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第25話 愛を叫ぶ

 ショッピングモールの五階にあるホール前で、俺と柊は歓声を上げた。


「やってきました! きゅうナイ展岡山会場!」

『わー! ぱちぱちー!☆-ヽ(*´∀`)八(´∀`*)ノ』


 まだ繋いでいた腕を上下に振る。

 開催二日目で長い列に並ばずにいられるのは、地方遠征の利点だ。都内のイベントだと考えられない。

 後ろの人に押されることなく会場に入れた。入ってすぐの壁には、ポスターと同じデザインの特大タペストリーが飾られている。


 俺はタペストリー単体だけが撮りたい。持ってきたタオルや痛バを写したい人もいるだろうが、俺は自分を含めた無駄な人物を入れたくなかった。周囲を確認して、今日一枚目の画像を保存する。


 柊が撮り終わるのを待って、受付に行く。チケットが特典のアクリルボードに進化した。プチプチに包まれて見えにくいものの、花火を空に打ち上げるユイリィがサンプル画像通りに描かれているに違いない。うやうやしくリュックサックにしまった後で、空いた手に紙が差し出される。


「こちらは入団試験の問題用紙です。会場内に隠れている文字でキーワードを作り、砦の騎士に教えてください」


 羊皮紙を模した紙には、砦で正しいキーワードを言えば入団バッジがもらえると書かれている。チュートリアルであった流れだな。懐かしい。


 通路に進む前に、注意事項に目を通す。

 ふむふむ。動画撮影禁止エリアはあるけど、基本的に写真オッケーなのか。通りでツブヤイターに、画像つきの体験レポートが大量に投稿されていた訳だ。


 通路を抜けた先で巨大オブジェに出迎えられる。


「すごい。いつもログイン画面で見ているフォントと同じだ!」


 救国のホーリーナイツ展。

 いつも略称を使っているけど、自然と背筋が引き締まるな。

 シャッターを押そうとしたとき、横から先に聞こえた。


「柊も写真を撮るのか?」

「当然だ。それが騎士としてのあるべき姿なのだから」


 くう~! 声と言い、顔の角度と言い、完全に世界観と溶け込んでやがる。

 きゅうナイの中では、プレイヤーを騎士と呼んでいた。公式もお知らせで、騎士の皆様という言葉を使っている。俺も騎士のクラスメイトがほしいとぼやくことはあったが、柊みたいにかっこよく言ったことはない。俺も今度同じセリフを言ってみようかな。


 オブジェの先の壁にずらりと並んでいるのは、キャラクターのパネルやラフ、名場面の画像だ。不規則に切り抜かれたセリフのパネルもゆっくり見ながら進んでいく。


「わぁー! ユイリィのセリフ、めちゃくちゃかっこいいんだが! 好き! 娶られたい!」


 愛を叫びながら、展覧会のためだけに描き下ろされたイラストを連写する。

 同じく初期キャラのナナカは、反対側でドレスの裾を摘まんでいた。至近距離で見つめられると、上目遣いの可愛さに合掌したくなる。


「ナナカも可愛いな。柊もこのセリフで満足か?」


 しゃがんでは移動して撮る様子を見れば、答えは自ずと分かった。愛い奴め。

 ブイサインをした柊は、俺の前に画面を出す。


『雪も可愛い(∩>ω<∩)』

「あーーー」


 扇風機に声を出したくなるように、反射的に柊の言葉を吹き飛ばしたくなった。

 前にも言われたことはあるけど、忘れたころに爆弾を投げ込んでこないでほしい。高速早口で抗議する。


「無理にリップサービスしないでいいぞ。三次元の俺が、たくさんのスタッフとファンに育てられた二次元に勝てる訳ないんだから」

『違うもん。ほんとのほんとに思ったんだから(@ÒωÓ@)/』


 ぷんぷんと怒りを見せる柊は、実際に頬を膨らませていた。錯覚かと思われるほど小さい膨らみ。今日の表情筋は状態がいいらしい。


 うさぎのひげが、ひくひくしているときみたいだな。気づいたときには、手が自然と撫でているパターン。変なことをしでかさないうちに、この話題を終わらせておくに限る。仁王立ちのまま、深く頷いた。


「そーゆーことにしといてやろう」


 撮った写真を確認しながら、パネルの隅や聖堂のフォトスポットで集めたひらがなを並び替えてみる。最初はきから始まるなら救国が完成すると思っていたが、ひっかけ問題だったみたいだ。


「キーワードは『休暇を取れ』だな。主人公がいつも怒られてるセリフか」


 柊が目をまん丸にしている。すぐに拍手をしてくれないところから察するに、よくない一言だったのだろう。


「あっ。悪りい。もしかして、東京会場と違うキーワードなのか?」

『雪っ! 心の声が出ちゃってるよ(@>ω<)੭』

「だから悪いって」


 自分が理想とする、うっかり天然を発揮してしまったヒロインに置き換えてくれ。

 後ろからやってきた四人家族も、難なくキーワードを完成させて入団バッジを入手する。


「休暇を取れ! きゅうナイの決まり文句なんだ」


 ほらな。中学生くらいの子でも分かるんだ。そんな目くじらを立てるなよ、高校生。


『すぐに分かるからって、言ってもいい理由にはならないじゃん。俺も考えていたのに(●`ω´●)』


 しつこいな。土下座でもしろってか?

 魔術師ではない俺に、忘却の呪文は唱えられない。それ以上文句を言ったら、柊の背をぽかぽか叩いてやる。それでもいいのか? 手加減してやれるか分かんないぞ?


 怒りゲージの値は半分を超えていた。いつカンストしてもおかしくない。そんな状態で次のフロアに進むと、聖剣の刺さっている岩があった。これもゲーム序盤で見たことがある!


「見ろよ、柊! 騎士が剣を抜こうとするシーン、再現できるってよ!」


 確かにあったはずの怒りは、興奮によって簡単に塗り替えられる。切り替え早くないか。ちょろすぎかよ。


 苦虫を噛み潰したような顔で振り返ったときには、柊の姿が消えていた。周囲を見渡しても発見できない。


 まずい。駅前広場ではぐれたときは、すぐに見つかったのに。複数のフォトスポットの前で人盛りができていると、発見しにくい。足早に一人一人の顔を確認したものの、該当者はいなかった。「東京都からお越しの貴崎柊様。お連れ様がお待ちです。至急インフォメーションまでお越しください」って、アナウンスしてもらわねーと!


 配慮のないネタバレを食らってからも、無邪気に楽しめるとは思えない。俺と回るのが嫌になって、帰っちまったのかな。

 いや、新幹線の時間はまだまだ余裕がある。柊が行き先を岡山城と後楽園に変えても、徒歩圏内でゆっくり回れる。ここから急いで移動する必要はない。物販でゆっくり買い物をするくらいの余裕は持てる。早く合流して謝ろう。柊にとって悪意あるネタバレをしてしまってごめんなさいと。


「撮りますよー。はい、チーズ!」


 何の変哲もない、写真撮影の定番のフレーズ。だが、腰が砕ける破壊力は間違いない。柊のイケボだ。

 案の定、被写体になるはずだった二人組のお姉様方は、両手で顔を隠していた。


「……っ。すみません、一旦待ってもらっていいですか? すぐに表情作るので」

「リアルでいるの? あんな国宝級イケメン。実はきゅうナイの声優さんとか?」


 何てことはない一般人だ。ただ、ステータスは全然普通ではない。声、ビジュ、愛嬌、ギャップ、オタク度なら、完璧な五角形を描いているだろう。深呼吸しているのに平常心が復活できないお姉様方に、同情せずにはいられない。


「ちょっとたんま!」


 俺は片手を上げて近づいた。


「俺が撮ります」

「ゆ、き……」


 こちとら、クラスのリア充に何度も頼まれてきた。機種の違うカメラには手馴れている。

 バトンタッチしてすぐに、ぬいを持つ二人のベストショットが撮れた。


「確認してもらっていいですか?」


 スマホを返した俺は、柊の背をつついた。


「駄目だろ。俺から勝手に離れちゃ。結構焦ったんだぞ」

「最高の出来でした! 彼女ちゃん、ありがとう!」

「ごめんねぇ~。近くにいた彼氏くんを借りちゃって。デート楽しんでね~」


 本音を言っただけなのに、恋人だと誤解された。はぐれた相手を注意すれば、心配する恋人の図に見えるのか。俺の知性は一つ上がった。


 ただのオタク友達だと、柊は訂正しない。しょうもないことでキレかけた器の小さな女を、恋人認定されていいのかよ。それとも、本当のことを教えるのが面倒なだけ?


『ごめんね。見失ったらガチ泣きするって言われたのに。またいなくなって( ´>ω<)人』

「ほんとだよ。学習能力ねーよな」


 大きく息をつく。先に謝られたから、言い出すタイミングを逃してしまった。


「物販で買い物したら、メイト行くか? さっき歩いていく途中で看板が見えた」


 イベント情報サイトで、物販の取り扱い商品は把握している。図録、クリアファイル、ユイリィのアクリルブロックは絶対に買う。目星がついている分、ここの滞在時間は五十分程度で収まりそうだ。駅に戻る道すがら、時間を潰せる場所があるなら寄っておきたい。


『いいの? | ω ’ * ) チ ラ ッ』

「思ったよりペースよく回れているからな。掘り出し物があるかもしれないのに、スルーするのはもったいないだろ。それに」


 行かないと後悔する理由がもう一つある。


「柊が見た岡山舞台のアニメ、今年の春に放送されたんだろ? 原作者のサインくらい、店頭にあるんじゃねーの? 店員さん渾身のディスプレイも、せっかく来たんだから拝んで行こーぜ」

『行きます(*´∇`*)ノ』

「よろしい」


 ふんぞり返っていた俺は、メイトで頭を抱えるはめになる。漫画の棚に行く柊を邪魔しないよう、アニメグッズの棚へ向かった。


「嘘だろ? 信じられない!」


 まさか、東京だと在庫切れだった「きみと世界を救う旅」のクリアファイルが全種類揃っているなんて。神様のお導きとしか思えない。即買いだ。


 レジに行きかけた俺の足は止まる。


 でもなぁ、家族と紅葉のお土産を確保していないんだぞ。見るだけだったのに散財してどうするよ。今回はきゅうナイのために来ているんだから、少しは我慢できるよな。


「ぐっ。良作を供給してくれた分の感謝は、口先だけだったのか?」


 顔をしかめているとLIMEの着信が鳴った。柊の奴、もう用事が終わったのかよ。俺に遠慮しないで、じっくり見てていいのに。


『お父さんからの臨時ボーナスです。グッズを買いすぎた結果、昼ごはんを食べない。なんて許しません』


 父上、ありがたく使わせていただきます。

 早速レジに駆け込んだ。


 合流した柊は『ちっちゃくなった二人の直筆イラストもあったよ~! 雪の推理すごっ! 天才だよ(〃'艸'〃)』と感極まった顔文字を使ったのだった。

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