タッくん
ママ大好き……ママは僕の事好き……?
バシャッ……バチャッ……。
うふふっ、ママもタッくんの事大好きよ。
タッくんはママの事どのくらい好き?
んとね、1番好き! カブトムシよりも猫さんよりも好き!
ママもタッくんが1番好きよ、肩までよく温まるのよ。
うん、い~ちに~いさ~んし~い……。
タッくんが小学1年生になった頃のお話だそうです。
タッくんのお家は小さな古い木造二階建てのお家で、タッくんのお婆ちゃん(旦那の母)が亡くなってから引っ越してきたそうです。
タッくんは素直で明るくて友達もすぐに沢山できたそうです。
でも、タッくんは1人で遊ぶのが好きで学校から帰ってくると、高い塀に囲まれた小さなお庭で虫を捕ったり、小さな花壇の土でお団子を作るのが日課だったそうです。
その日もいつもの様にお庭に出て、タッくんは小さな手で一生懸命お団子を作っていたそうです。
お母さんはその光景を微笑ましく、テレビを見ながら眺めていたんですって。
夕方になると、お母さんは夕食のお買い物に出掛けるんですけど、勿論タッくんも誘うのですが遊びに夢中なっている時は、お留守番していてもらったそうです。
じゃあ、お母さんお買い物に行ってくるから、もう遅いからこの門から外へ出ちゃダメよ。
いつもの事でタッくんは上の空で……うん、って答えました。
旦那と離婚してから約1年……女手一つでタッくんを育てている清美は、今でもふと旦那の事を思い出す。
あの日……タッくんが寝るのを待って離婚届けにサインをしてもらい、旦那はビールを飲んで段々と不機嫌になってきて、私を殴ったんです。
それ事態はこれまでも多々ありました、それらが積み重なって離婚に至った訳ですけど。
あの日は思わず泣きながら、離婚届けを握りしめて家を飛び出しちゃったんです。
数時間後……頬はまだ痛かったけど冷静になってきたら、タッくんの事が心配になってきて、まさか旦那もタッくんに何かするとは思いませんけど。
家に帰るとちゃぶ台の前にタッくんが、ちょこんと座っていたのです。
タッくんは私を見ると、タタタッと駆け寄ってきてどこ行ってたの?と、可愛い目で見上げてきたの。ちょっと涙を浮かべながら。
パパは? と聞くと、知らない……起きたら居なかったと答えました。
どうやらビールを飲んで酔っぱらい、出て行ってしまったようです。旦那の財布がなかったので外に飲みに行ったのだと、その時は思いました。
翌朝……まだ旦那の姿は無く、タッくんは幼稚園に行く時間だったのですが、少し熱があるのでお休みさせる事にしました。
タッくんのカゼ薬とお粥の材料を買いに出掛ける事にしました。
するとタッくんが、ママ、僕ゴンベちゃんのお団子が食べたいって言ったんです。
ゴンベちゃん……本来は権併さんなんですけど、タッくんはゴンベちゃんて覚えちゃったんです。
ちょっと迷いました、権併さんは少し遠くて片道30分以上は掛かるんです。
距離の問題ではありません、なるべくタッくんの側に居たかったのです。
薬局とスーパーに行くだけなら、急げば20分もあれば帰ってこれるのです。
でも、他ならぬタッくんの頼みとあらば行くしかありません。
分かったわ、少し遅くなっちゃうけど静かにオネンネしてるのよ?
ありがとうママ、僕いい子にしてるよ。ちょっと熱で火照った頬でニコニコ笑ってくれました。
この笑顔に弱いんです。私は急いで出掛けました。
薬局でカゼ薬を買い、スーパーで卵と長ネギとタッくんの好きなお菓子を買い、お団子を買った帰り道……幼稚園のママ友に会ってしまい付き合い程度に立ち話をして、タッくんが熱を出してるので失礼しますと言って足早に退散した。
家の鍵を開けてタッくんただいま、遅くなっちゃってゴメンね。
布団にタッくんの姿がありません。
ふと窓の外を見ると、タッくんがシャベルを持って花壇にお花を植えていました。
私は慌てて縁側から降りてタッくんに駆け寄りました。
ちょっとタッくん! 大丈夫なの? お熱は?
うん、大丈夫! お熱下がっちゃったみたい。タッくんはニコニコしながら言ったのです。
タッくんのおでこに手を当てると、確かに熱は下がっていました。
でも、さすがにまだダメよ! と言ってお家に入れてお薬を飲ませて寝かせました。
タッくんはスヤスヤとよく眠っています。
先程タッくんが花壇に植えていた花を見に行きました。
私が先日淋しい庭に植えようと買っておいた、パンジーとツツジが適当に植えてありました。
さすがに見栄えが悪いので、少し位置を直す事にしました。
スコップでツツジを掘り返していると、何かにスコップが当たりました。
何かと思いスコップでザクザクやると、白い物が少し見えました……。
スコップをよく見ると、茶色と白の毛が沢山へばり付いていました。
嫌な腐敗臭もする、私は1つ思い当たる事がありました。
ちょっと前に、タッくんと縁側で日向ぼっこをしていた時です。
一匹の野良猫がやってきて、タッくんがこんにちは今日も暑いね! なんて話かけて猫を撫で始めました。
タッくんには、なついている様で嫌がる仕草も見せず喉を鳴らしていました。
私も撫でようと手を出した瞬間、引っ掻かれて手の甲から血が出てしまいました。
タッくんは、ママ大丈夫! めっ! って言って猫を叩きました。
あの時の野良猫の毛に似ていると思います。
優しいタッくんが事故かなんかで死んでいた猫を見つけて、埋めてあげたのだと思う事にし再びツツジを同じように植えました。
気分が悪くなったので、タッくんの横で私も寝る事にしました。
翌日も旦那は帰って来ませんでした。おかしいとは思いましたが、離婚届けもあるしほおっておく事にしました。
タッくんを幼稚園に送って行き一息ついてから、パンジーの位置を直そうと掘り返したら、またスコップに何かが当たりました。
今度は少し固い気がしました。
掘り返すと、旦那のお財布でした。
この時、もしかしてと嫌な予感が頭を過りましたが……また財布を戻してパンジーを同じように埋めました。
振り返ると今まで気付かなかったのですが、縁側の下に床下へ入れる程の隙間があるんです。
50センチ程の木製の柵がありましたが、腐って崩れ落ちています。
気になって覗いて見ると、中は暗くてカビ臭く……嫌な臭いもしました。
とても気になり、懐中電灯を持って再び縁側の下に向かいました。
何かを引きずったような後が奥まで続いています……。
その後を光りでたどっていくと何かが見えました。
何かと思い床下へと潜る事にしました。少しお尻が引っ掛かりましたけど、なんとか入れました。
どうやら井戸の様でした。古い家なので井戸をそのままに、上に建てられたのでしょう。
井戸には簡単な木の蓋が被せてありましたが、少しズレていました。
私は、蓋を開けてみる事にしました……。
ずっと使われていないにしては、簡単に動きます。
またしても、強いカビの臭いと……腐敗臭がしました……。
恐る恐る懐中電灯を井戸の中へと向けて覗き込みました……。
予想は的中しました……うつ伏せになっていましたが、あの日の旦那の服に間違いありません。
予想外だったのは、その横にもう1人……こちらは仰向けだったのですぐに分かりました……。
顔はぶよぶよに膨らんで腐敗していましたが、お隣のおばさんだと……。
2週間程前になります。
お宅の枯れ葉が家の庭に落ちてきて迷惑だと、文句を言って来たのです。
ついでにタッくんの声も五月蝿いですって。
私はお互い様です!とも言えず、ただ謝りしました。
その時、旦那は居らず奥でタッくんが恐々とこちらを見ていました。
私は静かに井戸の蓋を閉めました……。元通り少しズラして……。
翌日、私は離婚届けを提出しました……。
タッくん今日は何が食べたい?
タッくんオムライスがいい! タッくんはニコニコして答えました。
夕飯の支度をしていると、ピンポーンと玄関のチャイムがなりました。
玄関を開けてみると向かいの家のお爺さんで、ゴミの時間をちゃんと守って貰わないと、お陰でカラスが集まって困ると文句を言ってきました。
私は時間通りに出しています! と言ったら、お宅は回覧板を回すのも遅いなんて話を変えてきました……。
私はスイマセン今度から気を付けます、と頭を下げて謝りました。
タッくんは奥で柱に隠れてこちらを見ています。
ブツブツ言いながら、お爺さんは帰っていきました。
さあさあ、タッくん早くご飯にしようね。
うん、オムライス! オムライス! と、はしゃいでいます。
鶏肉を細かく刻みながら、私は自然と頬が緩んでしまいました……。
ウフフッ……タッくん、ちゃんと見ていてくれたかしら……。
次は、向かいのお爺さんよ……。
……って話知ってる? まだ井戸には死体があるって噂よ。
ま、またぁ、どうせ作り話でしょ?
……それが、この家なんだって!
私は、ゾクッとしました。
1週間程前、私はここから出てきたおばさんに軽く自転車でぶつかってしまったのです……。
その時、確かに小さな子が一緒に居ました。クリクリっとした目で私を見つめていました。
謝ったら……大丈夫よ今度から気を付けてね、と言ってくれました。
ネットでは、この家じゃないかって言われてて写真もアップされてたの!
も、もう、止めてよね! 私がこの手の話、苦手なの知ってる癖に……。
ゴメンゴメン! 行こっ!
私この時、顔は笑っていましたが全身に鳥肌が立って痛い程でした……。
4日前の夕方この家の前を通ったら、この間自転車でぶつけた時の子供が泥だらけで出てきて……遊ぼ遊ぼって繰り返し言ってきたんです。
後ろめたい気持ちもあったので遊んであげたかったんですけど、このあと塾があるからゴメンねって帰りました。
それから前を通る度に遊ぼって言ってくるんです……。
たまたま約束や塾があったので断っていましたけど……。
昨日は縁側の下を指差して、猫が赤ちゃんを産んだから一緒に見に行こうって…。
母に言ったら、この家ずいぶん前から空き家なんだそうです……。
じゃあ……今、私のスカートを掴んでいる子は何者なんでしょうか……。
【END】
今年からなろう様にお世話になってますので、こんな企画もあるなら盛り上げようと、無理やり書き上げましたが。去年の倍近い投稿があるようで私書かなくても良かったかな…。
ゆくゆくはこの企画にも賞や出版などが付くと良いなと思います。
読んで頂き、有り難うございました。
タッくんに気を付けて下さい…。