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第七章

 前日に続き再び涙を流しながらの帰宅となった景子だったが、今日の悲しみは昨日のものとは比べ物にならないものであった。最早近付くことさえ許されないのである。その絶望感はいつまでも重く景子にのしかかっていた。

 いつもより数倍時間をかけて帰宅した景子は前日と違い、涙を流したまま帰ってきた。

「おかえり、景子。今日も遅かっ……。ど、どうしたの!? 何かあったの!?」

 涙を流したまま帰宅した景子の姿に出迎えた母はひどく狼狽していた。そのうろたえた声が聞こえたのだろうか、沙希が玄関までやってきた。

「どうしたの? お母さん。そんなにうろたえて……。ね、姉さんどうしたの!?」

 動揺しながらも何があったのか聞いてくる二人の間を抜けて、景子は自分の部屋へ閉じこもってしまった。その部屋からは嗚咽が漏れてくる。

「何があったのかわかる?」

 本人から聞けなくなってしまったので、母は沙希へ尋ねる。沙希は冷静に最近の景子の様子を判断し始めた。

「着衣に乱れがなかったし、傷とかもなかったから痴漢とかそういうのじゃないね。となるとやっぱり昨日のことかなぁ……」

「昨日のことって好きな人の話?」

「そう。多分玉砕したんだろうね」

「そっか。それならしばらくそっとしておいてあげた方がいいわね」

「うん。それがいいよ」

 二人は景子のことを考えてそっとしておくことにした。こういうところで察しのいい家族を持った景子は幸せだった。根掘り葉掘り聞かれてはまた悲しみが深くなる。そういう配慮もあって、結局景子はその日はとうとう部屋から出てこなかった。


 次の日、母と沙希はちゃんと景子が起きてこられるか不安な面持ちで朝食を取っていた。

「姉さん、出てくるかなぁ。昨日の夜も食べてないし、さすがに何か食べないと心だけじゃなくて体までやられちゃうよ」

「でも昨日の今日だからねぇ。まだ悲しみが消えないんじゃないかなぁ」

「そうだよね。今日は休むのかな」

「休むのは仕方ないけどせめてご飯は食べて欲しいんだけどね」

 二人で景子の心配をしていると、二人の予想に反して制服を着た景子が部屋から出てきた。まだ顔は暗いものの、足取りはしっかりとしておりひとまず安心となった。

「景子、大丈夫? なんだったら今日は休んでも……」

「そうだよ、姉さん。無理して行かなくても……」

 心配そうにしている二人に対して景子は大丈夫とばかりに笑顔を浮かべた。

「ううん。もう大丈夫だから。それに休んでるよりも普段のリズムでいた方が落ち着くから」

 健気な景子の様子に二人は思わず景子に抱きついた。

「ちょ、ちょっと二人ともっ!?」

「景子、あんたは偉いわね。こんないい女に振り向かなかった相手は見る目がないねぇ」

「姉さんってこんなに強かったんだね。なんか感動しちゃったよ」

 いつまでも抱きついている二人に景子は苦笑いを浮かべていた。

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