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7 私の護衛騎士


 ベッドの中の住人となってしまった私だが、それでも日を追う毎に全身の痛みは軽減され、右手と左足の骨折はまだまだだが、身体を起こして車椅子に乗れるまでに回復していた。

 その間、何度もサイモン様が面会に訪れたが、私は頑なに拒否し、そんな私の気持ちを汲んで、侍女たちもサイモン様の訪れを阻止してくれた。

 私付きの侍女たちは三人居て、その内の一人ジュリアは、侯爵家の私付きのアンと同郷で、アンからも私の事を頼まれたようだ。

 

「王太子妃様の事はアンから託されましたので、どうかこれからは私をアンの代わりだと思って頼ってくださいませ!」

 と、ドンと自分の胸を叩いて意気揚々と言っているジュリアを見て、とても和まされたのは記憶に新しい。

 過去にもジュリアは私付きであったと思うが、このような台詞を言われたのは今回が初めてだ。

 少しずつ過去と今の流れが変わっていっているのなら、それはとても嬉しい。


 他の二人、マリとイザベルも過去よりも親身になって私に尽くしてくれる。

 過去では、王太子に振り向いてもらえない私を冷めた目で見ていた記憶があるだけにまだ信じきれないが、それでも過去との違いを感じて安堵してしまう。

 これから待ち受けている未来に立ち向かうには、一人でも多くの味方は欲しい。同情からだとしても、この繋がりを大切にしようと思った。


「外の空気が吸いたいわ」


 あの階段落ちした日より、思いの外、長くベッドの住人をしていた私は、すでに二週間が経過していた。

 その間、全く外に出ることは叶わず、大好きな散歩が出来ていない。

 庭に咲く花々を愛でたり、木陰に座って本を読んだりする事は、娯楽の少ないこの世界において、私の唯一の楽しみだった。


「それではバーグ先生に聞いてきましょうか? 先生の許可が出ましたら車椅子にて、庭を散策致しましょう」


 ジュリアの申し出にお願いすると、すぐにジュリアと共にバーグ先生がやってきた。

 バーグ先生は、丁寧に私を診察すると、

「いいでしょう。見たところ麻痺もないようですし、目眩もなさそうですしね。 気分が悪くなったり、疲れが出たらすぐに休んでくださいね」

 と、許可を出してくれた。


「では、ちょうどいい機会ですから、部屋を出る際、護衛騎士の同行を頼みましょう。まだ王太子妃様は護衛騎士のヴァル・ローレンツ様とはお会いになっておられませんでしたよね?」


 ジュリアがそう提案してくれた。

 そうなのだ。

 なかなか起き上がれずにいた私は、まだヴァルとの再会を果たしていない。

 最近ようやく起き上がれるようになり、痛みもマシになったから、そろそろヴァルを呼んでお礼を伝えたいと考えていたところだった。


「ええ、ぜひそうしてちょうだい。ようやくローレンツ殿にお礼を伝える事が出来るわ」


 私はヴァルに、報奨として王家お抱えの刀匠に依頼して、王太子妃専属の証であるナイトリー・ソードを準備していた。

 これは過去でも、三度渡したことがある。しかし、いつもは護衛騎士となってからだいぶん後になってから渡した物。

 でも今回は、まだ正式に着任する前から私を守ってくれた事に対する私の気持ちとして、早々に渡したいと思った。


 王族の護衛騎士と任命されても、護衛対象である主から、本当の意味で信頼に値すると認められなければ専属護衛騎士にはなれない。

 そして王族である主から認められ、またその騎士も主に一生の忠誠を捧げた時に、主から専属護衛騎士となる証の剣を授けるという風習がある。

 認められた証を持つ専属護衛騎士は、更なる栄誉をもって、他の護衛騎士にはない様々な特権を持つ事が出来るのだ。

 それは、選ばれし聖騎士にも値する権限であり、騎士を目指す者の最高峰といえる。

 すでに聖騎士であったヴァルにとっては、特に珍しくもないだろうが、それでも聖騎士を蹴って私の護衛騎士になってくれた事、階段から落ちてくる私を身を呈して守ってくれたことへの感謝のしるしを示したいと考えていた。

 忠誠の誓は後々でいいだろう。過去に渡って三度も忠誠を誓ってくれたヴァルだからこそ、そう思えた。


 車椅子に乗った私は、ジュリアたちに伴われながら部屋を出る。

 部屋を出ると、そこにはとても懐かしいと感じるヴァルが居た。


「お初にお目にかかります。王太子妃殿下付きの護衛騎士となりましたヴァル・ローレンツと申します。よろしくお願い致します」


 余計な飾り文句などなく、また助けたと恩着せがましくもなく、ただ簡素な物言いで挨拶のみするヴァルがとても懐かしい。


()()()()()

 こちらこそ、よろしくお願い致しますね。貴方にはわたくしを助けて頂いた恩があります。

 改めてお礼を伝えたいのですが、廊下では失礼ですので、庭園でお礼を伝えさせて頂いてもよろしいかしら?」


「私は王太子妃殿下の護衛騎士ですので当然の事をしたまで。ですから、そのようなお心遣いは無用です」


 そう言うと思った。


 私は軽く微笑んでから、

「まずは庭園までの護衛をお願いします」

 とだけ言っておく。


「畏まりました」


 それ以上、特に何も言うでなく護衛に着いたヴァルを見て、本当に相変わらず寡黙だわと、小さく笑ってしまった。



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