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第4話 最初の衝突

入学式が終わったあと、その日の授業は基本的に無し。

 ──ただし、担任から課題がひとつだけ出された。

「ペアで“他己紹介”をしてもらう。ルールは簡単だ。相手の自己PRシートをもとに、三分間で紹介すること。相手の紹介中、ペア本人は発言できない。聞いていた内容をどれだけ覚え、どう伝えられるかが評価の対象だ」

 教室がざわめく。

 なるほど。つまり、相手への理解度が試されるわけだ。

 ……にしても三分は長い。埋められるだろうか。

 発表は前の席から順に行われた。

 平均的なペアは、ただ項目を順番に読み上げていく。

「好きな食べ物はカレーで、趣味は読書で──」

 聞いていて退屈だが、最低限の形にはなっている。

 少し劣るペアは、内容すらあやふやだ。

「えっと……好きな食べ物は、確か……お寿司? だったかな……」

 教室から失笑が起こり、担任が「もっと相手に関心を持て」と眉をひそめる。

 一方で優秀なペアは、項目に加えてエピソードまで添えていた。

「彼女はイチゴが好きです。小さい頃から毎年家族でイチゴ狩りに行っていたそうで──」

 クラスが和やかな笑いに包まれ、評価も高い。

 ……その差は歴然だった。

「次、鷹宮唯人・白羽泉」

 ついに俺たちの番が来た。

 緊張で喉が渇く。

 相手の言葉をそのまま覚えるのは簡単じゃない。まして、泉はほとんど何も話していなかった。

「えっと……白羽泉さんは、美人で、頭も良くて、運動もできて……」

 口から出るのは、ありきたりな情報ばかり。

 項目を読み上げて三分を埋めようとしたが、到底足りなかった。

 無理やり「趣味は昼寝です」と付け足すと、クラスから小さな笑いが起こった。

「……以上です」

 なんとか締めると、担任が「ふむ」と淡々とメモを取った。

 次は泉の番だった。

 彼女は無言で前に立ち、マイクを受け取る。

 教室が静まり返る。

 泉は視線を前に固定したまま、何も話さない。

 一分、二分……。

 時間だけが過ぎていく。

 ざわつくクラス。

 隣で俺は、声をかけたくてもルール上何も言えない。

 三分が経過し、担任が静かに告げた。

「……終了。白羽、規定時間を黙って過ごすとは前代未聞だ」

 担任の冷たい声が響いた。

 教室は失笑とざわつきに包まれる。

 泉は表情を変えずに席へ戻る。

「今回の評価は──F」

 クラスにどよめきが広がった。

 最低評価。ゼロ点。

 担任は黒板に大きくスコア表を書き出した。

「いいか、評価は百分率で出される。

 100点=S、80〜99点=A、60〜79点=B、40〜59点=C、20〜39点=D、1〜19点=E、そして0点がFだ。」

 チョークが黒板を叩く音が響く。

「今回のように無言で規定時間を過ごすなど、完全な放棄はゼロ点──F評価になる。

 これは……学園史上初のF評価だぞ。記録に残る」

 息を呑む教室。

 笑いと嘲りの視線が俺に突き刺さる。

 だが、担任はさらに言葉を重ねた。

「逆に言えば、S評価も滅多に出ない。

 この“他己紹介”の課題で、これまでにSを取ったのは──わずか1組だけだ」

 教室がざわめく。

 つまり、この評価制度でSに届くことは、極めて稀だということ。

 ……その史上初のF評価を、俺たちは叩き出してしまったのだ。

 背中に冷たい汗が伝う。

 ──だが隣の泉は、やはり涼しい顔のままだった。

 こうして、俺たちは最悪のスタートを切った。


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