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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【五ノ章】納涼祭
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第八十五話 密談《後編》

雪も解けてきたのでランニングを始めました。

冬の間ロクに運動してなくて体がなまってると思ったので3キロ走りました。

死にかけました。バカちゃう?

「やるべき事は至ってシンプルだ」


 そう言いながらファーストは懐から何かを取り出し、テーブルに広げた。

 どうやらニルヴァーナ全体を写した地図のようだ。自警団の所持する物に比べれば簡素だが、ある程度の位置関係なら示すことが出来る。


「てめェが言った通りオレらは来たばかりだ。調査を進めるにしても時間が足りねェ……なのに迅速で事態を収束させなきゃならん」


 俺とセカンドは覗き込むように身を乗り出し、ファーストが地図上にチェスの駒のような小さな模型を置いていく。


「だから先走って動いた連中──先行組と仮称する。ヤツらが身を隠している場所を暴き、ニルヴァーナで大々的に行動を起こす前に確保する。先行組は三人の幹部で構成されていたが、今や人員は二人だけ」

「……っ」


 三つの駒の内、一つを転がしてファーストは淡々と説明を始めた。

 息を呑むような音がセカンドから聞こえたが、ファーストは気にせず続ける。


「こんな事を仕出かしたバカ共だが幹部を減らす訳にはいかない。一人は貴重な適合者だしな、殺しは無しだ……基本的にはな」

「暴走する、もしくはその兆候が見られた場合は例外ってところか。居場所を特定する手段は無いのか?」

「……クラッシュがいればデバイスの魔力波を感知できるけど、今回は別の任務に就いてて連れ出せなかった。派手に捜索したらバレるし、怪しい所を虱潰(しらみつぶ)しで探すしかない」

「そうか。念の為に聞くけど、先行組が持ち出した魔剣の不思議な力がどんなものか知ってるか? 蒼の魔剣みたいな……」

「さァな。カラミティが保有している魔剣は何本かあるが、力を完全に理解してるヤツは少ねェ。そもそも他の幹部が能力を明かすようなマネはしねェんだよ……手札がバレちまえば、対策はいくらでも取れるからな」


 確かに仲間内だろうとどこから情報が漏れるか分からないなら、安易に力を明かさないのは正しい判断だ。適合者(イコール)幹部として選出されるわけでもなさそうだしな。暗殺・隠密技術が優秀なセカンドが幹部の座に着いていることからもそれは分かる。


 ユキの奪還に協力してくれたクラッシュという構成員も、彼女が持つ情報収集能力を買われて特別なコードネームで呼ばれていた。きっと幹部に近しい人材なのだろう。

 そんな幹部が味方だと思っていたら寝首を掻かれるなんて、カラミティぐらいの組織にはありそうな展開だ。


「ただしボスだけは各魔剣の能力を把握してるぜ。俺の魔剣みてェな単純なのは特にな……てめェのも例外じゃあねェぞ」

「だろうね。痕跡も残滓も視覚的に見えてしまうのが紅の魔剣だ。考えるまでもなく答えに辿り着けてしまう」

「だけど“魔剣の力が常識では図れない”という認識は共通してる。何をするかされるかもわからない現状、警戒は怠らない方がいい」

「目に見えない現象を引き起こすタイプなら一筋縄ではいかないからな」


 痛いほど経験しているので素直に納得する。

 しかし、この二人ですら先行組の異能を察知してないのか。これでは下手に誘導の異能であると明かしても信用は得られないな。知らない振りをしておこう。


「事前に知っておけば何か対応策は練られるかと思ったけど、そういうことなら仕方ない。……話を進めるが、俺は先行組の捜索に協力することは出来ないぞ。納涼祭の出し物で学園から離れられない」

「あっ、それもそうか。なら、そっちの方で何か気づいたことがあれば教えてくれるだけでいいよ。これ、デバイスの通話番号」


 軽率に連絡先を教えてくるのちょっとビビるな……常用してるものではないんだろうけど。

 地図の片隅に書かれたセカンドの番号をデバイスに登録し、しっかり繋がるかを確認してからポケットに仕舞う。


「ついでに潜伏箇所として最適な場所がどこか教えろ。そこを念入りに調べる」

「潜伏ねぇ……」


 ファーストの言葉を受けて思考する。

 まず馬鹿正直にカラミティの外套を着用してるとは思えないし、一般人に紛れてるはずだ。だけど宿泊施設は使わないだろう。

 ほとんどの宿やホテルは自警団と提携し、団員を何人か配置して警備に当たっている。安易に近づくのは危険だ。

 ならば裏路地などの暗がりに潜んでいると見て……人の目が届かない場所、自警団も入り込まない、身を隠すのに最適な地区……ここか。

 見下ろした地図に置かれた駒を一つ持ち上げ、街の南西地区に配置する。


「可能性があるとすれば()()()()()。何年か前に《魔科の国(グリモワール)》の企業が土地を買っていくつも工場を建てたけど、汚職やら収賄がバレて本社が潰れたから廃棄されたんだ」

「廃棄からだいぶ時間が経ってるのにまだ開発段階で止まってるの?」

「どうもその企業は工場をダミーにして勝手に迷宮(ダンジョン)を掘り起こしてたみたいなんだ。迷宮資源が目当てで、それもかなりの数を」


 ギルドの許可なく迷宮を発掘、しかも後始末をする暇もなくニルヴァーナから撤退したせいで、魔物(モンスター)が迷宮外に出てくる大量進出(スタンピード)が発生。

 対応した自警団と冒険者の活躍もあり事件は収束したものの、完全な封鎖を施すには金も資材も人も足りない。迂闊(うかつ)に迷宮へ手を出せば複数の迷宮主が出現する恐ろしい事態も考えられた。


 故に現在は決して立ち入らないように厳重注意、そして自警団の中でも指折りの実力者を置いている。その上で区画全体に専用の魔法障壁を設置して、なんとか魔物の進行を食い止めているのだ。

 しかし一度侵入してしまえば、ある程度の自衛能力を備えていれば……隠れ家としては最高の立地になる。


「そんな危険地帯を抱え込んでんのかよ、ニルヴァーナは」

「最近ようやく本格的な対処に乗り出そうって話が出てくるほどには危険視してる。主に脅威なのはユニークと迷宮主だけど……とにかく、調べるならここが怪しいと思うよ。闇雲に探し回るよりはマシだ」

「うん、試す価値はありそう。……こっちでも情報を掴んだら連絡する。一応、いつでもデバイスに出られるようにしておいて──ッ」


 セカンドは言い終えた瞬間、近くの茂みに目線をずらす。

 それに反応したファーストが地図を畳み、駒を片付けて、話はこれで終わりだと言わんばかりに立ち上がる。


「……誰か近づいてきてる。数は一人」

「ああ。だが妙だな、この辺りは結晶灯がほぼねぇし物陰も多い。なのにまっすぐ向かってきてやがる。相当鼻の利くヤツだ」

「すぐにこの場を離れるか? ……あっ、ダメだ。逆に俺が目を付けられるな」

「わざわざ人気の無い場所で一斉退去の勧告を無視して集まってるとか、怪し過ぎるもんね」

「チッ、しょうがねェな……」


 端正な顔を不機嫌そうに歪めてファーストは四阿(あずまや)の外に出た。

 いったい何を──声をかけようとして、体の陰で揺らめく奇妙な輝きが視界に入る。鮮やかでも暗くともない、ただただ蒼い光の明滅──あれは魔剣だ。

 心臓が跳ねる。しかも武装してない状態で取り出したということは、魔剣の粒子化から顕現させたのだ。

 蒼の魔剣は二対で一つ。その内の一本を振りかざして彼は振り向く。


「セカンドだけならいくらでも説明はつくだろ。オレは先に戻る、後は上手くやれ」

「え、ちょっ」


 それだけ言い残して、蒼の魔剣が持つ転移の異能を用いて瞬時に姿を消した。

 跡形も無く、初めからそこにいなかったかのように。恐らく、あらかじめどこかに設置していたもう一振りの魔剣の元へ彼は移動したのだろう。

 戸惑いながら伸ばした手が空を切り、セカンドはぎこちなく首を動かしてこちらを見る。

 そりゃあ呆然とするよ……などと不憫に思っていたらガサガサと茂みが揺れた。分かりやすくお互いの体がビクッと跳ね上がる。

 さすがに身柄だけでも隠せ隠せ! と服に指を差し、頷いたセカンドが外套を脱いで丸めた。外套の下は作業員が着るような衣服で固めており、全体的に見れば若くも実力のある職人に見える。


「よし、これでどうにかなるはず……おかしな所はないよね」

「大丈夫、ばっちり普通の一般人だよ。眼帯は外さなくて大丈夫?」

「これ、は……うん、外したくないからいい」


 右目を眼帯の上からそっと撫でつけて苦い表情を浮かべる。やっべ、地雷を踏んだかもしれん。リカバリーしなきゃ。

 しかし言葉を選ぼうと脳内の語彙を検索している最中、茂みから影が飛び出してきた。


「あっ、やっぱりいた! ねぇね、にぃに見つけたよ!」

「待ってください! そんなに急ぐと転びますよ、ユキ」


 (あお)が混じった白髪を躍らせ、元気よく近づいてきたのはユキだ。続くようにカグヤが顔を出し、こちらを視界に収めると顔を(ほころ)ばせた。


「二人とも、もしかして探しに来てくれたの?」

「だってにぃに、全然かえってこないんだもん。みんなおなかすいてるよっ」

「夕飯の用意が済みましたので、ユキの鼻を頼りに迎えに来たんです」

「そっか……ごめんごめん、久しぶりに知り合いと話せて時間を忘れてたよ。カグヤは知ってるよね? 《ディスカード》で俺たちを助けてくれたルシアだよ」

「んっ、んん……やあ、こんばんは」


 気まずそうに咳払いをしてからルシアが手を挙げる。


「まあ……ユキが言っていた女性とは貴女の事でしたか。あの時は本当に助かりました、おかげで子ども達も元気に暮らせています」

「いいよ、そんなにかしこまらなくて。お互いあれから大変だったろうし苦労はよく分かるよ」

「ありがとうございます。……そうだ、もしお時間がよろしければ一緒に食事でもしませんか? せっかくこうして出会えたことですから、ルシアさんのお話を聞きたいです」

「んぐっ」


 パッと花が咲いたようなカグヤの笑顔に気圧されたのか、ルシアは喉奥で声を詰まらせた。

 すげぇや、自然な受け答えで断りにくい状況を作りあげてる。陽キャに絡まれた陰キャみたいになっちゃってるよ。

 その様子を眺めつつユキの頭を撫でる。しょうがない、助け舟を出すか。


「いいんじゃないかな。一人増えたところで負担は微々たるものだし、帰る途中で見回りの教師に見つかったら申し訳ないし」

「!?」

「引き留めた事情はミィナ先生と学園長に直接お伝えすれば問題ありませんからね」

「っ!?」

「わーいっ! ごはんのじかんだぁー!」

「ッ!?」


 まさかの展開に驚愕の表情を貼り付けたまま、三人の顔を流し見てユキに抱き着かれた。そのまま手を引かれて立ち上がり、四阿の外に連れ出される。

 抵抗なんてできる訳もなく、流されるままに。

 ルシアを(まじ)えた俺たちはアカツキ荘に向けて歩き出した。


次回、エクストラステージとしてルシアとの個別イベントになります。

お楽しみに。

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