第11話「共同生活、開始」
11話から第2章になります!今まで以上にパワーアップして盛り上げていきます!
教室の空気が、朝の静けさを裏切るようにざわつき始めた。
「え、マジで? 一緒に暮らすの? それってもう……!」
「キャー! 恋愛リアリティ番組じゃん!」
女子たちの声が浮き立ち、男子の一部もそわそわと落ち着かない。そんな中、俺はペンを指先で転がしながら、隣の席の泉に目をやった。
彼女は相変わらず、無表情で窓の外を見ている。黒髪のミディアムボブが首筋に沿って揺れ、横顔からは何の感情も読み取れない。だが——俺には見える。
彼女の内側から立ち上る、赤紫色のもや。
反発。嫌悪。そして、静かな怒り。
教師の朝霧先生が、黒板の前で説明を続ける。
「今回の課題は、“共同生活”です。期間は二週間。各ペアは学内の指定区域に設けられた模擬居住空間で、生活を共にしてもらいます」
ざわめきがさらに強くなる。恋愛必須高校。制度の一環とはいえ、思春期の男女にとっては刺激が強すぎる課題だろう。
笹本とあかりが顔を見合わせて、目を泳がせていた。
「あ、あの……よろしく……ね?」
「う、うん……」
あかりは耳まで真っ赤に染め、笹本は恥ずかしそうに笑っている。微笑ましい、とでも言えばいいのか。
一方で、朝倉と神谷は、まるで事務連絡のように課題文書に目を通していた。
「なるほど。生活時間のログもスコアに反映されるんですね」
「気を抜けないな」
彼らにとっては、恋愛課題も学業の一部。浮かれもせず、怯えもせず、ただ“やるべきこと”として受け止めている。
そして泉は——。
「ふざけてる……」
ぽつりと、彼女が呟いた。
誰にも聞こえない程度の声。だが俺の目には、その瞬間、彼女の色が濃くなったのがはっきりと分かった。
赤紫。だが、ほんの僅かに、青灰が混じっていた。
悲しみ? ——なぜ?
俺は彼女に問いかけようとして、言葉を呑んだ。
まだそのタイミングじゃない。そう思わせる、彼女の横顔だった。
「詳細な生活空間とルールは、今から配布する資料にて確認してください」
朝霧先生の声が再び教室に戻ってくる。配られた資料の上には、精密に設計されたレイアウト図と、逐一記録される心拍・会話ログの記述。
「また、この課題期間中の評価は通常よりも高く、進級・特典にも大きく影響します」
その一言で、教室の空気が変わった。
——やるしかない。
そんな空気が、じわじわと教室に浸透していくのを感じた。
そして、俺たちペア——鷹宮唯人と白羽泉。
最初のF評価から、ようやく少しずつ距離を縮めた、俺たちが試される時が来たのだ。
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