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第5話 噂と孤立、そしてS評価

「学園史上初のF評価」──その言葉は、翌日にはすでにクラス中に広まっていた。

「鷹宮と白羽がFだってよ」

「ゼロ点ってあり得る? ていうか初めてらしいぞ」

「やっぱり、白羽さんがあの態度だから……」

 ひそひそ声は教室のあちこちから聞こえてきた。

 笑い混じりのもの、興味本位のもの、同情を装ったもの。

 俺に向けられる視線は、いずれも居心地が悪いものばかりだ。

 椅子に座っているだけで背中が熱くなる。

 昨日の発表の光景が何度も頭に蘇り、胃の奥が重く沈んだ。

 一方の泉はといえば、やはり涼しい顔のままだった。

 周囲の噂など気にする素振りすらなく、窓の外を見つめている。

 それが余計に「原因は白羽」と決めつける声を強めている気がした。

 そんな重苦しい空気を断ち切るように、担任が教室に入ってきた。

「昨日の課題について、改めて振り返っておく」

 黒板にスコアの一覧が貼り出される。

 C評価、B評価が大半。中にはAに届いたペアもいる。

 そして、一番下に赤字で「F:鷹宮・白羽ペア」と記されていた。

「この結果を見て分かるとおり、大半のペアは“最低限”はできている。

 だが一組、歴史的に最悪のFが出てしまった」

 クラスの視線が一斉にこちらに突き刺さる。

 胃の奥がまたきゅっと縮む。

 だが担任は、次の言葉で空気を一変させた。

「そして──もう一つ報告がある。

 史上二組目となるS評価が、このクラスから出た」

 教室がざわめきに包まれた。

 呼ばれたのは──神谷蓮と朝倉真帆。

 二人は前へ出て、自然に並んだ。

 神谷はすらりとした長身の男子で、穏やかな雰囲気を纏っている。

 朝倉は明るい茶髪に大きな瞳を持つ、快活そうな少女だ。

 見た目だけでも“お似合いのペア”という言葉が浮かんでくる。

「彼らの発表は素晴らしかった。

 相手のプロフィールを正確に覚えた上で、好きなものに関するエピソードまで盛り込み、聞き手に強い印象を与えた。

 これは過去に一度しか出ていない“完全スコア”だ」

 担任の声には珍しく熱がこもっていた。

 クラスの拍手が自然に湧き起こる。

「すげえ……」

「やっぱり神谷と朝倉だよな」

「こりゃトップペア確定だわ」

 羨望と称賛の視線が二人に注がれる。

 彼らは照れくさそうに微笑み合い、しかし堂々とした足取りで席へ戻った。

 その姿を見て、胸の奥がざらついた。

 俺と泉のF評価が、より一層みじめに思えてくる。

 最初の課題で“頂点”と“最底辺”。

 同じ教室の中で、これほどまでに差が開くなんて。

 俺が悔しさに拳を握りしめていると、隣の泉がぼそりと呟いた。

「……くだらない」

 小さな声だった。

 周囲には届かず、俺にだけ聞こえる程度の。

 その横顔は相変わらず冷たく、しかし一瞬だけ影を帯びていた。

 ──あの時、なぜ彼女は三分間も沈黙を貫いたのか。

 意欲ゼロの理由は、本当に単なる反抗心なのか。

 俺は答えを見つけられないまま、S評価ペアを讃える拍手の中に取り残されていた。

 ふと、頭に浮かぶ。

 逆に──過去にS評価を取った“最初のペア”って誰なんだ?

 この学校が創立されてまだ三年目。

 なら、その二人はまだ在学しているはずだ。 

 一体どういう人達なのだろうか……

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