第7話 新課題、デートプロデュース
この学園も、四六時中恋愛漬けというわけではない。
日々の授業は普通の高校と同じだ。
午後からは国語で古典を読み、数学でグラフを書き、英語でリスニングをやらされる。
──退屈だが、むしろ落ち着く時間だった。
だが放課後。
担任が教室に入り、一枚のプリントを掲げる。
「さて、次の課題を発表する。次の課題は──デートプロデュースだ」
ざわつく教室。
担任は黒板に大きく書き出した。
【一日目:女子プロデュースのデート】
【二日目:男子プロデュースのデート】
「ルールは簡単だ。
相談は禁止。当日はプロデュース側がすべての行動を決めること。
支給するスマートウォッチで、会話や表情、心拍数などを記録し、相手の“満足度”を数値化する」
「つまり──どれだけ相手を楽しませられるか。それが評価のカギになる」
その言葉に、生徒たちは一斉にざわついた。
「テーマパークなら鉄板じゃね?」
「いや、映画とかカフェが無難でしょ」
「悩むなぁ……」
(……こいつら、やる気満々だな)
俺は隣を見る。泉は案の定、プリントを机に丸めて放り出し、窓の外を眺めていた。
(……マジでどうするんだ)
◆
──その夜。
自宅の机の上で、俺はスマホを手に明日の予定を確認していた。
今日の泉プロデュースのデートには正直びっくりした。
ただ、その中で気づいたこと、学んだこともある。
明日は俺の番だ。精一杯やるしかない。
(……今日のデートで思いついたことが役に立てばいいんだが)
スマホの画面を閉じ、深く息を吐いた。
◆
そして結果発表の日。
「まず最初に──笹本・高梨ペア」
担任の声に応じて立ち上がったのは、笹本駿と高梨あかり。
笹本は日に焼けた肌に背の高いスポーツマンタイプ。
短髪がよく似合い、野球部出身だと一目で分かる。
高梨は対照的に小柄で、前髪を眉上で切りそろえた可愛らしいタイプだった。
「女子プロデュース:野球観戦。男子満足度90点、女子60点。総合評価はB」
結果を聞いたあかりは、照れたように笑って言う。
「あれ、あかりの点数も出んの?てか、あかりあんまり楽しんでなかったの?」
「駿ちゃんがずっと野球やってて、あのチームの試合もよく見てるから……好きなのは知ってたけど。私、ルールは正直曖昧で……」
駿が苦笑して肩をすくめる。
「そうだったのか」
「うん。でも一緒に見れたのは楽しかったよ」
そこで副担任の朝霧玲奈が一歩前に出た。
ロングの黒髪を揺らし、きりっとした目で教室を見渡す。
「覚えておきなさい。──この課題の評価は“相手の満足度”だけではない。
プロデュースした側の心拍数や表情のデータも解析されている。
つまり、自分がどれだけ楽しんでいるかも重要な指標なのです」
ざわっと教室がどよめいた。
「え、自分も点数出るのかよ!?」
「相手を喜ばせればいいって話じゃなかったのか……」
副担任は淡々と続ける。
「相手が楽しむ姿を一緒に喜べるかどうか。それが最高評価への分かれ目です」
騒がしい生徒たちに次は笹本の番だと朝霧は続ける。
「男子プロデュース:舞台観劇。女子満足度90点、男子50点。総合評価B」
あかりが思い出し笑いを浮かべる。
「そういえば駿ちゃん、途中で寝てたよね。やっぱり退屈だったんだね」
駿は頭をかきながら言った。
「悪い……あかりが好きな舞台ってのは分かってたんだけど、俺には良さがイマイチでさ」
「お互い様だね」
「ああ」
二人は照れながら顔を見合わせ、笑った。
クラスに小さな笑いと温かい空気が広がる。
◆
俺はその様子を眺めながら、ふと考える。
(……相手を楽しませるだけじゃなく、自分も楽しむことが大事、か)
(俺たち……できてたっけ?)
胸の奥が、妙にざわついた。
10/3(金)20時に投稿予定です!
第8話 泉プロデュース・お家デート