第四章
二人で話しながら歩くとすぐ遼の家に着いた。遼は玄関の鍵を開け、景子を上がらせた。自分はお茶の準備をするために台所へ向かい、景子をリビングへ通そうとしたが、景子は手伝いたいと台所へ残った。おいしくお茶を入れるためのテクニックを景子が披露し、結局遼は何もやらせてもらえなかった。お茶が入ると、場所をリビングに移して、二人は雑談を始めた。
「お、うまい……。なんで俺が淹れるお茶とこんなに違いが出るんだろ?」
「ありがとうございます。ただ慣れてるだけですよ。遼さんも慣れればこれくらいはできますよ」
「慣れねぇ……。俺も何回も淹れてるはずなんだけどなぁ」
「ふふっ。……そういえば遼さん。お家の方はいらっしゃらないんですか?」
「あぁ、父さんの単身赴任だったんだけど、その後母さんもついていっちゃったから一人暮らしなんだよ」
「そうなんですか。一人暮らしは大変じゃないですか?」
「そうでもないよ。俺は別に飯が作れるから困らないし。それにたまに彼女が作りに来てくれるしね」
「あっ……。彼女がいるんですか……」
「うん、俺にはできすぎた彼女だけどね。学校の男子の憧れの的だし」
「すごい人ですね。私なんかとじゃ比べ物にならなさそう……」
「いや、そんなことないよ。神原さんだってものすごい綺麗だし、こうしてわざわざお礼を持ってきてくれるぐらい優しいし」
「えっ!? そんなこと……」
「そういう謙虚なところもいいと思うよ」
「あ、ありがとうございます……」
「神原さんは彼氏いないの?」
「私ですか? ……いないです」
「これだけ魅力的なのに?」
「でも……好きな人ならいます」
「そうなんだ。だったら告白してみたら? これだけ魅力的なんだからきっと上手くいくよ」
「でも、あの……」
「あっ、ごめん、そうだよね。神原さんにも考えがあるんだもんね」
「あ、その……。はい……」
「神原さんの想いが届くといいね」
「……」
「あれ、どうしたの?」
「あ、あのすみませんが、そろそろいい時間なのでお暇しようかと思うのですが……」
「えっ? あぁ、もうこんな時間か。ごめんね、あんまり時間ないのに無理言って上がらせちゃって」
確かに外を見るともう暗くなり始めていた。下校後に会ったので、時間は元々あまりなかったのである。
「いえ、お話できて楽しかったです。……それでは失礼します」
「送っていこうか?」
「あ、いえ大丈夫です」
「そう? それなら、またね神原さん」
「はい、それでは失礼します」
景子は扉が閉まると反転し、歩き始めた。その目からは涙が零れていた。