0401
他人が聞いたら、たったそれだけのことで? と思うだろう。しかし、僕にとっては……。
《たったそれだけのことでも幸せに感じてしまう》
「あれ? アヤちゃんは?」
城に遊びに来たハルルは、リビングに入るなりそこにいたタクトに尋ねた。
「アヤなら、出かけましたよ?」
アヤが外に出てしまうのはいつものことで、もう何も言わないようになっていた。
「お昼前には戻ってくると思いますけど……」
「そう」
「お茶でもして、待ちますか?」
「そうね、そうさせてもらおうかしら」
タクトがハルルに笑顔で提案すると、ハルルも笑みを浮かべて頷いた。
室内の丸テーブルに用意をし、二人は雑談を始めた。
「それにしても、アヤちゃんが出かけることに対して、何も言わないんだね。これがユキちゃんだったら、今ごろ大騒ぎになっているかもしれないし」
「ハハハ、確かに」
ユキが、アヤの行動に対して何か文句を言うのはいつものことで。アヤもアヤで言い返すため、いつも騒がしくなる。
そんな様子が安易に想像できてしまった二人は、困ったような表情で笑った。
「タクトくんは、何か言いたくならないの?」
「少しは……。でも、あまり言いませんよ」
「どうして?」
ハルルが不思議そうに尋ねる。すると、タクトは目を細めて、愛しいものを見るような優しい笑みを浮かべて答えた。
「アヤの傍にいられるだけで、幸せだからですよ」
一瞬だけ、タクトの表情に呆気にとられたハルルは、尚も質問を続けた。
「……それは、アヤちゃんの今の地位があるから?」
両親が行方不明だったアヤは、城で一般人として生活していた。しかし、学生時代に巻きこまれた事件により、アヤの両親が戻ってきて、フローレ国の王と王妃であったことが判った。二人の子供であるアヤと妹のサヤは、姫ということになる。だから、時が経てば玉座はアヤに譲られることになる。
それに、フローレ国はある魔術書の使い手が王になり、その所有者がいない時は世襲制という変わった形をとっていて、アヤはその魔術書の使い手でもあった。
どちらにしろ、アヤはいずれ国王になるようになっていた。
そして、アヤは魔術書の所有者として王位を継いだ。
「それもありますけど、一番は僕が育ってきた環境のせいですよ」
タクトは自嘲ぎみに笑って言った。
「今でこそ、僕はこうやって城で暮らせていますけど、本来はそんなことできないし、一般人として生活することすら難しい世界にいましたから」
一般人を光とするなら、タクトは、闇側の人間だった。
両親がいなく、タクトは人に拾われた。タクトを拾った人が闇側の人間で、タクトはその人の下で育ったため、闇側の人として生活することになっていた。アヤに救われるまでは。
「僕は、アクマとして生きてきましたから」
今はもう過去のこと。だが、昔はアクマとして生活するのが当然、という環境にいたのだ。
「だから、アヤの、好きな人の傍にいられる、たったそれだけのことでも、僕は幸せなんです」
「そっか」
本当に幸せそうに笑っていうタクトにつられ、ハルルも優しい笑みを浮かべた。
Fin.
…ひとやすみ…
某二次創作サイト様のお題の話を読んだあと、素敵なお題が多かったので思わずそのサイト様がお題を持ってくるお題サイトに行ってしまいましたw
そしたら、このお題で書いてみたい、と思うお題がたくさんありました(´∀`*)
ブログ以外の、ちゃんとしたお題サイト様からお題を持ってきて執筆したのは、これが初めてです。
タクトは、アクマとして生きてきた、という過去があるので、他の人からすれば些細なことだったとしても、幸せを感じていると思います。アヤが救わなければ、ずっとアクマとして生きていくことになっていたはずですから。
今回のお題は、お題サイト「ブルーメリー」様のあいうえお作文というところから持ってきました。この「あいうえお作文」ちょっと面白い仕掛けがされているので、探してみてください(笑)
H25 2/16執筆