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第14話「旧図書室の真実」

旧図書室の扉が、古びた軋む音を立てて開いた。


 室内は、ひんやりとした空気に包まれていた。長い間、誰の手も入っていなかったことを証明するかのように、床にはうっすらと埃が積もっている。だが——


「……ここ、完全に放置されてたわけじゃない」


 泉が呟く。確かに、棚に残された書類や機器は乱雑ながらも整理されており、一部の端末には電源が入る形跡すらある。


「誰かが、ずっと……」

「管理してた、ってこと?」


 俺の問いに、泉は小さく頷いた。彼女の声は、普段よりもわずかに低く、警戒を孕んでいる。


 俺たちは静かに室内を歩き、壁際の古いキャビネットを開いた。中から出てきたのは、「自由恋愛適応プログラム」「感情スコア化試験報告」などのタイトルが記されたバインダー。


「これ……昔、この学校でやってた“別の実験”……?」


 泉が手に取った一冊には、“第0期試験生徒リスト”というラベルが貼られていた。


 (……おかしいな。この学校はまだ創立3年目のはず)

 


 喉元に、冷たい違和感が走った。


 ページをめくると、そこには数名の生徒の顔写真と詳細な記録が残されていた。その中には、どこか見覚えのある顔もあったが、記憶は曖昧で確信が持てない。


(この人……誰かに似てる気が……)


「唯人、こっちにも何かある」


 泉が机の引き出しを開け、ひとつの封筒を取り出した。


「これ、私の机に入ってた鍵と、同じ紙……」


 中には、簡素なメモが一枚。

『真実を知るなら、この扉の先へ』


 それは、泉が旧図書室の鍵を受け取った日の記憶と繋がっていく。


 ——あの日。授業後に戻った教室。誰もいないはずの机の引き出しに、封筒が入っていた。

 中には、鍵と、このメモ。


(誰が……?)


 ……ふと、ある人物の顔が浮かぶ。

 だが、確証はない。ただその人は、時折どこか遠くを見るような目をしていた。俺たちに何かを託したい、そんな気配すら……。


「……唯人、これ」


 泉が指差したのは、古びたファイルの中に挟まれた、一枚の写真。

 そこには——微笑む男女と、一人の若い女性の姿。


「この人……見たことある?」

「……いや、でも、どこかで……」


 写真の裏には、手書きの文字が残されていた。

『S評価——第1号。自由恋愛の可能性と限界』


確か、担任が「神谷と朝倉は史上2組目のS評価」だと言っていた。  ということは、最初のS評価は2年生か3年生にいると思っていた。  ——でも、“第0期”ってどういう意味だ?  それが事実なら、俺たちの知らない“試験運用期間”があったってことになる。


 その一文が、胸の奥に重くのしかかる。


(制度の根底にあったものは、“可能性”だったのか——それとも、“限界”だったのか)


 資料の束に目を通す間、泉の様子がいつもと違って見えた。


 無言でファイルを読みながらも、時折こちらを気にするような視線。


「……あんた、信じてる?」

「え?」

「こういう制度とか、恋愛とか。数値で管理できると思ってる?」


 唐突な問いかけに、少し答えに詰まる。


「正直、よくわからない。でも……それでも、ちゃんと感じたいとは思ってる」


 泉は、小さく「そっか」と呟いて、それきり黙った。


 旧図書室の静けさに包まれた空間で、俺たちの間にわずかな熱が灯っていた。


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