大公、追い詰める
夜中の牢獄に忍び寄る足音がする。
「大公殿下、爺です。起きていらっしゃいますか?」
「爺、助けに来てくれたか」
「まさか投獄されてるとは、遅くなって申し訳ないことでございます」
一向にソディア家へ帰ってこない我を探し、自警団の襲撃と人斬りの容疑で捕まったことを知った爺が、内密に釈放するように配慮した。
いくら仮の姿でわからなかったとはいえ、大公を投獄したとなれば関係者全員の首が飛んでしまうからだ。
冷えたからだを温めるために茶を入れてくれる爺が申し訳無さそうな顔をしている。
「爺が気づいてくれて良かった。危うく罪人になってしまうところだった。ハッハッハ」
「笑い事ではありませんぞ、大公殿下。しかし、なぜ公国軍が大公殿下を……」
ミリアが一般人を装って騎士庁に通報した情報はカンテミールを必ず通る。
人斬り事件の絵を書いてたのがカンテミールならば合点がいく。証拠の隠蔽と邪魔者の排除をするために、捕縛対象をコーネルたち一味ではなく我にしたということか。
「なんと、まさかあの勤勉で真面目一辺倒のカンテミール子爵が?」
爺が驚くのはわかる。我もカンテミールは真面目な性格という印象を持っていた。
「人は見かけによらぬよな。随分と悪党の顔をしていたぞ」
「むぅ、大公殿下、どうするおつもりで?」
「もちろん、盛大にお仕置きするしかないな。粛清というお仕置きをな」
◇ ◇ ◇
インガ公国宮殿内の円形会議場には、十名の元老院と二十名の上級貴族や書記官などがずらりと並んでいる。
我の命により、臨時公国会の招集がされたのだ。
議案は昨今、多発している人斬り事件と治安維持法の改正についてである。
参考人として呼ばれた騎士庁の治安部隊長が尋問台へと登ると、人斬り事件の件数を報告すると元老院や上級貴族たちから多くの質問が飛ぶ。
「人斬り事件以外にも不敬罪での現場処刑の件数も増えているようだが、なぜだ?」
「お答えします。昨今、貴族の方たちが庶民の飲食街を多く利用していることが起因していると思われます」
「なぜ、飲食街を利用するだけで増えるのか理由を述べよ」
「お答えします。処刑された死体からは酒を多量に飲んだ形跡があり、酔った庶民が不敬を働くという場合が多いようです」
「貴族がわざわざ庶民が飲むような場所に何故行くのだ?」
「それは、各人の自由と申しますか……」
「対策はしておらぬのか」
息をつく間もなく飛ぶ質問に治安部隊長がたじろいでいると、治安部隊を統括する上級貴族カンテミールが変わって答弁する。
「昨今の不況は庶民だけでなく、下級貴族たちにも波及することであり高級料理店に行くには懐が寂しいのでしょう。これは治安部隊の問題ではなく、私ども上級貴族や元老院、果ては公国の政治が行き届かないからではないのでしょうか」
長々と流暢にカンテミールが答弁すると、今まで質問を飛ばしていた者たちが言葉をつまらせる。
「もう一つの質問にもお答えしましょう。治安部隊の対策としては人不足を補うために、現在、庶民を中心とした民間の治安維持隊を組織しようと準備しております。これに対しての予算は現在の騎士庁の予算内で賄える計算となっております」
質問と野次のすべてを完全論破、会議場はカンテミールの独壇場となり、拍手する者すら多数現れる始末。
「これ以上、質疑が無いようでしたら私はこれで」
したり顔のカンテミールは自分の席へと戻ろうと尋問台から降りる。
「待て、カンテミール子爵」
会議場に我の声が響いた。
「はっ、大公殿下」
「そなた、民間の治安維持隊を組織していると言ったな」
◆ ◆ ◆
時は我が牢屋から出た直後まで戻る。我は赤き剣を招集した。
「殿下、赤き剣十名、揃いました」
「夜更けにご苦労、今より廃村まで行く。我について参れ」
「御意」
カンテミールの横槍で我の思惑が台無しになってしまったからな。
今度は万全を期して人斬り共を捕らえてやる。
我が捕縛された時の「覚えてやがれ」が負け惜しみで言ったのではないのを証明してやろうではないか。我はしつこいのだ。
「叔父様、お顔が邪悪でございます」
「ハハハ、ミリア。正直、腸が煮えくり返るほどの屈辱であったからな」
コーネルたちの中で戦えるのは残り三十名程度だろう。
赤き剣の剣士たちは若い分、我よりもスタミナがあるし、総勢十一名。
断言しよう、一方的な蹂躙になると。
数時間前と同様、廃村の倉庫の扉を蹴破る。
「き、貴様! ラウル。どうして」
コーネルが間抜けな声を上げる。
「覚えてやがれって言っただろ。約束通り、成敗しに来たぞ」
非常に気持ちがよい。牢獄に居る時に絶対このセリフを言おうと思ってた。
コーネルたちが刀を持ち襲いかかってくるが、問題ない。
赤き剣の剣士であれば、一人で対処できる人数を十一名で応戦するのだ。
まるで赤子の手をひねるように、倒していく赤き剣の剣士たちはかすり傷一つ負わない。
当にオーバーキルである。
必要以上に、完膚なきまでに叩きのめしたのは、個人的な感情によるものだった。
顔の形が変わるほどお仕置きをしてやり、一味の全員に縄をかける。
倉庫に併設されていた鍛冶場には、刀を作る東方の国の鍛冶屋が監禁されていた。
「言葉はわかるか?」
「へぇ、なんとかわかりやす」
肩腕の筋肉が隆々とした鍛冶屋から訛の強い言葉が返ってくる。
話を聞いたところ、国を追われインガと公国に流れ着いたところカンテミールに拾われて監禁されたという経緯だっだ。
「そうか、安心せよ。お前は難民として公国で保護をする」
「へへぇ、ありがとうぜぇます」
こうして、コーネル一味は討伐されたのだった。
◆ ◆ ◆
「待て、カンテミール子爵」
会議場に我の声が響いた。
「はっ、大公殿下」
「そなた、民間の治安維持隊を組織していると言ったな」
我が指示を出すと、捕らえたコーネルたち一味を会議場へ召喚する。
「カンテミール、その治安維持隊とはこやつらのことだな」
「なっ!!! なぜ」
カンテミールが目を丸くしてたじろいだ。
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