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自称平凡少年の異世界学園生活  作者: 木島綾太
【五ノ章】納涼祭
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第八十一話 キミと一緒に《前編》

お待たせしました。ようやく休みが取れたので投稿します。

デート回第三弾の始まりです。

「シルフィ先生にカグヤもだけど、今日は妙にグイグイ距離を詰めてきてドキドキするなぁ……」


 機嫌の良いカグヤと共にアカツキ荘へ荷物を運び終えた後、女装喫茶のシフトの時間が近づいてきた彼女と別れて学園内を練り歩いていた。

 しかし納涼祭の雰囲気と夏の暑さ、さらにこれまで一緒に祭りを楽しんでいた彼女たちとのやりとりが影響してか、ほわほわと柔らかい物で全身を包まれているような感覚が離れない。


 今まで生活を共にしているにもかかわらず、二人の思っていることや考えていることを想像しなかった。あったとしても表面上の部分だけで、深い所は聞かなかったし聞こうともしなかった。

 その二人が()(てら)わず正面からまっすぐに感謝や関心を伝えてきたのだ。

 心地良い感触なんだけど、面と向かって本心をぶつけられるのは嬉しくもあり恥ずかしくもある。


「でも、なんでいきなりあんなこと言ってきたんだろう? 祭りの空気に当てられたのかな」

『ふう……ようやく落ち着いてきたな』

『ああ、凄まじい情報量だった。肉体が無いのに気分が悪くなるとはな』


 あっ、バカ二人が復活した。


『まったくもう……調子に乗って安易に感覚を繋げるからそうなるんだよ』

『レオが接続を止めようとしたのが疑問だったが、酷く痛感させられた。アレを戦ってる最中に組み込んでいるのか? よくついていけるな』

『我とてあの集中状態の時は完全に切り離すようにしている。刹那の(またた)きであっても極限まで濃縮された密度の情報が押し寄せてくるのだ。迂闊に繋げばこちらがやられるぞ』

『魔剣の意思たる私たちが適合者のスペックに置いていかれるのか……』

『人が長年磨き上げてきた特技を異常の塊みたいに言いおって』


 脳内の会話に相槌を返しつつ学園外周の道から構内に入る。午前中や昼間に比べれば人の数は落ち着いてきたように見えた。

 現在時刻は十五時前、納涼祭は十七時まで。人波が薄れていくのも納得の時間帯だ。

 俺は十六時から調理班のシフトがある。ほぼ片付けしか残ってないとは思うが、それまでには女装喫茶に戻らなくてはいけない。

 ……さて、何の出し物で暇を潰そうか。


自由に狙い撃て(アルシェトリア)で派手に動いたし、軽くご飯でも食べに行こうかな』

『そうか。では、我らはもう少し休ませてもらおう』

『すまないが五感も切り離しておく。用があれば呼び起こせ』

『結局二人してダメージ抜けてないじゃん』


 言動の割に弱々しく二人は脳内会話から退散した。騒がしい住人も大人しくなったところでいざ食の旅路へ、と散策を再開。

 大っぴらに火を扱っても問題ない外の出店と比べて、学園構内の飲食系は軽めの物になる。女装喫茶は俺が防火・防水処理を施した設備で固めているので問題ないが、そうでない出店は生徒会や教師の判断によって制限が掛けられてしまう。


 そんな中でも組同士で提携して運営する出店もあり、外と中で役割を分担して料理を提供している。

 その内の一つであるお店で、ナンのようなモチモチ生地に刻んだ各種野菜、薄切りにして焼いた肉が数枚とピリ辛のソースを挟んで焼いた、疑似ケバブみたいな料理を四個購入。


「うめ、うめっ……」


 香ばしい匂いに食欲が刺激され、外に出るまで我慢できず廊下に設置された長椅子に座ってモグモグ食べる。

 非常にボリューミーで腹に溜まるが味付けのおかげでいくらでも食べられそうだ。

 ぺろりと一気に三個も平らげて、最後の一個に手を掛けようとしたら。


「ハッハァ!! ざまあみろ、お堅い教師と生徒会共めぇ! 逃げ切ってやったわよォ!」


 どこぞのチンピラかと見紛う言動を撒き散らしながら、フレン学園長が眼前にスライディングして現れた。

 スーツ姿に似つかわしくない顔芸、もとい黒い表情を浮かべており、あまりの衝撃的光景に喉が詰まりかけた。急いで果実水で流し込む。


「げほっ……が、学園長、何やってんの……」

「あら、こんな所で会うなんて奇遇ね、クロトくん。私は来賓の案内とか説明とか学園長としての責務を生徒会およびノエル生徒会長に丸投げして逃走中よ」

「簡潔な説明で分かりやすいけどマジで何やってんの?」


 コイツ、シルフィ先生が言っていた捜索隊を全部ぶっちぎってきたのか。思わず頭を抱えそうになる情報の羅列に声音が据わる。

 当の本人は俺や周囲から向けられる奇異の視線を意にも介さず隣に座ってきた。しかも食べようとしてた疑似ケバブも奪いやがった。遠慮が微塵も感じられない。


「外部の人間を大勢呼び寄せてるんだから、こういう時こそ真面目に仕事した方がいいんじゃないの……?」

「だって折角のお祭りなんだから私だって楽しみたいもーん。最低限の対応はしたんだから別にいいでしょ」


 子供じみた反論を押し通して学園長は疑似ケバブを頬張る。

 ……なんでお酒が欲しいわね、みたいな顔してんだ。白昼堂々飲酒とかアウトに決まってるだろ。


「それにしても毎年のことながら手が込んでていいわねぇ……美味しい物にありつけるし、本腰を入れて準備した甲斐があるってものよ。おかげで魔科の国(グリモワール)で人気のスポーツを誘致できたわけだしね」

「ああ、自由に狙い撃て(アルシェトリア)はかなり面白かった。景品も総ナメさせてもらったし、しばらくアカツキ荘の食事が豪勢になるよ」

「ん~? 聞き間違いじゃなければ景品を全て手に入れたみたいに言わなかった?」

「生徒会長のスコアは抜いたし、的は全部撃ち落としてオールパーフェクト賞で色々貰ったよ」

「イカれてるわね」


 ドン引きに加えて信じられない物を見るかのような視線を向けてくる。

 なんだよぉ、出来る限りの事を全力で(こな)しただけじゃないか。納涼祭を盛り上げろって曖昧な依頼を出したのはお前だぞ。


「まあ、君が遊戯やら遊びに手を出すと途端に強くなるのは今に始まった事でもないし、当然っちゃ当然か」

「そうだね、息抜きで始めたリバーシで何回やっても俺に勝てなくてぐずってた学園長。ハンデをつけてサポートに先生がいたのに手も足も出なかった学園長」

「おっと、大人の尊厳を破壊するのはやめなさい」


 口元に付いた汚れを紙で拭いながら、ジト目で訴えかけてくる学園長を鼻で笑う。

 アカツキ荘で暮らし始めて数日が経った頃。俺が片手間に作成していたリバーシを晩酌で良い気分になっていた彼女が持ち出し、勝負しましょう! とか言ってきたのが事の発端だ。

 ルール自体は学生組で遊んでいたのを見て把握していたので早速対戦を開始。

 数戦ほど遊んで、どう足掻いても盤面が全て黒く染まってしまうことに不満を言い始めた。いや、決して弱いわけではないのだが……。


 じゃあ酔いを()ましてからハンデをつけるし先生も補助に置いていい、とめちゃくちゃ有利な条件を与えてゲームを再開。

 勝ったわ、なんてドヤ顔で胸を張った学園長と先生コンビを、さすがに圧勝という場面は少なくなったが全戦全勝。

 挙句の果てにはどうすれば勝てるか、二人して知恵熱が出そうなくらい頭を悩ませていた。

 結局その日は思考回路がオーバーヒートしてダウンした二人を部屋まで運んでお開きとなったのだ。


「今に見てなさいよ、ぎゃふんと言わせてあげるわ……」

「そんな震えた声で強がってもなぁ。それで、これからどうするつもりなんだ? 俺は今すぐお前を縛って捜索隊に突き出すつもりなんだけど」

「残念でした~、もう捜索は打ち切られて解散してるはずなので問題ありませ~ん」

「じゃあなんでこんな所で爆走してたんだ……?」


 端正な顔で腹が立つ表情のまま煽ってくる学園長。一瞬、容赦なくアイアンクローをくらわせようか迷って疑問が口を突いて出た。

 首を傾げれば彼女は俺の顔を指差してニヤリと笑う。


「君と納涼祭を見て回りたくてね、逃げながら探してたのよ」

「俺と? というか、そういうことならデバイスで連絡をくれればよかったのに」

「逃走中にデバイスなんて使ってたらすぐさま捕らえられて終わりよ。それにあちこち走り回った甲斐もあって、興味深い出し物も見つけられたし」


 言ってることも行動原理もハチャメチャだが、納涼祭を満喫したいという気持ちは本心なんだな。

 廊下を歩く人々の満足そうな顔を眺めて嬉しそうに頬を緩める姿は、本当に学園の事を思って働いてきたのだと感じさせる。

 納涼祭が近づくにつれて、アカツキ荘に書類を持ち込んで自主残業している時もあった。

 行事に対して全力で取り組み、生徒以上に時間と苦労を重ねてきたのは彼女だ。その頑張りへの報酬があってもいいだろう。


「一人で遊ぶのは味気ないし、シルフィは真面目だから仕事に戻れって言いそうだし……クロトくんなら気兼ね無く付き合ってくれるかなって思ったの」

「俺のこと暇人だと思ってない? まあ、今まさに暇だけど」

「なら早速行きましょう? 一人よりも二人、キミと一緒ならもっと面白くなりそう!」


 椅子から勢いよく立ち上がり、彼女は満面の笑みを浮かべて手を差し伸べてきた。

 ニカッと歯を見せてくる様はまるでイタズラ好きな子供のように純粋で。

 ため息一つこぼして、取ろうとした手を掴まれて。俺たちは祭りの陽気で賑わう構内へ繰り出した。

シルフィと違ってまだ出せてない設定が彼女にはたっぷりあるので後編を描写するのが楽しみです。

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