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《独りきりになんかさせない》


 アヤのことに関して、タクトとハルルには共通の心配事があった。

 その中で一番を占めているのは、淋しがり屋であるくせに、独りきりになろうとすることだった。

 アヤは幼いころにとても辛い体験をした。そして、その時に家族が行方不明になってしまった。

 辛かったことを思い出すのが嫌で、アヤはこのことを話そうとはしなかった。また、相手に同情されることも嫌って、家族がいないということを口にすることもなかった。

 そのせいか、常に一定のラインまでしか、他人を踏みこませなかった。時折、ハルルやタクトのように全てを話すという例外もあった。しかし、それ以外の人は、たとえ親しく会話をしていたとしても、アヤの本当のことを知る人はいなかった。

 高学年三年の夏、アヤは家族を取り戻した。けれど、今までと同じように他人と接し続けた。

 アヤは、家族の他に、あの辛い体験をした日に失った魔力も取り戻していた。

 そのことが原因だった。

 アヤは、今までも一般人より強かった。そして、封印されていた力が戻り、今まで以上に強い魔力を持つようになった。

 他人の前で本気を出したら、「化け物」と恐れられてしまうほどに。

 だから、アヤは今まで通りに他人と接するようにしていた。

 親しくなったあとに本当の力を知られたら、離れていかれることが判りきっていたから。それならば、はじめから親しくなりすぎない方が良い、と。

 それに、アヤはアクマに狙われてもいた。周囲にいる人が、狙われてしまうこともあるかもしれない。

 親しい人が増えれば、守るべき人も増える。いくらアヤが強いからといっても、全員を守りきることなんて、不可能だ。

 そのためにも、アヤは他人と一定の距離をおいていた。

 そして、時には親しい人も遠ざけようとすることがあった。

 ハルルとタクトは、余計に心配するようになった。



 数日前、アヤは助けた人に化け物呼ばわりされた。

 周りの人達のフォローもあり、なんとか立ち直りはした。が、まだ完全に回復してはいなかった。

 この日の夜、アヤは城の屋上で一人、空を見上げていた。

 そのころ、タクトはいつもと同じようにリビングでくつろいでいた。


「――?」


 急に変な胸騒ぎがした。

 タクトは、リビングを出て屋上に向かった。

 屋上に出てすぐ、アヤの姿が目に入った。

 月明かりに照らされて、金色の髪がうっすらと光を放っていた。

 それは、とても綺麗で。それと同時に、アヤが消えてしまいそうな気がした。

 儚かった、のだ。

 そして、覚えた違和感。

 いつもなら、すぐにタクトの気配に気付いて、何らかの反応を示すアヤが、ぴくりとも動かなかった。

 急に怖くなったタクトは、アヤの名前を呼んだ。


「アヤ」

「……」


 反応がない。


「アヤ!」


 先程よりも大きな声で名前を呼ぶ。


「……ぁ。タクト」


 ようやく反応があった。

 そして、ゆっくりとタクトの方に身体を向ける。


「もう、心配したんだよ?」

「……ごめん」


 しゅん、とアヤが謝り、沈黙が訪れる。

 少しして、タクトが口を開いた。


「独りになろうと、していた?」


 胸騒ぎがした時、アヤの気配が薄くなっていたのだ。


「……怒らない?」


 そう聞いてくるということは、


「肯定、だね」


 タクトが言うと、アヤは小さく頷きを返した。


「独りは、淋しいよ?」

「……知ってる」

「アヤは淋しがり屋なんだから……」

「……」


 タクトは小さく溜め息を吐いた。そして、アヤの隣に立つ。


「僕が、アヤを独りにさせないよ」


 さり気ない様子で、優しい声で告げる。

 勢いよく、アヤは隣にあるタクトの顔を見た。


「約束するよ。だって、独りは哀しいから」

「……」

「独りきりになんか、させない」


 優しい声の中に、強い意志がこめられていた。

 それを感じとったアヤは、一瞬だけ目を見開き、そっと閉じた。



Fin.


…ひとやすみ…

 このお題は、どういう話にしようか、かなり悩みました。そのせいで、プロットにとりかかるまでにかなりの時間がかかりました。プロット作成後は、早かったのですが(苦笑)

 悩んでいる時、いつものように諦めようかと思うことがありました。けれど、この10のお題シリーズの仕掛けが気に入っていたので、投げ出したくない気持ちもあり、なんとか書きました。お題にあっているかは、ナゾですが(笑)

 この話は、二人がまだ学生のころの話です。しいて言えば、以前書いた「monstre」の続きみたいな感じです。この話、単体でも読めるようにしてありますが。

 あと4つ。お付き合いくださると嬉しいです。


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