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満足死  作者: 竜造寺。(原案・編集) & ChatGPT(生成)
第4部
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4部 第12話

 配るという行為は、秩序を作る。


 秩序ができれば比較が生まれる。比較が生まれれば点が生まれる。点が生まれれば通貨になる。通貨になれば市場が育つ。市場が育てば暴力が育つ。暴力が育てば銃が必要になる。銃が必要になれば抑止が正義になる。正義になった抑止は疑われにくい。


 疑われにくいものは止まらない。


 だから配るな。


 配らないというのは、渡さないということではない。渡すのをやめるという意味でもない。配るという形式を壊すということだ。形式が壊れれば、神の台座が揺れる。台座が揺れれば祈りが手続きへ戻る。手続きへ戻れば、人間の手が露出する。露出した手は責任を持つ。責任が戻れば、指先が少しだけ止まれる。


 止まれるなら、銃の前に別の掴みどころが置ける。


 喉の側面の扉の向こうは、地上へ抜ける脇路だった。昇降区画の正面ではない。正面は神が立つ場所だ。正面に出れば物語になる。物語になれば宗教になる。宗教になれば止まらない。


 脇路は影だ。影は雑音が残りやすい。残った雑音は捨てられる。捨てられた雑音だけが後で意味になる。


 影の男が先に出る。外気が頬を叩く。乾いた灰の匂い。遠くの群衆の声。祈りと怒りが混ざった声。混ざった声は、まだ神の形を決めていない。決めていない声には問いが含まれている。問いが生きている間だけ、神は弱い。


 女が小さく言う。


「ここ……さっきの祭壇の近くだな」


 近い。つまり時間がない。時間がないなら、詰まらせるしかない。喉を閉じない。壁を作らない。壁を作れば敵ができる。敵ができれば銃が出る。銃が出れば終わる。


 終わらせないために、詰まらせる。


 影が僕の白い帯を見た。光らない帯。価値にならない帯。記録だけ。


「配給線へ、それを持ち込む」影が言う。「だが配るな」


 配るな。


 命令が矛盾している。矛盾は人間の証拠だ。矛盾は制度に取り込まれにくい。取り込もうとすれば忙しくなる。忙しくなれば盲点が増える。盲点が増えれば穴が動ける。


 僕は帯を握る。握ったところで、価値にはならない。価値にできないものを握るという行為は、武器のふりをした空手だ。空手は滑稽だ。滑稽さは宗教を弱くする。宗教は厳粛さで立つ。厳粛さが崩れれば、祈りは止まる。


 止まった祈りの間に、手続きを露出させる。


 露出させるために、配るな。


 配給線の周囲は、また線が引かれていた。隔離線。線は回路だ。回路は閉じるな。外を悪にするな。壁にするな。僕が前に落とした雑音が、誰かの頭の中で残っているかもしれない。残っていれば、線は壁になりきれない。


 線の外側に、同じ女がいた。いや、違う女だ。似た飢えの目。飢えの目は同じ顔をする。飢えが同じなら、問いも同じになる。


「点を示せ」誰かが叫ぶ。「神を返せ」


 返せ。盗まれたという物語が、すでに生まれている。盗まれた神。盗まれた点。盗まれた生。盗みの物語は倫理を呼ぶ。倫理が戻ると、銃の正義が薄くなる。薄くなるのは良い。だが盗みの物語は、別の神を立てる土台にもなる。盗みを裁く神。秩序を回復する神。


 回復の神は銃を呼ぶ。


 だから盗みの物語を、盗みのままにしない。盗みを“誤差”にする。誤差は誰のせいでもない。誰のせいでもないなら、裁きが難しくなる。裁きが難しくなれば、銃の理由が薄くなる。


 薄くするために、配るな。


 僕は配給線の端へ歩く。隊員がこちらを見て警戒する。警戒は抑止の前触れだ。抑止は銃を呼ぶ。銃が出れば終わる。


 終わらせないために、隊員の言語で進む。保守。手動。照合。未定義。安全。正しさの語彙を使わずに、正しさの顔をする。


 影の男が、僕の背中へ小さく指を当てる。短い、長い、短い。雑音。雑音は捨てられる。捨てられた雑音だけが後で意味になる。


 僕は帯を、配給線の端末へ近づける。近づけるだけ。触れない。ログを残さない。残すとしても、残すのは雑音。


 端末の光が揺れた。群衆の視線が集まる。視線が集まれば物語になる。物語になれば宗教になる。宗教になれば止まらない。


 だから配らない。


 僕は帯を掲げない。見せつけない。渡さない。代わりに、帯を端末に近づけたまま、ゆっくりと後ろへ下がる。下がるという動きは、拒否に見える。拒否は悪だ。だが拒否が暴力ではなく“退避”に見えるなら、悪になりにくい。


 下がる僕に合わせて、端末の表示が乱れる。乱れは誤差。誤差は事故。事故は忙しさを生む。忙しさは盲点を増やす。


 表示が走る。


 ――配給:手動

 ――照合:保留

 ――値:未定義

 ――配布:禁止


 配布:禁止。


 機械が“禁止”を言った瞬間、群衆の顔が変わる。神が命令を出したと思う。だがそれは神ではない。ただの手続きだ。手続きが命令のふりをするのは危険だ。危険は矯正される。だが今は、危険が必要だ。


 禁止は怒りを呼ぶ。怒りは暴力を呼ぶ。暴力は銃を呼ぶ。銃が出れば終わる。


 終わらせないために、禁止を“誰の意志でもない誤差”へ落とす必要がある。


 影の男が小さく言う。


「混ぜろ」


 女が反射的に動いた。配給線の端末の別の機械へ近づき、手をかざす。彼女の手には何もない。何もない手がかざされると、群衆は笑う。笑いは厳粛さを壊す。厳粛さが壊れれば宗教は弱くなる。


 笑いの中で、端末の表示がさらに乱れる。


 ――禁止:根拠不足

 ――命令者:未定義

 ――待機:撤回


 待機:撤回。


 撤回。人間の言語。撤回が出ると、神は揺れる。揺れた神の足元に、空白ができる。空白は穴だ。穴は移動する。


 その穴の中へ、価値にならない記録を滑り込ませる。


 配るな。だが落とせ。


 僕は帯を端末から離し、足元の灰の上へ落とした。落とす。落とせば所有が曖昧になる。所有が曖昧なら市場が育ちにくい。市場が育ちにくければ暴力が出にくい。暴力が出にくければ銃の理由が薄くなる。


 薄くなった理由の隙間で、喉の飲み込みが遅れる。


 隊員が叫ぶ。


「拾うな。隔離。拘束」


 拾うな。拾うなという命令は、物語を弱くする。拾うな。つまり価値がない。価値がないなら神になりにくい。


 群衆が一瞬、迷う。迷いは遅さだ。遅さは罪だ。だがこの遅さは救いだ。


 迷っている間に、喉は詰まる。


 僕は灰の中で、呼吸を数えない。


 数えないまま、次の一手を待つ。

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