第18話「評価の罠」
そして、いよいよ結果発表の日がやってきた。
教室内には緊張が走っていた。
朝霧先生が、前に立って通知端末を操作する。
「これより、共同生活課題の最終評価を発表します」
ざわつきが静まり、全員の視線が前に集まる。
まず呼ばれたのは笹本と高梨ペアだった。
「笹本駿・高梨あかりペア。評価は……78点。B評価です」
「やった!」「あー、ギリギリB!」
少し嬉しそうな、でも悔しそうな声が漏れる。
他のペアたちも順次発表されていき、全体的に評価は高めだった。中には90点台のペアも出てきた。
「神谷蓮・朝倉真帆ペア。評価は……95点。A評価です」
静かに、しかし誇らしげにうなずく神谷。朝倉はやんわりと笑みを浮かべていた。
そして、最後に——
「鷹宮唯人・白羽泉ペア。評価は……0点。F評価です」
教室が一瞬、静まり返った。
「はあ? F評価だと?」
誰よりも先に、明らかな怒りを含んだ声が響いた。
それは、これまでずっと黙って発表を見守っていたはずの柿沼だった。
椅子を勢いよく引いて立ち上がり、その音にクラスメイトたちが驚く。
「いやいや、おかしいだろ! なんでF評価なんだ!」
普段は冷静であろう柿沼が、まるで感情を爆発させたように叫んでいる。
明らかに、不自然なほどの取り乱し方だった。
泉が小さく肩をすくめて言う。
「仕方ないじゃないですか。意欲が0なんですから。おかしいと言われても……」
俺も、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「いやあ、僕は頑張ったつもりなんですけどね」
そのやりとりに、柿沼はますます苛立ったように詰め寄ってくる。
「ログを見てみろ! 白羽は感情の起伏も多かったはずだ! あれだけの感情の揺れ動きがあれば0点はないはずだ!」
その瞬間、教室内の空気が一気に変わった。
「……何を言ってるんだ?」
「え、なんでそんなこと知ってるの?」
クラスメイトたちは困惑の表情を浮かべ、柿沼の“知りすぎた”発言にざわつく。
朝霧先生が、静かに口を開いた。
「……なぜ柿沼先生が、白羽の感情のログを知っているのですか?」
その一言に、教室が再び静まり返る。
「記録は学校の情報管理室で一元的に管理されています。我々教師には、生徒たちに影響を及ぼさないようにするため、評価点数とAIによる総評しか公開されません。ログに直接アクセスできる権限はないはずです」
「そ、それは……」
柿沼は言葉を詰まらせた。
唯人は、立ち上がって声を上げた。
「それは先生が、白羽の感情をスマートウォッチを介してコントロールしていたからですよね」
「な、何を言ってる……!」
「先生はスマートウォッチを通じて、意欲0の泉の感情を人為的に操作し、評価を引き上げようとしていた。そのことを、俺と泉は偶然知ってしまったんです」
「バカな! 証拠がどこにあるっていうんだ!」
「これが証拠です」
俺は5枚ほどのプリント用紙をを掲げた。
「これは、学校の情報管理室から得たログのコピーです。そこには、柿沼先生がログインした端末から、泉のスマートウォッチに何度もアクセスがあった記録があります。そして、その直後に泉の感情の波が異常な変動をしていた」
「な、なんでお前がそんなものを——」
「それは、私が彼に渡したんですよ」
そう言って教室に入ってきたのは、見慣れない男だった。
「綿貫先生……!」
柿沼が苦々しくその名を口にする。
「彼から相談を受けて調査したところ、不正のログが確かに確認されました。私はそれを学校の上層部にも報告済みです」
「な、何を……」
柿沼は怒りで顔を赤くし、綿貫に詰め寄るが、綿貫は低く一言耳打ちした。
柿沼はその場に立ち尽くし、苦虫を噛み潰したような顔で黙った。
「くそ……!」
ついに、観念したかのように柿沼が叫ぶ。
「いや、それにしてもF評価はおかしいだろ! あれだけ感情が揺れてたのに、0点ってのは不自然すぎる!」
その瞬間、唯人は前を向いて言った。
「それは、俺たちが逆に“行動”を操作したからです」
——これは、俺たちが仕掛けた逆転の一手だった。
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