表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満足死  作者: 竜造寺。(原案・編集) & ChatGPT(生成)
第4部
27/42

4部 第4話

 祭壇は、神を置くための台だ。


 台があるということは、上下があるということだ。上下がある世界では、点が生まれる。点が生まれると並びが生まれる。並びが生まれると、遅い者が後ろへ押しやられる。押しやられた者が影になる。影が濃くなるほど、光は正義になる。正義になった光は、銃を呼ぶ。


 銃は、祭壇の守り手になる。


 僕の前にあるのは、白い端末の山だった。白い山は清潔に見える。清潔は善だ。善は疑われにくい。疑われにくい善が、ここでは祈りの形をしている。祈りの形をした善は止まらない。


 端末の光が、短い、長い、短い。雑音の形の合図。ゼロの痕跡。痕跡を拾えば、値になる。値になれば捕まる。捕まれば薄まる。薄まれば終わる。


 拾わない。


 名前にしない。


 だが見逃さない。


「示せ」若い男が言った。乾いた目。信仰の目。信仰の目は疑わない。疑わない目は命令を待つ。命令を待つ群衆は、命令を出す者を求める。命令を出す者が、神になる。


「点を示せ。お前らが誰を生かすか、示せ」


 誰を生かすか。


 選別という単語を、彼は使わない。選別は汚い。汚い言葉は善を曇らせる。曇った善は疑われる。疑われる善は止まりやすい。止まりやすい善を避けるために、人は清潔な言葉を選ぶ。


 示せ。守る。支援。保護。


 清潔な言葉が、汚れた結果を運んでくる。


 地底の隊員が一歩前へ出た。銃は見せない。見せない抑止。見せない抑止は、抵抗を奪う。抵抗が奪われれば、儀式は滑らかに進む。


「後退しろ」隊員が言う。


 後退。戦線の言語。戦線の言語が出た瞬間、ここは市場ではなく、境界になる。境界は閾だ。閾は跨いだ瞬間に戻れない。戻れない線が増えるほど、世界は狭くなる。狭い世界では、宗教は育ちやすい。


 群衆がざわついた。ざわつきは熱だ。熱は暴力を呼ぶ。暴力は点を呼ぶ。点は宗教を呼ぶ。宗教は止まらない。


 僕は何も言わない。言葉は儀式に吸われる。吸われた言葉は、神の声になる。神の声になった言葉は、群衆を動かす。動かされた群衆は、次の点を要求する。


 点の要求は、止まらない。


 だから僕は、言葉ではなく“配置”で動く。僕の役割は、祭壇の正面ではない。正面は神の場所だ。僕は神になれない。神になれば戦争が閉じる。閉じ方が変わらない。


 僕は祭壇の横へ回り込む。横は影だ。影は雑音が残りやすい。雑音は捨てられる。捨てられた雑音だけが、後で意味になる。


 祭壇の側面には、端末を繋ぐ配線が露出していた。固定された端末。測るための端末。測る端末は値を作る。値は点だ。点は通貨だ。通貨は市場だ。市場は戦争だ。戦争は循環だ。


 循環を閉じさせないために、値を作る回路の“意味”を折る必要がある。


 折るといっても壊さない。壊せば物語になる。物語になれば宗教になる。宗教になれば止まらない。だから折るのは、物理ではなく照合だ。照合は帳簿の作法だ。帳簿の作法の中で、帳簿が帳簿でいられないようにする。


 帳簿が帳簿でいられない状態。それが未定義だ。


 未定義は、制度の恐怖だ。


 僕の手首の白い帯が、側面の読取部に近づいた。帯は光らない。価値にならない帯。だが読取は走る。走った瞬間に、表示が乱れた。乱れは誤差。誤差は事故。事故は盲点。


 盲点の中で、ほんの一瞬だけ文字が出る。


 ――照合:不可

 ――優先度:再計算不能

 ――生存:点にするな


 また同じ命令。命令が繰り返されるということは、ゼロが“拡散”させているということだ。拡散は危険だ。危険は矯正される。だが拡散が雑音の形なら、矯正は追いつかない。追いつかなければ未定義が残る。


 未定義が残ると、神の台が揺れる。


 揺れた台の上の神は、神でいられない。


 群衆の前で、若い男が腕を上げる。端末の光を見せつける。光が正義になる瞬間だ。正義の光は、他者の暗さを罪にする。罪になった暗さは排除される。排除は死を呼ぶ。死は地上の通貨だ。


「見ろ」男が叫ぶ。「俺は生存点を持っている。俺は――」


 言葉が途切れた。端末の光が、一瞬だけ消えた。消えたのではない。照合が外れた。照合が外れたということは、値が未定義になったということだ。未定義になった値は、正義になれない。


 男の顔が凍る。凍りは恐れだ。恐れは亀裂だ。亀裂は光だ。光は火種。


 群衆が一斉に息を止める。息を止めた瞬間、祈りが止まる。祈りが止まった瞬間だけ、人は神なしで立てる。


 立てるのは一瞬だ。その一瞬の間に、誰かが次の神を置こうとする。次の神は銃かもしれない。帳簿かもしれない。地底かもしれない。


 僕はその前に、雑音を落とす必要がある。雑音を落とす。拾わせない。名前にしない。だが落とす。


 落とすのは物資ではない。言葉でもない。


 “矛盾”だ。


 矛盾は制度に取り込まれにくい。取り込もうとすると忙しくなる。忙しくなれば盲点が増える。盲点が増えれば、穴は移動できる。


 僕は、祭壇の側面の配線に触れた。触れたのは断線のためではない。接触のためだ。接触はログを残す。ログは確定の材料だ。材料は武器になる。


 だから接触は一瞬だけ。痕跡を最小に。痕跡が最小なら、確定に時間がかかる。時間がかかれば、ゼロが動ける。


 表示がもう一度乱れ、今度は別の文言が走った。


 ――配給券ではない

 ――呼吸でもない

 ――記録だけ

 ――記録は価値にならない


 記録だけ。


 記録だけを配る。価値を配らない。価値がないなら、神の台は作りにくい。台が作れないなら、神は立てにくい。立てにくい神は、銃に置き換えられやすい。銃に置き換えられれば戦争だ。


 戦争は循環を閉じる。


 閉じさせないために、銃より先に“別の掴みどころ”を与える必要がある。


 掴みどころは、点ではない。点は奪われる。点は通貨になる。点は宗教になる。


 掴みどころは、点にならない共同だ。


 共同は、帳簿になりにくい。帳簿になりにくい共同は、制度が嫌う。嫌うものは矯正される。矯正される前に、共同は場所を変える。場所を変えられる共同だけが生き残る。


 男が叫ぶ。


「誰かが……神を盗んだ……」


 盗んだ。盗みという単語が出た瞬間、倫理が戻る。倫理が戻ると、正義の光は曇る。曇った光は疑われる。疑われる神は弱い。弱い神の足元で、次の神が立ち上がるまでの時間ができる。


 時間ができた。


 その時間の中で、僕は群衆の顔を一人ずつ見た。飢えの目。信仰の目。恐れの目。怒りの目。どれも同じだ。どれも呼吸の形だ。呼吸がある限り、人は祈る。祈りがある限り、神は生まれる。


 神を生ませないのではない。神を、点にしない。


 点にしなければ、奪い合いの回路が閉じにくい。


 閉じにくい回路の中で、第三の“閉じ方”が生き残る。


 隊員が無線で叫ぶ。


「照合が不安定だ。祭壇周辺を隔離しろ」


 隔離。地底の得意技。隔離は清潔だ。清潔は善だ。善は疑われにくい。疑われにくい善が、また影を濃くする。


 影が濃くなる前に、僕はここから離れなければならない。離れるというのは逃走だ。逃走は敵の定義を招く。敵を定義された瞬間に、銃が必要になる。


 だから逃げるのではない。移動する。移動は保守の言語だ。保守の言語なら、まだ敵にならない。


 僕は祭壇から一歩退く。


 背後で、端末の光がまた短く、長く、短く点滅した。


 雑音がまだ生きている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ