第6話 S評価ペアとの邂逅
史上二組目のS評価──神谷蓮と朝倉真帆。
彼らの名前が告げられた瞬間から、クラスの空気は一変していた。
「やっぱすごいよな」
「完全に息合ってたし、もう恋人同士って感じだった」
「トップペア確定だな」
称賛と羨望の声が次々と上がる。
昨日“史上初のF評価”を叩き出した俺と泉とは、正反対の扱いだ。
机に突っ伏しながら、俺はその声を聞き流す。
泉は相変わらず涼しい顔で、窓の外をぼんやりと眺めていた。
◆
昼休み。
弁当を広げようとした俺の前に、影が差した。
「鷹宮、だよな?」
顔を上げると──神谷蓮が立っていた。
すらりとした長身に整った顔立ち。
制服をきっちり着こなした姿は、まさに“モテる男子”の典型。
その柔らかな笑みは、男女を問わず自然に好かれるのだろう。
その隣には、朝倉真帆。
明るい茶色のセミロングの髪が揺れ、大きな瞳が印象的だ。
泉のすらりとしたモデル体型とは対照的に、朝倉は凹凸のはっきりしたスタイルの良さが際立っていた。
健康的で華やか──まさに“教室の太陽”のような存在感だった。
「昨日はお疲れさん。いきなり大変だったな」
「……え?」
意外だった。
笑われると思っていたのに、神谷の声色には嘲りがなかった。
「俺たちも最初は緊張したんだ。まあ、なんとか形になったけどな」
神谷は肩をすくめ、照れくさそうに笑った。
朝倉はにこっと笑って続けた。
「でもね──唯人くん」
さらりと名前呼び。
……これが、S評価か。
「覚えていないペアも多かったし、あれはポイント高いよ? 泉さんも嬉しかったと思うよ!」
(いや、こいつが嬉しがるか?)
心の中で即ツッコミを入れつつも、口から出たのは一言だけだった。
「……ありがとう」
◆
その会話を聞いていたクラスメイトが口を挟んだ。
「いやいや、S評価様がフォローしてくれるなんて優しいな」
「FとSじゃ天と地ほどの差だけどな」
嘲るような笑い声が広がる。
……せっかく二人の優しい言葉で少し浄化されたのに、あまり刺さないで欲しい。
神谷と朝倉は苦笑していたが、結局この空気を変えることはできなかった。
◆
昼休みが終わり、席に戻ると泉がちらりとこちらを見た。
「……仲良くしてもらえてよかったじゃない」
「いや、別に仲良くなったわけじゃ……」
「どうでもいいけど」
それだけ言い残し、また窓の外に視線を戻す。
──どうでもいい、か。
本当にそう思っているのか、それとも。
俺は答えを見つけられないまま、午後の授業に身を投げ出した。