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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【一ノ章】 異世界はテンプレが盛り沢山
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幕間 女神プレリュード

 夢というものは曖昧である。

 寝ている間は鮮明に記憶していたのに、目が覚めたらその内容を忘れてしまっていることがほとんどだ。

 しかも、ガラスよりも繊細で(もろ)いそれは、意識せずとも見たくもないものを見せてくる。

 そう、例えば──。


「おはようございまーす……。髪切った?」


 似合わないサングラスを掛けてマイクを持つという、ふざけた格好をした女神(イレーネ)だったり……いや、これ夢じゃねぇな。


「…………何してんの?」

「神の晩餐会でやる予定だった有名人のモノマネ」


 俺は飛び起きた勢いを殺さず、右手でイレーネの頭を締め上げた。




 すっかり存在を忘れていた精神空間で目が覚めた俺は、腕を組んでイレーネの前に立つ。


「なあ、イレーネ。俺はさ、今日も鍛冶ですっごく疲れたから、変なことは考えないように宝珠は持たずに寝たはずなんだよ。高カロリーな夕食で空腹を忘れて、気持ちよく眠っていたんだ。……なのに、なんで連れてきたんだよ?」

「い、いや、この前言ったでしょ? 会わせたい子がいるって。その子、これから(わけ)あってずっと忙しくなるから、早い内に挨拶を済ませてあげたかったのよ」


 ちょこんと正座し、掴まれた所に氷嚢(ひょうのう)を当てながらも、イレーネは涙目で説明してくれた。

 そういえばそんなことを言ってたような気がするな……。


「だとしてもだよ? 俺だって事前に連絡くれたらこんなに怒らないさ。『あー、今日なんか用事あるのかー、じゃあ行こうかな』くらいのテンションで来るよ」

「でしょうね……」

「でもね、すっかりいい気分で寝てる人を強制的に、しかも全然似てないモノマネで起こすアホが目の前にいたら、大抵の人はマジギレするんだよ! お前だってそうだろ!?」

「はい、その通りです……」

「大体なんのための宝珠だよ! 俺を簡単に呼び出す為に通話効果を付属させたんじゃなかったのか!? 作成者自身がそれを忘れるってどういう了見だ!」

「申し訳ございません……」

「──しかもお前、その髪と肌の様子から見るに、ここ最近ろくに寝てないだろ?」


 ビクッと。イレーネの身体が震えた。


「やっぱりか……」

「だだだだだって仕事忙しいし、書類も溜まりに溜まってるから寝る暇なんてないんだもの! 現に今は別世界線の神様が地球の人を生死問わず強引に異世界に送るなんて異世界間法令違反ギリギリのふざけた移民政策をしやがったせいで、死者の取り締まりが前よりも厳しくなっちゃったのよ! そのままでいてくれたら、私の負担も減ってたのにぃ……!」

「世の中には頭のネジが数本抜けているようなヤツがいるが、その神様はネジが全部抜けきってるんだな」


 もうお仕事したくない、お布団に埋もれていたい、などと不貞腐れるイレーネを慰めていると。


「って、すっかり本題を忘れちゃってたじゃない!」

「おお、そうだったそうだった。うっかりしてた」

「クロトくんといると、なんだか愚痴を言いたくなっちゃうのよね……。とりあえず呼んでくるから、ちょっと待ってて」


 颯爽とこの場を離れていくイレーネを見送り、白い地面に腰を落とす。

 しっかし、俺に会わせたい人ねぇ……。一体どんなのが現れるのやら。




 程なくして、現れた。

 精巧な人形と見間違いそうになるほど端整な容姿に、イレーネとは対となるような金色の髪と瞳を揺らす、


「お待たせ! ほら、自己紹介して!」

「う、うん。……こ、この世界全体の管理と調整をしている、し、シンリです。イレーネちゃんとの関係は友達で、コウトさんとクロナさんとも友達で……。クロトさんとも、な、仲良くしていきたいですし、ここ、これからも顔を合わせることがあると思いますので、よろしくお願いしましゅ!」


 とんでもない役割と交友関係を持った幼女が。


「かかか噛んじゃったぁ……!」

「大丈夫よ! あがり症なのに頑張った方だと思うから!」

「慰めるか煽るかどっちかにしろよ」


 涙目になっているシンリと同じ目線まで(かが)んで、


「初めまして、俺はアカツキ・クロト。こちらこそよろしくな」

「は、はい」


 おずおずと差し出された小さな手に握手をする。

 すると恥ずかしそうに頰を赤く染めて、握っていた手を放してイレーネの背中に隠れた。


「えっと……、嫌われた?」

「いいえ、クロトくんに対してちょこっと負い目があるだけよ。恥ずかしいのもあるだろうけどね」

「イレーネちゃん!? そそそんなこと言ったら……!」


 俺に対して負い目? …………なるほど、ピンと来た。


「あれか、イレーネが話してた世界の意思って、この子のことか?」

「正解よ。よく気づいたわね?」

「いやまあ、何となくそうなんだろうなって。イレーネとも雰囲気が違うし」

「うっ……。そ、そんなに分かりますか?」

「ああ。これでも人を見る目は鍛えてるからな、大抵のことは分かる」


 そう言うと、シンリは少し恥ずかしそうにしながら、ひょっこりと顔を出した。

 しかし俺を見るなり、また顔を隠してしまう。


「全くもう……。ごめんね、クロトくん。シンリは私としか話したことがないから、他の人との会話に慣れてないのよ。多少強引にでもクロトくんと会わせれば、ちょっとは自信も付くとは思ったんだけど……」

「そういうのは勢いつけてやってもダメだぞ? 無理にやったら、シンリにとっては負担にしかならないからな?」

「ご、ごめんなさい……」


 イレーネの背中から、そんなか細い声が聞こえた。

 人に慣れてないとはいえ、シンリのこれは相当ひどいな。

 …………あがり症、か。


「なあ、イレーネ。詳しくは知らないけど、お前とシンリはこれから忙しくなるんだよな?」

「そうだけど?」

「それじゃ仕事が落ち着いた時とか、暇になった時とか呼んでくれよ。せっかくこうやって会えるんだから、俺でも話し相手くらいにはなれる」

「……いいの?」

「シンリのあがり症克服に繫がるならな。ってか、元々そうさせるつもりだったんだろ?」


 かすれた口笛を吹いてそっぽを向くイレーネの頬を(つね)る。

 そのまま引っ張ると、頬は餅のように伸びた。

 相変わらず柔らかいな、こいつ。


「いひゃいいひゃいいひゃいっ!」

「やわっこいなぁ。……ほら、シンリもやってみなよ」

「は、はい。……あ、ほんとに柔らかい」

「ひんひふぁへ!? むみょおおおおおおおおっ!」


 左右の頬を俺とシンリに(いじ)られながら、イレーネは絶叫を上げる。

 その様子を見て、シンリは楽しそうに笑顔を浮かべていた。

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