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第2話 “意欲0点”の完璧美少女

 「──鷹宮唯人、白羽泉」

 入学式の壇上で、ペア発表が告げられた瞬間。

 講堂はざわめきに包まれた。

 俺は混乱しながら立ち上がり、壇上へと歩き出す。

 視線が突き刺さる。羨望、失望、好奇心──いろんな感情が入り交じった視線が。

 その隣を歩く少女、白羽泉は、周囲の騒めきを意に介さない様子だった。

 黒髪のボブが揺れ、整った横顔は凛としている。

 彼女は、何ひとつ動揺していなかった。

 入学式が終わったあと、新しいペア同士は校内のラウンジへ集められた。

 教師が渡した分厚い冊子には「第一課題」と書かれている。

 ──ペアでの自己紹介、相互理解シートの作成。

 その後は三年間を通じて、課題をこなしながら“恋愛スコア”を積み上げるのだという。

 椅子に座ると、真正面に泉がいた。

 間近で見ると、本当に整った顔立ちだ。雑誌のモデルと並んでも見劣りしないだろう。

 それでも彼女の表情は冷たく、どこか張りつめていた。

「……鷹宮唯人、だっけ」

 初めて口を開いた声は、思ったよりも低めで落ち着いていた。

「あ、ああ。そうだ。これから三年間、よろしく……」

「別に、よろしくするつもりはない」

 きっぱりと言われて、思わず言葉を失った。

「私、この制度に従う気はないから」

「……え?」

「“恋愛必須”とか、くだらない。そんなものに人生を縛られるなんて馬鹿げてる」

 淡々と告げる泉。

 その瞳には、反発と冷ややかさが混じっていた。

 噂には聞いていた。

 彼女は全ての指標が完璧に近いが、“恋愛意欲”だけはゼロ。

 つまり、最初からルール違反スレスレの存在だ。

「……じゃあ、どうするつもりなんだ」

「退学しても構わない」

 その言葉に、俺は息を呑む。

 周囲の生徒たちは、恋愛できるかどうかに一喜一憂しているのに、彼女だけは最初から勝負を放棄していた。

 けれど、不思議だった。

 突き放すように言うのに、どこか無理をしているように見える。

 それが何なのか、俺にはうまく言葉にできなかった。

 沈黙が続いたあと、泉はふっと視線を逸らした。

「でも……あんたが本気で困るなら、最低限の協力はしてあげる」

「え?」

「課題とか、スコアとか。形式だけは合わせてあげるってこと。どうせ私はゼロのままだし」

 皮肉めいた笑みを浮かべながら、そう付け加える。

 彼女の態度は冷たいのに、ほんの一瞬、微かな優しさが滲んだように見えた。

 俺は何も返せなかった。

 平均的で、取り柄のない俺に。

 完璧美少女で、意欲ゼロの彼女。

 ──どうして、この二人が組まされたのか。

 その理由は、まだ誰にもわからない。

 ただ、この瞬間から。

 俺と泉の奇妙な三年間が始まったのだ。


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