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大公、夜回りをする

 翌日、我は政務を放り投げ、ラウルに扮して公都へと降りた。

 人斬りの件といい、先日の貴族の件といい、ここ最近、公都の治安が急激に悪くなったことが気になっていたからだ。


 「ラウルさん、今日はお酒は召し上がりになられないのですか?」

 小太り食堂の娘、テスが珍しそうに我に話しかける。

 

 それもそのはず、我はお忍びの際は必ず酒を飲んでいたからだ。

 我にとってお忍びと酒はセットなのだ。

 その酒を我慢してトンカツだけを食らっているのは理由がある。


「ラウルのアニキ、なんで飲まねぇんですか?」

「人斬りが横行してると聞いてな。今日は夜回りをしようと思ってるんだ」

「公都の治安を守る剣術師範! かっけぇっす」


 目を輝かせるヨタロは、自分も同行したいと言う。

 ヨタロはこう見えて意外と剣の腕が立つ。昔から貧民街のならず者たちと喧嘩に明け暮れていたからだろう。

 彼が木剣を腰帯にぶら下げ、自称剣士を名乗っているのもハッタリだけではないのだ。

 

「でもお前さん、酔ってるからな。酒を飲むと判断が遅れるから今日はやめておいたほうがいい」

「なぁに、人斬りが出たら大声だして、野次馬を集めるくらいの役には立ちますぜ」


 二人分の払いをテスに手渡し、店を後にする。

 

 ヨタロの話では人斬りが出たのは先週に二回、酒場街と貧民街の夜中。

 ちょうど今時分だ。

 

「ここから夜回りしながら、お前さんの住んでる貧民街まで行くとするか」

「なんか、送ってもらってるみたいで嬉しいっす。えへへ」

「何言ってるんだ、まったく。気色悪いな」

「気色悪いって、そりゃぁないでしょう」


 

 貧民街が近くなってくると道を照らす魔導灯が無くなる。

 人気(ひとけ)もなく人斬りをするには絶好の場所だ。


 砂利を踏む足音がする。

 耳に集中し、足音を数える。四人……来たか。


「ヨタロ、木剣を構えろ。防御だけに集中して、隙を見て逃げるんだ」

「い、いや。お、お、俺だって戦いますぜ」

「やめておけ。相手は真剣だ、しかも四人」


 黒い布で口と鼻を覆った男たちに前後に挟まれた。

 まずいな、これではヨタロが逃げる隙がない。


 暗闇の中でも剣を構える立ち姿で、この者たちが手練れであることがわかる。

 剣身が随分と細い。しかし、レイピアとはまた違った形状だ。


 一人が剣を振りかぶりヨタロに斬りかかる。間合いの取り方、踏み込み、敵ながら天晴な攻撃だ。しかし、ヨタロもなんとか反応し、木剣を斜めの角度で受けようとする。

 

 木剣で真剣を相手にするときの、防御としては申し分ない。

 斬撃の軌道をずらすことで、木剣自体が切られることがないからだ。


 しかし、その完璧なはずの受けは意味をなさなかった。

 木剣はまるで大根を切るかのように切り落とされ、ヨタロの腕を掠めた。


「ぐわぁっ」

 飛び散る血しぶきが、傷の深さを物語る。

 間髪を入れずヨタロに襲いかかる追撃。咄嗟に我はヨタロを蹴り飛ばし、同時に木剣で相手の柄に突きを入れる。


 なるほど。反り返った刃の重心を使い、引き斬る。これがこの者たちが持っている獲物の特徴だろう。


「ヨタロ! 腰帯で腕を縛って血を止めろ」

 我の指示を聞いたヨタロは、あたふたしながら腰帯を外す。


 さて、これで一対四。だが、四人一斉にかかってくるには突きしか出せない。

 この場合、一人と応戦している間に背後から斬る、もしくは突く。というのが定石だ。


 我の剣術ならば何のことはない。異常な斬れ味という点に注意さえすればよいのだ。


 予想通り、一人が切りかかってくる。先程の要領で、今度は相手の手首を木剣で打ち付けた。続いて背後からの斬撃を、飛んで躱し即座に反撃の突きを繰り出す。


「クソ、お前たち撤退するぞ」

 一人の号令で、四人は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


 統率が取れている。逃げる方向を四方に散らしたのもよく訓練された兵法の手練れのなせる業だ。


 これはもしかすると……



 ヨタロの傷の手当をするために、ソディア剣術指南所へと向かった。

 血の出方からすると、太い血管は切断されていないものの傷の深さは相当だ。


「おやおや、これは手ひどくやられたの。しかもこの斬れ味、胸が高鳴るわい」

 ヨタロの傷の手当をする爺が目を輝かせている。


 この人は、政治学、経済学、魔導学。更には医学にまで精通している。

 我の家庭教師として幼い頃から色々習ったが、未だに底の知れない人物だ。


「ふむ。骨も血管も神経も無事じゃ。しばらく剣は握れんが綺麗に切れてる分、治りも早そうじゃな」

 曲がった針と糸で、手際よく縫合していく様に見入ってしまう。


「すげぇ、あっという間に傷が塞がっちまった。アニキのお父さん、何者っすか?」

「ホッホッホッ、趣味の延長よ。また斬られたら縫ってやるわい」

「いや、もう斬られたくないっすよ」


 この日、ヨタロはソディア家の屋敷に泊まることになった。

 しかも、我と同室。

 宮殿の寝所は常に衛兵が立っていて、何人(なんぴと)たりとも入ることができない。


「アニキの家にお泊りなんて感激っす! 楽しいっすね。恋バナしましょうよ」

「黙って寝るんだ。傷が治らないぞ」

 

 そんな我が、民とベッドを並べて寝る日が来るとは。

 おかしなものよな。だからお忍びはやめられない。

 

 それにしても、此度の人斬り事件。

 思ったよりも根深いものかもしれないな。


 明日は足を伸ばして、()()()に行ってみるか。

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄◥

   頑張って更新いたします!

ブクマも評価もよろしくお願いします!!

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