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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【五ノ章】納涼祭
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第一〇一話 更に闘う者たち《後編》

ドレッドノートとの激戦です。

 ドレッドノートが放つ咆哮(ハウル)は、魔力を含む音響兵器だ。

 魔法に耐性を持たない者であれば即座に四散し、耐えたところで聴覚を壊し尽くす極悪な物である反面、利点もあった。

 巨大な迷宮(ダンジョン)と化した大穴の岩肌。そこから露出した魔力結晶(マナ・クリスタ)が反応し、大穴の底を照らす灯りとなっているのだ。

 頼りなくも無いよりはマシな魔力結晶のおかげで、エリック達はドレッドノートを相手に(おく)せず戦えていた。

 ……だが。


「この位置ならっ!」


 ルシアがドレッドノートの股下を滑り抜ける。

 最中、落ちていた魔力結晶の欠片を拾い、魔力を込めて足下にバラ撒いて離脱。

 煌々と欠片の内側から溢れ出た光が辺りを一瞬だけ照らして破裂する。一つ一つが(はじ)ける度に近くの魔力結晶が呼応し、連鎖して起爆。


 光源である魔力結晶は衝撃を加えれば爆散する天然の(トラップ)だ。手持ちのナイフでは有効打にならない為、次点で威力が出せる物を判断しての行動だった。

 火や風、雷を(ともな)う爆風と飛散する破片。

 人であれば致命傷であろう爆撃は、しかし硬い表皮を焦げ付かせ、少し傷つけるだけに(とど)まった。


「そう上手くはいかないか……っ!」


 舌打ちし、鞭のようにしなる尾の追撃を目視。飛び退いた地面が、凄まじい靭性を持つ尾によって破砕される。

 頭上から降りかかる不規則な尾と、罅割(ひびわ)れる(たび)に跳ね上がる屹立(きつりつ)した岩がルシアの行動を制限していく。

 それでもなお、彼女を仕留めきれない。業を煮やしたドレッドノートが、巨体に似合わぬ俊敏(しゅんびん)な動きで振り向き様に剛腕を振り上げた。


「嘘でしょ……!?」


 熟練した戦闘経験を持つルシアですら、異常なまでに素早い動作に瞠目する。

 避けようにも不安定な足場に意識を絡め取られ、反応が遅れてしまう。


「やらせるかッ!」


 直撃を受ける寸前でエリックが割り込み、振り下ろされた岩石をも切り裂く爪の一撃を《スクレップ》で防ぐ。

 炸裂する衝撃が大穴を揺らす。身体を支える脚が地面に埋没するほどの怪力。

 脂汗が額を伝う。苦悶の表情を浮かべながらも身体が軋むほど渾身の力を込めて、エリックは剛腕を逸らした。


「はあっ!」


 ルシアの手を借りて、飛び退いたエリックと立ち位置を入れ替えるように。

 ドレッドノートの前へ踊り出たカグヤが腕を駆け上がり、無防備な顔面へ“菊姫”を上段に構える。


 通常の魔物など容易(たやす)く斬り伏せる彼女の斬撃。硬い皮膚と強靭な筋肉を持つドレッドノートと言えど、直撃すれば無事では済まない。

 一息に、軽やかな風切りの刃が振り抜かれた──直後、耳障りな金属音が響く。カグヤの目が見開かれる。


 角だ。わずかに首を傾けるだけで打点をずらし、刃を受けてみせたのだ。

 そのまま無造作に振り払われたカグヤは土埃を巻き上げながら地面に着地。

 一瞬の攻防に含まれた確かな技巧の応酬。“菊姫”を構えつつも手に残る感触が、ドレッドノートの底知れなさを痛感させた。


 ──強い。今まで戦った、どんな迷宮主よりも。


 砕けそうな身体を持ち直したエリックはドレッドノートに対する認識を更に強める。

 楽に倒せる相手ではないとは思っていた。だが、まさかここまで手強いのは予想外だった。

 恵まれた肉体、骨太な四肢、一挙手一投足の度に膨れ上がる筋肉。速く、硬く、重く──構成する要素の全てが、圧倒的な暴力の塊。


 内包する魔力は絶えず身体中を巡り、蒸気のように噴出している。

 恒常的な肉体強化……(すなわ)ち、ペース配分を考えずに使えるほど潤沢な魔力を内包している事への証左でもあった。

 獣じみた野生と確かな知性がもたらす、己の利点を理解した戦いの流れ。

 生まれながらにして迷宮の王たらしめる天性の才能は、エリック達との間に決して浅くはない溝を作り出していた。


「くそったれがよ! 手数が足りねぇ!」

「魔力結晶のトラップも効果は薄いし、まともにダメージを通せるのがカグヤしかいないからね……」


 シノノメ流独自の歩法を活用し至近距離で切り結ぶカグヤを守る為、悪態を吐きながらエリックが駆け出す。

 その背中を見送りながら、ルシアは眼帯に手を掛ける。


「……ダメだ。このまま視れば、確実に二人を巻き込む」


 せめて自分だけを視界に入れる機会が出来れば……なんて、そんな都合の良い場面は作れない。

 甘えた油断を見せた瞬間、ドレッドノートは愚かな餌を腹に収めるだろう。

 そもそも効くかどうかも分からない。通常の魔物やユニークであれば従える事は可能だが、迷宮主に試した記憶が無いのだ。

 不確実な魔眼を頼り、前線で戦える二人を行動不能にさせる訳にはいかない。魅惑の魔眼(バロール・アイ)の行使を思考に混ぜて、即座に弾き出す。


「ルシア! 咆哮(ハウル)が来るぞ!」


 爪牙による怒涛の攻勢を(さえぎ)りながらエリックが叫ぶ。

 はっと顔を上げ、口腔に収束した魔力の塊が視界に入った瞬間。ルシアは(なか)ば反射的にその場から跳躍する。


『──ゴアッ!』


 砲声。可視化された魔力の揺らぎが地面に激突し、破裂する。

 身体を押す爆風と内臓を浮かす衝撃。飛び散った岩の破片が咄嗟に前面へ出した腕を貫いた。


「つぅ……器用な真似を……!」


 思わず顔をしかめる激痛に手が緩み、握っていたナイフが転がる。

 たたらを踏み、痛みによる痺れを堪えながらルシアは破片を引き抜く。滴る血が地面を染めた。

 周囲を無差別に壊し尽くす広範囲攻撃に、範囲を絞り局所的な遠距離攻撃を可能とする咆哮(ハウル)


 どちらも厄介な上に身動(みじろ)ぎだけで脅威となる肉体も合わさり、エリック達は着実に、小さくない負傷を重ねていた。

 幸いなことにエリックが敵意を集めているおかげで、ドレッドノートは彼らを無視して地上に進出しようとはしていない。

 矮小(わいしょう)ながらも脅威と定めるほど、彼の防御力は一般の冒険者を遥かに上回っていた。


「ぐわっ!」

「エリックさん!? うぐっ!」


 だが、それでも、暴虐の限りを尽くすドレッドノートを止められない。攻撃を引き付けていたエリックがカグヤ諸共、剛腕の一振りで弾き飛ばされる。

 数度のバウンドを経て土まみれの体を起こし、えづきながら立ち上がろうとする彼らの前で。

 ──先ほどの咆哮(ハウル)とは比べ物にならない。極限まで凝縮された魔力を蓄える、ドレッドノートの姿が見えた。


 背筋が泡立つ。脳内に警鐘が響き渡る。

 アレは、レベルが違う。地盤を崩落させた物よりも強く、広く、全てを討ち滅ぼす火力が込められた必殺の一撃。


 ルシアが拾い直したナイフに魔力を纏わせ投擲し、暴発を狙おうとして踏みとどまる。

 あれだけ高密度な魔力塊だ。突けば行き場を失い暴走し、強烈な爆弾へと変貌する。ドレッドノートは無事では済まないだろうが、それはルシア達も同じ事だった。


「やべぇ……!」


 ルシアの行動から察したエリックは、ふらついた体を引きずって。

 上体を逸らし、空を仰ぐように。咆哮(ハウル)の発射態勢に入ったドレッドノートの前で。

 守護の盾である《イグニート・ディバイン》を発動させる……が、蓄積された傷と疲労が結界の展開を遅延させ、耳障りな砂嵐の音が結界の不安定さを物語っていた。

 ドレッドノートの攻勢にほぼ一人で対応していたツケが回ってきたのだ。


 ──ダメだ、間に合わねぇ……!










「“静寂(しじま)(そら) 彼方より光は(くだ)る”」


 せめてカグヤとルシアだけでも、と自らの身を盾にする覚悟で歯を食い縛ったエリックの耳に声が届く。

 それは、詩のような詠唱だった。


「“夜闇(よやみ)を裂き 黎明(れいめい)を越え 集いし(ともがら)(みち)を示せ”!」


 ドレッドノートも詠唱に気づかない訳がなく、収束した魔力を解き放とうとする。

 だが、迷宮の王よりも速く、極大な光の柱がドレッドノートの上半身を呑み込んだ。

 染み入るような金属音が反響し、大穴を明るく照らす。視界を奪う極光に誰もが腕で目を覆った。


 咆哮(ハウル)ごと消し飛ばすほどの、光の柱が持つ膨大な熱量は風を起こしエリック達に叩きつけられる。

 そうして徐々に光の柱が細く粒子となって消失し、視覚の機能を取り戻した彼らは目を開く。

 視界に飛び込んできたのは、上半身を消し飛ばされたドレッドノートの亡骸と、


「ういァあ!」

「ああっセリスさん!?」


 上空より落下し背中をしたたかに打ち付け、奇声を上げたセリスに駆け寄るシルフィの姿だった。

 窮地を救い出してくれた恩人としての威厳は一切ない情けない登場。だが、心のどこかで二人ならば必ず来てくれるという確信があった。

 命の危機を脱した安心感から《イグニート・ディバイン》を解除。毒気を抜かれるやり取りを目にしたエリックがため息交じりに呟く。


「お前、何やってんだよ……」

「いやぁ、高い所から飛び下りるなんて人生で初めての経験だったからさ。びっくりしちまった」

「注意はしていたのですが、魔物がこちらに向けて攻撃態勢を取っていたので……迎撃を優先してしまいました。すみません」

「なぁに、気にするこたぁないよ。怪我はしてないし、エリック達を襲ってたヤツもついでに倒せたんだから結果としちゃ最高さ」


 セリスは背中を擦りながら立ち上がり、笑顔を見せる。

 気恥ずかしそうに肩を竦めたシルフィも咳払いを一つこぼし、気を取り直してカグヤ達の方へ向き直った。

 それぞれの状態を確認しつつクロトのような重傷を負っていないと知り、次いでルシアを視界に入れた瞬間に目を見開く。

 当然だ。彼女は穴の底で戦っているのが、エリックとカグヤの二人だけだと思っていたからだ。


「貴女は、確か《ディスカード》で子ども達を助けに来てくれた……ルシアさん、でしたよね?」

「ええとまあ……お久しぶり、と言えばいいのかな」


 顔見知り程度に覚えられていた事に気まずさを感じながら、ルシアは頭を下げた。


「彼女は攫われた子ども達を捜索するクロトさんに出会い、事情を聞いて協力を申し出てくれたそうなんです」

「ちぃとばかり予想外の出来事が重なっちまって、こんな事に巻き込んじまったけどな」

「なるほど、そういう事でしたか」


 苦し紛れの言い訳が功を奏した結果とはいえ、君たち納得するの早いね……? もうちょっと疑ってもいいんだよ?

 人の好さに甘えてる気がする、と。罪悪感を悟られぬように無表情を維持したまま、互いにこれまでの経緯を説明し、情報を共有。


「ドレッドノートの咆哮(ハウル)で障壁が半壊したぁ!? やっぱりアイツとんでもねぇな……」

「そんなのを相手にして三人とも大怪我してねぇのもどうかと思うぜ?」

「クロトさんと子ども達の安全は確保してきましたが、時間を掛けるほど状況は悪化していきます。早々に脱出するべきかと」

「貴女ほど魔法に精通した者であれば、どうとでもなるだろうけど」

「…………?」


 思い思いに言葉を交わす面々を横目に辺りを見渡すカグヤが、ふと気づいた。

 シルフィの手により葬られたドレッドノートの亡骸。

 上半身を抉られ、熱量に焼かれた下半身の断面は焼け焦げ、血も流さない凄惨な死体は今もなお灰にならず、その場で鎮座している。













 そう──()()()()()()()()()である灰化が、どこにも見られないのだ。

 つまり、ドレッドノートは、死んでいない。


「……っ!?」


 顔を驚愕に染めたカグヤが皆に知らせようとして、異音に目が引き寄せられる。

 ドレッドノートの断面から滲みだした淡い紫色の魔力。焼けた肉の奥で脈動する光が泡となり、グズグズの肉塊が溢れだす。

 輪郭をかたどり、瞬く間に再生していくドレッドノートの肉体。水気を含む嫌悪の音が視線を集めた。


 確かに再生能力を持つ魔物というのは存在する。体内に魔力を溜め込む特殊な器官があり、魔力を消費する事で自己治癒を可能とするのだ。冒険者として活動する者なら誰もが目にする機会がある為、多少の傷を負わせても決して油断はできない。


 ベヒーモス種に分類されるドレッドノートにも再生能力は有る。しかし他の再生能力持ちの魔物と比べれば微々たるもので、傷ついた皮膚の表層を緩やかに治していくだけだ。

 ましてや頭部に心臓といった生物にとって生命維持に関わる器官を根こそぎ焼失した、文字通り即死の状態から灰にならず蘇るなど、ありえない。

 故に、目の前で発生している現象に脳が理解を拒もうとする。だが、無情にも時が止まる事は無い。


 ──魔力を消費して治癒能力を高めた? 魔力を使う頭も心臓も無しに?


 エリックの胸中に何かが引っ掛かった。そんな思考の合間にもドレッドノートは再生する。

 尋常ではない速度で臓腑が、神経が、骨格が、筋肉が、肉体を構成していく。……どこか既視感を抱く、()()()()()()()を纏って。


 ──……アレは魔剣の……まさか!?


 ◆◇◆◇◆


『そういや異能が目立ってて聞きそびれてたんだが、“魔”って付いてるくらいだしレオに魔力はあるのか?』

『……魔科の国(グリモワール)で初めて触れた時、魔力切れ寸前だったけど血液魔法は使えてたなぁ。そこんところどうなの レオ?』

『あるぞ。正確な量は不明だが……汝らの言葉で例えるなら、Aランク相当の魔力量になるのではないか?』

『お前まで俺より魔力あるの? 納得いかないんだけど?』


『だが、()()()()()()()()()()()()()()()()。あくまで許容量がAランク並みというだけだ』

『……ん? どういう事だ?』

魔導人形(オートマタ)なるゴーレムの動力源である魔導核は知っているな? アレは魔力を貯蔵するだけでなく、大気中の魔素(マナ)を吸収し、供給する事で魔導人形の長時間活動を可能としている。アレらが持つ機能と我は非常に似通っているのだ』


『ははーん、読めたぞ? さてはお前、召喚時は剣として実体があるから魔力を(とど)められるけど、非召喚時では粒子化する影響で保てず霧散するんだろ?』

『だから妙な言い回しだったのか。ってこたぁ魔剣に接触してる状態じゃないとクロトに魔力を譲渡できねぇのか』

『うむ。我が適合者のコンプレックスである、少ない魔力量を補う絶好の手段ではあるのだが』

『やかましいわ』


『そう邪険にするものでもないぞ。少なくとも我を手にしてさえいれば莫大な魔力を引き出し、行使する事が可能になるのだからな』

『でも使ったら減るでしょ? 魔力。それに使い終わったら粒子化するとかデメリットあるんじゃない?』

『恒常的に魔力を高速供給するのだ、最大容量は変わらない上に消費もせんよ。そもそも粒子化するかどうかは我次第だ、適合者を置いて勝手に消えるような真似(まね)はしない』


『…………その言い方、もしかしてずっとMP満タンの状態で動けるの?』

『さすがだな。理解が早くて助かるぞ、適合者よ』

『つまり、血液魔法やら魔力操作やらスキルが燃費関係なく使い放題って事か。やべぇな』


『付け加えて言うと、適合者でなくとも魔剣に触れていれば汝の仲間にも同様の恩恵を与えられるぞ』

『誰でも使える魔力供給タンク……ってコト!?』

『異能ですら訳分かんねぇくらい強いのに補給源としても使えんのか……尚更カラミティに渡せねぇよ、お前』


 ◆◇◆◇◆


 クロトとレオ。二人と交わした何気ない会話の記憶が脳裏をよぎる。

 レオの言葉通りなら、ルーザーが適合者なのだとしたら、喰われたアイツの手に魔剣が握られていたのなら。

 ドレッドノートに起きている不可解な現象に辻褄(つじつま)が合う。奴が持つ本来の魔力に加え、魔剣から引き出した莫大な魔力があれば肉体の再生など容易い。


 そして真に恐れるべき点は、(まぬが)れない死すらも超えようとするドレッドノートの生存本能。偶然を掴み、必然とした天運。

 治りかけた眼窩(がんか)に蠢く眼球は、己を追い詰めた敵を逃さない。


 やがて……ズシン、と。元の姿を取り戻したドレッドノートは地につけた四足で再び立ち上がり、硬直したエリック達を鋭く睨みつけた。

 戦いは、まだ終わらない。おぞましい光景に動揺し(おのの)きはすれど、その場の全員が戦闘態勢に入り、


『──ッ!』


 応えるように、先ほど発射を阻止された咆哮(ハウル)と同等の魔力。それが瞬時にドレッドノートの口腔に収束した。

 シルフィの魔法よりも、カグヤの斬撃すらも凌駕する速度で。


「攻撃の溜めさえ、段違いに……!」


 回避は不可能。最早なりふり構っていられる状況ではなかった。

 エリックは強く歯を食い縛り、《スクレップ》の切っ先をドレッドノートに向けたまま《イグニート・ディバイン》を発動。

 ここで自分が防がねば、死人が出る。そう確信できる脅威に臆することなく、展開された半透明の結界は彼らを覆う。


 その直後。

 ドレッドノートを中心に一瞬の閃光が目を潰し、結界を越えて伝わる衝撃が身体を揺さぶり──天地が割れた。

 魔力が込められた大音量の咆哮(ハウル)は大穴を構成する全てを陥没させ、隆起させ、変貌させていく。

 視界を奪われたエリック達は前触れを知ることなく、せり上がる地面に突き上げられ、結界ごと跳ね飛ばされた。


 穴の底まで数十メートルはあった大穴は土属性の魔力によって姿を変える。

 数多の迷宮は破壊され、壁面は玉座へ至らせる階段のように。

 陽光の入らない穴底は、ただ一人の王を称賛するように盛り上げられた。

 地底より地上へ。

 埒外の能力を得たドレッドノートは、眼下に倒れ伏すエリック達に興味を失ったのか。

 視線を外し、より多くの餌を求め、ようやく薄闇が差した空の下を凱旋する。

次回はユキの視点になります。

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