず、ドレッドノートがもたらした不幸中の幸いというべきか。迷宮が潰れ、魔物の気配が無くなったとはいえ、壊滅しかけの再開発区画に(とど)まるのは危険だという総意もあり、脱出することに。

 点在する魔力結晶(マナ・クリスタ)の自然照明だけでは心細い帰り道を、先生が魔法で照らしながら先導。

 次にシフトドライブの余波で吹き飛ばされてから合流したキオ達とルシアが続き、エリック達も後を追っていく。

 俺はというと……


「にぃに、ちょっとだけ我慢してねっ」

「ああ、うん。よろしくね?」


 何故かやる気に満ち溢れたユキに背負われていた。

 いや、力はあるし姿勢も安定してるしありがたいんだけど……自分より小さい子に背負われるのは、なんだか情けない。しかも心情的に気まずい相手に、である。

 せめてエリックかルシアに、とも思ったが提案するよりも早く、有無を言わさず担がれてしまった。

 そこに違和感を抱かず“まあ、いいか”みたいな目で流した皆の顔を俺は忘れない。


「あのね、にぃに」


 心地良い振動で意識が途切れないように保たせていると、ユキが口を開いた。


「どうした?」

「ずっと迷惑かけて、傷つけて……それでも、助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。ってか、感謝するべきは俺の方だよ。助けに来たはずなのにやられちゃって、いつの間にかユキが戦ってたし。おかげで皆が無事でいられたんだから」

「えへへっ……」


 顔は見えないが、恥ずかしそうに笑みを浮かべているのは想像できる。


「あとね、にぃに」

「うん」

「ユキ、おとーさんのこと知ってるんだ。少ししか、覚えてないけど」

「っ……そっか」


 唐突な告白に言葉が詰まる。

 小声で話している為、周りには聞こえてはいないが……まさか《デミウル》本社ビルの屋上で戦っていた時、意識があったのか?

 いや、ユキの体質を考えればありえる話か。隠し通せていたと思っていたが、既に事情を把握していたんだな。


「ずっと、黙っててごめん。伝える勇気が無くて」

「ううん、大丈夫。悪いのはにぃにじゃないし、にぃにがやってくれたから受け入れられる」

「……強いな、ユキは」

「強くしてくれたのは、にぃにだよ」


 幼げな物言いでありながら、しっかりと芯のある声音。

 知らずの内にキオ達は(たくま)しくなったように見えたし、ユキも成長しているんだな。


「だから、これからはユキも頑張るよ。ゆっくり休んでて」

「──それは、頼もしい……」


 胸の内から湧いた安心感が眠気を誘い、瞼が重くなる。

 思い返せば今日は散々な目に遭ってばかりだった。佳境を迎えた納涼祭、その二日目にこんな事件が起きるなんて思いもしなかったからなぁ。

 とにかく、肉体的にも精神的にも疲れた。お言葉に甘えて、少しだけ休ませてもらおう。

 閉じていく視界の端に残った、魔力結晶(マナ・クリスタ)の自然光。

 どこか柔らかな印象を持たせるそれを見納めて、俺は意識を手放した。


 ◆◇◆◇◆


「しっかしなぁ……これだけじゃ決定的な証拠になるとは言えねぇんだよな」

「やっぱり難しいのかい?」


 クロトがシオンに刃を向けられている最中。

 ドレッドノートの素材を回収したエリックは、これからの事を思案していた。


「自警団の団長とかは理解してくれるだろうが、他の連中がどんな目で見てくるかが問題なんだよ。ほら、ジャンみたいなクソ野郎がいねぇとは限らないだろ?」

「そういうことか……一連の騒動にクロトが関与してると分かれば、ウッキウキで悪評をばら撒く奴は湧いてきそうだねぇ」

「明確な敵を捕縛できなかったのが痛いぜ。おまけに魔剣を呑み込んでねぇか探してみたが、欠片すら見つかんねぇし……ん?」


 頭を悩ませながら唸るエリックの視界に、妙な物が映る。近づいてみれば、ガレキの間から顔を覗かせていたそれは一枚のカードだった。

 拾い上げたカードには豪奢な額縁のような(わく)に街灯の如く吊るされた歯車、そこへ人や動物が絡み合う絵柄が描かれている。

 枠外上部にあるⅩという数字から、運命のアルカナを意味するタロットカードである事は分かる。しかしエリックとセリスにその辺りの知識は無く、売ったら高そうなカードだなぁ、と金銭欲に振り切った感想を抱いていた。


「これは……誰かの落とし物かい?」

「分かんねぇけどなんか存在感あるし、とりあえず回収しとくか」


 タロットカードをポケットに入れたエリックはシルフィ達の下へ戻ろうとして。

 カードが挟まっていたガレキの下敷きになっていたナニカに気づく。不審な思いを抱きつつ取り出せば、それはボロ切れ寸前の黒い布であった。

 若干の水気を含み、土や泥で汚れた厚手の布。ボロボロといってもそれなりの大きさを誇る布に、どこかで見たような……と。


「お二人とも、そろそろ区画を出ますよ! 準備はよろしいですか?」

「あっ、はい! 問題ないっす!」


 背後から様子を見ていたセリスと共に首を傾げ、熟考に入ろうとしてシルフィの声掛けに(さえぎ)られた。

 どうやら自警団への連絡や手配を頼み終えたらしい。咄嗟に布を丸めて脇に抱え、エリック達に手を振る彼女の方へ向かう。

 その背後。少し離れた場所では本日の功労者ともいえるクロトが仰向けで横たわっており、傍には呆れた表情を浮かべるルシアが立っていた。


 身動き一つ取れない状態のクロト。

 そんな彼の面倒を見ておくと、進んで苦労を被ったルシア。これ以上、彼らを放って再開発区画に留まる訳にはいかない。

 特にクロトの身体は限界を迎えている。簡易的に診断したシルフィですら、早急に医者へ診せた方が良いと判断した程に。


 色々と引っ掛かる事柄はあれど、今はさておいて。

 ドレッドノートの脅威が無くなった事で合流してきたキオ達と共に。

 意気揚々とクロトを背負ったユキに運搬を任せて。

 ルーザーが引き起こした違法薬物の散布から始まった一連の騒動は。

 わずか二時間という驚異的な速度で収束していくのだった。

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