第8話 泉プロデュース・お家デート
クラス全員が見守る中、次に呼ばれたのは神谷蓮と朝倉真帆だった。さすがS評価ペア、期待を裏切らない。
「神谷・朝倉ペア。女子満足度94点、男子満足度98点。総合評価はA」
ざわっ、と教室が揺れる。どよめきの中、朝霧先生が黒板に大きく“A”と書き込んだ。
「二人は高い理解度を示しただけでなく、自分自身も楽しんでいた。相手と一緒に喜び合う──それがこの課題の理想形です」
神谷は照れ笑いを浮かべ、朝倉は胸を張って微笑む。教室は自然と拍手に包まれた。
◆
その後も、他のペアの発表が続く。
C評価で悔しがる男子。B評価に安堵する女子。笑いとため息が交互にこぼれる。
(なるほど……やっぱり大半はBからDに収まる感じか)
そんな空気の中──いよいよ俺たちの番が来た。
「最後に。鷹宮・白羽ペア」
朝霧先生の声に、教室がざわめく。史上初のF評価を叩き出したペア。視線が一斉に突き刺さる。
「女子プロデュース。──男子満足度85点、女子満足度70点。総合評価はB」
……一瞬、教室が静まり返る。
そして誰かが叫んだ。
「おい、白羽のデートってまさか──お家デート!?」
結果表示の点数の脇に、デート内容が小さく記されている。その文字を見つけた男子が、食いつくように声を上げた。
ざわつきが爆発する。俺は思わず頭を抱えた。
◆
──その日の記憶が蘇る。
待ち合わせ場所に現れた泉は、涼しい顔のまま口を開いた。
「……うち」
「……は?」
「お家デート。これで十分でしょ」
呆気にとられる俺を置き去りに、泉はさっさと歩き出した。付いていくしかなかった。
(女子の家に行く……って、どう考えてもやばいだろ)
心臓がやたらとうるさい。
◆
白羽家は広くて整然としていた。泉の部屋に通されると、壁際に本棚、シンプルなベッド、整頓された机。女子らしい小物はほとんどなく、書斎のように落ち着いた空間だった。
「まあ時間まで、ゆっくりしていって」
「……いや、本当にやる気ないんだな」
俺が苦笑すると、泉は肩をすくめてソファに腰を下ろし、タブレットで映画を流し始めた。俺も隣に座ったが、自然と一歩分の距離をあける。
(……思ってたより普通、か)
画面には、可愛らしい猫が小さな冒険に出る物語。子ども向けかと思いながらも、気づけば引き込まれていた。
「こういうの、好きなのか?」と小声で尋ねても、泉は返事をせず、ただじっと画面を見つめている。横顔はやはり整っていて、光の加減で少し幼く見えた。
映画が終わると、泉は小さく欠伸をして、静かに横になった。
「眠いなら寝れば?」
「……そのつもり」
そのまますぐに寝息が聞こえ始める。
俺は途方に暮れたが、不思議と居心地は悪くなかった。光に照らされた寝顔は、普段の冷たさより年相応に見えて──思わず目を奪われてしまった。
その後の時間は、タブレットを借りて俺の好きな映画を一本観た。
◆
結果。泉の満足度は70点。昼寝できて満足だったのだろう。
俺はまさかの85点。ドキドキの連続だったが、落ち着いた時間を意外に楽しんでいた。
◆
現在に戻る。
「お家デートとか……やらしいなぁ」
「いやらしすぎだろ!」
(おい、男どもは泉と俺で変な妄想はするなよ?)
「白羽さんって意外と積極的?」
「鷹宮くんが狼に……」
(あれ、女子たちまで?)
クラスメイトが口々に冷やかす。
「なっ……! 何もしてないわよ!」
泉が顔を赤くして睨み返す。その珍しい反応に、教室は爆笑の渦に包まれた。
──次は俺プロデュースの番だ。そのスコアを見て、クラスメイトはどんな反応を見せるのか……考えていた。