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エピローグ その女子に翻弄されている(柊side)

 東京の日差しが恨めしい。八月は日本全国どこに行っても暑いのだろうけど、岡山の方が涼しかった気がする。


 無理に登校日を作らないでほしかった。十一時過ぎの校門は、目玉焼きができそうなくらい熱気を放っている。

 昼前に終わるくらいなら、夏休みの折り返し地点の登校日はいらない。そういう不満を溜めたクラスメイトは、ファミレスやカラオケに直行していた。


 汐亜は彼女の家で勉強会。早川は新しくできた裁縫の上手な友達と、買い物へ行くらしい。二人してデートの予定があって羨ましいな。雪からのお誘いはない。


 二人きりの修学旅行で使ったお金は、一ヶ月分のバイト相当だ。質素倹約を決めた雪にとって、お金のかかる場所に行きにくいだろう。カラオケやメイトに誘うのは今度でいいか。


「よっ。暑さで死んでないか? 柊」


 校門を出たところで雪に呼び止められた。夢ではない証拠に「他校の制服?」「美人だね。モデルさんかな?」などと黄色い声が上がっていた。


『どうしてここにいるの? 日傘も持たずに。雪こそ死ぬよ(߹ㅁ߹)』


 俺の持っている日傘を雪に傾ける。


「そこまで待ってねーよ。さっきまで紅葉の傘に入れてもらってたんだ。俺んとこ十時半で終わってさ。せっかくだから汐亜ちを迎えに行くって紅葉が言うから、ボディーガードしてあげたんだよ。他校の制服は浮くから、変な奴に付きまとわれたら嫌だし……ってのは建前で」


 柊と会いたかったからさ。来て悪いかよ。

 雪ならそう言ってくれると思った。


「弁当を消費するの手伝ってくれ! 昼前に終わるなんて聞いてなかったから、この量は食べきれない! まさか父さんの弁当が入れられているとは思わないだろ」


 グッジョブ、ドジっ子属性。


『公園で食べよっか(ᐢ' 'ᐢ)ᐢ, ,ᐢ)』


 図らずも降ってきた公園デートのチャンスを逃したくなかった。雪を日傘に入れたまま移動する。

 雪の口についた横髪は、危うく手を伸ばしかけてしまうほど綺麗だった。


 一膳しかない箸を雪に譲り、ラップに包まれたおにぎりから先に食べた。食べさせ合うのも間接キスも、初めてではないのに照れてしまう。


『美味しかった(=´∀`)ノ おかかと梅のおにぎり』

「だよな。ミートボールも食うか?」

『うん! 食べさせてくれる?』

「はあぁっ?」


 この前は俺がしたから、雪もしてほしいな。


「緊張して箸が震えるから絶対やだ。自分で取れよ」


 もごもごと口を動かしていた。箸を渡すときも、目を合わしてくれなかった。

 男として見てくれているという解釈でよさそうだね。もう一押しかな。


 駅に行きながらデザートのお誘いをした。


『アイス食べたいな。日傘を差していても溶けちゃいそう( つ,,-ࡇ-,,)つ』


 俺は日傘を傾け、スマホを雪に見せた。

 にししと笑う口を、手で隠さないでいいのに。俺の前は自然体でもいいんだよ。


『雪の分まで奢るからさ。一緒に涼もうよ(人´ω`* )』


 お願いお願いお願い!

 強く念を送る。

 

『ゆきー? 話聞いてるの( @˃ω˂)੭』


 少しは頷くとか、返事するとかしてよ。俺ばっかり話していて、すっごい寂しいんだけど!

 

「おぅ。聞いてるよ。アイスを食べたいんだろ?」

 

 聞こえていたのなら、もったいぶらずに返事をすればいいのに。俺に奢らせるのが申し訳なくて、どう答えるべきか悩んでいたのかな。雪は優しいもんね。


「あともう少し歩いたら休憩できるぞ。頑張れ、柊」


 さっきまで雪に抱いたイメージに亀裂が入る。適当に言っているよね。だいぶ距離があるよ。


「鬼かよ。アイスクリーム屋さんの看板、ここからじゃ豆粒ぐらいにしか見えねーんだけど。そんなに俺と歩きたいの?」

 

 俺の怒りは倍になって返された。


「あぁ? そんなもん、このまま一緒に歩いていたいに決まってるだろ? 柊とは話が合うし、まだ帰りたくねーしよぉ」

 

 キレているのかデレているのか、どちらかにしてほしい。予告なしの供給は心臓に悪い。

 

『ゆきぃ。たくさんの人がいる中で、大胆だよぉ(/ω\)』

「ひ、人のせいにすんじゃねーよ! 恥ずかしいのはこっちだ。馬鹿」


 馬鹿の後に付けてほしかった言葉を引き出せなかった。

 まだ彼氏と言ってくれないのか。しょぼん。

 俺の気持ちを知ってか知らずか、雪は無邪気に指差した。


「早く食べに行こーぜ! 柊! 奢ってくれるんだろ? 苺とキャラメルのダブル!」


 誰も二つ選んでいいとは言っていないのに、雪は上機嫌になっていた。


『あー! なんか注文が増えてる(ฅ *`꒳´ * )ฅ』

「うっせぇ。いいだろ、柊はバイトしてんだし。オタク友達に少しぐらい奢っても、グッズ代はよゆーで出せるんじゃないか?」


 その呼び方は余計だな。いずれ新しい称号に変えてもいいよね。


 貴崎柊、高校一年生。同級生のツンデレイケメン女子に手を焼かされながら、じっくり攻略している。

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