表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/52

4 次の回帰は違う場所?


 ふと意識が覚醒し、ゆっくり目を開けると、見慣れない天井が目に入る。


 あれ?

 次の回帰は、違う場所なの?


 いつもの自室ではなく、見知らぬ部屋で寝ている事に気付いた私は、身体を起こそうとすると、全身に痛みを感じた。


「痛っ!」


 思わず発した私の声に反応し、部屋で控えていたであろう侍女達が慌てて駆け寄ってくる。


「ああ! お気づきになられましたか()()()()殿()()!」


 ん?

 今、なんて言ったの?


「あ……わたくしは何故こんな事に?」


 身体を動かそうにも、痛みで全く動かす事が出来ない。

 激痛に堪えながら何とかそう聞くと、侍女たちは、泣きそうな表情をしながら答えた。


「王太子妃様は、式が終わって大聖堂の正面階段を降りている最中に、階段から落ちてしまわれたのです。

 王太子妃様は意識がなく、すぐさま王宮に運ばれ、王宮医師達の診療を受けられました」


 なるほど。よく見るとここは王宮の王太子妃の部屋だ。

 過去に使っていた部屋だが、あまり長く使う事もなくいつも死んでいたから、すぐには分からなかった。

 

「あれは、故意にリリア伯爵令嬢に階段から落とされたのですわ!」

 

「まさかあのような時に、殿下が王太子妃様ではなく、リリア伯爵令嬢をお助けするだなんて有り得ませんわっ」


 口々にそう話している侍女たちの話を頭の中で纏めていく。


 どうやら今世はまだ生きているようだ。

 あの後、階段から一人落ちた私は、全身打撲しながらも、何とか命拾いをしたらしい。

 しかも、この状況だと上手くリリアのせいになり、サイモン様が咄嗟にリリアを助けた事で、サイモン様の評判まで落ちている。


「身体中が痛いわ。わたくし、今、どうなっているの?」


 そう聞いた私に、侍女たちが教えてくれる。


「王太子妃様は、階段から落ちながら全身を強く打ってしまわれ、右手と左足を骨折されております。

 今、他の侍女が王宮医師を呼びに行っていますので、詳しくはお医者様にお聞き下さいませ」


 その説明と共に、部屋の扉がノックされ、侍女に伴われた医師が入ってくる。


「ああ! お気づきになられましたか。安心致しました。

 私は王宮医師の一人、モザリア・バーグと申します。

 王太子妃様は、あの日から丸二日意識がない状態だったのですよ。

 さっそく診察させて頂きますね」


 見た目三十代くらいの女医が、そう言って私の状態を確認していく。

 女医は珍しいが、王太子妃に配慮しての選定だろう。


「ご気分は如何です? 吐き気や頭痛、めまいなどはありますか?」


「頭が少し痛みますわ。吐き気などはありません。目眩は……まだ動けないので何とも……」


 そう返答した私に、バーグ先生は大きく頷く。


「意識はしっかりとされているようで、一先ずは安心かと。

 ですが、全身打撲に加え、右手と左足の骨折、頭も打っているため、暫くは絶対安静となります。麻痺などもあるかも知れませんので、少しずつ様子を見ていきましょう」


「そうなのですね……」


「しかし、大聖堂の階段から落ちて命が助かったのですから、王太子妃様は強運の持ち主ですよ。

 だから、気を落とされませぬよう、治ると信じて一緒に頑張りましょう」


 そう言って、励ましてくれるバーグ先生に、弱々しく微笑む。

 私がこのような状態になっているということは、リリアに何かしらの罰が下されたのだろうか?

 咄嗟にリリアを庇ったサイモン様についてもその後の情報が知りたい。


 バーグ先生が退室した後、そばに居た侍女にそれとなく聞いてみる。


「ねぇ、先程リリア様がわたくしを落としたと言っていましたわよね?

 どういう事なのか教えて下さる?

 それに……。サイモン様がリリア様を助けたというのは?」


 そう尋ねた私に、気まずそうに侍女たちは顔を見合わせ、ゆっくりと口を開いた。


「王太子妃様が王太子殿下と共に大聖堂の正面階段を降りられていた際、メイド・オブ・オナーをしていたリリア伯爵令嬢がウェディングドレスの裾を一旦手放してしまったそうで、持ち直した際にバランスを崩して前のめりになり、前にいた王太子妃様にぶつかったのです。

 後ろから突き飛ばされた形となった王太子妃様は、そのまま階段から落ちて……

 その時に、リリア伯爵令嬢も落ちそうになっていたのですが、サイモン王太子殿下が咄嗟にリリア伯爵令嬢を受け止められて……

 隣りにいた王太子妃様に見向きもせず、リリアと叫んでリリア伯爵令嬢を助けた事を見ていた招待客は、大勢いらっしゃいました。

 中には他国からの王族の方もいらして、妻となる女性を助けず、妻を突き飛ばした女性の名前を呼んで助けるなど有り得ないと、大層不信感をお持ちになったとか……」


「リリア伯爵令嬢は、うっかりウェディングドレスの裾を手放してしまって、慌てて裾を持ち直しただけだと。その拍子にバランスが崩れて妃殿下にぶつかってしまったのは、わざとでは無く事故だったと泣きながら訴えられています。

 そのリリア伯爵令嬢を庇うように、サイモン殿下も、これは単なる事故であって、リリア伯爵令嬢には一切罪は無いと主張されております」


「大勢の人の前で、妻となる女性より別の女性を優先させ、更にはまだその女性を庇うサイモン殿下を見て、両陛下は大層ご立腹されていらっしゃるとか」


「お二人の関係を勘ぐる噂も広まりつつあります」


 なるほど。

 リリアを巻き込んで落ちる事は出来なかったけれど、サイモン様の馬鹿な行動があの二人を追い詰めているのなら、これはこれで結果オーライかも。

 結婚式の晴れ舞台で、まさかの不貞を疑われる行動を大勢の前で犯したサイモン様への信頼はかなり落ちる。

 ましてや他国からの来賓客も大勢いたから、信用に値しないと判断され、外交問題にも発展する可能性がある。


 大きな代償を負ってしまったけれど、思わぬ収穫につい口元が緩みそうになるのを、私は必死で堪えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ