0602
《独りきりになんかさせない》
アヤのことに関して、タクトとハルルには共通の心配事があった。
その中で一番を占めているのは、淋しがり屋であるくせに、独りきりになろうとすることだった。
アヤは幼いころにとても辛い体験をした。そして、その時に家族が行方不明になってしまった。
辛かったことを思い出すのが嫌で、アヤはこのことを話そうとはしなかった。また、相手に同情されることも嫌って、家族がいないということを口にすることもなかった。
そのせいか、常に一定のラインまでしか、他人を踏みこませなかった。時折、ハルルやタクトのように全てを話すという例外もあった。しかし、それ以外の人は、たとえ親しく会話をしていたとしても、アヤの本当のことを知る人はいなかった。
高学年三年の夏、アヤは家族を取り戻した。けれど、今までと同じように他人と接し続けた。
アヤは、家族の他に、あの辛い体験をした日に失った魔力も取り戻していた。
そのことが原因だった。
アヤは、今までも一般人より強かった。そして、封印されていた力が戻り、今まで以上に強い魔力を持つようになった。
他人の前で本気を出したら、「化け物」と恐れられてしまうほどに。
だから、アヤは今まで通りに他人と接するようにしていた。
親しくなったあとに本当の力を知られたら、離れていかれることが判りきっていたから。それならば、はじめから親しくなりすぎない方が良い、と。
それに、アヤはアクマに狙われてもいた。周囲にいる人が、狙われてしまうこともあるかもしれない。
親しい人が増えれば、守るべき人も増える。いくらアヤが強いからといっても、全員を守りきることなんて、不可能だ。
そのためにも、アヤは他人と一定の距離をおいていた。
そして、時には親しい人も遠ざけようとすることがあった。
ハルルとタクトは、余計に心配するようになった。
数日前、アヤは助けた人に化け物呼ばわりされた。
周りの人達のフォローもあり、なんとか立ち直りはした。が、まだ完全に回復してはいなかった。
この日の夜、アヤは城の屋上で一人、空を見上げていた。
そのころ、タクトはいつもと同じようにリビングでくつろいでいた。
「――?」
急に変な胸騒ぎがした。
タクトは、リビングを出て屋上に向かった。
屋上に出てすぐ、アヤの姿が目に入った。
月明かりに照らされて、金色の髪がうっすらと光を放っていた。
それは、とても綺麗で。それと同時に、アヤが消えてしまいそうな気がした。
儚かった、のだ。
そして、覚えた違和感。
いつもなら、すぐにタクトの気配に気付いて、何らかの反応を示すアヤが、ぴくりとも動かなかった。
急に怖くなったタクトは、アヤの名前を呼んだ。
「アヤ」
「……」
反応がない。
「アヤ!」
先程よりも大きな声で名前を呼ぶ。
「……ぁ。タクト」
ようやく反応があった。
そして、ゆっくりとタクトの方に身体を向ける。
「もう、心配したんだよ?」
「……ごめん」
しゅん、とアヤが謝り、沈黙が訪れる。
少しして、タクトが口を開いた。
「独りになろうと、していた?」
胸騒ぎがした時、アヤの気配が薄くなっていたのだ。
「……怒らない?」
そう聞いてくるということは、
「肯定、だね」
タクトが言うと、アヤは小さく頷きを返した。
「独りは、淋しいよ?」
「……知ってる」
「アヤは淋しがり屋なんだから……」
「……」
タクトは小さく溜め息を吐いた。そして、アヤの隣に立つ。
「僕が、アヤを独りにさせないよ」
さり気ない様子で、優しい声で告げる。
勢いよく、アヤは隣にあるタクトの顔を見た。
「約束するよ。だって、独りは哀しいから」
「……」
「独りきりになんか、させない」
優しい声の中に、強い意志がこめられていた。
それを感じとったアヤは、一瞬だけ目を見開き、そっと閉じた。
Fin.
…ひとやすみ…
このお題は、どういう話にしようか、かなり悩みました。そのせいで、プロットにとりかかるまでにかなりの時間がかかりました。プロット作成後は、早かったのですが(苦笑)
悩んでいる時、いつものように諦めようかと思うことがありました。けれど、この10のお題シリーズの仕掛けが気に入っていたので、投げ出したくない気持ちもあり、なんとか書きました。お題にあっているかは、ナゾですが(笑)
この話は、二人がまだ学生のころの話です。しいて言えば、以前書いた「monstre」の続きみたいな感じです。この話、単体でも読めるようにしてありますが。
あと4つ。お付き合いくださると嬉しいです。
H25 3/18