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満足死  作者: 竜造寺。(原案・編集) & ChatGPT(生成)
第3部
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3部 第7話

 第三の路線という言葉は、二択の外側に線を引くための嘘だ。


 二択は安心をくれる。安心は善だ。善は疑われにくい。疑われにくい善は止まらない。止まらない善の中で、第三を名乗るものは、だいたいが二択の延長だ。二択の延長は、結局同じ場所へ戻る。戻る場所が循環だ。循環は止まらない。


 だから第三は、路線であってはいけない。路線という形を取った瞬間、制度に地図が渡る。地図を渡すと追跡される。追跡されれば矯正される。矯正されれば薄まる。薄まれば終わる。


 第三は、地図にならない形で存在しなければならない。


 隔離室の白さが、今日は少しだけ重い。重い白さは、矯正が強まっている証拠だ。証拠があるということは、監督官が焦っているということでもある。焦りは誤差。誤差は事故。事故は盲点を増やす。盲点が増えれば、ゼロが動ける。動けるゼロが、欠落を使うと言った。


 欠落を使う。


 その言葉が、僕の胸の内側でまだ痛い。痛いのは恐れだ。恐れは、正しく壊すことへの恐れだ。正しく壊すと止まらない。焼却の後にもっと硬い制度が立ったように、正しい破壊の後には正しい支配が立つ。立った支配は永遠になる。


 第三は永遠を拒むための技術だ。


 扉が開き、監督官が入ってくる。薄い表情。薄い声。今日は薄さの奥に、少しだけ疲れが滲んでいる。疲れは、制度が忙しい証拠だ。忙しい制度は盲目になる。盲目の時間があるなら、僕はその隙に第三を形にしなければならない。


 監督官が言う。


「委員会が方針を修正した。抑止を準備する」


 準備。準備という単語は、実行の前の免罪符だ。準備している間は、まだ悪ではないふりができる。ふりをしているうちに、実行が始まる。始まれば止まらない。


 僕は言った。


「抑止は点を強める」


 監督官は頷かない。


「点ではない。治安だ。配給を守る。装着者を守る」


 守る。守るという単語は、暴力を正当化する。守るための銃は、いつも誰かを撃つ。撃たれた者は点になる。点になった死は物語になる。物語になった死は宗教になる。宗教になった死は止まらない。


 監督官が続ける。


「地上の“満足生”が拡散している。自治が宗教化した。あなたの指摘は当たった」


 当たった。僕の言葉が当たったということは、僕の言葉が制度の材料になるということでもある。材料になれば取り込まれる。取り込まれた言葉は武器になる。武器になった言葉は、僕に向けられる。


 僕は言った。


「当たったなら、止めるべきだ」


 監督官の目が冷える。冷えは宗教の目だ。


「止められない。止めれば死者が増える」


 死者が増える。地底の恐怖。恐怖を提示された瞬間、議論は終わる。終わった議論の上で、抑止が進む。進めば止まらない。


 僕は息を吐いた。数えない。数えないことで、矯正の滑らかさに抵抗する。


「なら第三だ」


 監督官が言う。


「第三とは何だ」


 問いが生きている。問いが生きている瞬間にだけ、制度は揺れる。揺れた制度の隙間に、答えを置かなければならない。だが答えを言えば、ログになる。ログになれば確定される。確定された第三は制度に取り込まれる。取り込まれた第三は第三ではなくなる。


 だから僕は、答えを“説明”ではなく“指示”として出す必要がある。指示は、意味の余白を残す。余白は欠落だ。欠落は埋められない形で外へ出る必要がある。


 僕は言った。


「第三は、供給と抑止を切り離す」


 監督官の眉が僅かに動く。誤差。誤差は可能性。


「切り離す……」


 僕は続ける。


「供給を守るために銃を持つと、銃が供給を支配する。支配した銃は点を作る。点は宗教を作る。宗教は止まらない。だから供給の配分は、銃の外側で決める」


 監督官が言う。


「外側とは何だ。地上の外側か。地底の外側か」


 僕は言った。


「どちらでもない。ログの外側だ」


 ログの外側。


 その言葉は危険だ。危険は矯正される。だが危険を言わなければ、第三は始まらない。ログの外側とは、制度が記録できない形での配分だ。記録できない配分は不正を呼ぶ。不正は地底の恐怖だ。恐怖を呼ぶと監督官は顔を強張らせる。強張りは個人の痕跡だ。痕跡がある限り、彼女はまだ考えられる。


 監督官が言う。


「記録できない配分は混乱だ。混乱は死を増やす」


 僕は言う。


「混乱を作るのではない。混乱が自然に起きる場所を、制度の矢印から外す」


 監督官が目を細める。


「言葉遊びだ」


 言葉遊び。否定。否定が出るのは揺れている証拠だ。


 僕は言った。


「地上の点庫は、記録によって成立した。帳簿が燃えたとき、点庫は一瞬だけ揺れた。揺れた後に銃が立った。銃が立てば、帳簿は戻る。戻った帳簿はもっと硬い。だから帳簿を燃やさない。銃も立てない。帳簿と銃の両方を“不要にする領域”を作る」


 不要にする領域。


 監督官が言う。


「領域を作るには、権限が要る」


 僕は言う。


「権限を作らない。権限を作ると権力になる。権力になると点になる。点になると宗教になる」


 監督官の顔が、ほんの僅かに歪む。疲れが濃くなる。濃い疲れは、彼女がすでに理解している証拠だ。理解していても止められない。止められない者に、第三を渡すには、手順を“勝手に始まる形”にしなければならない。


 壁面の表示板が、また勝手に点滅した。監督官の端末ではない。保守系統。ゼロの雑音。


 ――欠落、投下

 ――名は出さない

 ――意味だけずらす

 ――“生存点”を“生存”から切る


 欠落、投下。


 投下。地底が地上へ触れるときの動詞。ゼロが同じ動詞を使うということは、彼が地底の指先を逆用し始めたということだ。逆用は危険だ。危険は矯正される。だが逆用ができる者だけが、制度の速度を変えられる。


 監督官の視線が表示板へ走る。彼女も見た。見てしまった。見てしまったという事実は、ゼロの雑音が制度の内側へ滲んでいる証拠だ。滲みは欠落の効果だ。欠落は音を出す。音が出れば事故になる。事故になれば忙しくなる。忙しければ盲点が増える。


 監督官が低い声で言う。


「これは何だ」


 僕は答えない。答えればゼロが確定される。確定されれば追跡される。追跡されれば矯正される。矯正されれば終わる。


 沈黙は、ここでは武器だ。


 監督官が言う。


「……あなたがやったのか」


 僕は言う。


「僕は隔離だ」


 隔離。隔離という現実が、僕の免罪符になる。免罪符があるときにしか、僕は嘘をつける。嘘は地底では病理だ。病理は矯正される。だが免罪符の嘘は、しばらく病理にならない。


 監督官は歯を食いしばるように言った。


「委員会は抑止を進める。だが……この“ずれ”が拡大すれば、抑止の正当性が揺れる」


 揺れる。揺れると言った。監督官が“揺れる”と認めた瞬間、第三は少しだけ形になる。第三は路線ではない。だが揺れを作る点では、確かに道だ。道は、人が歩けばできる。歩けば、誰かが後を追う。追われれば見つかる。見つかれば潰される。


 だから道は、目に見えない形で広がらなければならない。


 僕は言った。


「拡大しすぎると死が増える。だから拡大は遅くていい。遅くていいから、確実に“意味”を折る」


 監督官が言う。


「意味を折るとは」


 僕は言う。


「生存点が、生存を保証しないようにする」


 監督官が眉を寄せる。


「それは残酷だ」


 残酷。残酷という単語は、地底では珍しい。珍しい単語が出るとき、彼女は個人だ。個人が戻る瞬間にだけ、僕は言葉を刺せる。


 僕は言った。


「残酷に見えるのは、点が生存を支配しているからだ。点が生存を支配しないなら、点は通貨になりにくい。通貨になりにくければ市場が痩せる。市場が痩せれば抑止が要らなくなる。抑止が要らなくなれば、銃が不要になる」


 監督官は沈黙する。沈黙は考える時間だ。考える時間は、制度ではなく人間のものだ。


 壁面の表示板が、もう一度だけ点滅した。


 ――配給券ではない

 ――呼吸でもない

 ――“記録”だけ

 ――記録は価値にならない


 記録だけ。


 記録だけを配る。価値を配らない。価値が配られなければ、市場は立ちにくい。市場が立ちにくければ点は通貨になりにくい。通貨になりにくければ宗教は育ちにくい。宗教が育ちにくければ、抑止の理由が薄くなる。


 地底の救済は、価値を配ることで支配になった。ゼロは、価値を配らずに記録だけを残すと言っている。記録は帳簿だ。帳簿は点庫の根だ。根を育てない帳簿は矛盾だ。矛盾は人間の証拠だ。ゼロは矛盾を、制度の心臓へ投下しようとしている。


 監督官が言った。


「……あなたは、これを支持するのか」


 支持。支持という単語は危険だ。支持すれば陣営ができる。陣営ができれば戦争になる。戦争は循環を生む。循環は止まらない。


 僕は言う。


「支持しない。正しいとも言わない。だが、これなら“正しい説明”が成立しない」


 監督官が息を吐く。疲れた息。疲れた息は、負けの前触れだ。負けは悪だ。悪を避けるために、委員会はもっと硬い手を打つ。硬い手は抑止だ。抑止は銃だ。銃は点だ。


 時間がない。


 だから第三は、今夜のうちに外へ出なければならない。外へ出ると言っても、僕は隔離だ。外へ出せるのは、雑音だけだ。雑音の形で、意味を折る“手順”を地上へ落とす。落とすのは物資ではない。物語でもない。記録でもない。


 “価値にならないもの”だ。


 価値にならないものだけが、市場を育てない。


 市場を育てないものだけが、抑止を不要にする。


 抑止を不要にするだけが、地底の指先を鈍らせる。


 監督官が扉へ向かい、振り返らずに言う。


「次の会合で、あなたの第三案を報告する。だが……言語化しすぎるな」


 言語化しすぎるな。監督官がそれを言うということは、彼女も理解した。第三は地図になった瞬間に死ぬ。地図にしないためには、余白が要る。余白は欠落だ。欠落はゼロだ。


 扉が閉まる。


 白い壁の前で、僕は呼吸を数えない。


 数えないまま、第三の路線という嘘を手放す。路線ではない。指先の角度を変えるだけだ。角度が変われば、触れ方が変わる。触れ方が変われば、地上の反応が変わる。反応が変われば、循環の閉じ方が変わる。



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