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SF作家のアキバ事件簿228 ミユリのブログ 謎のトンネル公園

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第228話「ミユリのブログ 謎のトンネル公園」。さて、アキバが未だ秋葉原だった頃の物語が続きます。


スーパーヒロインに覚醒した腐女子達ですが"エスパー狩り"を行う謎の組織の存在に怯えます。その矢先に自分達の出生に係る秘密が東池袋で発見されて…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 トンネル公園を知っているか


"5月11日 東池袋のトンネル公園を知ってる?この前、乙女ロードにお出掛けした帰りに見つけた児童公園なのだけど、お椀型のコンクリートの山がありロープで登ったり、滑り台で降りたり出来る。山の真ん中には土管のトンネルがあるので、昔から"トンネル公園"と呼ばれてるらしい。豊島区立日出町パーク。今にして思えば、確かに、あの公園には昼だと逝うのに、霊気みたいな不思議なヲーラが満ちてるのを感じたわ…"


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


パーツ通りにある"タイムマシンセンター"。古今東西のタイムマシンに関する資料が整備されてる街の博物館だ。最近ではインバウンド客も増えてる。


「誰もいないみたいね。潜入成功だわ」


雑居ビルの2Fにあるセンターは、トイレの窓が夜も開け放しだ。その窓から、背中のロケット装備で空を飛び、忍び込む黒い人影。メイド服?マリレだ。


「あら。ごめんなさい」


トイレの床に落ちていた"エスパー人形"を踏んでしまって人形に謝る。トイレから展示室へと進む。タイムマシンの模型や警官の人形の間を奥へ進む。


"district headquarters

certified TMlogists only

no public access"

(タイムマシンの研究者以外は立入禁止)


そう描かれた扉を開くと、悩める文豪の書斎を彷彿させる部屋だ。資料の山をかき分けPCの前に座る。


「ジムズ・アトン…だったっけ?」


"タイムマシンセンター"のDBに直結したサーチエンジンを回すと本カバーの袖の画像がヒット。

渦巻きの抽象画?の前に立つ男子だ。著者の近影って奴カモしれない。プリントアウトするマリレ。


「ぶーん」


旧式なプリンターが動き出し紙を吐き出す。プリンターに駆け寄るマリレだが…傍らのソファで寝息を立てる館長女子を見つけ息を飲む。爆睡?一安心…


「ぴ。ぴ。ぴ。ぴ…」


何と目覚まし時計が鳴って"覚醒"、館長女子はマリレに気づく。因みに、館長は薄茶ブレザー。マリレはメイド服だ。だって、ココはアキバだからね。


「誰なの?」


傍らの先の鋭い"火星ロケット"をナイフのように突き出す館長。ストリートファイトの経験アリか?


「動かないで!まさか…時空旅行者?」

「ピンポーン…いいえ、何かの誤解ですよ」

「お黙り!」


再び"火星ロケット"を突き出す。ギリギリでかわしたマリレは書斎を出ようとスルが、その先には…


「動かないで!」


ラッパ型に開いた音波銃の銃口。


第2章 メイド協会の課題


今年のアヲデミー賞を総ナメした怪獣SF映画"メカゴジラ -2.5"のコンセプトカフェを出したら、連日世界中からインバウンドが推し寄せて大当たりだ。

 

「どのメイドにも秘密があります。バカみたいに明るいドジっ子メイドなど、現代には存在しません。平凡に見えるメイドも、驚くような秘密を隠し持っていたりします」


開店前の朝礼。秋葉原メイド協会から派遣されたカウンセラーのトポラが喋ってる。どーやら、彼女はウチのメイド達のカウンセリングをスル気らしい。


あ、因みにメイド協会から派遣されたトポラもメイド服だ。何しろココはアキバ…(以下省略)。


「では、今からみなさんにワークしていただきます。2人ずつペアを組んで、自分がカウンセラーになったつもりで、ヲ互いに質問をしながら、相手を研究し、その人の個人史をまとめるのです。明日の朝礼で発表してもらいます」

「トポラ。ソレってプライバシーの侵害では?」

「誰?あ、メイド長のミユリさんね。コレはメイド協会の決定で、秋葉原の全メイドの精神衛生向上のために実施するモノなの。だから協力して…ソレに今回のカウンセリングで、新たな友情が芽生えるコトもあるカモね。では、組み合わせを発表します」


この場には、コンカフェのメイド以外にも、協会がランダムに選んだメイド達も多数集められている。


「先ず、@homeworkのダスカとmy dreamin'のウスマ。コチラのメイド長のミユリさんと妖精カフェのエアリ。コチラのNo.級メイドのスピアとロケットガールカフェのマリレ。テリィたんとカレル…」

「待って。テリィ様は御主人様でメイドではありません。ソレにカレルは…」

「ミユリさん、知ってます。今回は秋葉原のメイド達に影響力のある常連ご主人様にもカウンセリングに参加していただきます。コレは協会の決定です」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕は第3新東京電力勤務の会社員ナンだけどヲフの時はアキバでフラフラしている。つまりヲタクだ。


「テリィたん。このカウンセリング、絶対何かヘンょ。ジュネーブ条約に違反してるわ」

「そーなのです、テリィ様。あんな組み合わせってアリでしょうか?」

「おい、テリィ。後で"マチガイダ"で待ってるぜ。お前と組めて嬉しいよ」


軌道勤務明けで自分のカフェに顔を出すと元カノ、今カノ、今カノの元カレの順番で話しかけてくる。


「お互いに質問し合ってプライバシーの侵害をし合おうぜ」

「カレル。ヤメて」

「ふん。知ったコトか」


捨て台詞を吐いてお出掛けするカレル。


「テリィ様。せっかくの休暇なのにごめんなさい。私と別れてから、カレルはずっとあの調子なのです」

「心配ないよ、ミユリさん」

「テリィたん、甘い!出禁にしなきゃ…あ。さっき"タイムマシンセンター"の館長さんから電話があったょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋警察署。


「テリィたん!良く来てくれたわ!マジ昨夜は全く眠れてナイの!」


湿布で目を抑えながら、心から安堵の表情を見せる"タイムマシンセンター"の館長。目をパチクリ。


「だいぶお疲れのようですね」

「参ったわ。もうヨレヨレょ。昨夜、センターに泥棒が入って…私が撃退したのょ!」

「館長が?」


腐女子上がりの館長に撃退など出来るハズがナイ。ソコへ何とラギィ警部に連行され姿を現したのは…


ヨレヨレのメイド服を着たマリレだw


「テリィたん。容疑者は、テリィたんに頼まれて泥棒に入ったと言ってルンだけど」

「マジ?でも、テリィたんの知り合いのハズがナイでしょ?」

「あ、館長。いや、それが、その、実は、彼女は僕の友達ナンです」


とりあえず、救命ボートを出しておく。


「マジ?テリィたん、ソレはウソだと言って。お願いだから」

「ごめんなさい、館長。実は、僕"タイムマシンセンター"に忘れ物をしてしまって、彼女に鍵を渡して忘れ物を取ってきてもらおうと思ったんです」

「神田明神も照覧あれ!なんてコトなの」


文字通り天を仰ぐ館長。ホントは良い人ナンだ、ヲタクでさえなければ…とにかく!ココでダメ推し。


「だから、彼女は泥棒ではありません。ですから、起訴はしないでいただけますか?損害分は、私のバイト代から引いてください」

「そ、そーなの?まぁテリィたんがそう言うんだったら起訴なんかしないわ」

「OK。告訴ナシなら即釈放ょ。所持品を受け取ってから出て行って」


万世橋(アキバポリス)の敏腕警部からのお許しだ。彼女とは彼女が前任地で"新橋鮫"と呼ばれてた頃からの付き合い。


「ありがとう、館長」

「いや、良いのょ」

「テリィたん、お出口はアチラ」


"鮫"の気分が変わらない内に、所持品を受け取りマリレを連れて万世橋アキバポリスを後にスル。見送るラギィに部下の刑事が何枚かのペーパーを手渡す。


「警部。メイドがセンターでプリントアウトしたモノをコピーしておきました」


謎の渦巻きのコピーに目を落とすラギィ警部。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ヲタクの居場所"マチガイダ・サンドウィッチズ"で"覚醒系"のメイド3人がヒソヒソ話をしている。


「ミユリ姉様。コレが私の夢の中に出て来た渦巻きょ。私、コレは恐らく銀河系だと思うの。私達は、きっと"宇宙人"ナンだわ!」

「…マリレ。ソンなコトより現行犯で逮捕って何なの?テリィ様にも御迷惑をかけて…」

「ソレ、もう済んだコトだから良いでしょ?」


強気で無視の構えのマリレ。


「そうは逝かないわ。警察沙汰を起こしたのょ?」

「わかってる。池袋の乙女ロードに、ラギィ警部から盗んだこの鍵に合う"何か"がアルわ。止めないで。私は行くから」

「マリレ。貴女、気は確か?」


同僚メイドのエアリも懐疑的だ。


「エアリ、貴女まで?だって、やっと手がかりを見つけたのょ!ケッテンクラートを貸して。私1人で行ってくる。私達の出生の秘密がワカルかもしれないのょ?」

「池袋について、も少し調べてから行けば良いンじゃナイ?」

「とにかく!私には見えた。毎晩夢に見るの。もう待てないわ。止めても私1人で行くから」


スタスタお出掛けするマリレ。


「マリレ、待って!」

「大丈夫。マリレのロケットガール装備はガス欠ょ。車ナシじゃ逝けないわ」

「そっか。ソレもそーね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


そのガソリンスタンドは、万世橋を神田側に渡ったトコロにある。昔、ガールズ洗車があった辺りだ。


「ねぇ待って。マリレの好きなアイスは何?メイド協会のカウンセラーから宿題が出てるのょ?私、貴女と組まされたンだから」

「今、忙しいンだけど」

「待ってょ。質問に答えるだけだから。家族の中で誰が1番好き?」


御屋敷(コンカフェ)のNo.1メイドであるスピアは、ベンツG4型を停めて、偶然通りかかりのマリレに声をかける。


「話しかけないで。今、急いでルンだけど」

「何よ。何を急いでるの?」

「…貴女、今から何処か行くの?首都高に乗る?」


キョトンとするスピア。


「首都高?乗っても良いけど?」

「西神田から首都高5号池袋線に乗って。そーしたら質問に答えてあげるわ」

「OK!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。僕はカレルと"マチガイダ"にいる。


「では、次の質問だ。好きな動画は?」

「動画は見ないんだ。目に悪いから…君は?」

「"万博グルメを追え"さ。アレをいつも家族と一緒に見てルンだ。じゃ次の質問に行こう。WAO!コレは良いぞ。今までで1番嬉しかったコトは?」


カウンター席でエアリと質問し合ってるミユリさんが僕をチラ見スル。どうも僕達が心配なようだ。


「ホラ答えろよ」

「ヲタクになれたコトだ」

「泣ける答えだな」


あざけるような表情を浮かべる。


「…カレル。君が1番嬉しかったコトは?」

「音波銃の射撃大会で優勝したコトさ」

「音波銃だって?」


対スーパーヒロイン用の新兵器だ。銃口がラッパ型に開いてる奴。もう射撃大会まで開かれてるのか。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「姉様、バニラ味が好きなの?」イザベル、


カウンター席の質問合戦も白熱だ。ミユリさんは、チラチラ僕達を見る。視線の先を振り向くエアリ。


ウンザリ顔でミユリさんに語る。


「そんなに気になるなら、コレを渡して様子を見てきたら?」


ケチャップ瓶を渡すエアリ。ケチャップ瓶を受け取り僕とカレルの間に割って入って来るミユリさん。


テーブルにケチャップをトンと置く。


「テリィ様。もし良かったらケチャップを使って。どう?カウンセラーの宿題は順調かしら?」

「今、お互いに理解を深めてるトコロょ」

「ソレは良かったわね」


日本語会話の初級編みたいなスクリプト。


「リズ。ちょうど良いトコロに来たな。来たついでに8番の質問と行こう…今までに恋をしたコトは?どうだ?」


ミユリさんは僕をチラ見してハラハラしてる。僕は怒ったような目でカレルを見る。ニヤつくカレル。


「どうした答えろよ」

「ない」

「マジか?」


ナンとなく胸を撫で下ろすミユリさん。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


さらに同時刻。万世橋のガソリンスタンド。


「デタラメばっかり言わないで!」

「何がデタラメなの?」

「マリレ。貴女があんな"おばさんトーク番組"を見てるっていうの?」


マジで怒り出すマリレ。


「結構1人で泣いたりしてるのょ!悪い?」


スピアと睨み合っていたが、フト視線をズラす。


「…わかったわ。私が適当に話をデッチ上げとく」

「ソレは御苦労様」

「じゃ運ぶの手伝って」


スピアは、ガソスタの親父のトコロに荷物を運ぶ。


「あ。ぎっくり腰になったわ」


助手席でお手上げポーズのマリレ。スピアは1人で荷物を運んで親父から代金?を受け取る。納品か?


「商品は代金と引き換えね。現金でお願い出来る?」

「OK」

「早くして」


ゆっくり立ち上がる親父。その間に運転席に滑り込んだマリレはエンジンをかける。振り返るスピア。


「嫌だ。あの子、私の車を」


動き出したベンツG4型の前に飛び出して、ボンネットに両手をつき急停車させて助手席に乗り込む。


「何するの?ウチのベンツを盗むつもり?」

「借りるだけ。降りて」

「降りろって、これウチの車よ。壊したら私はママに殺されちゃうわ。この車で貴女が行くなら、私も行くわ」


ハンドルから手を離しお手上げポーズのマリレ。


「だったら乗って。私が運転スルから」

「マジ?コレって誘拐?時空旅行者(トラベラー)が私を誘拐スルのね?ヤメて!」

「あと車も盗むから」


竹橋ジャンクションから首都高5号池袋線に入る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


リアルに同時刻。"マチガイダ"の常連専用カウンターでスマホが鳴る。スピーカーからスピアの声。


「…信じられないわ!もぉ」

「誰?スピアなの?」

「…コレってウルトラ変ね!マリレと私が2人きりで首都高を百合ドライブなんて!」


スピアの声に耳をすますミユリさん。


「誰?誰と百合なの?」

「…ねぇマリレ。行き先も知らせズ、いつ帰るとかぐらい教えてくれても良いンじゃナイ?」

「…色々うるさいわね」


マリレの声に驚くミユリさん…とエアリ。


「相手はマリレなの?」

「…マリレ。私は、緊張スルと口数が増えるのよ。何か文句ある?」

「スピア。貴女、マリレと2人で緊張してるの?」


息を殺し聞き耳を立てるエアリ。


「…ソレで私を何処まで拉致るの?首都高5号池袋線を西進して」

「首都高を西進?」

「姉様、マリレはビンゴだわ」


色めき立つカウンター。一方、ベンツでは…


「貴女、一体何言ってる…」


片手運転しながら、スピアのバックの中のスマホに気づくマリレ。スピアの鼻先にスマホを突き出す。


「なるほど、やってくれるじゃないの!」


窓からスマホを放り出す。


「スピア!聞こえなくなったわ!」

「何?どうしたの?」

「スピアがマリレと2人で首都高を池袋へ…でも、ナンだか変だったわ」


ミユリさんは、カウンターから立ち上がって僕の方に駆け寄る。高そうな赤いジャケットの下に黒T。


「テリィ様、ちょっち…」


ネコみたいに首を摘まれる。カレルが怒鳴る。


「おい!未だ課題は終わってないぞ!」

「ミユリさん、何か起きてるのか?」

「マリレがベンツで池袋を目指してます」


え。池袋?乙女ロードでお買い物?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「テリィ様、後でお話しします。今は…」

「ダメだ。今、教えてくれ。スピアが心配だ」

「元カノがそんなに心配ですか…マリレがスピアのベンツG4型を盗みました。目下、首都高5号池袋線を西進中です」


何だって?!


「急ごう」


停車中のラットパトロールみたいなジープに乗り込み機関銃座につく…すると僕を止めるミユリさん。


「テリィ様、危険です。ココから先はスーパーヒロインonlyで参ります。お降りください」

「メイド長、御主人様に命令スルな」

「おっと。推し始めてラブラブのハズがもう推し変か?所詮はDD(誰でも大好き)だな」


追いかけてきたカレルがヒヤかす。僕はミユリさんを冷ややかに見つめる。視線を落とすミユリさん。


「…わかりました。お乗りください。ただし、銃座には私が。テリィ様は、助手席でお願いします」


その様子を黒背広の人影が双眼鏡越しに見ている。ソレに気づいたミユリさんがガンを飛ばす。発車。


「あぢぢぢ!何なの?熱線?…クォーターバック、今、ホットドッグステーション前からテリィたんとメイド2人が in action」

「追って。行き先を確かめて」

「了解」


黒いキューベルワーゲンが僕達を追う。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(コンカフェ)のバックヤードでタブレットにメールを打ち込むトポラ。彼女もメイド服だ。だってココは(略)


「本部へ。羊達は夜更けに目を醒ました」


その1文は瞬時に暗号化され sending message。


第3章 黒いキューベルワーゲン


「ああ、そーだ。隣の家のタマが子猫を産みそうナンだ。そーだ。タマだ…タマ?猫に決まってるだろう。タマだぞ、タマ!」


機関銃ジープの助手席で僕は会社(第3新東京電力)にスマホする。


「町会長ナンだから猫の出産に立ち会わないワケにはイカないンだ。だから、明日のシャトルには君が乗れ。明後日の便で僕も軌道に上がるから。そしたら、交代だ。頼むょ、じゃ切るぞ。may the 萌え be with you」

「…テリィ様。衛星軌道上の太陽発電所長の交代シフトに穴を開けて大丈夫なのですか?」

「こーゆー時には日頃の真面目な勤務態度がモノを逝うンだ。だが、一体何が起こってるのかは説明してくれ。おっちょこちょいのスピアが、また何かヤラかしたのか?スピア達が何処に向かってるのか、ミユリさんは知ってルンだろ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「池袋の乙女ロード?」


僕と同じ助手席だが、ベンツG4型の助手席に座ってるスピアは傍らで運転中のマリレに大声で叫ぶ。


「もう直ぐ着くわ。ソンな大声、出さないで。直ぐ隣にいるんだから」

「フン。その前に逮捕されちゃうわ」

「逮捕?なんで捕まるの?」


ますます大声になるスピア。


「貴女ね!秋葉原のメイドを盗んだベンツで池袋に誘拐してるのょ?ソレにさっき私のスマホを投げ捨てたでしょ?アレは、立派な器物損壊だからね!ソレに、この運転を見ても貴女って間違いなく犯罪者だわ」

「犯罪者の運転ってどーゆーの?」

「G4型は、130キロ以上出すと、エンジンが焼き切れちゃうのょ元がパレード用だから…で、乙女ロードに何の用よ。密輸?男?」


呆れるマリレ。


「私をナンだと思ってるの?タトゥーインの酒場にタムロする女ハン・ソロ?どーせ話してたってワカラナイわ。私達のコトを何も知らないくせに」

「知ってるわ。知りたくもないコトまで全部知ってルンだから」

「だったら、これ以上聞かないで。私達の生死を握る鍵があるカモしれないの。くだらない興味本位で…」


サイレンが鳴る。後方からパトカーが接近w


「ほら、助けが来たわょ!首都高(ハイウェイ)ポリスに私が貴女を誘拐したって言えば?もう1つの罪は何だったっけ。逮捕されるのナンか平気ょ。私は慣れてるの。くそったれ!」


ハンドルを叩くマリレ。路肩に車を止める。後ろからパトカーを降りて首都高ポリスが降車してくる。


「さっき言ってた運命がかかってるって何?」

「もうどーでも良いわ」

「ダメよ。20秒で私を納得させて」


スピアの目は真剣だ。マリレは、溜め息をつきながらも、スマホでアトンの著者近影の画像を見せる。


「私達がマルチバースのどの時空から来たかわかる手がかりが乙女ロードにある。でも、私達より先に誰かが見つけたら、その手がかりも消されてしまうわ」


次の瞬間、ベンツのドアから警官が覗き込む。


「150km/hだわ」


サングラスを取る警官…美人だ。


「そんなに急いで、どちらへ?"やさしく走ろう首都高キャンペーン"の真っ最中なのに」

「…おまわりさん、ゴメンナサイ!漏れそうなの!私、若年性の糖尿病で頻尿なのに、さっき思いっきりレタス3コ分の食物繊維入りドリンクを飲んじゃって…急にトイレに行きたくなって、ソレで百合の彼女に頼んで飛ばしてもらってたんです」

「え。私達、百合なの?」


ギョッとするマリレ。負けズに警官も驚く。


「糖尿病?その年で?」

「差別発言!ちゃんと若年性って言ったのにヒドいわ!警察権力の横暴ょ差別NGOに駆け込む準備がアルからそのつもりで…え。あ、あら?貴女、リルラ?」

「…え。スピア会長?テリィたんの元カノ会の?ってか会長、糖尿病だったの?テリィたんの元カノだから百合のハズはナイし…何かテリィたん絡みの御事情がアルのね?いえ、ソレが何かは聞かないわ。貴女、免許証を見せて」


僕の元カノは、みんなダマされやすいんだw


光の速さで免許証を差し出すマリレ。因みに元カノ会は元カノ同士の相互扶助を目的とスル親睦団体だ。


「はい、免許証。ソレと違反切符。会長、5km先に代々木PAがあります。ソコはトイレもキレイだし、名物のカップカレーはテリィたんの大好物。でも、法定速度は遵守願います」

「ありがとう、リルラ。あれから…貴女は新しい恋を見つけた?」

「まさか。コレからもテリィたんとの思い出を大切に生きて行くつもりです、会長」


首都高ポリスの敬礼に見送られて発車。


「コレで貸しが出来たわね」


上から目線のスピア。天を仰ぐマリレ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻の"マチガイダ・サンドウィッチズ"。


「…スピアも出ないか。ミユリのトコロもかけてみようかな」


スマホを切って溜め息をつくカレル。冷やかしの口笛に振り向くと万世橋(アキバポリス)のラギィ警部のニヤニヤ顔。


「警部?」

「スマホをかけまくってたわね。ミユリ、エアリ、マリレ…また、テリィたん絡み?話してょ。何かあったの?」

「…またしても、あのナンパ野郎のテリィさ。奴といる時のミユリの様子がまるでヘン過ぎる。みんなして何か隠してる。さっきまで、ココでメイド協会の課題をやってたンだが、ミユリとエアリが突然どっかに飛び出して行った。腰巾着のテリィも急いでメイドの尻を追っかけて行った。そして、今も全員出掛けて秋葉原から出たママさ。何か変だよ」


変なのはお前だw


「なるほど。で、行き先の心当たりは?」

「ないよ」

「まぁそう気にしないで。直ぐ帰って来るわ」


ラギィ警部はクルリと回れ右。


「警部。何処か出かけるのか?」

「YES。ちょっと署に忘れ物をしたので」

「警部、テリィって何者なんだ?」


振り返るラギィ。カレルをジッと見る。


「カレル。貴方はテリィたんに絡まないで」

「なんでだよ?教えてくれ!」

「貴方のためだから」


ラギィは出掛ける。つぶやくカレル。


「おまわりさん、そーはいかねーんだょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


首都高代々木PA。


ジープに幌を装着中のエアリに名物のカップカレーを2つ買って差し出す僕。このカレーは実に美味。


「エアリ…」

「何?きゃ!」

「あ、ゴメン!」


勢い良く振り返ったエアリは僕の差し出したカップカレーを飛ばし一瞬で僕もエアリもカレー塗れだ。


「何なのよ!」

「いや…名物のカップカレーを食べるかと思って」

「食・べ・な・い!」


激怒するエアリ。僕はカップを投げ捨てる。エアリが赤ジャケに手をかざすと、みるみるカレーのシミが消えて逝く。シミ抜き名人も真っ青の超能力だ。


分子をコントロールしてる?


「ソレでいつもキレイなんだな、スーパーヒロインは。いつも戦闘の後でクリーニングに出してるのかと思ってた」

「私達のコスチュームがキレイ?」

「スーパーヒロインは、毎日がコミケの最終日みたいなモンだからな」


レイヤー同士、フッと和やかな空気が流れる。


「テリィたん。ソレって課題の12番の答え?今度の夏コミはどーするの?また"カーニバルロウ"の飛行船司令?」

「また妖精役をやってくれょ…あのさ。僕は、君達からミユリさんを奪ったりしない。奪えるとも思ってないし」

「当然でしょ?"覚醒"したスーパーヒロイン同士の絆を甘く見ないで」


僕は核心に触れる。


「エアリこそヲタクをなめるな…でも、乙女ロードで"何か"がわかったら…君達3人はアキバを出て逝くのか?」


もしかしたら僕は怯えた目をしていたのカモしれない。そうだったの、という顔で僕を見るエアリ。無言で手をかざし僕のカレーのシミを消してくれる。


「何で…そんなにミユリ姉様を推せるの?」

「根はDD(誰でも大好き)ナンだ。心配スルな」

「だから、心配してるの」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「アンタ!さっきから何やってんだよ」


ガソスタのフリーPCの前で女子が怒鳴られてる。


「使いこなすITリテラシーがないんだったら、さっと代われって言ってんだよ」


買い物袋を両手に持ったミユリさんと目が合ってしまう女子。フリーPCを使うフリだが、また怒声w


「おい!代われって言ってンだろ?!」


ソレを尻目にガソスタを出る機関銃ジープ。女子はキューベルワーゲンで追おうとスルが、バルーンタイヤが溶けている。まるで電撃に撃たれたみたいに。


「何?雷でも落ちたの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。突然エンスト(和製英語です)気味になり急ハンドルを切って、慌てて首都高を降りるベンツG4型。


「何でこんなにガタガタ揺れる運転スルの?」

「そんなコト聞かないで。車がボロッチィのょ」

「あ。煙」


ボンネットから煙を噴き、ガクガクしながら停車。


「ねぇ何とか出来ないの?直してよ」

「どうやって?」

「どうやって?例のハンドパワーをいつ使うの?今でしょ」


古いCFのマネだがマリレはスルー。


「ハンドパワー?」

「何でも良いからやってよ」

「あのね。私は姉様みたいに出来ないの。電撃技とセックスは下手なのょ」


露骨に蔑みの視線のスピア。


「なるほどね。そうだったの」

「このボロ車め!」

「悪かったわね。ウチの車ナンだけど。ボンネットも開けられないの?」


ベルトを抜き降車するマリレ。ボンネットを開けたら…スチームサウナみたいに煙が噴き出る。視界不良の中で手をかざしたら、白煙の中で火花と焔が…


「火を噴いた?!貴女のハンドパワーってロクなモンじゃないわね!」

「バッテリーが萌えちゃった…私、バックシートで眠らせてもらうわ」

「ちょっと待ってょ!人を誘拐しておいて、ベンツのエンジンをヲシャカにして、挙句に路肩で夜を明かせって言うの?」


構わず後部座席を回って寝る準備を始めるマリレ。


「仕方ナイでしょ?こうなっちゃったんだから」

「貴女、まさか百合じゃナイわょね?」

「うるさい」


後部座席を片付け中、突然エスパーの顔が大描きされたバルーンが膨らみ始めマリレを圧倒して逝く。

 

「な、何なの?コレは?」

「ママの力作ょ。文句ある?」

「もぉダメ。限界だわ」


車から出て逝くマイケル。


「ちょっと!どこ行くの?」

「あそこのホテルよ。こんな路肩じゃ夜は明かさないでしょ。無理だし」

「あそこのホテルって…ラブホじゃない!」


マリレは、スタスタと歩いて逝ってしまう。その先に"ホテル ニュー恋の寄り道"と明滅するネオンw


「マリレ!待ってょ、置いていかないで。私をラブホに連れてって!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ベンツを追うラットパトロールみたいなジープ。


「もうこんな時間だわ…姉様、警察に通報スルっていうのはどう?」

「絶対にダメ(だってテリィ様の元カノのリルラと会いたくないモンw)」

「そーゆーと思った」


運転しながら溜め息をつくエアリ。


「だって…何か協力してくれるカモ」

「エアリの逝うコトももっともだ。乙女ロードは、イマイチ僕達は土地勘がナイし」

「テリィ様…ダメです。今は、誰にも話さない方が良いと思います」


元カノ案件には強情なミユリさん。


「でも、スピアが心配ナンだ」

「(テリィたんソレ逆効果w)私もマリレが心配だわ。姉様は渦巻きの正体が見たいだけナンでしょうけど」

「そうは逝ってナイわ」


後部座席でフンと横を向くミユリさん。萌え。


「でも、ミエミエだわ」

「エアリ。やっと手がかりが掴めそうなの。も少し慎重に…あら、スマホに着信だわ」

「姉様こそ出ちゃダメょ」


運転中のミユリさんのスマホに着信だ。


「テリィ様、匿名通話ですけど」

「ミユリさん…出たら?」

「はい」


スマホに出るミユリさん


「もしもし」

「やぁミユリ」

「どうしよう。カレルです!」


ミユリさんの池袋時代のTO(トップヲタク)だw


「ミユリ。今、マリレの部屋だって?」

「YES。そうょ私はマリレの部屋にいるわ」

「ぱをぱをぱを…」


深夜の首都高名物"トレーラートラック"が、派手にクラクションを鳴らしながら、平然と割り込む。


「あれ?今の音は何?」

「ごめんね。今のはmy tubeの動画音声ょ。それより、カレル。私に何の用なの?」

「例のメイド協会のカウンセラーが出した課題。少し答え合わせをしたいなと思ってさ。今からミユリの部屋まで行くょ」


トンでもないオファだ。出禁でしょw


「わざわざソンな…悪いわ。明日、御屋敷に御帰宅して。ソコで答え合わせしましょ?」

「ソレが…もう近くまで来てルンだけど」

「今からお風呂なの。じゃ明日御屋敷でね!」


問答無用でスマホを切るミユリさん。


「遠慮するなょミユリ」


車を飛ばすカレル。首都高5号池袋線を西進中。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋警察署の交通課。


「車の名義はフリプ・エヴス。秋葉原のメイド2人と御主人様が1人、乗ってるハズなの」

「ラギィ警部。エヴスっていう名前ではヒットしませんね…でも、先ほど秋葉原のメイドがスピード違反をしてます。運転者はマリレ。車の名義はエイミ・デルカです」

「違反地点を教えて」


首都高ポリスから無線で情報が入る。


「首都高5号池袋線の下りでした」

「待って…行き先は乙女ロードなの?ありがとう。助かったわ」

「どういたしまして」


ラギィは地図をたどり乙女ロードを指差す。


「ココに何がアルの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ホテル"ニュー恋の寄り道"ピノキヲルーム。扉には鼻高な木彫りの人形。開ければ中は赤い絨毯だ。


「いやらしい!ポルノ版ピノキヲ?」

「寒さはしのげる。さぁ寝ましょ」

「"推しに願いを"って奴?」


ハート型の赤いベットに横になるマリレ。


「何か病気もらっちゃいそう。こんなトコロでエッチする人の気がしれないわ」

「ねぇ可愛い子ブルのもいい加減にしたら?」

「ブルって何よ。勘違いしないで。私がついてきたのは外は寒いし、お腹が空いたし…でも、貴女とこんなイヤラシイ部屋で2人だなんて!とにかく、もうお家に帰りたいわ」


今にも泣き出しそうなスピア。立ち上がるマリレ。


「ベッドで休んでて。外の自販機で何か食べるモノを買って来るわ」


ジャケットを羽織る。


「鍵、かけといて」

「うん」

「開けちゃダメょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「Kz DX首都高ラジオの道路情報です。5号池袋線を西に走っている車はご注意ください。クラウンゴルチェを過ぎた辺りで大型トレーラーが横転し、現在池袋線は閉鎖中です。首都高ポリスによれば、通行止めの解除には最低でも2時間はかかる見込みです。詳しい情報が入り次第お伝えします。ラジオはこのママで。引き続きKz DX首都高ラジオをお楽しみください」


池袋を目前にして、既に渋滞に捕まって超ノロノロ運転中の僕達は、互いにウンザリ顔を見合わせる。


「最悪です、テリィ様。マリレ達2人は先に池袋に着いてしまうわ。思い切って首都高を降りて追いかけましょうか?」


僕も投げ槍になる。


「うーんワケあって首都高にはこだわりたいんだ。交代で仮眠でもとる?」

「え。仮眠って…まさかジープで3人一緒に寝るの?姉様、私イヤだわ」

「じゃ寝るな。エアリから不寝番な」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


マリレはコンビニの有料レジ袋から食物繊維ウェハースやドリトス、ポテト、チョコバーを取り出す。


「あら。スーパーヒロインって意外にジャンク好きなのね」

「そりゃそーよ」

「え。何してるの?」


ドリトスにタバスコをかけるマリレ。


「こーすると美味しいのょ。私達の時空では激辛がトレンドなの。悪い?」

「…別に。意外に人間臭いのね。じゃ百合とかも普通にしちゃうワケ?」

「百合?」


なぜかモジモジして上目遣いのスピア。マリレは、スピアの瞳に自分が映るまでグッと顔を近づける。


「人類最後の2人になったらね」

「…そう。わかったわ。じゃせっかく2人でいるんだから、メイド協会の課題をやってしまいましょ。今から質問を読み上げるから真面目に答えてね。好きなアイスは何の味?」

「ピスタチオ」


真面目に答えるマリレ。


「ピスタチオね。好きな動画は?」

「リアリティショーね。一攫千金モノが良いわ」

「じゃ好きな本は?」


コレも即答だ。


「国民的SF作家テリィたんの"太陽系海軍シリーズ"。初巻から読んでる」

「マジ?アレ、最高ょね」

「"彼を怒らせるのは、何も知らないくせに、分け知り顔で放つ悪どいジョークがとりわけ気に障る。"第1版、655ページの1節」


感心するスピア。


「ねぇそんなに頭が良いのに、なんでヲバカなフリばかりスルの?」

「それ何番の質問かしら」

「私からのpersonal questionだけど」


かぶりを振るマリレ。


「なら答える義理は無いわ」

「じゃ16番に答えて。貴女が最も恐れるモノは?」

「くだらない質問ね」


スピアは食い下がる。


「じゃ1個だけマジで答えてよ。さっき首都高ポリスに突き出さなかった御礼にね。自分の時空を知るコトが何でそんなに大切なの?」

「秋葉原ナンかより、よっぽど良い場所があると信じているからょ」

「秋葉原よりよっぽど良い場所?」


突然笑い出したスピアを見て不審に思うマリレ。


「あら。何がおかしいの?」

「違うのよ。ただ、子供の頃、夜中に良くパパのコトを想像してた。パパは、どんな人で今、何をしてるのだろうって。でも、最後には、いつも同じ結論にたどり着くの。きっとパパはリムジンに乗って私とママを迎えに来て、素敵な国に連れてってくれるんだってね。実は私、マリレと同じで秋葉原に絶望して、もっとマシな場所があるって信じてた」

「そっか。秋葉原から逃げ出す乗り物がリムジンかタイムマシンかの違いね。あはは…」


2人の間に和やかな空気が流れる。


「あぁ私くたびれちゃった」

「長い1日だったから。ねぇ一緒に寝ても良い?」

「え。添い寝?」


立ち上がるスピア。驚くマリレに思い切り顔を近づける。見つめ合う。キス一歩手前までの大接近だ。


「宇宙の終わりに2人きりになったらね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


事故現場。今や完全に渋滞しピクリとも動かない。遠く赤ランプが明滅し横転したトラックが見える。


「ミユリさん、すまない。完全にお手上げだ」

「テリィ様、その内に通れるようになります。コチラこそ、色々嫌な思いをさせてゴメンナサイ。マリレは誘拐騒ぎを起こしたし、エアリは例によって態度が悪い。性格バラバラ、素行不良なスーパーヒロイン集団でヲ恥ずかしいdeath」

「…あれ?エアリは何処?」


何と遙か先で首都高ポリスに何やら抗議してるw


「とにかく!みんなミユリさんの下で良くまとまってると思うょ。ミユリさん達と出逢ってから思うんだけど、僕達は最高のチームだ。実は、僕達ヲタクの方こそミユリさん達には謝らなきゃって思ってる。カレルやチアガールの件は、アキバ以外の連中がやらかしてるコトとはいえ、嫌な思いをさせた。加えて最近は謎の双子メイドも現れたし…とにかく、例の音響兵器の事件以来、色んな問題が一気に起きてしまった」

「私は…テリィ様に告ったコトは決して後悔していません」

「なんていうか、僕も、僕のマジな人生はミユリさんが秘密を打ち明けてくれた、あの日から始まったと思ってる」


嬉しそうに微笑むミユリさん。


「私達、同じ気持ちナンですね」


僕とミユリさんは、何か化学反応が起きそうな"触媒距離"に近づいてヲ互いにヲ互いを見つめ合う。


「テリィ様」

「何?」

「私は、私達は近づかない方が良いと申し上げて、テリィ様はソレを受け入れて下さいました」


あれ?そーだっけ?


「…だったかな?」

「今でも…テリィ様は同じお考えですか?」

「…」


僕は、答えズ一歩前に出て一気にミユリさんの絶対防衛圏へと侵攻。上目遣いに目を瞑るミユリさん。


ソコへ突然割り込むエアリ←


「1時間で開通するって!あら、お邪魔だったかしら(何やってんのこの2人?)」

「あと1時間か。やっぱり追いつけないカモな(キスまであと0.5秒だったのにー)」

「テリィ様、ソレなら続きを…(全くエアリ空気読んでw)…あら?ちょっちアレを見てください!」


何と首都高の高架から見下ろすラブホ街の一角に、ベンツG4型がボンネットを開けてエンコしてる。


「"ホテル ニュー恋の寄り道"?もしかしたら、亀さんチーム、寄り道したウサギに追いついたカモ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"ニュー寄り道"に推し掛ける。


「武士の情けだ。ノックしよう」

「いいえ、問答無用です。マリレ、いるの?」

「あっ」


ノックする前にパワーで解錠するエアリ。物音に驚き、ベッドから起きようとして転げ落ちるスピア。


床に寝袋で寝てたマリレに覆いかぶさる。


「マリレ!貴女、何をしてるの?!」

「あ。姉様…」

「スピア!お前、何してルンだ?」

「え。テリィたん…」


慌てて立ち上がるマリレ。着衣が乱れてるw


「スピア。迎えに来たんだけど…お邪魔しちゃったみたいだな」

「テリィたん!何言ってるの?そんなんじゃナイから。勘違いしないで。マリレも何とか言ってよ」

「照れないで、ハニー」


真っ赤になりマリレの背中をバンバン叩くスピア。


「マリレ…あのね、腐女子は百合の相手をハニーなんて呼ばないわ」

「ミユリ姉様。やっと協力しに来てくれたのね?」


バスケットシューズの靴紐を結び直すマリレ。


「いいえ。またまた貴女の尻ぬぐいに来たのょ。何でこんなコトをしたの?」

「私は、姉様とは違うの。もう待てない。秋葉原やヲタ友、そしてTO(トップヲタク)のいる見せかけの日常に姉様達は浸ってる。でも、ソレも長くは続かないわ。近い内に"奴等"は来る。私達を見つけるわ。そしたら、私達は…」

「待て!何やってンだ?!」


突然ドアが開きカレルが入って来る。何と例のチアガール達が一緒だ。店外デート権を買占めた模様w


「カレル?!」


元カレ出現に動転するミユリさんw


「やっぱりそーか!ふーん、全員お揃いとはな」

「出てけ。今なら無かったコトにしてやる」

「嫌だね。続けろょ。俺にも聞かせてくれ。何しろ池袋は俺の縄張りだからな。それとも、俺に秘密を知られるのが怖いのか?」


カレルはスゴむが迫力はゼロ。一方、東北訛りのチアガール達は意気軒昂。全員で赤い気炎を上げる。


「テリィたん、何なのコレ?一部のファンとこんなトコロに集まって秘密のファンミーティング?編集は知ってるの?」

「貴女達…テリィ様がファン相手に喧嘩するワケには逝かないわ。私が相手ょ」

「出たわね、年増メイド!引っ込んでな。テリィたんは巨乳好きなの。ツルペタは人類の敵ょ引っ込め!」


義によって助太刀するマリレ&エアリ。一触即発!


メイドvsチアガールの集団乱闘か。ヒロインAVのお正月スペシャル的な豪華さに目がクラクラする。


「待て。実はコレは僕の次作SFに向けたブレーンストーミングなんだ。そうだ。今、閃いたぞ。チアガールの君達も登場人物にしてあげるょ(ただし女戦闘員だけど)」

「え。マジ?テリィたんのSFに私達が出るの?わあ素敵。コレで青森に錦を飾って帰れるわ」

「ソレは良かったな(女戦闘員だけどな)。ただし1つ条件がある。今すぐ立ち去ってくれ。僕の思考が混線し、せっかく閃いたイメージが消えてしまう前に。早く!」


慌てて帰り支度を始めるチアガール達。形勢逆転だ。ソレを横目にカレルを追い込むミユリさん。


「カレル、貴方も帰って。お願い」

「嫌だ。ミユリ、一緒に乙女ロードに戻ろう。秋葉原は空気が悪い」

「姉様に触らないで!」


ミユリさんの手を引こうとして、エアリに突き飛ばされるカレル。あっさり吹っ飛んで壁にぶつかるw


「何てパワーだ!お前達は何者ナンだ」


息を飲むミユリさん。未知の恐怖に怯えた目をして壁を背に立ち上がるカレル。ざわつくチアガール。


「一体何ナンだ?」

「貴女達、ココで何してたの?乱パ?」

「俺と一緒に帰るんだ。さぁ」


それぞれ自分の都合が錯綜スル中、ドサクサ紛れにミユリさんの肩を抱くカレル。コレは看過不可能w


「おい。ミユリさんを放せよ」

「邪魔スルな、アキバのヲタク野郎」

「カレル、テリィ様に謝って!ねぇ喧嘩を止めて。2人を止めて」


河合奈保子?


「とにかく!もっと冷静になって話をしましょう。先ずカレル。私と貴方はもうTOと推しじゃないのよ」

「ソンなコトはどーでも良い!俺は、ただミユリを心配してるだけだ。さぁ池袋に帰ろう」

「カレル。貴方1人で帰って。貴方には関係ないコトだわ。もう私に構わないで」


出禁だ。ザマーミロ。


「ミユリ。マハラジャに楯突く気か?元はヘソ出しベリーダンサーの分際で!」


毒を吐きながらもジリジリ後退するカレル。その後には僕にニコやかに手を振るチアガール達が続く。


ヤレヤレだ。ベッドに座る僕。


「テリィ様、色々と巻き込んでしまってごめんなさい。秋葉原までお送りします」


ミユリさんは僕の肩に手を置く。振り払う僕。


「ダメだょミユリさん。今、何もかも話してくれ。スピアも僕ももう部外者じゃない。何が起きてるかも知らないで、自分の身は守れない。ましてや、ミユリさん達を助けるコトも出来ないぜ」

「テリィたん。私達は秋葉原のヲタクの助けなんかいらないわ」

「あっそ。じゃ次からは他のベンツを盗んでね」


マリレの割り込みにスピアのナイスな突っ込み。マリレは沈黙だ。さすがは僕の自慢の元カノ。


「スピア…貴女、何を聞きたいの」

「全て」

「…貴女も人類の進化に抗う者(レベルズ)になるのょ?」


怯えた目で尋ねるマリレ。


「望むトコロょ。ね、テリィたん?」

「全く構わないな」

「テリィ様…」


エアリとマリレを制してミユリさんが語り出す。


「3週間前、マリレが万世橋(アキバポリス)に忍び込みました。ミレニアムの頃に見つかった、不思議な手形のついた変死体の写真を見たかったのです。そうょね?マリレ」

「はい、姉様。写真は結局見つからなかったけど、その時、ラギィ警部の部屋にあった鍵に触れたら、私の脳内に画像が流れたの」

「ソレが例の乙女橋パークにある渦巻きみたいなトンネル遊具なのか。つまり、そのマリレの見つけた鍵はトンネルに関係した鍵で、ソコに逝けば君達3人がマルチバースのどの時空から来たかがワカル手がかりが見つかるカモってコト…なのかな」


うなずくマリレ。


「わかった。じゃ出発だ。夜明けが来る前に」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夜の首都高を飛ばすラギィ警部の覆面パトカー(FPC)


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


朝焼けの乙女橋パーク。


ドーム型遊具には重力望遠鏡のようなL字型の渦巻きみたいに見えるトンネルが開いている。ラットパトロールみたいな機関銃ジープで乗り付ける僕達。


「あったぞ。あれだ」

「マリレが描いた絵にそっくり」

「マジであったのね」


幌の取れたジープの中で立ち上がるマリレ。


「きっと何かがわかるハズょ」


ジープから一斉に飛び降りる僕達。先を争いトンネルに飛び込む。直角に曲がり直ぐ外に出てしまう。


何も起こらない。


「鍵穴か何かナイの?」

「ナイわ。単なる遊具だモノ」

「ココの鍵じゃないンじゃナイの?」


反対側からトンネルに入る。


「はるばる池袋まで来たンだ。徹底的に探そう」

「壁も床もスベスベだわ」

「しょせんはキッズ用の遊具なの?」


メイド服のミユリさんとエアリとマリレにスピア、ソレにメイド服じゃナイが僕が加わりトンネルを出たり入ったりスル。傍目にはかなり奇妙な光景だw


「マリレ。もう一度鍵に触ってみて」

「はい、姉様」

「深呼吸してね」


鍵を取り出し力任せに握り締めるマリレ。全員が注目するが…どーやらフラッシュバックは起きない。


「ダメだわ。何も見えない」


壁にドンと背中をぶつけて、ハアハアと肩で息をするマリレ。寄り添うスピア。やさしく声をかける。


「お願い。もう1度だけ、やってみて」


マリレは鍵を見つめる。気を取り直し、もう1回手にスル。目を瞑る…その瞬間、フラッシュバック!


「秘密の部屋がアルわ」

「どこに」

「わからない。でも、このトンネルの何処かに秘密の部屋がアルのょ」


トンネルの中を全員で探し回る。マリレがトンネルがL字型に曲がった部分の壁の漆喰をほじくると…


「あったわ!ミユリ姉様!テリィたんも…漆喰に埋め殺した鍵穴を発見!」

「マリレ、その鍵を使って」

「はい!姉様」


鍵穴に鍵を差し込むマリレ。鍵が回る。すると、トンネルの床の扉が半開きに浮き上がる。埃が舞い上がるw


「やったわねゲホッゲホッ」

「地下に降りる階段だわゴホッゴホッ」

「降りてみましょう」


ライターで暗闇を照らすマリレが先頭になり、謎の地下室へ降りて逝く。壁の松明にライターで着火。


「やっと突き止めたわ!秘密の部屋ょ!」

「しっ!静かに。誰か来たわ」

「誰かに尾けられてた?」


誰かがトンネルに入って来たようだ。コンクリートの床をコツコツ歩くブーツの音。僕達は息を殺す。


「うっ」


尾行者は音波銃を構えたラギィ警部だったが…次の瞬間、後頭部に延髄斬りを食ってバッタリ倒れる。


ラギィを蹴り倒したのは…トポラ?



to be continued

今回は、海外ドラマによく登場する"時空を往来するトンネル"をテーマに、スーパーヒロインに覚醒したての腐女子達と主人公の出会いを、アキバが未だ萌え出す前の秋葉原を舞台に描いてみました。


ジュブナイル仕立ての青春群像テイストに作者自身がハマりつつあり、大変楽しく描き進んでいます。


今後は、この世界観を束ねるコンセプト、次元波動帯もつれジャンプ理論を軸に描いていこうと思います。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかり世界の家族旅行先として、自由の女神的に定着しつつある秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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