第一話 転生
「好きなゲームをやり込むのは最高だな」
コントローラーをテーブルに置き、テレビ画面に映るジエンドの文字を満足気に眺める。俺は鳴時理央、ゲームが好きな38歳会社員の男だ。何気ない日常を過ごしていたある日、子供の頃はまったRPGのリメイク作品が登場、当時のゲームや子供の頃に思いをはせながら購入。自由度が高いこのゲームは今でも続編が出るほどの人気作。メインのストーリーはほぼ同じだが2Dから3Dになったことによる見た目や戦闘システムが大きく変化した。ゲームを進めていくと過去の作品にはよくあった難しいというよりも理不尽な謎解きが残っていて昔を思い出し懐かしむ。ネットがない時代にヒントもなしによくここをクリアしたな。発売日の次の日には情報が出回っていたっけ、子供の情報網となめてはいけない。情報元のA君はクラスのヒーローになっていたな。それからやり込みの日々が続く。全仲間集め、実績コンプリートはもちろん、レベルマックスやアイテムコンプなど、この三年間で多くのやり込みをしてきた。原作はそれ以上にやり込んでいる。村人のセリフまで暗記している。やりすぎだろと流石に友達にきもがられた。
「さて寝るか。次はどんな遊び方をしよう」
ベッドに入り物思いにふけながらそのまま眠りについた。
(んん、眩しいな。もう朝か)
まだ眼を閉じているが陽の光を肌で感じ朝になったと体が認識する。しかしまだ眠い、もうひと眠りしてしまおう。
「少年、もうじき街に着くぞ」
近くから少女の声が聞こえてきた、俺は一人暮らし、それにおっさんだから別の人に呼びかけたのだろう。テレビをつけたまま寝てしまったかな? そのまま寝ようとすると今度は両肩を掴まれ軽く体をゆすられる。ええっ、誰かいるのか!? 驚き目を覚ますと、見知らぬ少女が目の前にいた。
「起きたか。長旅で疲れているのかな」
彼女は笑顔で俺に話しかけ隣に座る。昨夜女の子を部屋に連れ込んだ覚えはない。そもそもここは俺の部屋じゃなく馬車の中だ。しかし少年って、もういい歳だがな。
「寝癖がついてるぞ」
鏡を貸してくれる男性、借りて自分の頭を見る。本当だ豪快な寝癖だなっておいおいそれどころじゃない、若返ってるじゃないか! 流れ込んでくる情報量が多すぎて俺の脳はフリーズ中、寝ぼけているなと隣の女性は笑っている。このやりとりどこかで。そうだ思い出したぞ、ゲームのオープニングだ。主人公が馬車で街に向かっている途中眠ってしまい、同乗していた少女に起こされるという始まり方。主人公は十五歳の少年でこの世界では成人の年齢、つまり俺は十五歳の少年になってしまっている。他にも女の子二人に中年の男性の二人が乗っている。ゲームとまったく同じ状況、ということは俺はゲームの中に入ってしまったってことか?
「お客さん達、リングスの街が見えてきたから降りる準備をしてくれ。忘れ物がないようにな」
「はーい」
御者さんがこちらに声をかけ荷物を整理しそばに置く乗客達。この受け答えは覚えている、どうやらここは原作の世界のようだ。リメイク版は御者が敬語で話していた。やり込んだゲームに転生、嬉しくはあるが複雑な心境でもある。頭に走馬灯のように情報が流れ最後の場面を思い出す。
(このゲーム、バッドエンドなんだよね)
魔王と決戦をするも魔物の群れが人里になだれ込み主人公達以外の人類が死滅するという悲惨なエンディングが待っている。物語の結末はこの一つでどうあがいても変えることはできなかった。リメイクでも人類全滅。このまま進んでいくと同じ事になるのかな。子供の頃、誰も助けられないとわかるとしばらく落ち込んでいた。リメイクも隠しでハッピーエンドを期待したが変わらなかった。あの時の悲しみを思い出す、そうなることは避けたい。せっかくやり込んだ世界に入ったんだ、あがけるだけあがいてみるか。
「良い目になったな少年、その意気だ」
彼女はこの国の騎士団に所属していて現在は休暇中。妙に緊張している主人公をほぐしてやろうと話をしているうちに仲良くなる。
(しかしこれはどういう事だ)
決心はついたが一つ気になることがある、俺の服装がリメイク版ということだ。ほんの少しの違いだがゲームキャラを穴が開くほど見てきた俺にはわかる。
「やだー、アハハ」
友達と談笑する女の子。揺れる胸に見える谷間、気合をいれれば見えるパンツ。ここだけの出演だが前に座っている女の子は露出度が高めで人気があった。彼女が3D化されることでお色気を期待されていたがリメイクだとがっつりと体を覆い鉄壁に。これが時代かと皆残念がっていたのを覚えている。周りの皆も原作の服を着ている。まだ情報が少なすぎる、もう少し様子を見るとしよう。馬車が街の中に入っていき乗り場に到着し、客が出入り口から降りていく。情報を得ようと周りを見ていると、騎士の少女が俺に話しかけてきた。
「そういえば名前を聞いてなかったな、私はミリア」
名前か、どうしようかな。名前決めに以外と悩むタイプだったりする。変な名前だと貸したり売ったりしたとき恥ずかしい思いをするからね。だけどここはゲームの世界だから自分の名前でいいか。
「リオです」
「縁があったらまた会おう」
手を振り去っていくミリア。さてと、このゲームを軽くまとめるか。主人公は冒険者になりお金を稼いで生きていこうと村から出てきた少年。冒険をしていくうちに様々なトラブルに巻き込まれて最終的には世界を命運を決める戦いをすることに。こんなところだな、ではゲームスタートといこう。




