0304
手を伸ばしたのは。
《世界よりも君を選ぶよ》
世界と大切な人。どちらかを選ばなければいけなくなった時、きっと、誰もが非難する方を選択する。
それでも、そっちが僕の優先順位。それだけは、譲れない。
そのことを知った君は、どう思うのだろうか。
お茶の時間に、そんな話をした。
「たとえ、世界が天秤にかかっていたとしても、僕は迷わずアヤをとるよ」
「言うと思った」
はっきりそう告げると、アヤは困ったような表情で笑った。
「理由、聞いてもいい?」
「アヤがいなかったら、僕は生きていけないから」
何でもないことのようにさらりと答えて笑ってみせる。けれど、声にも目にも少しだけ真剣さを滲ませて。
すると、アヤは頬を赤く染めて俯いた。
「本当だよ」
優しい声でそう告げる。
「……知ってる」
下を向いたままのアヤが、小さな声で言った。
「うん」
アヤが知っていてくれたことを嬉しく思いつつも、それでもまだ不安が残った。まだ、アヤの気持ちを聞いていない。
「……いいよ」
「何が?」
突然のことで、話の内容が掴めなかった。
「世界と大切な人。タクトは、そのままでいいよ。私が、世界を選ぶから」
そこまで言ったあと、アヤは顔を上げて僕を見た。思わず、動きを止めてしまった。
「だから、私を守ってね?」
優しい声と笑顔で告げられた。
直接アヤの気持ちを話してもらえなかったが、僕の考えを受け入れてくれたことは判った。
「うん、判った」
頷きながら、心の中でも同じことを誓う。
自分の気持ちに気付いて、そっと支えてくれるアヤ。そんな君だから。
「タクトなら、絶対に私を守ってくれるって信じてるから。安心して、世界の方をとれるよ」
「そうだね」
アヤは優しいから、迷わず世界の方に手を伸ばすだろう。それをサポートするのが僕の役目。
先程アヤが言ったことは、罪悪感で自分を責めそうな僕を救う言葉だった。アヤのことだから、そのことに気付いて言った科白だっただろうけれど。
「……ありがとう」
その優しさが、嬉しい。
お礼を言うと、アヤはきょとんと僕の方を見た。
何に対してのお礼なのか判っていながら、故意に浮かべた表情。首をかしげる仕草が、可愛らしかった。
Fin.
…ひとやすみ…
書きたかったことが書けなかったので、少し不満ですが……仕方ないです。書こうとしていたところを前にして、一日ほど放置して忘れてしまったので←
アヤもタクトも、お互いの性格を理解しているので、うまくやりそうです(笑)
タクトは、絶対に一人の大切な人を選ぶと判っているアヤ。だから、タクトを責めたり諭したりしないで、その考えを受け入れる。そして、タクト自身が自分を責めないように、「守ってね?」と言う。そんな感じです。
H25 2/27