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0201

 誰よりも強くて、優しくて、

 それでいて、弱い君だから――


《哀しみも苦しみも半分背負ってあげる》


 紅茶を飲みながら、ぼうっとしているアヤの姿が目に入った。数日前から、ずっとぼんやりしていて、様子がおかしい。

 何日かすれば元に戻るだろうと思っていたが、一向に元気になる気配を感じられない。よほどのことがあったのだろう。毎日ぼんやりとしている。見ているこっちが不安になる程には。

 こういう時は、何があったのか聞いた方がいい。最初は渋るけれど、こちらが真剣で、心配していることが伝われば話してくれる。アヤは、誰かに甘える方法を知らないだけだから。


「アヤ?」


 アヤが座るソファーの隣に腰かけて、優しい声で名前を呼ぶ。

 すると、アヤはゆっくりとタクトの方を見た。


「何があったの?」


 そう問いかければ、首を横に振る。


「話したく、ない?」


 先ほどの行動の意味を確認する。今度は首が縦に振られ、肯定が返ってきた。


「でも、僕は聞きたいな」


 何が、そんなに君を苦しめるのか。


「……でも」

「何か、あるの?」


 いつもなら、ためらいながらも話し始めてくれるのに、今回は違った。

 アヤは、答えるのを渋った。

 何かあるのかと問えば、沈黙が返ってきて、タクトはそれを肯定として受け取った。口を噤むのは、肯定のしるしであることがほとんどだからだ。


「ねぇ、僕じゃ、頼りない?」

「っ!? そんなことない!!」


 タクトの質問を耳にするや否や、アヤは声を張り上げて否定した。


「……そんなこと、ないよ」


 叫んだあと、再び静かな声で言い直す。


「それなら、どうして?」


 ――話をしてくれないの?


「……タクトには、辛い話だと思うから」

「だから、話したくないの?」


 返ってきたのは、小さな頷き。肯定だった。


「それでも、聞きたいな」

「どうして……」

「アヤが哀しいことや苦しいことを一人で抱えこんで、辛そうにしている顔を見る方が、僕にとっては辛いんだよ」

「だって……」


 それでもまだ話すのをためらうアヤに、タクトは優しい微笑みを浮かべて言った。


「ねぇ、僕にもアヤが抱えているものを分けてよ。全ては無理でも、半分なら、僕だって背負ってあげられるから」


 ――だから、話して?


「…………判った」


 それから、アヤはぽつりぽつりと数日前にあったことを話した。タクトは、それを静かに聞いていた。アヤが心の中にしまいこんでいた思いも、すべて。

 話が終わると、タクトはアヤをまっすぐ見つめて言った。


「話してくれて、ありがとう」

「でも……」


 お礼を言われても、アヤは泣きそうな表情をした。

 アヤは、昔タクトがどんな生活をしていたのかを知っている。今回、アヤが出先で出会った幼い子供は、昔のタクトと同じような状態だった。だから、アヤはタクトに話すのをためらった。タクトに、昔のことを思い出させて辛い思いをさせたくなかったから。けれど、結局タクトの強い思いに負けて話してしまった。


「泣きそうな顔しないでよ。僕が望んだことなんだから」


 タクトは、困ったような顔で笑っていた。


「だって……」

「甘いものだけなんていらない」

「?」


 突然変わった声色に、アヤは首を傾げる。


「アヤが抱える辛いことも全部、僕に分けてよ。アヤだけが傷つくところなんて見たくないからさ」


 アヤには、笑っていてほしいんだ。

 言われたことをすぐには理解できなかったアヤは、数回瞬きをした。

 そして、タクトの言葉をのみこむと、少しだけ頬を赤く染めて、小さく頷いた。


fin.

…ひとやすみ…

お久しぶりです!

夏休み前には試験があり、夏休みが始まってからは、初めてのバイトがあり、忙しかったり疲れていたりしてなかなか執筆できず、更新もできていませんでした・・・。

初めてのバイトは、病院バイトでした。そこでは、いろいろな人に出会うことができました。優しい看護師さんに、愉快な患者さんなどなど。とても勉強になったバイト先でした。

そろそろ本編も進めたいと思い、本編のプロット作成に入り始めました。まだ設定しかできていませんが……。

本編のプロット作成に入る前に、こちらのシリーズがまだ完成していなかったので、こちらを先に仕上げてからプロットを作ることにしました。

実は、この話結構悩んで書いたんです。書きたいことはあるのですが、うまく言葉や文章にできなくて、すごく困りました。正直、書き終わった今も納得がいっていなかったりします。もう少し、タクトに言わせたいこととかあったのですが、ややこしくなるので書きませんでした。でも、書きたかったです。

タクトに辛い思いをさせたくなくて、一人で抱え込んでしまうアヤ。でも、タクトはそんなアヤを見ている方が辛くて。


『傍にいると決めたから。相手の綺麗なところばかりでなくて、そうでないところもすべて受け止めてあげたい。優しくて甘いものばかりじゃなくて、辛いこと哀しいことそういう苦いものも共有したい。』


きっと、お互いにそう思っていると思います。

長くなってしまいました(笑)

このシリーズも、残すところあと一話となりました。どうか、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。そして、ヒマな方などは、最初のころの「ひとやすみ」で書いた、このシリーズの仕掛けについて考えてみてください(笑)種明かしページはもう完成していますが、公開はこのシリーズが無事に終わった時に開きたいと思います。

では。

H25 9/5公開

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