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満足死  作者: 竜造寺。(原案・編集) & ChatGPT(生成)
第4部
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4部 第8話

 穴は、埋められるために見つかる。


 見つかった穴は塞がれる。塞がれた穴は忘れられる。忘れられた穴の上に、また制度が立つ。制度は滑らかに動く。滑らかに動く制度は疑われにくい。疑われにくい制度は止まらない。


 だから穴は、見つかってはいけない。


 見つからないために、穴は“保守”の顔をする。保守は善だ。善は疑われにくい。疑われにくい善のふりをした穴だけが、制度の内側を通り抜けられる。


 僕と女は、隔離線の騒ぎから外れ、祭壇の裏へ潜り込んだ。裏は影だ。影は雑音が残りやすい。残った雑音は捨てられる。捨てられたものだけが、後で意味になる。意味になる前は、ただのごみだ。ごみは踏まれる。踏まれたごみは薄くなる。薄くなったごみは見えなくなる。


 見えない穴は、埋められにくい。


 台座の下には、地底の匂いがした。清潔な金属と、乾いた樹脂と、規定の熱。規定の熱は、温度としてではなく、空気の均一さとして感じられる。均一さは影を消す。影が消える場所に穴を作るのは難しい。だからここは台座だ。ここで穴を作れれば、神は揺れる。


 女が低い声で言う。


「ここ、やばい匂いするな」


 やばい匂い。直感。直感は制度が嫌う。嫌うものは矯正される。だが矯正が届かない場所で生きてきた者は、直感を捨てない。捨てない直感が、いま僕の隣にいる。


「開けるな、触れろ」僕は言いたかった。だが言わない。言えばログになる。ログになれば確定される。確定されれば矯正される。矯正されれば薄まる。薄まれば終わる。


 終わらせないために、言葉を削る。


 僕は封印の縁に指を当てた。金属の冷たさの奥に、微弱な電気の感触がある。触れただけでログが取られる。ログは材料だ。材料は武器になる。


 武器にさせないために、ログの整合を壊す。


 指を動かす。一定ではない間隔。短い、長い、短い。雑音。雑音の形で、制度に触れる。制度は雑音を嫌う。嫌うから捨てる。捨てれば盲点が生まれる。盲点が生まれれば穴が動ける。


 封印の下の端末が一瞬だけ揺れた。揺れは誤差。誤差は事故。事故は忙しさを生む。忙しさは盲点を増やす。盲点が増えれば、女が動ける。


 女が小さく息を飲む。


「光、消えた」


 祭壇の方角で、群衆の声が波のようにうねる。うねりは熱だ。熱は暴力を呼ぶ。暴力は銃を呼ぶ。銃が出れば終わる。


 終わりを避けるには、暴力より先に“別の掴みどころ”を出す必要がある。


 掴みどころは点ではない。点は奪われる。奪われれば市場になる。市場は暴力だ。


 掴みどころは、価値にならない記録だ。


 価値にならない記録は、神になりにくい。神になりにくいものは、奪い合いの回路を作りにくい。回路が作りにくければ、銃の理由が薄くなる。


 僕の手首の白い帯が、また微細に震えた。振動。読み取り。だが今回は、皮膚の内側からではなく、空気から来る震えだった。近くに同じ帯がある。あるいは同じ系統の端末が、近距離で同期している。


 女が僕の視線を追って、暗がりを見た。


 そこに、もう一人いた。


 影の中の輪郭。顔が見えない。だが動きが“地底”ではない。地底の動きは均一だ。均一さは訓練の匂いがする。影の輪郭の動きは、均一じゃない。均一じゃない動きは、人間の癖だ。


 癖が残っている者は、矯正されきっていない。


 影が言う。声は小さい。音になりかけて、音にならない。


「……名は出すな」


 名は出すな。


 それだけで、僕は確信する。確信は危険だ。危険は矯正される。だが確信がなければ、穴は穴として動けない。


 女が身構える。身構えは暴力の前兆だ。前兆は銃を呼ぶ。


 僕は首を横に振る。言葉ではなく。女の動きを止める痕跡は、最小でいい。最小なら確定に時間がかかる。時間がかかれば穴が移動できる。


 影が続ける。


「手動は、点を産む。点を産ませるな。……混ぜろ」


 混ぜろ。


 第四部の中で何度も見た命令。雑音の形の命令。命令が繰り返されるということは、拡散しているということだ。拡散は危険だ。危険は矯正される。だが拡散が雑音なら、矯正は追いつかない。


 追いつかないものだけが、生き残る。


 女が低く言った。


「お前、誰だ」


 影は答えない。答えれば名が生まれる。名が生まれれば値になる。値になれば捕まる。


 代わりに、影は封印の縁を指で叩いた。短い、長い、短い。僕と同じ。女の目が一瞬だけ揺れる。揺れは問いだ。問いは神を弱くする。


 祭壇の方で、また表示が乱れたのが見えた。遠い光が瞬いて、言葉が走る。


 ――配給:手動

 ――照合:保留

 ――記録:断片

 ――値:未定義


 未定義。


 制度が最も嫌う状態。嫌うから塞ぐ。塞ぐために権限が動く。権限が動けば、ここも見つかる。見つかれば穴は埋められる。


 埋められる前に、穴は移動しなければならない。


 影が女に向けて、手のひらを下にして振る。下げろ、という合図ではない。静かに、という合図でもない。床を示す合図だ。床の下に、次の穴がある。


 女が僕を見る。目が問う。だが問いのままにしておく。答えを与えない。答えは神を作る。神は止まらない。


 僕は女の手首を軽く掴み、床の端へ誘導する。床材の継ぎ目。わずかな段差。段差は入口だ。入口は穴だ。


 穴の先に何があるかは知らない。知らないことが、いまは救いだ。知れば確定される。確定された救いは支配になる。


 影が最後に言う。


「喉は、もう開いている。閉じるな。詰まらせろ」


 詰まらせろ。


 僕は頷かない。だが足は動かす。動けば、穴に落ちる。穴に落ちれば、意味を折れるかもしれない。


 背後で、群衆のうねりが一段大きくなった。


 銃の前触れの音がした。

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