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満足死  作者: 竜造寺。(原案・編集) & ChatGPT(生成)
第4部
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4部 第16話

 常態という言葉は、制度が最も嫌う。


 制度は例外を嫌う。例外は説明が必要になる。説明が必要になると、人間の手が露出する。露出した手は責任を持つ。責任が戻ると、指先が止まる。止まった指先は、速度を落とす。


 速度が落ちると、地底は死者を思い出す。


 思い出した死者は、矯正を強くする。


 強くなった矯正は、銃を正義にする。


 だから制度は、例外を塞いで常態に戻ろうとする。


 僕が点検口に落とした帯は、喉に飲まれた。飲まれたという表現は物語になる。物語になれば宗教になる。宗教になれば止まらない。


 だから事実だけ言う。


 帯は消えた。表示が乱れた。禁則が増えた。


 増えた禁則は、今も維持されている。


 壁面の薄い表示板が、淡い光を吐く。


 ――発砲:禁止(維持)

 ――抑止:理由不足

 ――処置:保留

 ――処置者:未定義

 ――例外:検知


 例外:検知。


 検知された例外は、次に来るのは修正だ。修正は矯正だ。矯正は速度だ。速度は銃を呼ぶ。


 影の男が言った。


「次が勝負だ。禁則を常態に落とせ。例外で終わらせるな」


 例外で終わらせない。


 例外で終わらせないためには、同じ例外が繰り返し起きる必要がある。繰り返し起きる例外は、やがて運用になる。運用になれば、例外ではなくなる。例外ではないなら、塞げない。塞げないなら、制度は速度を落としたままになる。


 速度が落ちれば、喉は飲み込み方を変える。


 飲み込み方が変われば、地上は内側にされにくい。


 影が続ける。


「禁則を増やすだけじゃ足りない。禁則を使わせろ。現場に、禁則を手続きとして使わせる」


 使わせる。使わせるというのは、人間の指に覚えさせるということだ。指に覚えさせれば、委員会の命令より先に動く。委員会より先に動く習慣ができれば、指定は遅れる。


 遅れれば、銃の理由が薄くなる。


 女が舌打ちする。


「つまり、現場に嘘つかせるのか」


 嘘ではない。言葉の問題だ。嘘は倫理だ。倫理は神を作る。神を作れば止まらない。


 これは安全運用だ。安全運用は善だ。善は疑われにくい。疑われにくい善は、銃を下げさせられる。


 影が頷かないまま言う。


「善の顔で、喉を詰まらせる」


 点検路の奥で、通路が震えた。遠い機械音が一段高くなる。制度が例外を塞ぎに来ている。塞ぐための権限が動いた。権限が動けば、現場が忙しくなる。


 忙しさは盲点だ。


 盲点が増えるなら、やることは決まっている。


 僕は走らない。走れば逃走になる。逃走は敵を作る。敵ができれば撃てる。撃てる状況が整えば、禁止でも撃つ者が出る。


 だから歩く。保守の速度で、次の端末盤へ。


 端末盤の脇に、地上の配給線と繋がる監視端末があった。ここだ。ここに禁則を貼り付ければ、地上側の現場が禁則を“使える”。


 使える禁則が常態になる。


 常態になった禁則は、銃口を下げ続ける。


 僕は端末盤に帯を近づける。帯はもうない。帯は喉に飲まれた。僕の手首にあるのは、光らない帯の痕だけ。価値にならない痕。記録だけの痕。


 痕を近づけるだけで、端末盤が揺れた。揺れは事故。事故は忙しさ。忙しさは盲点。


 表示が走る。


 ――安全規程:更新

 ――禁則:発砲禁止

 ――条件:根拠不足時

 ――適用:現場端末(同期)


 同期。


 同期は拡散だ。拡散は危険だ。危険は矯正される。だが拡散が手続きの顔をしているなら、矯正は遅れる。遅れれば穴が動ける。


 影が小さく言う。


「通った」


 女が息を吐く。吐いた息は灰の匂いを持っている。灰の匂いは地上だ。地上がここまで入り込んでいるということは、喉がすでに汚れているということだ。汚れた喉は、清潔な速度を保てない。


 速度が落ちるなら、まだ間に合う。


 だが次の表示が追いかけてくる。


 ――委員会:介入

 ――安全規程:上書き準備

 ――処置者:指定(再開)

 ――対象:拡散源


 上書き準備。


 制度は常態を嫌う。嫌うから上書きする。上書きは速い。速い上書きは銃を呼ぶ。


 影が言う。


「来る。上書きが来る前に、もう一段落とせ。指定を未定義に戻すんじゃない。指定という概念を使えなくする」


 指定という概念を使えなくする。


 概念を使えなくするというのは、概念の材料を腐らせることだ。材料は記録だ。記録が価値になると指定が可能になる。価値にならない記録なら、指定はできない。


 だから最後にやることは一つだ。


 記録を、価値にしない形で残す。


 残す。だが所有させない。


 配るな。拾うな。


 落とせ。


 影の男が、端末盤の下の小さな排出口を指差す。喉へ繋がる廃棄ライン。記録が落ちる場所。価値にならないまま落ちる場所。


 女が言う。


「また落とすのか」


 僕は頷かない。だが指先を動かす。短い、長い、短い。雑音。雑音は捨てられる。捨てられた雑音だけが後で意味になる。


 端末盤が最後に一行、吐き出した。


 ――処置者:未定義

 ――上書き:遅延

 ――発砲:禁止(同期済)


 遅延。


 遅延は穴だ。


 穴があるなら、落とせる。


 僕は端末盤の排出口へ、手首の痕を当てた。痕は帯じゃない。価値にならない。だが記録だけを落とすには十分だ。十分でなければ、ここまで来ていない。


 排出口の奥で、空気が吸い込まれる音がした。喉が、また何かを飲もうとしている。


 僕はそこへ、価値にならない記録を滑り込ませる。


 滑り込ませた瞬間、表示が白く飛んだ。


 ――指定:不能

 ――理由:価値算出不能

 ――処置:保留

 ――喉:詰まり(常態)


 喉:詰まり(常態)。


 常態。


 影の男が、初めて短く息を吐いた。


 女が笑う。厳粛さのない笑い。宗教を壊す笑い。


「勝ったのか」


 勝ち負けは物語だ。物語になれば宗教になる。宗教になれば止まらない。


 だから僕は、事実だけを胸に置く。


 喉は詰まった。詰まりは常態になった。発砲禁止は同期した。指定は不能になった。


 終わりは見えている。だが終わりは、まだ名付けない。

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