第10話 放課後、わずかな距離
──結果発表が終わっても、教室のざわめきは収まらなかった。
「おい、鷹宮! どうやったら白羽で九一点なんて出せんだよ!」
「絶対なんか裏ワザ使ったろ!」
「お家デートの次にこれって……ギャップやばすぎ!」
男子たちが口々に騒ぎ立てる。
女子の方からも、ひそひそと声が漏れ聞こえてきた。
「鷹宮くんって意外と……イケてるのかも?」
「いや、あれは白羽さんがチョロかっただけでしょ」
「でも顔赤くしてたのは可愛かったなぁ」
(……居心地わりぃ)
椅子に座ったまま、俺は頭をかきむしった。
目立ちたくもないのに、結果のせいで視線が集中してくる。
当の泉はというと──窓際の席に座り、腕を組んで俯いていた。
「……やる気なかったのに。なんで二位なんか……」
小さくぼやくその声に、俺は苦笑するしかなかった。
◆
放課後。
いつもより妙に視線を浴びながら、俺たちは鞄を肩に掛けて廊下に出た。
並んで歩くと、廊下の向こうからも「お家デートの二人だ……」なんて声が聞こえる。
(勘弁してくれ……)
外に出ると、夕焼けに照らされた校門前は赤く染まっていた。
並んで歩く足音が、妙に大きく響く。
「……で、デートは楽しかったのか?」
思わず、口にしていた。
泉は視線を逸らしたまま、しばらく黙っていた。
だがやがて小さく答える。
「……まあ。猫は可愛かった」
その瞬間、俺の目には彼女の輪郭に淡い桃色がふっと差すのが見えた。
(……ああ、やっぱり楽しかったんだな)
心臓が、わずかに跳ねた。
◆
しばらく沈黙が続いた後、俺は口を開く。
「泉も、もう少し協力してくれると嬉しいんだけど……」
「お断りよ」
そっけなく返す声。
だがその輪郭には、ほんのかすかに桃色が残っていた。
夕焼けの中、二人の影は並んで伸びていた。