第31話 柊の棘は甘すぎる
小森の姿を探す俺に、柊は心配そうに見つめていた。
『どうしたの? 新幹線で酔っちゃった?』
「いいや。俺の考えすぎだったみたいだ」
『どこか微妙に話がかみあっていないような(´×ω×`)』
「まっ。細かいことは気にすんなって」
ラギさんのツブヤイターに載せていない情報を掴むほど、執念深くはないよな。勘違いだと分かり、力が抜ける。
「心配してくれてありがとな、柊」
『無理しないでね。薬ならいっぱいあるから(ノシ *,,ÒㅅÓ,,)ノシ』
日帰り旅行なのに準備よすぎかよ。俺はグッズを入れる分の空きスペースと現金しか、持ってきていなかったぞ。
もしかして柊は体調を崩しやすいのか? 俺が心配をかけすぎて、胃を痛めさせないようにしなきゃな。
「へーき、へーき。そんなもんなくても、柊の顔文字で元気出るって」
「俺の顔文字だけでいいんだ? 俺の声じゃ、力になれない?」
「っ!」
ふみゃあああああ!
自動回復していた俺のライフはまたもや消滅した。
今日一番のイケボをいただきました。思い残すことはありません。ぱたり。
そんな札を心の中で掲げた。
癖に刺さるイケボが、何度も俺の死因になる。たとえ乱暴な言葉でも、柊の声だから痛むのだろう。作画崩壊しても声優がよければ見続けられるのと同じだ。
「で?」
「で? とは? 柊さん」
たった一音で脳天を叩かないでくれ。強者に見下された下っ端が、哀れなほど震えているのが見えないのかよ。
「俺の声は力不足?」
答えなきゃ駄目か? 俺の態度で察しろよ。
今日だけでも、そばで俺の顔を見続けてきただろうが。
「自信持てよ。その声も顔文字も。俺は、柊のこと全部……」
待て。俺は今、何を言おうとしている?
柊の口元は笑っているように見えた。
誘導尋問に引っかけようとしても、そうは問屋が卸さない。俺の意志で言わないと、いつか後悔する。
「受け止めてやる。小森とは違うからな」
嘘じゃない。これも素直な気持ちだ。
好きだとか愛してるとか甘い言葉を囁けない代わりに、俺が胸を張って贈れる言葉。
「だー! こっぱずかしいセリフを言わせんな!」
「録音してないから安心して」
「当たり前だろ! 仮にしてても、すぐにデータを削除してやらぁ!」
頬が熱い。充電中に熱くなりすぎたモバイルバッテリーみたいだ。一定量のときめきを過剰に吸収し、放熱ができていないせい。
面倒なイケボ男子に好かれちまったな。
キャスケットで顔を隠しながら、前髪を掻き上げた。




