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ようやく街道まで出て後ろを振り返ると、黒服たちの黒いセダンが走ってくるのが見えた。まずい、このままじゃつかまる。
皆川さんはどうしたんだ。あそこにはいなかったじゃないか。なら、タイミングよく車を回してきて僕たちを乗せて走り去るって算段じゃないのかよ! だめだ、思考にエネルギーを使ってる場合じゃない。
「とにかくここから離れなきゃいけない、街道はダメだ……目立ちすぎる」どうする、連中のセダンはこちらを向いて走ってきている。
すると奥田が突然手を挙げて走ってくるタクシーを止めた。タクシーは僕らを数メートル通り越してから停まりハザードをたいて後部ドアを開けた。奥田は僕の手を引きタクシーへと向かう。しかし彼女はタクシーに乗り込むことをせず、自分の財布から一万円を引き抜き運転手に渡す。
「私たちが隠れたらドアを閉めてこれで走れるところまで走ってください! お願いします」運転手は一瞬目を丸くしたが、奥田の表情を見てとったせいか事情も聞かずその通りに、しばらくしてからドアを閉めて走り去った。
僕らは街道につながる農道際にある大きな側溝に飛び込んで、体を寄せながら小さくなって隠れた。セダンで追ってきた黒服の連中は農道から街道へ向けてボンネットを突き出して乱暴に一時停止した後、左折して急加速した。どうやらそのタクシーの後を追っていったようだ。成功だ。
連中が走り去ったあとで僕は全身の力が抜けて、しばらく何も言えなかった。走ってきた息切れよりも興奮して胸が苦しかった。隣の奥田も同じみたいだった。
「よく、あんなこと咄嗟に思いつくな」必死で何も考えずに側溝に飛び込んだせいで僕らは砂だらけになりながら折り重なっていた。目の前に彼女の顔があった。
「はあ、ドキドキしたぁ! あれね、この前観た映画でやってたの、まさかうまくいくとは思わなかった、あはは」
あははって、そんなイチかバチかみたいな賭けだったのかよ、っていうか今、笑うところか? ……いや、とりあえずは結果オーライとすべきか。
「とりあえずカヲルさん達を助けに行かなきゃ」そう言って側溝から立ち上がろうとする僕の袖を奥田が掴んだ。
「かおるさんって、もう一人の人のこと?」
「そう、嶋田カヲルだよ」そう言ってしまってからなんか説明が面倒なことになると感じたが、どうやら介さなかったらしい。
「ちょっとまって。私たちを追った車には二人しか乗ってなかったわ。制圧した相手を放置しておくはずないもの。まだ二人は現場に残ってるはず」
「けど!」
「それより、ねぇ! 一体どういうことなの? 君は、木田くんは何してるの?」
奥田は僕の袖を更に絞るように掴んで、瞳の中を覗き込んできた。なんだよ……怖い顔するなよ、っていうか、僕も説明するには余りにも長くなりすぎる上に、さっきまでの騒ぎは全くもって理解不能だ。
「それより、俺のほうがまず訊きたいよ。君は加賀さんを知っているのか? 君は本当に奥田美和なのか?」奥田は視線を揺らして、一瞬僕を掴んでいた手を緩めた。だが彼女はすぐに僕に焦点を据え直した。
「先に質問したのは私よ、答えて!」
「なんだよ、そんなことどっちだっていいだろ! 俺からしたら君の行動の方がよっぽどおかしいんだよ。何も言わずに加賀さんについていこうとするし。俺が友達を助けることがそんなにおかしいのか!」今の僕にはそれしか言えない。
撮影スタッフのみんなが助けに来てくれなかったら、奥田を助けることなんてできなかったけど、いや、そもそも助けたっていうのかどうかすらわからないけど、とにかく加賀さんは普通じゃない。
あの人はカヲルさんのマネージャーでも何でもない……裏の顔、表に見せてる顔が全てじゃないって言ったのはあの人だ。
奥田は顔をそらし、目を伏せ、深いため息をついて言った。
「いいわ。じゃあ、まずはここから離れましょう」




